第八章 探索
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
階下では、蝋燭に火を灯した白凛が李亮と梁途に向かっていきなりバッと振り向いた。
「いったいどういうことなの?!」
白凛が両手を腰に当てながら2人に向かってそう聞くと、2人はお互いに顔を見合わせ、
「どういうことってどういうことだ?」と質問に質問で答えた。
白凛は戦いの余韻が抜けていないのか、喧嘩腰でまず李亮を指さすと、
「何でアンタが参謀本部なんかにいるのよ!」
と李亮が前線基地に派遣された時から自分の中でずっとくすぶっていた疑念を一気にぶちまけた。
次に梁途の方を振り返ると、彼女は人差し指で梁途を何度も指さしながら
「何でアンタが禁衛軍なんかにいるのよ!」
と叫び、最後に2人を交互に見ながらまた腰に両手を当てて
「どう考えてもおかしいし、怪しいでしょ!」
ときつめに叫んだ。
すると珍しく梁途が李亮より先に反論した。
「なんで、おかしい訳?なんで怪しいの?そんなこと言ったら、お凛ちゃんの方がどう考えたっておかしいだろう?女の子なのに将軍なんて。」
11年経っても相変らず梁途は白凛の地雷に見事に両足で着地した。
白凛は瞬時に鬼の形相に変わると、梁途にいーだという顔をしてみせてから、
「どこが、女で将軍はおかしいのよっ!」
と言って食ってかかった。
かたや19歳になったばかりの乙女、もう一方は20歳の好青年が、11年ぶりに奇跡的に再会したというのに、まるで7-8歳の子供の時に戻ったように掴み合いの喧嘩になってしまった。
慌てた李亮がすぐ間に入ると、まず白凛の両肩を抑えながら「はいはいはいはい。俺たちは皇帝の危機を救ったことがあるの。それで俺は前線に行くただの兵隊から参謀に配置転換されたの。で、こいつは、、、え、、、と、こ、こいつは、、、あれ?そう言えば何でお前だけ陛下の口利きが無かったわけ?」と、李亮は最後は不思議そうに梁途の方を振り向いて言った。
それは梁途にとって禁句であったので、今度は梁途が顔を思いっきり歪めると下から思いっきり李亮にガンをつけて「それはこっちが聞きたいよ。何で俺だけ陛下の口利きがなかったのかって!おかげさまで何年も禁衛軍のノンキャリだよっ!」と、忌々しそうに吐き捨てた。
すると今度は、李亮と梁途の間に白凛が入り、梁途を指さしながら「ね、ちょっと待って。アンタだけって言うことは、他の人も何か恩恵を受けたの?」と尋ねた。
李亮と梁途は同時に「孔羽がな。」と言った。
白凛は今まで思い出すこともなかった人物の名前を言われて、心底驚いた。
彼女は顔をしかめると「アンタたち3人で何やったのよ!」とどついた。
「出羽島に遊びに行っていた時のことだ。行列に野犬の集団が襲い掛かった時、秘密基地の猪と同じ要領でやっつけたんだよ。そうしたらその行列はなんと陛下の行列だったの。」
李亮がそう言うと、今度は梁途が続けた。
「それで俺たちは陛下の側近に呼ばれていろいろ根ほり葉ほり聞かれたの。そしたら、亮兄は命の危険が無いところに配置転換されるは、孔羽はいきなり中央省に配属されるは、、」
それを聞いた瞬間、白凛の態度も声色もコロッと変わった。
「えっ?まさか羽兄ちゃん、科挙に受かったの?」
李亮は、白凛の声色に自分には一度も向けられたことのない尊敬の匂いを嗅ぎ分けると、すかさず
「そうだ。ビリだけど。」
とビリを強調して言った。
「ビリだって凄いわよ。」
その声のトーンに、白凛の孔羽に対する尊敬度がさらに上がっているのを感じた李亮は、慌てて「俺の山勘が全部当たったんだ。孔羽にやらせていたところだけが試験に出た。だから奴が受かったというより俺が奴を受からせてやったんだ。奴の実力じゃねえ。」と言い放った。
「そんなんだったら、アンタが自ら受ければ良かったじゃない、何も軍なんかに入らなくたって。」
白凛がまったくの正論を言うと、梁途も彼女に同意し、まったくだと頷いていた。
”お凛ちゃん!君の行方をずっと探していたからじゃないか!軍に入れば君の居所がわかるかもしれなかったからっ!”
