第八章 探索
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
早馬で知らせを受けた皇宮からは、御典医5名がすぐに派遣され、戻る途中の鷹狩一行と彼らが出会ったのは武王府を通り過ぎて少しの所だった。彼らが到着した時には既に神事官は亡くなっており、皇帝の意識は戻ったものの、依然第二皇子の照明と仲邑波留は意識不明の重体だった。
御典医のうち4名は皇帝の馬車に乗り込んだため、照明は別の馬車に移され、宦官たちは馬車の横を歩いてついていくしかなくなった。
宦官の一人が呟いた。
「神事官は気の毒だったけど、結局彼の馬が皇帝を傷つけたのだから生きていても死罪は免れなかった。こういっちゃなんだけど亡くなってご本人もホッとされているでしょう。」
他の宦官たちはそれに頷いていたが、
「それにしても、今迄あんなことなかったのに、どうして神事官の馬は暴走したのかしら?」一番年下の宦官が不思議そうにそう言って首を傾げたが、すぐに最年長の宦官が窘めた。
「しー。そういう詮索をしていい事は何もない。起きてしまったことは変えられないのだから。陛下が調べろと言われたら調べればいいだけのこと。」
一方、第二皇子:照明の乗っている馬車に乗り込んだ御典医は、同乗している照明の母である桃香が取り乱しまくっているので、2人を同時に診なければならないという災難に遭っていた。もっとも怪我人をざっと診たところ、助かっても四肢の麻痺は残るだろうと思われ、これが皇太子だったら、自分のせいでは無いのに治せなかったと因縁を付けられて命が無かっただろうと肝を冷やしていた。
仲邑家の馬車には、周囲の反対を押し切って同乗した皇太子成多照挙が意識不明の仲邑波留につきっきりで看病していたが、御典医が乗り込んだ為に渋々仲邑家の馬車を降りた。
馬車の降り際に照挙は御典医に向かって深く頭を下げ「山元御典医、仲邑波留をどうか助けてください。この通りです。」と言った。御典医はそれにただお辞儀だけで答えると、すぐに患者の診察に入った。
”もし、小波留が簫翠蘭のように死んでしまったら、、、私はどうしたらよいのだ。”
そう思った時、照挙の脳裏に仲邑波留との出会いからつい今しがた一緒に乗馬を楽しんだことまでの記憶が走馬灯のように浮かんできた。
思えば、照挙の簫翠蘭への想いは、彼女を初めて見た瞬間、まるで爆竹のように電光石火のごとくバチバチ大きな音を上げながらハートを直撃した感じで衝動的だった。
しかし、仲邑波留に対してはそんなことは一度も起こらなかった。
ただ、仲邑波留といると、自分の内外で乱れているものが自然と落ち着いていくような、まるで大きなゆりかごの中で静かに揺られているような安心感があった。
決して華やかではないので気づきにくいが、それこそまさに照挙が無意識に渇望している相手だった。
こうなって初めて照挙は、簫翠蘭ロスのリバウンドではなく、本当に心の底から仲邑波留を愛していることに気づいたのだった。
京陵への帰り道、まるで仲邑家の家臣のように照挙は、仲邑家の馬車にピッタリ寄り添う形で馬に揺られていた。
一方馬車に乗り込んだ御典医は、怪我人の脈を診ただけで仲邑備中に深々と頭を下げ、もって3日、それももう意識は戻らないだろうと残念そうに告げた。
「そこを、なんとかするのが医者だろう。」
「宰相殿、人には寿命があり、、、」
「寿命だと?娘なんだぞ?典医ともあろう人がなんでそんな酷いことを、、、どうしたら、父よりずっと若い娘を寿命と言えるんだ?」
「そう言われましても。。。本当に残念です。」
「わかった。お前では無理ならば、別の奴に頼む。今すぐ降りろ。」
「備中殿!」
御典医はなんとか仲邑備中に事態を理解させようと叫んだが、彼には全くそれは響かず「うるさい。治せないならお前がいてもしょうがないではないか。」と馬車から放り出さんばかりの勢いで罵られてしまった。それでも医者が側にいるのといないのとでは患者も、家族も安心度が全く異なる。
