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022:赤鬼

 ゲホッゲホッ!

 こ これは肋が数本やられたかもしれない……。

 息をする度に肋が痛い……。

 マズイぞ!

 下手にスイッチを入れたせいで、俺を立ち上がるのを待たずにやってくる。

 ど どうにか立ち上がらないと……死ぬ!


 ダショーンの金棒をガッツリ貰った俺は、肋を負傷して立ち上がれないでいた。

 立ち上がらなければ殺されるので、どうにか立ち膝を着いて立ち上がろうとする。

 しかし全身の痛みから立ち膝を着くのがギリギリだ。

 ヤバいと覚悟した瞬間、俺の目の前にブチギレているダショーンが立っていた。



「ここまで俺をワクワクさせ、ここまで俺を憤慨させた兵士は中々いないぞ……小僧には、俺に殺される資格があるってもんだ。さぁ死んで貰おうか!」



 ニヤニヤしながら金棒を、ダショーンは振り上げた。

 逃げようにも足腰がプルプルで立ち上がれず、もうここまでかと覚悟するくらいに危機だ。

 死にたくは無いが、どうにも体が動かない。

 アレだけ練兵をして来たのに、こんなところでこんなにアッサリ殺されるのかと覚悟をせざるを得ない。

 目を瞑って殺されるのを待った。


 しかし数秒経っても俺は死なない。

 どうなっているのかと思って目を開けると、2つの武器が目の前で交差していた。

 1つはダショーンの金棒で、もう1つは槍の穂先を剣状にしたグレイヴである。

 どうなっているのかと目が泳ぐ。



「小童、戦場は生きる事を諦めた者から死んでいくぞ。そしてそういう人間は何も残さず散るのだ!」


「あ 貴方は確か……アドニスさま!?」



 俺を助けてくれたのは、レオンの手助けにやって来たミケルの家臣・アドニスだった。

 まさか目の前にアドニスがいるなんて信じられない。

 困惑しているとダショーンは、金棒を退けてアドニスから距離を取るのである。



「何を喋ってる! この俺を放っておいて!」


「おぉそれは悪かったな、確かダショーンとかいう騎士だったな? それなりに名の通った男か……この小童に変わって、俺が相手になってやろう。この俺はミケルさまが家臣団筆頭だ、お前の相手をするには十分だろ?」


