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第八章 探索

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 その頃呂磨では北盧国の第二報を受けゾロンがショックのあまり自室に閉じこもって1週間が経っていた。


 そして我らが主人公劉煌は、世界の紛争屋でドクトル・コンスタンティヌスの敵であるカッチーニ会を撲滅し、早々に呂磨を発つつもりでいた。ところが、思いのほかドクトル・コンスタンティヌスの遺言執行に時間がかかっており、劉煌は今日もまたわざわざ役所にまで行ったのに埒があかず、イライラしていた。

「まったく、もう3週間経つのに、お役所は何やってんのかしら?」

「これは面白いね。お役所仕事って~のはやたらめったら時間がかかるって、どこの国でも同じだねぇ。それは煎じ詰めれば役人になる人間の習性は、肌の色や髪の色が違っても変わりないってことじゃないか。なかなか興味深(おもしろ)いことだねぇ。」


 もう既に一杯引っ掛けているお陸は、そう言って、イライラしている劉煌をさらにイラッとさせた。


「もう、そのお役所仕事の概念を絶対壊すんだから。私の国では早い、安い、正確を実現させるわっ!」


 劉煌がお陸と2人きりなのをいい事に、西乃国の国民でも無いお陸に向かってまだ皇帝に返り咲いてもいないのに早々に公約宣言をしていると、ダイニングの扉をノックする音が聞こえた。


 劉煌と違って、断腸の思いで彼を手放すつもりがこのような諸々の事情でまだ一緒に居られることが嬉しくてたまらないお陸は、機嫌よく「どうぞぉ~。」と扉の向こうの誰かに声を掛けた。


 ところが、お陸の機嫌とは裏腹に、入室してきたフレッドは益々やつれた顔になっていた。


 劉煌は出来上がりつつあるお陸を横にどけると、フレッドの前にしずしずとやってきて、「益々顔色がすぐれないけれどどうしたの?」と心配そうに聞いた。


 それにフレッドはポロっと涙を流すと、そのポロっが呼び水となり、彼の両目からは滝のような涙が流れ落ちはじめた。思い通りにことがいかずイライラしているのに劉煌はそれを抑えて、仕方なくフレッドの背中をヨシヨシ、ため息をつきながらさすっていた。

 しばらく泣いていたフレッドは、劉煌にすがるようにして何故か北盧国語で愚痴った。


「実は北盧国からの第三報が届いたのですが、益々酷いことになっていると、、、さらに中ノ国から京陵の蔵家の店舗付き賃貸物件の店子から契約更新しない旨の知らせが入ってしまい、、、そうでなくても坊ちゃまはショックのあまりお部屋から一歩も外に出てきていませんのに、どうやってこの情報をお伝えしたらよいのやら。」


 それを聞いていたもう完全に出来上がり、フレッドが泣いている間に3本ワインをラッパ飲みしたお陸が、突然「大丈夫!あたしが伝えてあげよう!」と叫ぶとドロンと消えた。


 劉煌がヤバイっと思った瞬間には、お陸はゾロンの部屋に潜り込んでいた。


 劉煌がフレッドを連れて、慌ててゾロンの部屋にやってきた時には、何故かゾロンはとても嬉しそうな顔をしてお陸の手を取り「そうしよう!それがいい!」とお陸に同意していた。


 劉煌もフレッドもいやーな予感がしながらも、ゾロンにどうするのかと恐る恐る尋ねると、ゾロンはこの1週間1度も見せることのなかった希望に満ちた顔で、突然


「皆で中ノ国京陵の蔵家(うち)の貸家に住むんだ!」


 と宣言した。


 劉煌もフレッドも予想外の展開に、はっ?と聞くと、管を巻いているお陸が時折しゃっくりを混ぜながら説明し始めた。


「実はさ、京陵って意外と北盧国とも西乃国とも行きやすい所にあるんだよね。」まずそう言うとお陸は地図を懐から出して広げて見せた。


 地図を見たフレッドが京陵から出ている西向きの道と北向きの道を指で辿りながら「なんと、リク様の仰る通りですね。中ノ国に行ったことが無いので知りませんでした。」と感嘆した。