結局いてもしょうがないと言われた医師がゆれる馬車の中、脈を診、表面的な傷の手当てをした。
それを見ていた仲邑備中は、供の一人に声をかけると「京陵で一番の医者の手配をしろ金に糸目はつけぬ。」と言って、京陵にある屋敷に向かって早馬を出させた。
京陵の宰相府に着き、仲邑波留を部屋に運んだ後、照挙は備中に皇帝の意識は戻ったもののまだ公務への復帰のめどは立たないため、自分が代行しなければならないことを告げ彼女の側にいられないことを詫びた。
この2日で、大きく頼もしく成長した皇太子に備中は深々と頭を下げ「恐れ多いことでございます。殿下。」と本気で彼に伝えた。
顔つきも今迄と打って変わってキリリと引き締まった照挙は、とにかく小波留のことが気になっていたので備中に「娘のことが心配であろう。峠を越すまで朝参は無用だ。毎日の朝政のことは記録を宦官に毎日ここへ届けさせるのでよいか?」と聞いて彼からよい返事を貰うとすぐに彼に向かって「小波留についていてくれ。別の典医もすぐに向かわせる。」と、言ってから後ろ髪を引かれる思いで宰相府を後にした。
それから一時(2時間)経った頃、一足先に医者の手配をしていた家臣が、劉煌を連れて宰相府に飛び込んできた。
「宰相殿、医者を連れてまいりました。」
「いやに遅かったな。」
既に照挙から派遣された別の典医も馬車で同行した典医と同様、匙を投げて出ていっただけに、仲邑備中はイラつきながらそう答えた。
とにかく家臣は、京陵中の医者の門を手あたり次第叩いたものの、宰相の娘が患者と聞くなり、治療失敗時を恐れ皆掌を返したように断りを入れてきたのだった。そして最後の砦として1軒残ったのが杏林堂の医師小高蓮だったのだ。この家臣も妻から杏林堂の話は毎日耳にタコができるほど聞いており、美容に強い優しい医師が京陵の他の医師と比べて腕が立つとはとても思えなかったのだが、正直選択肢が無かったのだった。
仲邑家の家臣が返事に困っているのを察知した劉煌は、すぐに自ら会話に飛び込んでいった。
「仲邑宰相殿、杏林堂の医師小高蓮と申します。どうぞお見知りおきを。」
劉煌は、男の恰好をしているのについ政府高官の前だと檀姐さんの科が出てしまい、いつもよりも増して身体をくねらせてお辞儀をしてしまった。
その姿を一目見た備中は、まず劉煌の若さに、次にその柔らかすぎる物腰に、露骨に嫌悪して「おい、こんな若造を連れてきて。まったく他に医者はいないのか?」と叱責した。
それに内心プライドを傷つけられた劉煌は、完全に医者から檀姐さんモードに変わってタンカを切った。
「言っとくけど私は西域の医術も身に着けたプロ中のプロよ。まったくおいぼれはすぐに年で判断するんだから。それに私の治療を受けたくないのなら結構、こちらから狙い下げよ。私の所には毎日患者が並んで待っているんだから。今だって重傷の急患だって言うから杏林堂に患者を待たせてここにいるのよ。嫌ならすぐ戻るわ。」
この劉煌の小爆発に驚いた備中は「それだけ言うのなら。診せてやろう。最も御典医2名とも匙を投げたがな。」と悪態をついた。
劉煌はこれでうまくいけば中ノ国の宰相に貸しができることから、通常ならここでバイバイするところなのに、頷くとすぐに患者の部屋に飛び込んだ。
仲邑波留の容態を診た劉煌は、意識不明で横たわっている彼女以外から何も情報を得ていないのに「これは動物、たぶん馬にやられたわね。これは御典医ならお手上げでしょう。こういうのは軍医に診せたほうが慣れているわ。あっ、誤解なきように、私は軍医じゃないけれどこういう事故・怪我も得意よ。それに軍医ならただ治すだけだけど、私の場合は美しく治せるわ。顔にどんな傷があっても傷跡は一切残さないから。」と自信たっぷりに言うと、さらさらと紙に何かを書いていった。
備中は顔をしかめながら「何を書いているのだ?」と聞いた。
劉煌は顔も上げずに書きながら答えた。
「彼女の治療に必要な物よ。杏林堂にあるから持ってこさせるわ。」
