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014:キッチン統務官

 俺がレオンに行なった、帰宅後の足湯に、レオンは思っていたよりも感激する。

 その日からレオンさまへの恒例となった。

 そして俺もこの功績と言って良いのか、分からないが働きが認められ、1日にして小者副頭に抜擢された。

 いきなり自分には役職が大きすぎるからと、辞退しようとしたのであるが、レオンが「元服したのならば引き受けろ」とニヤニヤしながら言うのだ。

 明らかに反応を楽しんでいるように見える。

 これは断ってもダメの奴だと諦めて、俺は副頭の役職を賜る事にしたのである。


 まぁ副頭になったところで、俺がやる事が大きく変わる事は基本的には無い。

 いつものように屋敷内を片っ端から掃除をする。

 そんな時、小者同士で話している声が聞こえてくる。

 別に聞こうと思っていたわけでは無いが、自然と俺の耳に入って来てしまうのだ。



「やっぱりコスタスさまはダメみたいだぞ……」


「もうダメなのか。体調が悪くなったのは、去年の夏頃からだったよな?」


「あぁ練兵中に倒れられたんだ。日に日に痩せて、今では見る影も無い……これは1ヶ月も持たないって話だ」


「それは残念だな、ここまでソロー=ジルキナ家を大きくしたのはコスタスさまだからな……重要なのは、次の当主さまだよな?」



 小者同士が話している内容は、現ソロー=ジルキナ家の当主であるコスタス代官の話だ。

 そしてレオンの父親である。

 そんなコスタス代官が、病で床に臥せっており死期が近いという事だった。

 どうやら去年の夏に倒れてから、ずっと寝たきりだったらしく、昔のような面影が痩せた事で見る影も無くなってしまったという。

 話題は次期当主についてに変わった。



「次期当主はレオンさまだろ? やっぱりマリアベルさたと結婚したのが大きかったんだろうなぁ」


「いや! それが違うらしいぞ」


「え!? レオンさまじゃないのか?」


「まぁレオンさまでもある、っていうのが正しい言い方なのかな? 当主としての権限をレオンさまと、弟のミケルさまで半分に分けるらしい」



 次期当主は嫡男であるレオンがなると思っていたが、どうやらレオンの弟・ミケルと権力を半分に分けて、両立当主にするつもりだという。

 あまりにも奇抜的な行動をするレオンに対し、弟のミケルは正論パンチをするような真面目な性格だ。

 だからどちらに傾けるとかではなく、半分ずつにするという選択を取ろうとしている。


 えぇレオンさまが当主になるんじゃ無いの?

 権力を分散させるのは、確かに独裁者は出さないかもしれないけど、基本的にはダメだよなぁ。

 きっとコスタス代官は、破天荒なレオンさまに権力を渡すのも、生真面目なミケルさまに権力を渡すのも危険だと思ったんだろうな。


 俺は色々と考えながら仕事を続ける。

 何がどうあれレオンの下で働いて、絶対に成り上がってやると考えている。

 そして俺がレオンの小者になって1週間が経つ。

 いつも通りに俺は、屋敷内の廊下を拭き掃除しているとメイドの「もう嫌!」という声が聞こえて来た。

 どうしたのかと俺は声のする部屋を覗く。

 そこはキッチンだった。

 どうにも気になったので、俺は扉を開けてメイドの人たちに「どうかしましたか?」と聞いた。



「レオンさまが間食したいと申されたので、色々と作ったんだけど、これは嫌だとか美味しく無いとかって何回も作り直させるんです!」


「つまりそれで嫌になったというわけですね?」


「えぇそうなのよ……もう辞めたい………」


「そんな事を言わないで下さい! ここは是非、俺に任せて下さい!」


「え? 難しいと思うけど……やってみて」



 レオンは間食したいから何か作って欲しいと、メイドに頼んだが作った物を、それは嫌だとか美味しく無いとかって言って突っ返されたという。

 だから、もう嫌になったのだ。

 それは可哀想だと俺も苦笑いを浮かべる。

 ならば俺もやってみたいと志願し、メイドたちは困りながらもやってみるようにいうのである。


 俺は食パンの耳を切り落とし、それを油で揚げる。

 この世界と時代には、パンの耳ラスクは無いので、ちょうど良いと思った。

 適切なところでパンの耳を油から取り出す。

 そして粉砂糖を揚げたパンの耳に絡めて、簡単にできるパンのミミラスクを完成させた。

 こんな物で良いのかと思いながらも、きっと美味しく食べてくれるだろうと思っている。



「こ これってなに?」


「あっ! レオンさまにお出ししたら、皆様にも作りますから食べてみて下さい」



 メイドたちは自分たちの知らない料理を、サッと作った俺に何を作ったのかと聞く。

 俺は食べて貰った方が早いからと、レオンに出したら皆んなにも作ると言うのである。

 早速、俺はレオンにパンの耳ラスクをお出しする。

 俺が作ったというのも驚いているが、何よりパンの耳ラスクに驚いている。



「フェリックス、これは何だ? というよりも、お前は料理ができたのか?」


「まぁそこそこには料理はできます。そしてこれは食パンの耳を、油で揚げた後に砂糖をまぶした菓子です!」


「ほぉ? 話を聞くだけなら、何とも味の想像ができないな。それじゃあ食べさせて貰う……おっ!? こ これは中々に美味だぞ!」


「本当ですか!? ありがとうございます!」



 レオンは恐る恐るだが、ラスクを手に取ると口に運んで噛み砕く。

 するとまずサクッという食感に驚く。

 そして噛み進めると甘さが口の中に広がる。

 圧倒的に美味しいと、レオンは立ち上がって俺に「美味い!」と褒めるのである。

 俺は喜んで貰って嬉しくなる。



「これは脂っこくなく、ほどよい軽さで食べ進められるぞ! お前は料理まで出来るとは……よぉし! お前を今日からキッチン統務官に任命する!」


「え!? キッチン統務官!? こ 小者も併用でって事でしょうか?」


「いや、両方が中途半端になる可能性がある。だからキッチン統務官に専念してくれ。キッチンで何かあったら全てが、フェリックスのせいになるからな」



 このラスクの美味しさに感動したレオンは、俺に小者からキッチン統務官になるように言って来たのだ。

 キッチン統務官とは、キッチン内の総責任者。

 つまり小者副頭からは昇進したと言えるだろう。

 14歳の下級農民の出で、元服したばかりの人間にしては異例の出世と言える。

 俺は断る理由も無いので引き受ける事に決めた。


 この日の夜からキッチン統務官の仕事がある。

 確かに料理は、ある程度できるがキッチンで働いた事は無いので周りの意見を聞きながらだ。

 普通に料理を作った場合は、明らかにシェフの方が美味いので、そこに口を出す事はしない。

 しかしやる事は食材の管理や栄養バランス、そして食費の管理が主な仕事である。



「え!? 食費だけで、こんなにコストがかかっているんですか……これだけマイナスを、他のところから補填しているってなると」


「食事を食べるのは、あの人ですからね……これじゃないとか、美味しくないからかえろとか。そりゃあ食費はかかりますよ」



 レオンの事だから食事を無理矢理に変えされたり、美味しい食材を集めたりと多額の食費がかかっている。

 食費は予定の費用よりも加算で、他の赤字のところから補填されている状態だ。

 これを変えなければいけない。

 これはとてつもなく大変だ。

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