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彼結気?

これから鈴木の語る話はフィクションです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あの馬鹿、


『彼女は結婚していますので、気を付けて下さい』


って言いやがった!」

ぬ?


「え? 何それ? でも略すと彼結気(かのけっき)だよね?」


「かのけっきぃ?」


「彼女のかの、結婚のけっ、気を付けてのきで、これらを繋げた物よ」


「そうだけどw何で略すんだwしかしその言い方w」


「だって……これから沢山出てきそうな言葉だと本能的に感じちゃったから……それに、言いやすいよね? 楽しげだし」


「ああ、とっても楽しい響きだな。多分沢山出て来る言葉だが……本来言う度に悲しくなる言葉なんだがなあ……まあそれなら略した方が効率的だよなあ」

略すと文字数が減ってしまう。それはとても悲しい事。だが、あまり長い言葉を何回も登場させるとそれだけで読む気が失せる。それだと読者様自体が減ってしまう。それはあってはいけない程に悲しい事。文字数が多い小説は良い小説と口を酸っぱくして言っているし、真理ではあるが、その本質とは、


【水増しし多くなった文字を読んで貰った時点】


で良い小説と言う事だったのだ。私はこれが常識であると確信している故に、皆まで言わずにここまで来ていたが、本来私が言わなくてはいけない事は、


【文字数が多い小説は良い小説】


ではなく、


【水増しし多くなった文字を読み終えていただいた小説は良い小説】


と言う事。その意味が内包した上で、


【文字数が多い小説は良い小説】


と語っていた訳だ。半分まで削減しつつ、言いたい事を伝えられている事から略語は馬鹿に出来ない。それを巧みに使い、冗長にならぬ様に気を使っていた訳だ。そう、時には略語を使用するのも良い文字数稼ぎと言えるのだ。何を言っているか分からなければ、それでも良い。いずれ分ってくれると信じているから……


「泣くなって言ってたから構えて聞いていたけど、こんな事では泣けないよ?」


「そうだよな? それの何が? って聞いた瞬間は思うよな? そのリアクションが正解だ。俺も、何言ってんだ? と思ったけど、冷静に考えたらその言葉、俺に向けた言葉だったんだ。そう、30人の従業員達の中で、アルバイトの俺だけに……向けたられた……な……」


「え? 分からないよ……」


「彼結気、これは、


【俺のみ】


に向けられた言葉なのに、それでも気付くのに時間が掛かった。もしやそれでも良いと思って放った言葉だったんだと思う。それ程に分かりにくい事だった。でも俺ならこの謎を解明して、後で苦しんでくれると信じ、あんな事を言ったんだ。何で仕事内容とかじゃなくってそこに信頼を置くんだよ……まあその期待に見事応えた俺は、苦しまされた。奴の思い描いた通りな……」


「ど、どういう事? もう彼結気の意味を教えてよ」


「俺もその話を聞いて3日後に彼結気の真の意味に気付いた……そして恐ろしさを味わったと同時に感心した……何故かは分からんが社長はここまで俺を憎み、憎み続けた結果、ここまでの事を出来ちまったのかっ……てな……知らないで生きていけばよかった……でも気付けちまった……自分の直感をこれ程まで恨んだ事はねえ」


「早く教えて!」


「ああ、奴は、彼女のいない俺が、もう女の人なら誰でも良いって思って、その60のおばさんに付き合って下さいって言わない様に、


『そのおばさんは結婚してるから告白しちゃ駄目だよ?』 


って教えてくれたんだ。もし結婚していると知らなければ、告白しちゃうだろ? って感じだw親切にもよお……って! な訳ないだろ!」

どんなノリ突っ込みよりも笑えないノリ突っ込みが、響き渡る……


「え……」


「その会社の為に安月給で時間を差し出し働いている人間に本当に言える事か? 絶対に言える事じゃないと思わないか? 言う前に少しは躊躇いとかあるよな……だがそんな素振りは一切なく、日常会話をするかの如く…… それも淡々と、真剣な眼差しで。

おかしい事だと分かっていて、それを初めて行っている筈なのに、それをごく当たり前の事の様に話していた所もポイントが高いぜ。結婚しているので気を付けて下さい? 違うだろ? あの時奴が本当に言いたかった事は、


