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017:幸先悪く

 レオンはレッドライン家を討伐するべく、平野に布陣するのであるが、コスタス前代官に仕えていたゾルダンとゲアートも加勢してくれた。

 時間にして9時に矢戦が始まった。

 そして10時頃から乱戦に切り替わった。



「引くな! 引けば数で劣る我らが、押し込まれてしまうんだぞ! 何が何でも前に出ろ!」



 数で劣るレオン軍は、後ろに下がったらやられてしまうので、必死に前に出て戦うのである。

 激しい乱戦が2時間にも渡って行なわれた。

 2時間が経過したところで、レッドライン家から使者がやって来て和睦を申し出て来た。



「レオンさま、ここまでかと思います……誠に悔しい事ですが、これ以上の損害は痛手になるかと」


「………」


「レオンさま、ここは大いなる決断を!」



 ゾルダンはレオンに、これ以上に戦ったとしても損害を考えれば、こちらの負けになってしまうと進言する。

 その言葉を聞いたレオンは、腕を組んで目を瞑り黙り込んでいるのである。

 そんなレオンにゾルダンは、大いなる決断をするように頭を下げて頼み込む。


 するとレオンは、目をカッと開く。

 そして立ち上がるとレオン軍の全体に「ここまでだ! 和睦を受け入れる!」と宣言した。

 この姿にゾルダンは少し感動する。

 急いで使者に和睦をするという事を伝えた。

 これにてレッドライン家との戦争は終結した。


 レオン軍は30騎が討ち死にし、レッドライン軍は倍の60騎を失う結果となったが、勝敗は付かずに引き分けで終わりを迎える。

 そして元々が顔見知りだったという事もあり、敵陣に逃げ込んだ馬や捕まえた捕虜たちも交換して帰陣する。

 当主として初めての戦争は勝敗つかずとなった。



「えっ!? ドンブ城を取れなかったんですか!?」


「そう見たいです。でも700人の兵力差がありながら引き分けだから十分だと思いますよ?」


「それは確かに凄い……にしても、そんなにレオンさまが家督を継がれるのはダメなんですか?」


「周りの人間たちは恐れてるんですよ。レオンさまは、周りの人間の傀儡になるような人じゃないですし、操れない人間には当主になって欲しくないんだと思います」



 俺はレッドライン家との戦争の結果を、まだ元服しておらず留守を任されているフロドから聞いた。

 まさかレオンが勝てると思っていたからだ。

 しかし兵力差を聞いて、確かに倍近くの相手に対して引き分けに持ち込むなんて凄いなとは思う。


 このレッドライン家との戦いの結果は、周りの城や権力者たちにも広がる。

 もちろんミケルやギルツ=ジルキナ家にもだ。

 話を聞いたギルツ=ジルキナ家のマインケ郡長は、大いに喜んでいるのである。



「これはチャンスだ! アレだけ恐れていたレオン軍の武力は、レッドライン家に勝てないほどに弱い!」


「確かにマインケさまの言う通りだ。このまま放っておけば力を確実に付けるだろうが、今のうちに叩いておけば脅威にはならないだろう」


「ならばラシャド、どうすれば良いのだ! 何か良い案は無いのか?」



 マインケ郡長は、これはチャンスだと思っている。

 この意見に家臣であり実権を握っているラシャドは、確かに言う通りだと言って賛同した。

 ラシャドが賛同した瞬間、マインケ郡長は良い作戦は無いのかと考えるでもなく聞いて来た。

 これにラシャドはイラッとする。

 だが咳払いをして自分の考えを話す。



「ここは直接、モルフェイ城に攻め込むのではなく周りから切り崩していくのはどうでしょうか?」


「モルフェイ城を攻め込むんじゃなくて、その周りから切り崩していくだと? それはどういう事だ?」


「モルフェイ城と、このタールド城の間に2つの城がありますよね?」


「あぁスペンティ城とティプス城の事だな?」


「そうです、その2つを攻撃し2つの城の城主を人質に戦いを始めるんです」



 ラシャドが提案した策は、モルフェイ城に攻め入るのではなく、その周りから切り崩していくというものだ。

 作戦を提案されたマインケ郡長は、自分の頭で深く考える事なく、作戦の詳細を説明するように求める。

 ラシャドはイラッとしたが落ち着いて説明する。


 この作戦はマインケ郡長の根城・タールド城と、レオンの根城・モルフェイ城の間に2つの城がある。

 そのスペンティ城とティプス城の城主は、どちらもレオンの指示をしている人間だ。

 ソイツらを攻めて人質にしてから攻め入ろうというのが、ラシャドの考えた作戦である。



「おぉ! それは良い策では無いか! その策を試してみよ!」


「そこでお頼みがあります! この策の総大将に、我が息子であるヒビオンを選んでは貰えないでしょうか!」


「お主の息子をか……お主の息子は、お主に似て才覚は優らずとも劣らずと聞いている。よぉし! ヒビオンを今回の策の総大将に任命する!」


「ありがたき幸せ!」



 ラシャドの作戦に納得したマインケ郡長は、その作戦を実行するように言うのである。

 その際ラシャドは総大将に、ラシャドの息子であるヒビオンを任命して欲しいと頼んだ。

 マインケ郡長は迷ったが、ヒビオンの才覚を噂で聞いている為、それを信用して雇用する事にした。

 また状況が変わろうとしている。


 そんな中で俺にも変化が起ころうとしていた。

 建築統務官は確かに兵士になれない役職だが、このままでもソロー=ジルキナ家が没落しなければ、一生食べていけるだけの役職だろう。

 しかし俺としては、それじゃあ納得できない。

 せっかく転生して好きな人生を歩み始めているのに、平々凡々な人生は歩みたく無い。

 そう思った俺はレオンの執務室に走っていた。


 深呼吸をしてから扉をノックしようとする。

 だが部屋の中から激しく怒っているような声が聞こえて来て、俺はピタッと動きを止めた。

 このタイミングで入るのはマズイ。

 どうしたものかと困りながらも部屋の中の声を聞く。

 声からしてレオンと揉めているのは、レオンの家老であるライアンだ。



「このままでは、レオンさまが危ないのです! 確かに権力を分断させるのは危険であり、レオンさまは納得できないかもしれません! しかしジルキナ家宗家と戦うのは、明らかにリスクが高すぎます!」


「いつもならばライアンの言う事は正しいのかもしれない……だがな、これだけは引き下がれない。俺はソロー=ジルキナ家の当主となり、州を実質的に支配している本家を叩き潰し、この州の尊極大名となる。それが俺の成すべき野望だ」



 ライアンはレオンの為に、ジルキナ家宗家との戦いは避けた方が良いと上奏する。

 しかしレオンは州を実質的に支配しているギルツ=ジルキナ家を排除し、自分自身が尊極大名となる事がレオンの成すべき野望なのである。



「そんな無謀な事を言わないで下さい。確かに実権はギルツ=ジルキナ家に奪われているとはいえど、ムホスチン大名が出て来たら敵いませんよ!」


「それでもやらなければいけないんだ。お前も俺を、バカみたいな夢を掲げる大馬鹿野郎だと思ってるか? それならそれで構わない……馬鹿じゃなきゃ野望なんて追えないんだからな」



 必死になってライアンは、レオンを説得する。

 ライアンの説得は、全くもってレオンには響かない。

 もしかしたら響いているのかもしれないが、それよりも野望を遂行する方が、レオンにとって重要なのだ。

 これを聞いている俺は完全にタイミングを逃した。

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