 お陸は益々調子に乗って続ける。


「お坊ちゃんを北盧国に戻すのは危険だ。だけど北盧国の様子は知りたい。呂磨じゃ北盧国まで遠いけど、中ノ国の京陵なら北盧国を偵察しに行こうと思ったら、晴れた日ならうまくいきゃー1日で行って帰ってこれる。それだけ近いってことは、情報だって入ってきやすいんだよ。何しろ永世中立国だったところが戦争仕掛けたから、中ノ国だって北盧国の動向にはかなり注意を払っていたはずだからね。それが、西乃国と一体になった。そうでなくても、西乃国に直接国境を接している中ノ国としては、益々西を警戒するからさらに情報が入りやすくなっているって。」


「しかし、ここは確か繁華街で中央通りに面した一等地なのですよ。周りは商店ばかりで、この一軒だけ店を開けないで住むだけというのも不審がられませんか?」フレッドはゾロンのことが気がかりでそう聞いた。


「ここでお嬢ちゃんの出番だよ。お嬢ちゃんが医院を開業する。しかも西域じこみってふれこみにすれば、あんたが横に居たって構わないどころか、余計話に信ぴょう性がでるじゃないか。」お陸はフレッドに向かってまるで素面しらふのように整然と答えた。


「そんでお坊ちゃんは店舗には出ない。北盧国人って一目でわかるからね。北盧国の偵察に行く時はあたしと行く。それなら文句ないだろう。絶対お坊ちゃんに指一本触れさせないから。」お陸はそうフレッドを安心させるように一気に言うと、両腕を上に伸ばしてふああ~と大欠伸をした。


 劉煌は地図を見ながらしばらく考えていたが、口を開くと一気にこう言った。


「師匠。それ、いいかもしれませんね。今後おそらく北盧国から難民が出るでしょう。東ノ国との間には大きな川があるから、民はまず中ノ国を目指すでしょう。そして中ノ国は西乃国を恐れて、公には難民を受け入れないでしょう。ゾゥ・ロンは師匠と共に、北盧国難民の保護活動にも力を入れられれば?蔵家の財力があれば国境に近い中ノ国の未開の山奥に避難所を作ることなど簡単なことでしょう?彼らを秘密裡に中ノ国に入れ、避難所に収容する。そして北盧国が復活したら民は国に帰ればいいのです。ところでゾゥ・ロン、北盧国の民が得意なことは何ですか?男なら狩りとか金物作りとか、女なら織物とか刺繍とか。」


 ゾロンもフレッドも劉煌の思考次元が一般人とは異なっていることに圧倒されながらも、2人で顔を見合わせ、「あっ、北盧国は農民より遊牧民が多いが、羊はきっともう没収になっているだろうし。」と言うと、劉煌は「同じ種類かはわからないけれど、中ノ国にも羊はいる。羊で何をしていた?」と矢継ぎ早に質問していった。

「羊の乳でチーズやヨーグルトを作っていた。あと羊の毛を刈ってその毛で織物を織っていた。」

「ヨーグルトは仕込んだらすぐに運搬すれば着いた時に出来上がるからいいんじゃないかしら。お通じにいいと言って医院で売りましょう。チーズはできてからでいいわね。燻製加工すれば少しは長持ちするだろうし。食後に一口食べると消化を助けると言って医院で売りましょう。あと毛の織物も冬の冷え防止に医院で売れば瞬く間に売り切れるでしょう。とにかく住む場所や必要物資は提供するけれど、必要最低限にして、彼らが自立して行けるお手伝いを考えていきましょう。そうすれば自信に繋がり、国に戻ってからも安心して暮らせるでしょう。」


 そう言った劉煌の顔は完全に為政者の顔だった。


 ゾロンは劉煌の話を聞いて、顔つきがキリリと引き締まった。

「ミレン嬢、失礼だがあなたはいったい何者なのか?そんな民のことをいの一番に考えるなんて、失礼だが、その若さといい性別といい、とても普通の人とは思えない。」


 ワインボトルを抱くようにして半分寝ていたお陸が突然ガバっと起きると、なんととんでもないことに「そりゃ、普通の人じゃないもの。このお方は、」と言いだしたではないか。劉煌は慌ててお陸の口を塞ぎに文字通り飛びついたが、酔っぱらっていてもそんじょそこらの忍者ではないお陸は、弟子の動きぐらいすぐに読めて劉煌をわけなくかわすと「男なんだもん。」とサラッと続きを言った。