【結婚しているので60歳の彼女にプロポーズしない様に気を付けて下さいね? 鈴木君!】 


の間違いだろ?」 

ぬう……こ、こんな人間が存在していたというのか……


「確かにそうだわ……」


「だが、それをハッキリと言ってしまえば自分のイメージダウンに繋がる。故にオブラートに包み、俺にだけ分からせる様に上手い事言ったんだ。そうだ。奴は、


【調子に乗って社員の女子に手を出そうとした悪いバイトの俺だけ】


をいじめたかったんだから」


「本当だ……そうじゃないと彼結気とまでは言わない……」


「それをしっかりと実現出来ていた。頭良すぎだろ……」


「最悪……画鋲で攻撃してきた社員とは格が違う」


「そうだ。奴は画鋲君とは違い、自分を守りつつ、目標達成出来ている。流石一つの企業のトップだけの事はある」


「画鋲君wでも60だったらわざわざ彼結気を言う必要性は無いよね?」


「ああ、そんなの予想着く。敢えて彼結気を教える必要はない。それに失礼だが高齢の女性が結婚しているかなんて誰も興味の無い事。もし独身だとしても嬉しいとは思わないし、惚れている若い子を切ってまでそっちには行かんよなあ……どういう脳みそなんだ?」


「確かに」


「なのに、何故か奴は俺がその子が好きと言う話を聞いた上で、俺の事を女に飢えた男。と思い込んでしまった」


「はあ?」


「そう、女と見れば手当たり次第擦り寄っていく男だよ! と、な。飛躍し過ぎだろ……」


「うん!」


「その子を好きだと分かっていて、わざわざ新しく入ったお婆さんの方に擦り寄って行くんじゃないか? って普通に思っていたって事だぜ? 脳みそ入ってるのか?」


「空洞……なんだ……」


「wwww何故一途にその子だけを思っていると言う気持ちは浮かんでこなかったのだろう。頭悪すぎるって……ならば正義の味方の社長様は、か弱い女性を女狂いのバイトから守る英雄として頑張らなくてはいけない! とでも考えたか?」 


「何だよそれ……何でそこまで出来るんだ……頃す……ぶち頃す」


「おいおい! 殺すは駄目だよ!」


「え? よく読んで? 字が違うよ?」


「ああ、そういえばそうだった申し訳ねえ……俺はただ一人あの子だけを愛していただけなのに。その一途な気持ちは予め無い! と、奴の先入観で切り捨てられての彼結気だった訳だな。俺は絶対に彼女を幸せにする。その為に死ぬ気で仕事も頑張ったし、仕事の合間に体も鍛えたり筋肉痛の時は勉強もした。なのに、


『その子から突然新しく入ってきたばあさんに気移りして、彼女への思いを断ち切るんじゃないかあ?』 


と思っていたって事だろ? 見境ない女狂いの男と勝手に奴の脳で解釈し、あの行動に至った訳だ。なあ、アリサちゃん? 俺、そんな下衆野郎に見えるかい?」


「見えない……何そいつ……これで本当に社長なの?……ブッ〇したい……最低じゃん……しかもそれって公共の時間を使っての彼結気だったんでしょ? 仕事の時間に……いくら権力があるからって言っていい事と悪い事があるわよ。それにおばさんにも失礼よね? 突然自分のプライベートを明かされたんだから。そいつ馬鹿なんじゃない?」


「その通り。前に別の女性が入って来た時は彼結気なんか教えた事は無かった。今まで一度も。でな? それを皮切りに〇〇さんが結婚しました! 〇〇さんに子供が生まれました! と昼礼で発表し始める様になったんだ。あいつの独断でな」


「昼礼ってそんな報告もするの? 意味ないよね?」


「全く必要ない。今までそんな事なかったんだしな。昼礼ってのはこの先にどんな方針で仕事を進めるか? 何かイベントがあるか? 月初めに先月の売り上げはいくらでした等の報告が主な内容で、従業員のプライベートの話は無かった。奴は2代目。初代の社長はそんな話一切していなかったんだぜ? だが奴は彼結気を公共の場で話した後快感に浸り、公共の場でこっそりと俺への攻撃を続けたいと考えたのか?」 


「腐り切ってる……最低……」


「だが、周りの馬鹿共はその報告を祝福してたぜ? 