劉煌の側迄来て書いている紙を覗いた備中は「何を書いているのか全然わからないぞ。」と怒った。
「そりゃそうよ。羅天語ですもの。」
劉煌は涼しい顔をして答えた。
「ら、羅天語だと?」
”まさかこんな若造が羅天語を書くなんて、中ノ国では数いる博士の中でも羅天語を読めるのは一人か二人くらいだ。絶対ホラに違いない。”
備中はますます劉煌を怪しがり、家臣に耳打ちした。
「博士の大済振斗を連れて来い。」
それだけで、主がこの医師が本当に羅天語ができるのかを確かめようとしていることを悟った彼は、すぐに主の希望を叶えるべく宰相府を後にした。
劉煌は書き終わると下女に杏林堂に金髪の参語を話せない男がいるから、その人にこれを渡すようにといって今したためたものを手渡した。
次に劉煌は波留の頭部を触診した後、頸椎から尾骨までの椎骨と骨盤周囲を触診していき、特に頸部を念入りに触診した。
「幸い、首の骨は折れていない。だけど尾骨と腸骨は、、、特に腸骨は酷い状態ね。こうなると骨盤内の臓器の損傷が疑われるわ。頭頚部や手足の骨折が無いのは奇跡的ね。」
そう独り言を呟いている最中にフレッドと下女が部屋にやってきた。
劉煌はフレッドの顔を見ると微笑んでありがとうと言って荷物を受け取った。
「ドクトル・レン、後はいかがいたしましょうか?」
フレッドが羅天語でそう聞く中、持ってきてもらった荷物を確認しながら劉煌も羅天語で話す。
「杏林堂に残してきた患者さん達に今日は申し訳ないけど帰ってもらって。お詫びにクリームのサンプルをさしあげて頂戴。ところで師匠は戻っているかしら?」
「はい、リク嬢は先ほど入れ違いに戻られました。」
「良かったわ。それじゃあ、師匠に2,3日休診の貼り紙を着けてもらうのと、スーパーモデル養成ギブスをここへ持ってきてと伝えてくれるかしら。それから、、、」
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隣の部屋では既に待機していた博士の大済振斗がうーんと低い唸り声を上げていた。
それを見た家臣はすぐに部屋を出、波留の部屋にいる備中の側に寄り、隣室に博士が待機していると囁いた。
備中はすぐに隣室に行くと驚いたことに博士の大済振斗が障子に穴を開け、そこに自らの目ではなく耳をつけて必死に波留の部屋の声を聞いていた。
「大済博士、なにを?」
備中がそう話しかけると、大済振斗は驚いて一旦直立してから備中の方を振り返り、備中目掛けて首を振りながらズカズカと速足で歩き始めた。
その様子を見た備中は細い目をさらに細め、あの小高蓮という奴はやはり似非医者だと確信したが、次の瞬間大済振斗の言葉に呆然自失となった。
「私はこの道30年羅天語に命をささげて参りましたが、あんなに羅天語を流暢に操れません。あの若さでまるで母国語のように羅天語を話せるなんて、彼は一体何者なのですか?」
挨拶のお辞儀もそこそこに、いつもはおっとりしている大済振斗が備中に掴みかからんばかりの勢いで食いついた。
「うーーん、それでは口から出まかせではなかったのか、、、なんとも、西域の医術を身につけていると申しておった。」備中がタジタジになりながらそう呟くと、
大済振斗はこれにあからさまにホッとして何度も頷きながら「では、きっと西域の羅天語圏で生まれ育ったのでしょう。」と結論付けた。
「うむ、そうか。わかった。今日はご苦労だった。茶でも飲んでから帰ってくれ。」
備中は、今度は本当に西域の医術を駆使できるかもしれないという小高蓮のことが気になって、気もそぞろに社交辞令を言った。
「いえ、こちらこそ滅多に聞けない羅天語会話を聞けて感無量でございます。あの金髪も退室したことですし、私もこれにて。」大済振斗はとても嬉しそうにお辞儀をして部屋を出ていった。
波留の部屋に戻った備中は、まず部屋中に世にも奇妙な匂いが漂っていることに顔をしかめた。
そしてそこで中をよく見ると、何と小高蓮が娘の側で薬を煎じている姿が目に飛び込んできた。
”全く、煎じ薬は厨房で炊くのが常識だろうが!”
