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社長の嫌がらせ

「俺は朝出社するのが始業の30分前。で、始業のベルが鳴るまで自分の机で筋トレ、疲れている時は勉強等して待機してた。工場内の机だ。色々な工具が入っている」


「うん」


「そこから奴が使ってる機械も見渡せる。で、毎朝機械を起動するんだが、その役割は社員だった。ところがだ。手紙を渡した直後から奴がその役目を果たす様になり、更に何故かリュックを背負ってその機械を起動しに来るんだ。そう、俺に見せつける様にリュックを背負った状態で毎朝な」


「機械を見る時に必要なの?」


「全く必要ない」


「成程……君は俺の言葉でリュックを背負う事は出来ないけど、俺は社長で偉いから背負えるんだよ? って背中で語っていたって訳か」


「そんな下らん事を語らんでもなあw」


「でもあいつ、背負う事をおかしいって言ってたよ?」


「だな。でも関係ない。俺に嫌がらせをする為なら自分で言った事すら覆す」


「成程……まだある?」


「当たり前だろw1つ2つで済む訳がないwwサードって言うウイルスが流行った時があったんだ。1990年頃かな? 俺が入社した当時だな」


「まだ生まれてないわ」


「その頃東京で流行ってて、丁度東京に社員の労いの食事会に行く事になっていたんだが、そのウイルスが出た事を奴だけが知らずにそのまま東京に行こうとしたんだ」


「下手したら労いどころじゃないじゃない」


「そうだ。変なウイルスに感染して会社中に広まる危険性もある」


「やば……」


「で、そもそも食事会が面倒臭すぎる」


「どんな風に?」


「うちの工場は埼玉にあって、東京のホテルに行くんだ。しかも木曜の夕方5時から出発。で、社員の車でそこへ向かうんだ。本来バスとかでみんなで雑談しつつが普通なのに、そこをケチってんだ。運転手は雑談参加できんよな?」


「うん」


「で、俺の乗った車の運転手が社長の父親で、80超の老人。そいつに命を預ける形となってしまった。観察してたら、ハンドルを握る手がプルプル痙攣してた」

ぬう……危険が危ないな……!


「ええええ?」


「だよな? 途中で心臓が止まっちまったらどうするんだよ……」


「あり得ない話じゃないよね……怖すぎ……何でその人に運転させたの?」


「知らねえ……奴は親父に尋常ではない信頼を置いている節があるんだ……自分を社長にしてくれた素晴らしい人って感じか?」


「そういう事か……やば……」


「突然の発作襲来が怖くて。寝てもいいよと言われていたが一睡も出来んかったぜ。で、2時間で到着し、2時間食事して帰りは9時。そこから自転車で家に帰ると10時になる。家では何もできず睡眠。翌日も出社だ。平日やるなら12時から出発してほしいよ。がっつり仕事を5時までやってから食事会なんて頭悪すぎるよ」


「どういう神経してるんだ……それを労いという訳?」


「そうだ。あんな家畜共なんか、餌さえ与えりゃ喜ぶだろうって考えか?」


「それだよ!」


「冗談じゃねえよ……恐ろしい精神構造だ。そういえばあんな事もあったな」


「なに?」


「健康保険証を無くした時があったんだ」


「カードの?」


「ああ、で再発行してもらおうと思って事務の人に言った時、運悪く事務所に奴がいて、一部始終聞いていた。で、用件を終えて出ようとした時に


『使えない男だ』


と聞こえる声で言って来た……まあ俺が悪いがそれこそ陰口で良くないか? わざわざ聞こえる様に言うなよ……」


「何でそんな……他には?」


「そうだな、偶然奴と話していた人に用があって、その人の後ろで話が終わるのを待っていたんだ。そうなると立ち位置的に奴と用事のある人を挟んで向かい合わせになっている状態だよな」