『わあー』


とか言いながら……確かにめでてえ事かも知れんが、俺があの子を好きだと聞いてから始めた事だからこの紹介も彼結気も、俺を悔しがらせる事が目的としか考えられんかったのよ……」


「そうとしか考えられない……」


「奴は大勢の前ではいい人を演じたがる。悪人の特徴だな……で、俺には攻撃出来て一石二鳥。で、


『ねえねえ、みんな幸せになってるよ? お前は相変わらずだろうがなあ。ま、バイト君は仕方ないねww社員になればもう少しモテるだろうけど絶対に上げてあげないよw』


と、言われてた様な気がした。俺の考えすぎか? で、祝福された奴は社長を好きになる。もし俺をいじめているのを知っても、無視するか一緒になって陰口を叩いたりとどんどん仲間に引き入れていく。あれ? 俺、そんな悪い事したっけ? ただ一人の女性を好きになっただけじゃなかったっけ? それって駄目な事だったか? ここまでする? どんどん敵が増えていく? たった一人のバイト相手に……社員達がドンドン徒党を組んでいる? 何で? って絶望の毎日さ。バイトが社員に恋をするとここまでされるなんて夢にも思わなかった。しゃあねえじゃねえか……惚れちまったんだからよ……だが、彼女は俺の事は好きではなかったと知ったわ……当然だがな……自分より下の階級の人間は、恋愛対象にならない……」


「……ギギギ」


「すぐに会社中に言いふらされたからな。少しでも気があるなら二人だけの秘密にしてくれると思っていたしな。で、これじゃどんなに頑張って社員になっても脈無しだろうと思い知らされた。一度自分ってなんだろうって考えすぎて鬱になった事もある」


「辛いよね……私も3歳の時、一度鬱になりかけた事あるから良く分かるよ……」

早くないか? 物心も付いていないのに……なんでや?


「そうなのか。辛かったろ? でも良く戻ってきた。偉いぞ!」


「うん……」


「法の下の平等なんて絵空事だ。どんな所にだって明確に格差はある。俺が証人だ」


「法の下の平等ね……私はその言葉こそ格差だと思ってるわ」


「え?」

そう言いつつ地面に何やら絵を描くアリサ。

挿絵(By みてみん)


「何だいこの絵? てか滅茶苦茶うめえ! 指で何でこんな絵が書けんだよ……」


「気にしない気にしない。それよりもさ、左の平等、一人試合が見れてないのが分かる?」


「右の子だよな」


「うん、同じ高さの台を身長差のある3人に同時に渡しても見れない人が出て来る。そして、既に足りているのにその台を使っている人もいる。これって平等だけど、公平ではないし、考えも足りないと思うの。私は公平の方が好きだから、


【法の下の公平】


って自分で勝手に言い換えて使ってるわ。台を別に必要ない高身長の人にも与えて、足りていないかわいそうな人にも同じ高さ。これじゃ格差は広がる一方よ」


「言われて見りゃそうだな……平等ってのは例えば政府からの定額給付金を国民全員が貰える様な物。で、公平は、その受け取った金をお金持ちが使わず、貧しい人に回すという一手間が必要って事だもんな……確かに公平の方が優しいし、アリサちゃんがその言葉を好きになる気持ちも分かるな。だが俺はバイトという事で公平に扱って貰えなかった。仮に仕事が出来たとしても、長い年月時間を捧げ、安い給料で頑張っても無駄。如何に奴に気に入られるかのみで未来は決定する。会社なんてそんなもんさ……」


「ぐすん」

ついには溢れ出てしまう涙。鈴木の懸念していた事が的中してしまったな。一話で涙も出ないと言っていたがそれは本当に悲しくはなかったという事か? そして霊体でも何かを消費し涙に変わるという事になるな。