李亮は心の中で大きくそう叫びながらも、「いいだろう、そんなこと。それより、お凛ちゃんは石公公の所に行った方がいいんじゃないか?なんか禁衛軍が偉そうに趙候府を占拠していたぞ。」と話を振った。
白凛も李亮に同意し頷きながら「そうね。今後のこともあるし。」と言うと、ちょっと考えてから「基地は誰かに案内させるわ。」と言って階段を上がっていった。
階上に戻った白凛は、常義に李亮用に基地を案内する人を見繕うことと、近隣を見回らせ、趙候府にいた元趙家の使用人を探すよう命じた。
常義はすぐに近隣をくまなく探したが、元趙家の使用人達は胡懿の襲撃で殆どが絶命しており、生き残ったのは2割にも満たなかった。しかし、たとえ十数人でも勝手知ったる者が誰もいないよりはマシなので、彼らを倍の賃金で呼び戻した。
すぐに元の使用人たちは集まったが、それでも趙候府は、貴人、罪人、軍が入り乱れてごった返していたため、使用人の目も手も脚も行き届かず、さながらカオスの館と化してしまった。
それなのに、乱から1週間後の昼すぎ、劉操と西乃国の高官達が舞阪県の趙候府に到着してしまったのだ。
白凛を先頭に筆頭宦官の石欣、斉禁衛軍副統領、李亮らこの討伐の主要メンバーは、門前に出て恭しく劉操らを出迎えた。
劉操は、白凛の案内で高官達と共に奥の部屋に入ると、長旅の疲れもあって自らは横になって肘をつきながら石欣に話をさせた。
石欣は、本件での利害関係は無いことから、珍しく自ら目撃した通り包み隠さず嘘もつかずに先週の胡懿と李亮らのやり取りを劉操に報告した。
ところが、疲れていたはずなのに劉操は、石欣の話の途中で飛び起きて「なんだと!」と大声を上げて、怒りをあらわにした。それを目撃した高官たちは慌てて別室に移り、部屋には荒れ狂う劉操とその御守りをする石欣だけとなった。
「まったく、胡懿の奴は何ということをしてくれたのだ。そうならないように娘を趙明に嫁がせておったのに、まさか実の娘と孫まで殺すとは。清水県に奴がいるからこそ互いに睨み合えるよう白凛をすぐに舞阪県の趙明の後釜に据えたのに!これでは清水県はどうしたらいいのだ!しかも今回の功労者も白凛ときている。白凛を差し置いて他の奴に清水県をあてがうわけにはいかないではないか!清水県まで白凛に渡すと、以前の国境周辺は全部白凛の息がかかったところになってしまう。そうでなくても、京安の講談師は下手くそで、朕ではなく白凛に人気が集中してしまった。このままでは、折角北盧国を奪ったのに、西乃国内に舞阪県と清水県の独立国家ができかねぬ。それならまだしも、あの勢いが続けば朕の座を奪いかねぬ。」
「陛下。思いますに、趙候府にではなく、白将軍を陛下のおそばに置くというのはいかがでしょう?」
「何?」
「陛下思い出してください。陛下が大事を成し得た最大の理由を。」
「............私軍か......」
「御意。」
「うむ。私軍を作りそこに白凛を据えよう。さすればそれに忙しくて舞阪だの清水だのと言ってられぬからな。」
ちょうどその時趙候府の門前は騒然となっていた。
「一大事です!」と大きな声を出しながら、なんと伝令兵が趙候府に向かって走ってきたのだ。
何事かと白凛らが伝令兵のところに駆けつけると、伝令兵は息も絶え絶えに趙候府の中庭に駆け込み「元国境付近でも元北盧国の農民が一揆を起こしました。」と言いそのまま気を失った。
奥の部屋ではようやく劉操の機嫌が上向いたことから、石欣は慣れない趙候府で少ない使用人を駆使し、なんとか皇帝に出せるレベルの茶の準備をしていた。そして、ちょうど石欣が「陛下、粗茶でございます。」と言ってその茶を劉操に手渡している時に、禁衛軍の斉副統領が走って部屋の扉の前までやって来ると、扉越しに報告した。
「陛下、伝令兵が参りました。北盧国の農民が一揆を起こしていると。」