「そうね」


「そしたらそいつ、その人に


『幽霊がいるぞ』


って馬鹿にしてきた事もあったな。半笑いでな。なあアリサちゃん? ここは地獄だから魂が居るのは当たり前だけど、上界で幽霊が出たらどうする?」


「確かに。死を覚悟して十字を切るわ」


「そんなにか?ww」


「半分冗談よw」


「だが、奴は多分面白い事を言ってやったぞ! って感じだった。目を見開いて笑っていた。悪魔みたいに……社長の中では会心のギャグが完成したんだろう。だが誰一人得をしない冗談だよな」


「センスの無い男……冗談としても最低ランクね。これでその人は笑っていたの?」


「当然ノーリアクションさ。勿論俺も。面白いと思っているのは奴のみ。他の人は奴の事を面白いと思ってないと思う。奴の発言で心から笑った事は一度も無い。そしてそのせいで空気が悪くなっていたのを奴以外の全員が肌で感じていたが、それでも問題ないらしい。奴自身が楽しければそれでいいのだからな。その辺もやはり自己中心的」


「そうよね。それに人の事を悪く言って起こす笑いなんて笑いであって笑いでないわ」


「ああ、あの時さ、俺が本当に幽霊だと言うのなら、今お前をいくらボコボコにしても見えない訳だし殴りたい放題ですよね? と言いつつ殴りまくれたらなあって思ったぜw」


「そうよね……私でも殴りたいし、殺したいもん。何回も何回も……」

ありさ、だめだよ……


「おいおいwwでも、まてよ? あいつ幽霊がいるぞって言ってたから幽霊である俺を目視確認出来てるじゃねえか。という事は……あいつ、霊能者だったんだな……じゃあ殴り掛かった途端に除霊されちまう……怖ええ……」


「考えすぎぃw」


「後は……工場内に20センチ位のムカデが出たんだ。普通どうする?」 


「まあ追い払うかな?」


「だよな? だが奴は……足で踏み潰して、やってやったぞって笑顔でキョロキョロ周りを見渡してた。おぞましい笑顔で……周りはドン引きよ……」


「ええ……」


「ムカデは迷い込んだだけだ。工場内はエサの様な物もない。ほっとけば出ていく。別に人間に危害を加える訳でもない。それでも殺した。年なのにわざわざ大袈裟に足を上げて……そんなパフォーマンス要るか?」


「そう言う事でもしないと自分の凄さを知らしめる事が出来ないって事? 無抵抗のムカデを……最低ね……まだある?」


「ああ、俺は仕事以外で自分の事は余り話していなかった。で、忘年会とかも可能な限り休んだ。安月給だし、会費を払うのも嫌だったしな。だが、奴はそんな俺でもなんとか参加させようと忘年会と同時に、お世話になった人の送別会を開くと言い出した」