「おいおい! 泣くな! あっ! 泣かないで下さい! 神裔Ⅳのお方が俺の為に……こんなに共感されるなんて思わなかっただけに嬉しいぜ……ううっ」

もらい泣きする。


「そりゃ共感するわよ。あんただって泣いてるじゃん……あんたは泣かないでよ! 男でしょ?」


「ううっ……すまねえ……ズズッ」


「鈴木さんの勤めていた会社の社長はマジで狂ってる。完全な名誉棄損。でも今回の彼結気では公衆の面前で行ったけれど。周りには気付かれない様に鈴木さんだけを狙って行われた行為……故に適応されるかは難しいかも。でも、私は許せない。一刻も早く裁くべき……ねえ、そいつって本当に人間なの?」


「それは間違いない。だが、人間の皮を被った何かだ。中に別の化物が入ってると思っている。あんな酷い事を台本なしでさらっと言える様な汚れた脳みそは、普通の人には絶対に無い部分だ。

常に悪い事を考えているから思い付けると言う事。恐らくバフォメットの様な悪魔がその中に潜んでいる筈だぜ」


「だね。バカでもそこだけ頭が働く奴って一定数いるよね。他の能力は平均以下で、その部分だけトップクラス。円グラフで言うなら雨の雫の様な感じに一か所だけ尖っている奴ね」


「スライムっぽい形かあ。でもアリサちゃんの言う通りで、その程度の雑魚と同じレベルの男だ。奴はそれ以外の能力は本当に低い。

製造業の社長なのに、


【技術面では何一つ尊敬できない】


頭も悪いしな。後ビビりだ」


「へえ、例えば?」


「朝は暗いんだ」


「ん?」


「で、薄暗さで俺がいた事が良く分からず何気なく俺の方を、誰もいないと思って見た時、俺を発見し、最高権力者の奴が、バイトの俺に対し、無言で会釈したw何故か怯え切った眼をしていたぜw」


「え?」


「ああ、その前に奴が何をしようとしていたかを話し忘れていたなwその時期は11月初頭だったんだが、それでも何故か社長は自分は寒さには負けない強い男なんだと、工場のシャッターを上げるんだ。4mの高さのシャッターを全開だ」


「11月ってもう寒いよね」


「そうだ。でも分かっていて俺の機械の傍のシャッターを上げようとした時に、何気なくこっちを見た時に俺を発見し、


【偉い人だ!】


と、奴の中で咄嗟に判断し、まるで後輩の様な上目遣いで畏まった会釈をしてきたw俺はそれに返す事なく、何だこれ? って感じで見下していたがなw」


「それはそれで印象悪くなるんじゃ?」


「違うんだ。挨拶されたとは思えなかったんだ。例えるなら泥棒がスポットライトを浴びて絶望した時の顔だったなwだから分かった。これは挨拶じゃなくて、薄暗くて俺を初めて見る人と勘違いし、それに対する警戒を込めた会釈であって、俺とは認識出来てなかったって事。普段俺に挨拶なんかしないからな」


「そういう事ね」


「あれ? こいつビビりじゃ? って初めて疑いを持った瞬間だった。裏で陰口ばっかり叩いていて、深層心理ではそれを悪いと思っていたって事か? だから無意識に頭を下げた。まあ事実かどうかは分からんが」


「それに寒い日にシャッターを上げる事も少し後ろめたかったってのもあるのね?」


「そうか、それもあるな。まあその日はそこまで寒くはなかったが、上げるほど暖かくもない。出来れば下げておいて欲しいと思う人が多いと思う」


「他にはある?」


「ビビりかどうかは分からんが、俺が誤って大きい機械を転倒させちまった事があるんだ」


「ええ? 何キロくらいの?」


「3トン」

ぬ!!


「えええ?」


「で、その大きい音にみんな集まってきたんだが、普通倒れる筈がないんだよ」


「どうして?」


「基本的に大型の機械はアンカーボルトで固定して置かなければならない。そういう決まりがあってな。そうしないと使い方によってはバランスを崩して倒れる可能性がある。俺の場合ヘッドと言う部分を限界まで手前に引っ張った時に倒れたんだが、それは固定さえしていればそこまでは可動可能域だから動かしても安全な筈だったんだ。ちゃんと足元を固定しておけばな」


