021:格上相手
俺は先頭をぶっちぎって、1番乗りで敵兵の中に突っ込んでいくのであるが、向こうの先頭にいる歩兵たちは長槍を持って構えている。
このまま普通に突っ込んでも、ただただ串刺しにされて無駄死にしかねない。
だからこそと俺は、向こうが突いてくるタイミングにジャンプして、槍兵の後ろにいる歩兵に向かって剣を振り下ろし叩き切ったのである。
「が ガキが入って来たぞ! 取り囲んで殺せ!」
敵兵たちは俺が、たった1人で中に入って来たから囲んで殺してしまえと動いてくる。
しかし俺は、そんな隙を与えない。
一気に周りにいる敵兵たちを薙ぎ倒していく。
「こ このガキ強いぞ!?」
「ど どうするんだよ!?」
「狼狽えるな! たかが、ガキ1人だろ! 落ち着いて対処すれば怖く無いわ!」
ガキだと舐めていた少年が、想定よりも強かった事に敵兵たちは動揺している。
指揮官級の敵兵は、動揺している歩兵たちにガキが1人である事には変わりないと認識させる。
どれだけ強くても1人なら対処ができる。
そう気がついた敵兵たちは、俺に襲いかかってくる。
しかし敵兵たちは俺の動きに驚く。
どうしてかというと、俺は奥に進むのではなく、手前に向かって斬り進んでいく。
この行動に敵兵たちは困惑する。
何をしているのかと。
指揮官は少しして気がついた。
「ま まさか!? 後から来る仲間の為に!?」
そう俺が来た方向に戻りながら戦っているのは、あとから来ている仲間の為に斬り込み口を作っているのだ。
ここを起点にして入ったら、普通は時間がかかる前線の戦いを、これだけで大いにカットできる。
それに気がついた指揮官は止めようとした。
しかし既に手遅れだ。
俺は斬り込み口を作り終えたところだ。
「あそこからいけるぞ!」
「あそこにいくぞ!」
俺の斬り込み口を発見した仲間たちは、そこに目掛けてやってくるのである。
少しの斬り込み口に大量にやってくると、敵兵たちはバッタバッタとやられていく。
俺もその波に乗るように、また斬りかかる。
このままいけば楽勝かもしれないと、初陣ながらに少し余裕が出てくる。
しかしその余裕は長くは続かなかった。
騎馬に乗ったゴリゴリのゴリラのような男が、金棒を持ってレオン軍の歩兵たちの頭をイチゴのように潰していくのである。
これはこれはと思うくらいの強敵だ。
倒したならば指揮官クラスの褒美が出るんじゃ無いだろうかと、思うくらいのレベルのはず。
他の歩兵たちは怯えて、奴に突っ込もうとしない。
「どうした! このダショーンの首を取ろうと思う者はおらぬのか! やはり大馬鹿者の兵士など、腰抜けに等しいか……それなら蹂躙してやろうか!」
誰も近寄って来ない事に、ダショーンはつまらなそうな顔をしてから蹂躙する方向に決めた。
馬を走らせようとしたところで、俺がダショーンの騎馬の前に仁王立ちで立ち塞ぐ。
ダショーンは見下すように俺の事を見る。
そして「ほぉ?」と呟いた。
「レオン軍は、何とも情けない奴らだ……こんなガキが先頭に立たなきゃいけないんだからな。お前は可哀想だが、これは戦争だ! 遠慮なく殺させて貰う!」
「それはこっちのセリフだ! 名乗って貰ったのは申し訳ないが、無名の俺に討ち取られて貰う……そして歴史に俺の名前を刻ませて貰う!」
ダショーンは俺に金棒を向ける。
どうにも元服したばかりの俺が立ち向かって、大の大人である仲間たちが逃げるのは情けないという。
しかしこれは戦争だから仕方ないと戦う姿勢を示す。
これに俺も戦う姿勢を見せて、無名の俺が勝つのは申し訳ないが、それでも歴史に名を残させて貰うと剣をダショーンに向けた。
少しの間が相手からダショーンは、馬を走らせて俺に向かって襲いかかってくる。
馬上と地面では有利不利が顕著に出る。
こんな格上の相手が馬上にいるうちは、俺に勝利する確率は低いだろう。
とにかくダショーンを馬上から引き摺り下ろす。
そう考えた俺は、向かってくるダショーンではなく馬の方に狙いを定める。
将を射んと欲すればまず馬を射よともいうしな。
俺はダショーンの金棒をギリギリで避ける。
そしてギリギリな体勢のまま俺は、ダショーンの馬の左前足をスパッと斬った。
馬はヒヒーンッと鳴いてから地面に倒れる。
これにダショーンは「おっと!」と言って、地面にスタッと降りるのである。
着地したところを俺は狙って斬りかかる。
一撃で仕留められたかと思ったが、ダショーンは金棒で俺の剣を受け止めた。
「小童っ! 随分と若いように見えるが、どうやら戦いの仕方は知っているみたいだな」
「恥ずかしながら身分が足りない分、勉強だけはしていますからね!」
「それは素晴らしい事だ! 味方ならば、ワシの配下にしてやっても良いが……とても残念だ!」
俺の事を仲間だったらスカウトしたいと、ダショーンは残念がりながら俺を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた俺は、足を強く踏ん張って止まる。
俺の足が擦った事で、地面は抉れていた。
そして弾き飛んだのを見てから、ダショーンは俺に向かって襲いかかってくる。
今度は俺が鍔迫り合いにするが、あまりにもダショーンの一撃が重くて、衝撃で地面の土が舞い上がり砂埃がバフッと立つのである。
受け止めたものの足腰が限界を迎えようとしていた。
「これも受け止めるとは、どれだけワシを楽しませてくれるのだ! ここまで来たのならば、もっとワシを楽しませろ!」
「それは……ちょっと言ってられるか!」
真横に飛び込んで避けると、地面にダショーンの金棒が衝突してヒビが入る。
これでどれだけ重い攻撃かが分かるだろう。
地面を転がった俺は立ち上がろうとしたが、立ち上がる前にダショーンは笑顔で向かって来ていて、立ち上がる事ができなかった。
とにかく攻撃を回避しなければいけないので、横に転がりながら金棒を避ける。
しかしこれにも限界が当然くる。
そこで剣を握っていない方の手で、地面の土を取るとダショーンに向かって投げつける。
そしてダショーンの脛を柄で殴って立ち上がる。
「さっきまでは面白かったが、ただただ逃げるだけならば面白くも何とも無いぞ! さっさと死ぬ気でかかって来いよ!」
ダショーンは回避するだけの俺に、これは面白く無いと言って怒っている。
俺としては、そんな事を言ってる場合じゃない。
立ち上がった俺はダショーンに向かって、剣を振り上げながら斬りかかる。
もちろん大振りなのでダショーンは、金棒を横にして剣を防ごうとした。
それを見た俺は腕を下に落とし、剣を振り下ろすのから下から上に、ダショーンの喉に目掛けて突きをする。
こんな攻撃が出てくるとは思っておらず、ダショーンは回避の行動が遅れる。
俺はこのまま喉に突き刺すつもりで、剣をダショーンに向かって押し出す。
命中するかと思った。
しかしダショーンはギリギリで首を曲げ、皮膚を少し持っていかれたが回避されてしまう。
倒すチャンスを逃した俺は、逆にピンチが来る。
カウンターで金棒が、俺の横っ腹に命中して、俺は吹き飛ばされてしまった。
それはそれは見事に吹き飛ばされ、地面に数バウンドしてズシャッと止まる。