「そういう事もしてくるのね」


「15年間一度も参加していなかった上での初参加だったんで相当緊張したぜ。会費もバカ高かった」


「それは行きたくなくなるよね」


「で、その時初めて緊張しながらも左隣の後輩の話を聞いて、頑張って返事していたら、運悪くその後輩の反対側には社長がいてよ、たどたどしく喋っている俺を見て……


『喋ってるよ!』


と、目を見開いて満面の笑みで珍しい生物でも見るかの如く喜んでたな。あいつ、俺が喋らないとでも思ったのか?」


「へえ、また新しい悪事……よくもまあ次々と……新情報全てがムカつくよねこいつ……ブッ〇したい」

殺してはいけないよ。


「初参加だったんだぜ? すげえ嫌な気分になったぜ。二度と参加したくないと思ったな。だが奴はケロッと忘れているんだろうなあ」


「初参加で一生懸命喋ってる姿を見てそういう感想になるとは……それだけは無いわ……ね、ねえ? まさかまだある?」


「まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだあるぜ」


「げえええ人間不信になりそう……」


「ん? 辛そうだな……流石の神裔Ⅳ様のメンタルでもここまでか。じゃあここまでで」


「ん!! とことんまで聞いてやるわ!」


「そうか? 無理だけはすんなよ? 俺はバイトだから社員より仕事が少ない。そうなれば社員の方に仕事が行き、俺には回ってこなくなる」


「うん」


「で、究極に仕事が無くなった時に、バイトやパートの皆を事務所に集め一言。


『仕事がないので週2回程休んで下さい』


と言って来た。みんな驚いて辺りを見回していた。そしたら続けて……


『これは強制ですのでどんな泣き言も通じません』


と圧をかけてきた。その時俺は仕事をバリバリやっていて、それを見ていた最近入ったバイトの人は


『え? 鈴木さんってバイトだったの? てっきり社員だとばかり……』


ってその場で聞こえる程の声で驚かれる程だった。何故かすげえ恥ずかしかった。それでそれから2ヶ月間週休4日。暇でしょうがなかったぜ。正に


【週休4日の刑】


だ。休みなのに、社員のみんなが頑張っている事を思うと、だらけてる自分が嫌になり、何も出来んかった……ストレスしかなかったわ」


「辛いね……鈴木さんが悪い訳じゃないのにね……自分が仕事を取ってこれなかったからこうなったのに……言い方むかつく……死ねばいいのに」

そうだな。ぬ? 死ねばいいのにの方に同意したのではないぞ? 言い方がむかつくの方に同意したのだよ?


「次は……これは細かい事だが大掃除の時だ。皆に1組ずつ軍手を配るんだが、俺にだけは配ってくれなかったという事」


「まあ細かい所もしっかりとって感じね。徹底してるわねえ」


「奴が軍手が沢山入ったビニール袋を持って俺以外の全員に手渡していて、俺の存在も気付いている筈なのに通り過ぎて……まるで俺を空気としか見てくれていない……」


「クズ」


「大掃除では機械を拭くんだが、その時に使うロール状のペーパータオルを使うんだ。で、切れていたので事務所に貰いに行った時、2人事務員がいて、1人が持って来ようとしたら、もう1人の事務員の人が、


『言われているから出せない』


『いわれて……』


『いわれた』


『とちがう』


『まちがい』


『ごめんよ』

しゅーん


「え? 間違い? 何が? 何で謝ったの?」


「ん? 何も間違えてねえし謝ってもいねえよ?」 


「で、でも今……」


「気のせいだろ。で、言われてるから出せない。と、言って来た。それを言った人は社長の奥さんだ。だから社長が指示したと思う。だが、一体何て言ったんだろうな? 同じ課の井村は貰っていた。だから汎用課全体を差別した訳ではなく推測だが 


『鈴木がペーパータオルを貰いに来たら断るんだぞっ』


て感じか? 大掃除にみんなが使っているペーパータオルすら出せないと言いやがったんだ。バイトだって機械は拭くんだぜ? なのにお前は駄目だって事だろ? 悔しかった」


「え? 待って? 汎用課ってのは差別されるものなの?」


「される」


「何で?」


「これも言いたくねえんだが……汎用課の人間だけ集めて、社長と会議をした事があった」


「うん」


「その時な、一人の社員が


『汎用課だけ差別されてる気がする』


って意見を出した」


「どういう所を?」


「自動班ではキャスター付きの引き出しを一人一人に配布する。それを汎用課は誰一人貰えないという事」


「そんな事してくるんだ。で、社長はどんなリアクション?」


「差別? どこが?」(半笑いで)


「で、その社員はどう言ったの?」


「情けねえ話、


『どこが?』


の力強さで委縮して反論出来なかったんだ……」


「かわいそう」


「奴の中では差別してないと思い込んでいながら差別は恐らく今も継続している感じなんだ。そう言うのがあって、ペーパータオルも汎用課だけ貰えない物だと思っていたんだが汎用課のメンバーが貰っているのを確認して、ああ、この部分は差別されなかったんだと安心してたんだ。だが俺にだけには渡すなと奥さんに釘を刺していたと言う事。一人で早合点して恥かいちまった……」