石欣はようやく皇帝の機嫌が直ったのに、また悪化必至の報告に眩暈がしながらも、困った顔をして劉操の顔を伺うと、1回頷いてから部屋の扉にむかって、仕方なさそうに「お入りなさい。」と宣言した。
するとすぐに禁衛軍の斉副統領が入室し、その場で跪いた。
劉操は、そうでなくても、不穏な人物が西乃国の首都京安の皇宮に侵入したという知らせや、この辺り一帯が自分の思い描いていた地図とは異なってしまったことにいらだっていたのに、また一つ面倒な事が起こり、投げやりに呟いた。
「たかだか農民の一揆であろう。軍で制圧すれば簡単ではないか。」
斉副統領はそれに言いにくそうに、
「それが、、、北盧国内至る所で起こっているらしく、、、まだ農民の一揆のところはいいのですが、、、」と言いかけている時に、劉操は突然席からガバッと立つと、光を浴びて上品に白く光る青磁の茶器を斉副統領に向かって思いっきり投げつけた。
運の悪いことに劉操が投げた茶器は、斉副統領の額を直撃したため、彼は顔が血で染まりながらもそのままの形でそこにジッと跪いていた。そんな斉副統領を思いやることも、ましてや謝ることなど全く無く、劉操は怒り心頭で吠えた。
「何を?軍が謀反を起こしていると?」
額から流れた血が目に入り、視界が赤く曇りながらも斉副統領は痛みをこらえて報告する。
「き、北盧国軍の生き残りです。」
「さっさと始末しろ。」
斉副統領は、この件に禁衛軍が関わりたくない為、早々に布石を打った。
「それでは、白将軍を連れてまいります。」
その言葉を聞いた劉操は、血相を変え、すぐに斉副統領に「いや、白凛は連れてこなくていい。お前が始末しろ。」と叫んだ。
”またまた白凛に活躍されては、ますます白凛を抑え込めなくなるではないか!”
”この馬鹿め。お前は脳みそまで脂肪か!”
実は劉操の思いとは逆に、非常に優秀な脳みそを持っているため己の能力をよくわかっている斉副統領は、こんなとんでもを請け負えば、戦場で命を失うか、負けて帰って故郷で責任を取って命を失うかのどちらかでどっちにしろ死ぬことから、何としても皇帝に考え直してもらわねばと思った。
斉副統領の頭から緊張のあまり脂汗が流れ落ち、それが額の傷にしみこんで相当傷が悼むはずなのに、彼はそんな痛みも感じている余裕は無かった。
彼は助かりたい一心でこう言った。
「陛下、お言葉ですが、それでは誰が陛下をお守りするのでしょうか?陛下をお守りできる唯一の軍である禁衛軍の副統領として申し上げます。どうか御考え直し下さいませ。」
この言葉に劉操は真っ青になった。
”確かに今この場所で禁衛軍がいなくなれば、朕は下手をすると農民に鍬で殺されるかもしれない。皇帝としてそんなみっともない死に方は断じて許されない。”
禁衛軍を派遣すれば自分の守護が無くなり、かと言って軍を派遣しなければ折角北盧国を手中に収めたのに、それが自分の手の指の間からどんどんと落ちて行ってしまう。
禁衛軍でない軍人に討伐させることになれば、この状況では当然白凛が派遣され、万一そこでも彼女が活躍してしまえば、彼女に大きな力を与えてしまうことになる。
劉操はまだ私軍を持っていないことに心の中で地団太を踏んだ。
劉操は、斉副統領の問いかけに何も答えることなく、彼に向かって手を払う動作をすると斉副統領はチラッと石欣の方を見てからそのままバックして部屋を出ていった。
斉副統領の足音が聞こえなくなるまでジッと息を潜めていた劉操は、そこで大きなため息をつきながら、石欣にむかって囁いた。
「孫粛(西域侵攻基地の国軍の将軍)に使いをやれ。西域侵攻は保留だ。まずは取った領土の平定が先決だ。孫粛に、そこから北盧国ゲリラ対策に60万騎派遣するように伝えろ。それから李亮を呼べ。」
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