備中は、あの中ノ国随一の羅天語博士:大済振斗が太鼓判を押しても、こと医術に関してはまだこの若造を信じられなかった。
備中は扉を閉めることなく「臭いではないか。普通は別の所で煎じるぞ。」と苦言を呈した。
劉煌はまた面倒くさい奴が戻ってきたと目玉をひっくり返してうんざりしたものの、炉の火加減を調節するため内輪で仰いでいる手を決して休めることはなかった。
「お言葉ですが、わざとここで煎じています。この匂いも患者にとっては薬なんですよ。薬として患者の鼻から吸収されるのと、匂いによる脳への刺激も入るので一石二鳥なんです。たぶんもう目覚めないと言われたと思いますが、今ご様子を拝見していると、この煎じ薬の刺激で鼻がピクピクしているのでいつとは申せませんが、そんなにかからないで目覚めるでしょう。」
御典医2名が匙を投げた波留のことを、一介の町医者で、しかも京陵でデビューしたての若造が目覚めると言ったことに、”小高蓮”を胡散臭く思っている備中にとって、良い話も彼を益々怪しむ材料の一つにしかならなかった。
備中が苦虫を嚙み潰したような顔をしている所へお陸が、スーパーモデル養成ギブスを持って宰相府にやってきた。
勿論中ノ国の伝説のくノ一であるお陸は備中と面識があるが、ドクトル・コンスタンティヌスによって華麗に変身を遂げた今のお陸の姿に、備中は、彼女が誰なのか全く気づかなかった。
「小高先生、これでいいですかね。」
お陸は、まるでいつでも劉煌にそう呼びかけているように包みを差し出しながらそう問いかけた。
劉煌はチラッとお陸を見ると「ありがとう。悪いけど装着を手伝ってくれる?」と、これまた普段とは180度違ってお陸を上から目線で扱った。
”お嬢ちゃん、これは高くつくってわかってんだろうねぇ~。”
”そんなに金が好きならゾゥ・ロンと一緒になればいいじゃない。相手はそれを望んでいるんだし!”
2人は目でバトルしながら仲邑波留にスーパーモデル養成ギブスを装着していったが、何しろ仲邑波留はお陸より二回り横に広いので途中で紐を付け足し付け足しして何とか身体を固定することができた。身体を固定できたことも何よりだったが、その最中、折れた骨をもとに戻す際に、あまりの痛みのために仲邑波留の意識が奇跡的に戻った。
これに一番驚いたのは他でもない備中だった。
”もしかすると、この若造は只者ではないのかもしれない。典医達からは無理と言われたが、波留は助かるかもしれない。”
何しろ二人目の御典医に至っては、もう間もなく波留の命は尽きるとまで言っていたのだから。
呆然としている彼の耳に、嬉しそうな劉煌の声が響いてきた。
「ちょうど良かったわ。薬もできて飲めるくらいの温度に下がったところよ。さあ、横になったままで薬を飲まなきゃならないから気管に入らないよう気を付けて飲んでね。」
劉煌は薬を少量入れた蓮華を波留の口に運んだ。
波留の顔は裂傷だらけだったが、幸い口は切れていなかったので口に入れられた液体をゴクッという音を立てて飲んだ。
さらに少しずつ薬を飲み、劉煌が必要量とみたてた薬は全て飲み終えた。
「うーん、お嬢様は生き延びる意思をお持ちだわ。これがあるのと無いのとでは結果に雲泥の差がでるの。いい方向に向かうよう私も全力で協力させていただくわ、、、、、、まっご家族がそう望んでいらっしゃらないなら別だけど。」
劉煌は、波留の怪我の中では一番軽かった顔を清拭しながら備中に嫌味を言った。そう言いながらも劉煌は、目をつぶって険しい顔をしている波留の顔を拭きながら、近くで見れば見るほど小春によく似ていると思っていた。
”小春を恋しがっているから誰でも小春に見えるんじゃないか?”
劉煌の中で自分自身をジャッジする声が聞こえた。
劉煌は自分自身に苦笑しながら波留の顔を拭きつつ彼女の顔の治療計画を練っていた。
それでもあまりに波留が小春を彷彿とさせるので、劉煌の胸はギューっと締め付けられ、それにつれて彼の顔は自分でも気づかないうちに曇っていた。
彼の顔が曇っていく様を見ていた備中は、先ほど自分が彼に与えた評価が高すぎたかもしれないと思い始めた。
ギブス装着後も残っていたお陸が、そんな備中のマインドのジェットコースターのような動きに気づかないはずがなく、しれっと劉煌に向かって聞く。
「小高先生、患者の容態は?」
劉煌はその問いかけにようやく我に帰り、お陸を通り越した先にいる備中の目を見て宣言した。
「ご覧になった通り1歩改善したけれど、残念ながらまだ予断を許さない状況から抜け出したとは言い切れない。だから今晩はここで様子を見ます。」
皇族を除いてこの国で一番身分の高い宰相の備中が頼んでも、御典医は勿論のこと町医者だって泊まって様子を見てくれるような医者は少ない。それなのに、この若造は頼んでもいないのに、予断を許さないからここで様子を見ると宣言したのだ。
”チラッとみただけで手の施しようがないと言って、何もせず出された茶セットを平らげてサッサと帰った御典医とはだいぶ意識に差があるようだ。”
備中は、心の中でそう思うと1度大きく頷き「食事を持ってこさせよう。」と一言だけ言って、部屋から出ていった。
波留の部屋から出て行った備中は、下女に医者とその助手に食事を出すように伝えてから自分の部屋に戻った。
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