「何でそこまでするのよ……」


「だから他の社員に配られたペーパータオルを休み時間に均等に切り取って掃除する羽目になったんだ。バレたら恥ずかしいし、謎の罪悪感にさいなまれ、悲しいやら苦しいやら……こんな惨めな事は無い……ここまで徹底されていると悲しくなってくるぜ」


「酷過ぎる……完全な差別じゃない……じゃあ差別されている事はその時点で分かっていたんだね?」


「ああ」


「その後にみんなでコミュニケーションの勉強しましょうって話になってもねえ」


「取り様がねえよな。覚えても差別されてる引け目から有効活用出来んわ……」


「そうね……え、奥さん?? 奥さんって聞こえたけど空耳よね?」


「え? 違うぜ? 奥さんってはっきり言ったぜ?」


「奥さんってオークさんじゃないんだよね?」


「何で突然ファンタジーに出てくる豚のモンスターにさん付けするんだよw」


「や、やっぱり違うよね? じゃあ正真正銘女の人って事でしょ? あれを好きになる女の人がいるの? しかも結婚してたんだあのゴミ」


「そりゃしてるさwしかしゴミってw会った事もないのにwまあここまで聞いてりゃ人伝(ひとづて)でも嫌いになるわなw」


「奴のどこに惚れたの? 性格だとしたらその人の人間性を疑うわ? 今までの話の中で、惚れる要素は皆無」


「分からねえ……でも奥さんには優しいんだろ? で、3人子供がいる」


「そんな奴の血を引いた人間が3人も……てか、奥さんも差別を黙認しているって事よね?」


「確かにそうも取れるがそもそも反対出来んだろ……社長の言う事だぞ。職場では夫婦じゃなく社長と事務員の関係だ。社長の命令には逆らえん。どんなに悪いと分かっていてもトップの言う事が正しい。それが社会ってもんだ」


「そうなのね……悲しいな……奥さんも次期社長っていう肩書でホイホイ結婚しちゃったって事?」


「まあそうだろうなあ。性格は完全に終わってるし……どうしてまだ気付かないんだろうな。因みにアリサちゃんは今までの話を聞いて奴と結婚したいと思ったかい?」


「無理ね」


「社長だぜ? 金持ちだぞ?」


「無、理。人としての心を感じないわ。私も人間だし最低限人間と結婚したいわ。あいつは人じゃない。

そもそも奥さんがいるし、年齢も離れすぎてるし、性格も考え方も。顔も見た事ないけど絶対に嫌いだし、体臭も声も雰囲気も何もかも嫌いだし私の人生に要らない要素だから」


「だよな……不思議だ……」


「天然だったりする?」


「どうだろうなあ? 特にそれはないなあ。厳しい一面はあった」


「どんな?」


「パートの子が休みますって連絡があったって言ったんだ」


「うん」


「それが気に入らなかったらしく、出勤していた別のパートさんに愚痴をこぼしてたんだ」


「何がいけなかったの?」


「休みますじゃなくて休ませて下さいじゃないとおかしくない? って不満そうに話していた」


「まあそれは確かに後者のが丁寧よね」


「だが、それをパートさんに言う必要あるか? って話だ」


「え?」


「彼女は言わば雇い主側だ。で、そちら側にとっては腹が立つ事を経験したとて、それを末端のパートさんに言う必要はないって事。共感を求めたところで雇われの側ではそこまで納得できねえだろ? その怒りはパートさん側からしたら全く分からない事だよ」 