「へえ、どんな感じで固定するの?」


「普通は機械の足元のコンクリートに穴を明けアンカー、すなわち錨を埋め込み、機械に取り付け固定するのが常識。コンクリートを埋めて固まるまでは機械使用禁止にする。俺でも知っている基本中の基本だった。それを奴は怠った。実はその機械、工場を増設した際にその新しい方の工場に移動したんだ。で、すぐに打ち込めばいいだけの話なのにな。何故か後回し。すぐ使っていいとの話だったが、まだ固定していなかったから本来使用禁止の機械だったんだ。なのにそれをずっと使わせていた。うっかりだろうが人命が掛かってるんだから細心の注意を払うべき部分」


「そうよね……」


「で、固定すれば限界まで引っ張っても問題なく使用できる。それが出来ない状態で俺にその機械を使わせていたんだ。俺の機械だけ……」


「そんな事忘れるの? やば」


「で、人生で初めて奴は俺に謝った。目を見て誠心誠意」


「嘘でしょ?」


「これが本当なんだ……夢でも見ている気分だったわ。多分人生で初の謝罪だろう。今まではどんなに悪い事をしても謝らずに生きて来たからな。たどたどしく初々しかったから間違いない。で、俺は機械を倒しその衝撃で床はひびが入り、機械の中の切削油は全てぶちまけ、燦々たる有様で理屈で分かっていても、混乱している状態では不思議と全面的に自分の責任だと感じ反省していた。

だが、その謝罪で混乱は解け、ああ、俺のせいじゃなくこいつのせいだったのか。危うく機械に潰されるところだったって寒気がしたぜ。そして、その時気付いた。ああ、実はこいつ、謝る事出来るんだ……ってな」


「これがビビりの要素なの?」


「多分俺が出るとこ出れば多額の慰謝料をふんだくる事も出来たと思うが、その誠心誠意の謝罪でそんな気になれなかったからなあ。多分大事にしたくなかった為、仕方なしに謝ったという事かもしれん」


「そういう考え方かあ……下手すりゃ死んでたかもしれないしねえ……アンカー? 打つのを怠ったら製造業のルール? を守っていないって事になるし、それを鈴木さんに広められたら困っちゃうかもね」


「真偽は藪の中だがな」


「大体わかったわ。でも何でそこまでしたの? 一点集中じゃない……ここまでされるには何か理由があるんじゃない? 何か社長に恨まれる事でもしたとか? 執拗に鈴木さんだけをいじめていない?」


「うーん……奴が専務の時はそうでもなかったが、社長に昇進してから酷くなった。天狗になり、やりたい放題やっただけだろう」


「マジで?」(今のところ話していて嫌いになる要素は無いのに……不思議だなあ)


「ああ。そしてあいつは親から社長の座を受け継いだだけの唯の親の七光りさ。甘やかされて育ったんだろう。多分ガキの頃からそれを鼻にかけ弱い同級生をいじめていた筈だ。で、そのまま大人になって社長になっちまったもんで、いじめる相手がいなくてどうにかターゲットを見つけようとしたんだろうな。それがたまたま俺だったって事だろ? 本能的にこのバイト君ならいじめても問題ないと判断して俺を選んだんだろうな」


「最低……てか一匹に嫌な奴のほとんどの悪人の要素を詰め込みすぎでしょ。そんなやばい奴が社長って……終わってるでしょその会社……キャパオーバーでオーバーヒートして爆死すればいいのに」

うーむ……地獄に落ちてその部分を掘り下げると思いきやたった一つの企業の事を深く掘り下げているな……このままではまずい気が……だがアリサの質問はまだ止まりそうにない……まずいな……


「だが奴は生きている。俺はそいつのせいで死んじまったっていうのに……まさに憎まれっ子世にはばかるだよ……入社してからあいつの事を尊敬した事など一度も無い。ただの一度も。唯一評価出来る所があるとすれば、生きるのにギリギリの金額を渡す事を正確に調整出来る所か……生かさず殺さずあの会社で働き続けるだけの金額を渡して、俺を出来る限り使い潰す事が出来る力。貯金なんぞ一切出来ない神調整ぶりだぜ。俺の家計簿でも常にチェックしているのかって思うレベルの正確さだ。それが、それのみが人より優れたちょっと年上の馬鹿だな。

あ、そうだ……馬鹿で思い出したwなあ、アリサちゃんこの問題解けるかい?」


「突然何?」

と、言いつつも、ウキウキした表情に変化するアリサ。新しい謎に触れる事は彼女にとってご馳走なのだ。それに今まで鈴木の不幸話ばかり聞いていて、少々心が弱ってきたので、この提案は良い気分転換にもなると本能的に察したのだ。


『ライオンを炊飯器に入れる方法を考えてくれ』


___△___

│ │ 飯 │ │←ぜってえ確実に炊飯器だぜ!

