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008:急襲

 俺が屋敷に向かった後、カーツは寮に残って俺の応援を待つ事になっている。

 非常事態なので護身用の剣を持って待機する。

 こんな事態になるとは思っていなかったので、カーツは震えながら待っているのだ。

 すると寮の入り口の方から音が聞こえてくる。

 俺が来たと思ったカーツは、パァッと表情を明るくして玄関の方に向かうのである。



「何でも無かった……んだね………」



 カーツが目の当たりにしたのは、俺なんかではなく俺が対峙した曲者と同じ格好をした人間だった。

 突然の事態にカーツは固まってしまう。

 動かないカーツを見た曲者は、何も言う事なくスパッとカーツの胸を斜めに斬り伏せた。

 斬られたカーツは、その場にバタンッと倒れる。


 曲者はカーツを跨いで、寮の奥に進んでいく。

 すると廊下の向こうからグレッグがやって来た。

 全くもって曲者に警戒している様子は無く、スッと武器も構えずに曲者の前に立つ。

 何ならグレッグの表情は笑みを浮かべている。



「こっちは小者を2人殺したぞ? そっちはどうだ?」


「あぁ入り口に立っていた間抜けを殺した。これで3人殺した事になるが……お前を除いて小者は、4人いるんじゃ無かったのか?」


「どうやら屋敷の異変に気がついて、屋敷の方に向かったみたいだ」


「そうか、それならアイツに任せても良さそうだな」



 何とグレッグと曲者が繋がっていたのだ。

 そしてグレッグは既に、クハとウンケを殺害したと曲者に報告するのである。

 曲者も入り口にいたカーツを殺したと伝える。

 残るは俺だけだが、俺は屋敷に行ったから別の人間に任せようと曲者は言う。



「これでそっちの要望には応えたぞ? 今度はこっちの要望に応えて貰おうか」


「すまんすまん、お前の要望って何だったか?」


「とぼけるんじゃねぇよ! 彼の方の家臣にしてくれるって話だろうが!」


「あぁそうだったそうだった!」



 グレッグと、彼の方と呼ばれている黒幕のような人間との間で何らかの取引をしていたらしい。

 彼の方からの指示をグレッグが遂行し、それが成功した際にグレッグを家臣にするという約束があった。

 しかし曲者は、また何も言う事なくスパッとグレッグの首を綺麗に刎ねたのである。

 グレッグの血を剣を振って払う。



「この馬鹿が、お前のような間抜けな人間を、彼の方が家臣にすると本気で思ったのか? そんなんだから、こんな風に騙されるんだよ」



 彼の方も曲者も、グレッグを家臣にするつもりなんて最初から無かった。

 バタンッと倒れたグレッグを見てから、曲者はペッと唾を吐きかけ、屋敷の方に向かおうとする。

 しかし廊下の先に立っている男がいた。

 それはさっき斬り殺したはずのカーツだった。

 冷や汗ダラダラで息が荒く、今にも死にそうな感じだが、ギリギリで立っている。

 首を刎ねなかったのが曲者の失敗だ。



「これは驚いたな。まさかアレだけの傷を負って、まだ立っているなんて……いいや、立ってるだけじゃ無い。この俺の前に立っているのは称賛に値するぞ」


「そんなので褒められても……嬉しく無い! お前らは俺の仲間を殺した………何が目的なんだ!」


「何が目的かぁ……まぁ冥土の土産に少しだけ教えてやってもバチは当たらないだろう。このボドハント州に、新しい覇者を君臨させる為だ」


「覇者を君臨させる? 何を言ってるんだ」


「お前たちには分からないだろうな。コレに関しては説明したところで、お前らは理解できない」



 曲者は切り捨てたはずのカーツが、自分の目の前に立っている事を興奮しながら褒めるのである。

 そんな事はどうでも良いから、何が目的なのかを聞き出そうとする。

 もう時期死ぬのだから教えても良いかと曲者は思う。

 そこで彼の方をボドハント州の新たな覇者に君臨させる為に、こんな事をやっていると言うのだ。

 カーツ的には何を言っているのかと困惑する。

 もちろん曲者は、理解されないのは分かった上でやっているのだと開き直る。



「それで君はどうする? このまま死ぬのを待つって言うのも良いが……それじゃあ面白く無いよな? 俺の手でトドメを刺してやっても良いぞ?」


「お前の手なんか……ゴホッ!?」



 このまま殺さずに、息絶えるのを待つのも悪くは無いと理解できない事を言ってくる。

 しかしそれでは面白く無いとニヤニヤしながら言う。

 この手で殺してやるよと提案した。

 そんな事は望んでいないカーツは、拒否をするが口から大量の血を吐いて膝を地面に着く。



「ありゃりゃ、これは痛そうだ。逃げる事なく俺の前に立った事を評して、楽にしてあげよう」



 曲者は痛そうだし、逃げる事なく勇気を出して曲者の前に出て来た事を褒める。

 だからこのまま苦しんで死なないように、トドメを刺してやると、カーツにゆっくりと近寄る。

 そして剣を振り上げた。



「ふっ……馬鹿みたいに近寄って来て」


「なに?」



 カーツは笑った。

 これはカーツの作戦だったのである。

 真っ向からやり合っても勝てないと分かっている。

 そこでカーツは、わざとらしく血を吐いて油断させようとした。

 それをまんまと曲者は引っかかる。

 完全にカーツの間合いに入った。

 一気に立ち上がって、曲者の胸に剣を突き刺した。



「ふ ふざけるな……こ こんな事があって………」


「こんな事をしてるんだから……お前の死に際なんて、こんなもんだよ」


「くそっ……たれが」



 完全にやられた曲者は、口から血を吐き地面にバタンッと倒れて息絶えた。

 カーツもフラフラになりながら地面に尻餅を着く。

 そして口から大量の血を吐き、斬られた胸からも大量の血が流れ出ている。

 大量出血の中で、無理に動いたからカーツの視界は、グニャグニャに歪んでる。



「はははは……マルセルくんは大丈夫かなぁ」



 こんなにも死にそうになっているのに、カーツの頭の中には勉強を教えてくれた俺の事を思い浮かべていた。

 最後にも屋敷に向かった俺の安否を心配する。

 その笑みを浮かべたまま、地面に仰向けでバタンッと倒れて意識を失うのである。


 カーツが心配している俺は、屋敷の中で曲者と戦闘を繰り広げていた。

 アニス夫人の死を知った俺は、怒りを隠す事はできなかったのだ。

 激情に任せるように戦っている。

 しかし怒りによって攻撃は単調なのか、曲者は後ろに下がったりして攻撃が流されている。

 息が上がった俺は、距離をとって呼吸を整える。



「ガキの小者にしては、かなりの使い手らしい。こんなところで会わなければ、俺の弟子にしてやっても良いくらいの実力だな」


「お前の弟子に? そんな事は、何があってもあり得ないんだよ! お前の弟子になるくらいなら自害した方が幾億倍もマシだわ!」


「おぉ随分な言いようだねぇ。まぁそんな口を叩けるのは、今のうちだから言っておきな。数分後には、君の首と体は泣き分かれだからね」



 曲者は俺と、こんな出会い方をしなければ弟子にしていたと言ってくるのだ。

 しかしそんな事は、どんな事があったとしてもあり得ないと否定するのである。

 そりゃあそうだろう。

 生き残りたいが、こんなカスにペコペコするくらいなら切腹した方がマシだ。

 曲者は俺の言葉に笑って余裕を見せる。

 圧倒できると思っているからだ。

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