「何でそんな事を私に話すのって思うわ」


「そうだな。こんな事は腹にしまい、社長や会長に報告すればいいだけの話。それで必要があるなら休ませて下さいと言った方がいいよ。と、個人的に教えてあげればいいだけ。まあそんな必要性は皆無だがな。それをパートさんに吹聴する事で、休んだ子は社長夫人に失礼な態度をとった悪い奴というイメージを、聞いた全員に植え付けてしまい、その後に引きずる可能性があるのさ。結果的に、上が下の者達の関係を意図せずとも悪くする様な行動をしているんだ」


「ああ、それは思いつかなかった。他には?」


「後、年齢よりも声は若い。声優っぽい可愛らしい声だ」 


「へえ、早乙女さんみたいな物かあ」


「早乙女さん? さぞ美しい人なんだろうなあ」


「美しい肉体美よ」

挿絵(By みてみん)

「ん? ま、まあいいや……で、オソローイの時、俺が血液型がBという事が奥さんにも伝わっていて、B型ってちょっと恋人としては敬遠しちゃうよねえ。と、陰口を叩いてくれていた。B型ってそんなに駄目か? しかも彼女もBでその子と一緒にいる時にだ。よくそんな事言えたなって悔しい思いをしたぜ」


「全員に広まっちゃったんだね」


「ああ、凄まじい速さで広まったわ」


「社員同士ではすごいネットワークがあるんだね……他には?」


「買い物の時に会った事あるぜ? 帰り道にあるので何気なく使っているSENTOUってスーパーで」


「戦いが始まりそうな名前ねえ」


「そうだなwで、その時普段作業着なんだが、超おしゃれしてたな……スーパーに買い物に行く格好じゃなかった」


「どんな?」


「その当時、季節は確か秋だったんだが、かなり寒い日だったんだ。で、ヒョウ柄のコートにつば広の帽子に、上が茶色で下に行くにつれ透明になっていく感じのグラデーションの掛かったグラサンを付けて買い物していた」


「へえ、セレブって感じね」


「で、それよりも驚いたのは買い物かごの中の量だ。カートに2つのかごが入ってて、両方満杯。2~3万分買ってたんじゃねえか? あ、あのーこれから冬眠するんですか? って程の大量買いをしていた。すげえ大家族なのかなあって思ったよ。でも5人しかいない筈なんだ」


「へえ」


「でな? 丁度俺の並んだレジの1つ前の人が社長夫人だったんだ。すげえ偶然だろ? で声をかけられ、その特徴的な声で気付いたんだが、そうでなければ気付かなかったわ。グラサンしてたし何か威圧感あったからな。なのに何でだろうな? 黙ってりゃ気付かなかったのに……」


「そうね。あっちも鈴木さんがいる事に驚いてうっかり話し掛けちゃったって感じなのかもね」


「かもな。俺はいつもの通り作業着姿だからすぐにばれる。だがもし俺だったら絶対声掛けないわ。変装というかおしゃれ? しているから作業着姿しか知らないし気付く訳がないと自覚しているからな。絶対にばれないと堂々とする筈だしな。なのに無防備に、


『あら鈴木君来てたの?』


って言って来たんだが、こんな知り合い居ないし人違いじゃないかと思っていたんだ。だがグラサンの奥には見覚えのある顔。そして、声も似ているなと思い出し、社長夫人という事で驚き、作業着姿からのギャップで更に驚き、買い物の量で更に更に驚いて、本来


『あ、お世話になってます』


と言う挨拶すら忘れ、思わず、


『えらい買いますね』


と、言っちまったんだ。そしたらどうしたと思う?」


「挨拶もせずにいきなり買い物の量の事? 卑しい男ね?」


「流石にそれは無いけどさww正解は動揺して、


『あ、鈴木君先に会計済ませていいよ』


と言って順番を譲ってくれた。で、何も疑う事なく彼女の前に並んだ」


「あら? 意外と優しいのね。沢山買うから相当時間掛かるもんね」


「違うぜ!!」


「え?」


「俺の前だから必然的に彼女が先に会計を済ます事になる」


「うん」


「それだと嫌でも会計結果を俺に見られる事になる。それが嫌だったから譲ったんだよ。優しさじゃないよ。俺には少ない給料で生活させて、自分はおしゃれなセレブ姿で身を包み、旦那の金で大人買い。その最中を見られちまった訳だからな。そうやって回避したんだ。まるで今正にやっている悪事を俺に見られたくないと言う様な感じだ。グラサンの奥の目がそれを物語っていた……ま、気付いたのは翌日だがな」


