015:新たな役職
俺はキッチン統務官に就いて、最初の仕事は他の部分にも負担をかけている食費のコストを下げる事だ。
とてつもなくワガママなレオンを、納得させる為に多額の食費がかかっている。
この食費の部分を削り、他のところに回せれば御家は力を増す。
つまり武器や兵士の方にお金を回せるのだ。
「これはどうにかなるんでしょうか? それこそ2年前までキッチン統務官が居たんですが、どうにもできなくて夜逃げを……」
「そ そんな過去があるんですか……まぁやれるところからコツコツとやってみましょうか」
どうやら道は険しいみたいだが、目を逸らすわけにもいかないので、俺はとりあえず頑張ってみる事にした。
やはり現状を調べてみると、食材を無駄にしているのが明らかだった。
まずはそこから取り組まなければいけない。
シェフとメイドたちを集めた。
「とりあえず改善点が見つかりました! 皆さんには食材を、もっと細部まで使って貰おうと思います!」
「細部まで使うって、どういう事すか?」
「例えば野菜の本来は捨てる皮の部分を別の料理に使ったり、魚の骨とかでダシを取ったりして捨てる部分を有効活用しましょう!」
俺は改善するのに最初に取り組んだのは、本来は捨てる部分を別の料理に使うという事だ。
これにはシェフやメイドは理解できていなかった。
しかし上司である俺の指示に従わざる得なくて、野菜の皮や魚の骨などを有効的に使ってくれた。
素直に従ってくれた事で、メニューを考えるのは苦労しているみたいだが、そのおかげで1ヶ月目にして結構な節約に成功したのである。
「今まで食材は、足りなくなった分を買い足すという感じだったんですよね?」
「そうですよ、普通はそうなんじゃないんですか?」
「これからは地元のお店と月で、契約してみてくれませんか? その方が出費は抑えられると思います」
次に取り組んだのは、食材を買うのを毎回支払うのではなく、月で契約して買うという方法に変えた。
これにより無駄な出費を減らす事ができる。
この2つを導入した事で、たった2ヶ月で食事にかかっていた経費が収まるようになった。
この功績が認められ、俺は統務官会議に出席する事となったのである。
本当ならばキッチン統務官が会議には呼ばれない。
しかし今回は特例中の特例だ。
その証拠に他の統務官は、レオンの側近ばかりだ。
「フェリックスに紹介しておこう。コイツが政務統務官の《ルシエン=ヴァノーリ》、コイツが財務統務官の《マエル=ノックス》、コイツが武庫統務官の《ワイツ=ポゼッティ》、そしてコイツらが幹部候補の《アイゼル=クトシモフ》と《フロド=ヴァルーヒン》だ」
「よ よろしくお願いします!」
ここにいる幹部たちは、年齢的には同世代だろう。
しかし出身はソロー=ジルキナ家の譜代の息子たち。
つまりこれからのソロー=ジルキナ家を支えていく大幹部候補と言った感じだろう。
俺は緊張しながらも深々と頭を下げて挨拶をする。
同世代の台頭に、他の幹部たちは拍手をして迎える。
「それでこの会議で、フェリックスを呼んだのには理由がある。お前には、また別のところに移動して貰う」
「ま また移動ですか?」
「あぁフェリックスには、立て直す能力があると俺は判断した。だからこそ、お前にはキッチン統務官の職を降りて、別のところに移動して貰う」
「それはどこでしょうか?」
「お前が新たに就く職は……《建築統務官》だ!」
この会議に呼ばれたのは、キッチン統務官として結果を出したので表彰すると共に、別のところの統務官に任命する為だと言うのだ。
俺はせっかくキッチン統務官に慣れて来たのに、また別のところに移動なのかとガッカリする。
しかし拒否なんてしようものなら、この家での立場は無くなるので了承するしかない。
引き受ける事にした俺は、どこに行くのかと聞く。
するとレオンが提示して来たのは建築統務官だった。
「け 建築統務官……ですか? それって何の統務官なのでしょうか?」
「元々は別の人間がやっていたのだが、その人間が病で急死した。それで、ずっと空きになっていた役職だ……何をするのかというと、分かりやすく言えば城と城下の建築の総責任者だ」
「け 建築の総責任者……私には建築の知識はありませんが、それでも良いのでしょうか?」
「もちろん建築の知識がある奴が、お前の事を補佐するように言ってある。とにかくお前には、早急に取り掛かって欲しい問題があるんだ」
「早急にですか?」
建築統務官というのは、どんな役職かと俺は聞く。
もちろん文字的に言ったら、建築の責任者なのだろうが細かく聞いておきたかった。
なんせ建築の知識は少ないからだ。
この建築統務官は城の建築や、城下の建築などの総責任者の事を言うらしい。
俺は最初に建築の知識は無いと、レオンに言っておいて、それでも良いというので快く引き受けた。
引き受けると聞いたレオンは、とにかく早急に取り掛かって欲しい問題があるというのだ。
そんなに焦るような事が、建築関係で起きているのかと俺は疑問を抱く。
「少し前に城下で、大規模の火事が起きたのはフェリックスも知っているよな?」
「はい、100数軒の民家が焼失したと聞きました」
「そう、それだ。それで復旧を始めたのだが、いまだに復旧の目処が立っていない……これでは周りの人間たちから舐められてしまう。これは由々しき事態だ!」
「そういう事ですか……確かにそれは由々しき事態だ」
「お前なら、この事態を解決できるか? もちろんその為なら多少の散財も許す」
「そういう事でしたら、1つだけ策はあります……その為に、レオンさまにも一肌脱いで頂いても宜しいでしょうか?」
モルフェイ城の城下町で、大規模の火事が起きた。
それで多くの民家が焼失し、その復興を行なっていたのであるが、一向に復興の目処が立たない。
これではレオンの統制能力が問われてしまうと、本人は怒りを露わにしている。
この危機を俺なら解決できるかと聞いて来た。
大工の知識は無いが、このタイミングで取れる策は1つだけだと俺は考えた。
そこで俺はレオンさまに、一肌脱いで貰う事にした。
俺はレオンを連れて、大量に雇った大工の前に立つ。
大工たちは、まさかレオンが出てくるとは思わずに頭を深々と下げて怯えている。
しかしそんな状態を見たレオンは、フッと鼻で笑ってから大工たちに声をかける。
「諸君らには、これから数組に別れて作業を行なって貰う。早くにノルマをクリアした組の人間たちには、さらに報奨金を上乗せして支払おう!」
『うぉおおおお!!!!!』
「もちろん最も遅い組にも最低賃金は払う。それだけは安心して貰いたい……しかし! 最速を目指し、どこの組よりも報奨金を多く貰いたければ、素早く丁寧に仕事を行なえ! そうすれば大金が手に入るぞ!」
『おぉおおお!!!!!』
そう俺が狙っていたのは、こういう事だ。
無理矢理にやらせれば逃げる人間も現れるかもしれないし、暴動が起こる可能性がある。
ならば金を使って士気を上げた方が効率的だ。
それに早く家ができれば国民からも、レオンの評価が上がるというものだ。