__│__│__   

│   ☆   │  ^  ^    @

L______」 (=´・ω・`=)ーー」 <こんな小さい炊飯器に入る訳ないガオー!  

           』 』ーー』 』←見紛う訳もなくライオンだゾ!


「ライオンを? 分かった!」

この間2秒


「早!」


「ライオンのシールを入れる!」


「うーん……他にあるか?」


「え? 違った?」


「いや、一応正解なんだけどよ」


「えー? 一応ってのむかつくぅ! じゃあ、一応じゃない完璧な正解を求めてるって事?」


「いや、そんな難しく考えなくていいんだ。もっと簡単に考えてくれ」


「どういう事?」


「まあこの問題な、奴が会社でコミュニケーションを高める為のコミュニケーション講座って言うのを、二階の食堂にその分野の先生を呼んで、社員もアルバイトもパートさんも全員参加で行われたんだが、その時に出された問題だ」


「へえ、仕事の一環で?」


「そうそう。で、この問題の答えは、


【炊飯器を開けて、ライオンを入れて、炊飯器を閉める】


なんだ。答えを聞いたら、何だそんな事でいいの? って感じだろ? ところがこの問題、俺含め誰も正解出来なかったんだ。30人位いたんだけどよ。先生も解けない事を嬉しそうにしてたぜ! 答えを言う時ニヤついてたもんなあ」


「え? プロセスは無視なのお? てかまだ答え言わないでよ!」


「え? あ、ご、ごめんな……え? プロセスってなんだい?」


「え? 物事の手順や方法、過程、経過などの事よ。この場合、ライオンをスモールーライトで小さくしてから入れるとか、生まれたての赤ちゃんライオンを入れるとかそういう事! さっきの答えの場合、それが欠如してると思って」


「この講座ではそういうのは必要なかったんだよ。こういう考え方が出来る人がいるかどうかを探す目的で出題された問題だった訳で……それを仕事に生かせるか……っとそこまで詳しく説明する必要ねえなwまあみんな結局答えは導き出せなかったけど、中にはライオンをバラバラにして入れるとか言うグロい答えを出す奴もいたぜ」


「へえ」(あ、それ私も真っ先に思い付いたけど敢えて言わなかった答えだ……これを一番に言っちゃったらサイコパス確定だもんね)


「じゃ第二問! 


『炊飯器にバイソンを入れる方法』


を考えてくれ」


「え? まだあるの? まあいいや……ええと、うーん……じゃあ、炊飯器を開けて、バイソンをしっかりはみ出ない様に入れてから炊飯器を閉める?」

ふむ、今回は私もアリサと同時に閃き、同じ答えを導き出した。


「残念。これは不正解だなあ」

な? んだ……と?


「えええ? さっきは惜しいけど正解だったんでしょ? 今回は不正解なの?」 

アリサはどんな問題でも不正解等、否定の言葉を聞くだけで一瞬で不機嫌になる。


「そうだね。残念ながら今回は間違いなく不正解だ」


「ええええ? どうしてよ!?」


「アリサちゃん。君は重大な事を忘れているよ?」


「何が?」


「炊飯器には既に何か入っていなかったか? 空っぽだったか?」


「何かって? ……え? ま、まさか? ライオン?」


「そうだ。だからこの答えは、


【炊飯器を開けてライオンを出してから、バイソンを入れて炊飯器を閉める】


が正解なんだ」


「うぎゃあああああぐやじいいい」


「おいおい……悔しがりすぎだよ……叫ぶ事ないじゃないか……傍から見たらいじめてるみたいに思われるじゃないかよ」 


「だってさっきからの続編って言う事は聞いていないよ? 卑怯だよ!」 


「え? ああ、それを言ったら一気に難易度が下がるじゃないかwこの問題を出した時、先生もその事はあえて伏せて出題していたよ。そう、ライオンを炊飯器から出さなければそこにはまだライオンとバイソンが同時に入ってしまう事になるよな? それではいけないんだ。問題を良く思い出してくれ。


【バイソン】


を入れてくれって言ってたろ?」


「そういう事だったのかよー、くやちい♡くやちい♡」

どんどん

アリサよ、急に可愛いキャラを演じても無駄であるぞ! 