「ほぉミケルの家臣団筆頭といえば、モルフェイ郷でも有数の剛将では無いか。それなら確かに、この俺の相手をするのに相応しい!」



 アドニスとダショーンは互いに向かって襲いかかる。

 グレイヴを下から振るうアドニスに対し、真上から金棒を振り下ろそうとするダショーン。

 2人の武器は、2人の中間点で衝突する。

 俺が戦った中では、ダショーンの方が押し切るのでは無いかと頭の中で想像した。

 しかし実際はダショーンの金棒が吹き飛んだ。

 これにはダショーンも何が起きているのかと、困惑した顔をしているのである。



「バカみたいに金棒を振って勝てるくらい、戦争は簡単じゃねぇんだよ……舐めるなよ、戦争を!」



 どうやら心の底で沸々と怒っていたみたいだ。

 ダショーンは、ただ金棒を振り回しているだけで、それは戦争では無いというのがアドニスの考えなのだ。

 金棒が弾き飛ばされ、態勢が伸び上がったところに、アドニスはグレイヴを振り下ろすのである。

 この一撃でダショーンを両断した。


 あんなにも俺が手も足も出なかった相手を、たった一撃で赤子を殺すように倒した事が信じられない。

 返り血を浴びて真っ赤になっているアドニスに、俺は少し恐怖心を感じるのである。

 これが戦争なのか。

 固まっている俺にアドニスは声をかける。



「小童、戦うと決めて戦場に来たのならば死んでも剣を握り振り続けろ! 男ならば肋の2本3本で、もう無理だと思って死ぬ事を容認するな!」


「は はい! 助けていただきありがとうございます!」


「その顔だ、その顔をしていれば良いんだ。それに雑魚とはいえども、あの男と良い勝負をするとは一歩兵の小童にしては良くやったわ!」



 俺が死ぬ事を覚悟した事に、アドニスは騎士として叱ってくれた。

 戦うと決めたのならば何もせずに死ぬ事を容認するのではなく、死ぬのならば最後の最後まで戦って死ぬように言ってくれるのである。

 俺がピシッと表情を改めると、アドニスはクマのような髭面だが、ニカッと笑ってダショーンとの戦いを誉めてくれた。



「よし、ここは問題ないな。俺は次の場所に向かう……ツヴァイっ! 俺たちは先に進むぞ!」


「お前の指図を受ける筋合いは無い! 俺は俺の道をゆくのだ!」


「さすがはツヴァイだな」



 ここの状況が落ち着いたと判断したアドニスは、ピーッと指笛を吹いて自分の愛馬を呼ぶ。

 そしてそれに乗ると騎馬隊を引き連れて、本陣に向かって行こうとするのである。

 ヒビオン軍の本陣に向かうのは、アドニスだけではなくレオンの家臣団の1人である《ツヴァイ=ポエラシャク》と共にだ。

 その2人を先頭に騎馬隊は本陣に向かって、進軍していったのである。


 俺はアドニスたちを見送ってから、スーッと息を吸って痛みを感じながら敵兵との戦闘を続投した。

 剣を振れば振るほど、体にピシッといった痛みが電流のように走るが、それでもアドニスが言っていたように戦いを止めて、ただただ殺されるのだけはごめんだ。

 だから自分を鼓舞し続けて戦うのである。

 俺の奮闘のおかげ……というわけでは無いが、大分とレオン軍優勢の方向に進んでいく。



「レオンさま! アドニス隊・ツヴァイ隊共に、ヒビオン軍騎馬隊に交戦を始めました!」


「そうか、それなら終わるのは時間の問題だな。予備隊を直ぐに動かせるようにしろ……戦いは、ここからだ」



 レオンのところにアドニス隊とツヴァイ隊が、ヒビオン軍の騎馬隊と交戦開始したという報告が入った。

 それを聞いてニヤッとレオンは笑う。

 もう終わるのが時間の問題だからだ。

 直ぐに次の指示を出す。

 その指示は後方に用意してある予備隊を直ぐに動かせるようにしておけというものだ。

 戦いはここからだと笑っている。



「ヒビオンさま! アドニス隊とツヴァイ隊に前線が押されており、突破されるのも時間の問題です!」


「ちっ! ここに来て剛将と名高いアドニスが出てくるなど、想定外に他ならん! どうして敵対しているはずのミケルの家臣が、レオンの手を貸しているのだ……」


「ヒビオンさま、このままではアドニスたちが来るのに時間がありません! ご判断を!」


「分かっているわ! そんなこと言われなくても分かっている……このまま逃げたら、父上に何と言われると思っている? それだけじゃない、ギルツ=ジルキナ家で発言権が弱まってしまう………」


「しかし! ヒビオンさまが討死してしまう事こそが、ギルツ=ジルキナ家やラシャドさまのマイナスになってしまうと考えますが!」



 ヒビオンのところにも、アドニスたちが迫っているという話が伝わる。

 これにヒビオンは逃げる事も視野に入れるが、それでは今回の作戦を考えたヒビオンの父・ラシャドの発言権が弱まってしまうのでは無いかと考えている。

 しかし配下の人間からしたら、ヒビオンの死こそが大きな損害であると上奏する。

 逃げるにしても戦うにしても、何か早く手を打った方が良いと伝えた。



「分かった、悔しいが……このまま撤退する!」


「承知いたしました! 直ぐに撤退いたします!」



 ヒビオンは苦渋の選択をせざるを得なかった。

 何せこのままでは大敗どころか、全滅しかねない。

 しかし今ちょうどヒビオンの目の前に、返り血を浴びて真っ赤に染まったアドニスとツヴァイが現れた。

 ヒビオンの判断が遅かったのだ。

 これで12時に始まったタースグの戦いは、2時間半で決着がついたのである。

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