「そういう事か……罪の意識があるという事か……そう、低賃金でこき使ってるって事を……本来もっと出せるけどケチだから出したくないという事を……」


「そうだ。いえ、いいです。自分、社長夫人の買い物の内容と、会計結果をどうしても見たいので、このまま待ちますって言ったらどういう顔したんだろうなw」


「青ざめるよねw」


「恐らくな。それにしても従業員には可能な限り少ない給料で済ませ、自分達になるべく還元する……夫婦揃って……はあ……」

大きなため息をつき、肩を落とす鈴木。


「うーん……働きたくなくなる話ねえ」


「サラリーマンになったら全員がそうなる運命よ。そういえばこんな事もあったな……今の話と合わせるとこれも合点が行く」


「何?」


「俺のやる仕事の図面にだけ、その品物の値段を修正液で消してある」


「どういう事?」


「図面にはその品物を出したら幾らになるか金額が書いてある」


「うん」


「だが俺が携る品物の図面にはそれが消されている。ご丁寧に全部にだ……でも初めの頃は裏まで修正液を使っていなかったから透かしたら見えたんだよ。そしたらとんでもねえ金額が書かれてた。一回だけだったが」


「一回でもミスしたらもう終りね」


「ああ、完全に俺の予想だが、結構大きい品物も担当していたんだが、その値段を知ってしまえば俺が


『結構高額になる品物を担当しているのに、こんなに安い給料しか出せないんですか?』 


と突っ込まれてしまうかもしれないだろ?」


「あ……!」


「それを避ける為に意図して隠したんだ」


「確かに……スーパーで順番を譲った時と同じよ……人の習性って単純ねえ。分かり易過ぎる……」


「そう。自分がこれから支払う金額は修正液で消せん」


「うん、レジに表示されるもんね」


「だから、順番を譲る事でレジの表示を修正液を使わずに見事消し去り逃げ切ったって事だな。敵は相当切れ者と見た!」


「せこい事を……でも間違いないわ。他には?」


「うーん……あ、思い出した!」


「何?」


「情けねえ話なんだが、目に鉄屑が入って病院に行った事があったんだ」


「痛そう……」


「瞼を閉じる度にそれが瞼内で動き回ってどんどん傷が増えてってな……鏡を見たらそっちの目だけ赤くなってた。多分これは一人で解決出来そうにないと判断してよ。上司に報告してな」


「わあ」


「で、病院に奥さんが連れて行ってくれたんだが、その道中で、


『鈴木君は結婚したいの?』


と雑談してきて、


『まあいつかは……』


と、適当に答えておいたんだ。これが金曜日」


「うん」


「で、その翌週の火曜の昼礼で、60のおばさんを紹介した時に彼結気と言いだしたんだ」


「あ、奥さんがゴミクズに報告したんだね?」


「そうとしか思えん……わずか3日でこのストーリーを紡ぎ出したんだろうな……すげえ男だよ……だが、ゴミクズではなく社長だけどな」


「何言ってんのさ! 間違いなくゴミクズだよ! それでその日に新人が来る事が分かっていたから、そのおばさんが結婚している事を知らせないと鈴木さんがおばさんにプロポーズしちまうよ! 大変だ! 何とかしないと……と考えてああいう愚行に至ったという事かも?」


「恐らく……頭良すぎて引くわ……はあ、奥さんはこれくらいか。でも、そうだ! これも酷い話だぜ?」


「どんだけあるのよ……」

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