「その気持ちわかるよ。みんなアリサちゃんと同じ事言って悔しがっていた。で、あーそういう事かって感心もしていたよ。この時だけはバイトも社員も関係なく皆一丸となって一つの問題に取り組んでいた。正直、楽しい時間だったなあ……あの社長、そしてあの会社にしては珍しく、なwで、次の問題」


「まだあるの?」


「三度目の正直で完全な正解を頼むよ」


「くそぉ……じゃあ本気でやってやるわよ!」


「じゃあ行くぜ? 


『百獣の王ライオンはカリスマ性があり、彼が吠えればサバンナの動物は全員集まる。だが、一匹だけ来なかった動物がいた。その動物は一体誰? 本来召集を断った者はライオンに食われるのだが、その動物が来なかった事を知った時、ライオンは一切怒らなかった。一体何故だ?』


さあ、分かるかな?」


「え? 突然問題のスケールがでかくなってない? 舞台が炊飯器の中からサバンナになっちゃったよ? うーん……じゃあライオン?」


「そうか、同族のライオンなら来なくても腹を立てないという事か。そういう考え方もあるね。この答えは会社でも出ていなかったぜ。ナイス回答!」


「でも、正解じゃなくって


【一応】


正解なんでしょ?」


「ああ……残念ながら」


「えー? まじでー? じゃあ魚?」


「サバンナにも池もあるし、魚もいるかもしれない。でも、ライオンの居る場所が山の上とかなら来ることは難しい。正解と言いたいところだが、これも一応、正解止まりだ。じゃあ答えを言うぜ?」


「うん……悔しいけど分からないや……」


「答えは……バイソンだ。何故か分かるか?」


「え? 何で? ……分からない」


「理由は、炊飯器の中に居たので来れなかった……だ。覚えているかい? 炊飯器に閉じ込められているバイソンは、サバンナに戻れないよな? だから呼び出しにも応じられなかった。そしてライオンも自分の身代わりになって入ってくれたバイソンの事をしっかりと覚えていて、彼だけには頭が上がらず許したと言う話だwちょっとした感動ストーリーだろ? でもこれがこの問題の正解なんだぜ」


「炊飯器……あ、これも続いていたやつかああああ♡くやちいいいい♡」

ぽこぽこ♡

鈴木を叩くアリサ。


「痛い痛いwwあ、意識が」

バタッ シューン

ぬ? 鈴木の体が消滅してしまう。


「え? ちょっと! 死んじゃった? え?」

ガラガラ

ダダダダダ

すると先程椅子と座布団を持ってきた長家の扉が開き、鈴木が戻ってくる。


「ふっかーつ」


「え? え?」


「一瞬で体力がなくなったわw 流石ですwまだ痛てえやwww」


「今死んでたの?」


「ああそうだ。でも亡者は自分の家から復活してしまう。どんな強い攻撃を受けても消滅する事は無い」

そう言えば虚無平原で地獄獣にやられて死んでも自宅に戻されるという話があったな。それをアリサが地獄の一丁目内で実践してくれた訳か……そしてこの地獄の一丁目でも、亡者同士でも殴り合ったり出来る様だな。いわゆるPKプレイヤーキルが出来てしまう世界か……


「へえ良かった……」


「しかしすげえ破壊力だったぜ……神裔Ⅳ様の直接攻撃はシャレにならんwでも、見事全て出来なかったなwでも、安心してくれ。俺を含めた会社のメンバー全員が不正解だったぜwでも、次の問題は俺は一瞬で解けたぜ? しかも一番乗りで分かったんだ。さて、アリサちゃんは俺に勝てるかな?」


「へえ、どんな問題?」

うきうき


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


フィクションです。フィクションですけど、次に出される問題は実際にあるとされている問題です。そしてそれは簡単と言われていますが、果たして皆さんは解けるのでしょうか? 是非全力で取り組んで下さい。そして、答えの前に解けたら自慢してもいい内容だと思います。

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