 これにはゾロンもフレッドも、そして別の意味で劉煌も驚いた。


 一気に怪訝そうな顔つきになったゾロンは、劉煌に恐る恐る「本当なのか?」と囁いた。

 そしてこれも劉煌が答える前にお陸が「本当だよ~ん。師匠のあたしが言ってるんだ。間違いない、このお方はお・と・こ。」と言ってから、明らかにホッとしている劉煌をチラッと見てニヤリと笑うと「ただ女装が好きなだけ。」と要らん似非情報までご丁寧に付け足した。


 これには、ゾロンもフレッドも先ほどの尊敬のまなざしから180度変わって、訝し気なまなざしで劉煌を見始めた。部屋の空気が一気に変わったことに気づいた劉煌が、彼らの方向を振り向くと途端に2人は揃って劉煌から目をそらした。


 ”たかが女の恰好していただけで中身は変わらないのに、どうしてこんなに偏見があるのかしら、やーね。”


 劉煌は、昨今年齢的にもう女装は難しいことを痛いほど感じていたこと、これから先中ノ国でこの4人で暮らすなら男と知って貰った方がいいとも思っていたので、お陸の暴露の仕方は気に入らなかったが、最も重要な秘密の部分を今はお陸はバラさないと確信できた彼は、突然暴挙にでた。


 なんと、その場ですぐにルージュを拭い、ハイヒールを脱ぎ捨て、ブラウスの左右の前身頃をそれぞれむんずと掴むとそれを勢いよく左右に開いた。その勢いでブラウスのボタンは飛び散り、胸がはだけた。さらに劉煌は、ブラとコルセットを引きちぎるように身体から外すと「あー、これで呪縛から解放された!」と地声で叫んだのだ。


 ミレン嬢のあられもないまっ平な胸と見事なシックスパックを見てしまった上に、その唇から男の低い声が響いた時、フレッドの思考回路はショートし、彼は後ろ向きに卒倒してしまった。


 上半身をはだけた劉煌が仕方なくフレッドの介抱をしていると、ゾロンが「ミレン・・・」と話しかけてきた。劉煌はゾロンに向かって手を上げると、「レンよ、レン・コタカ。東域は全域苗字が先だから、これからは私の名前は小高蓮。よろしく。」と言った。ゾロンは恐る恐る劉煌の手を取ると、「小高先生、よろしく。祖国を失ったことで私は自暴自棄になっていたが、あなたの話で祖国を失ったのは自分だけではないと気づけたよ。祖国にいる人達の方がよっぽど大変だ。蔵家の財力をどう有効に使うか、北盧国を北盧国人のために取り戻すためにも、他に何か気づいたことがあったら、何でも教えてほしい。」と謙虚に言った。


 劉煌はフレッドを介抱しながら「大丈夫。西乃国の劉操は為政者の器ではない。絶対あなた達の国があなた達の元に戻る日が来るから。」と言った。


 それを真摯に聞いていたゾロンの目つきは、もう先ほどの奇異なものを見るような目つきではなかった。やおらフレッドが気が付くと、劉煌はフレッドに見えないようにゾロンの居室から出ていき自分の部屋に戻った。


 劉煌はすぐにドレスを脱ぎ捨てると、久しぶりに髪を頭頂にまとめて一つにして布で巻いた。そして男の着物を羽織ると自分の全身を姿見で映した。


 ドクトル・コンスタンティヌスの遺産相続が終われば、もう女の恰好をすることもない。素の性に戻れるのだ。


 劉煌は姿見の前で自分の足元から少しずつ目線を上げていった。

 そして、それが顔まで上がった時、彼の心拍数は爆上がりした。


 劉煌はさらに亡き父にそっくりになってきた。


 途端に劉煌は顔を曇らせた。


 ”これでは中ノ国皇宮に入る機会があったとしても、入ったら自分が何者かバレてしまう。”

 ”中ノ国皇宮に入る機会があれば、その時は七法出しかないな。”


 ~


 北盧国皇宮では、劉操の性分を知らない元北盧国の高官達が劉操に進言したことにより、相次いで劉操の逆鱗に触れ殺され続けていた。それはまるで11年前の西乃国政変時の再来のようだった。


 宋毅は劉操と共に西乃国の海の御用邸からここに来て、まさか彼がまたあの劉操による殺戮を、今度は間近で見ることになるとは思ってもみず、早く西乃国皇宮の宦官:石欣が到着して、自分と交替してくれることを一日千秋の思いで待っていた。


 ところが、ここにやってきたのは石欣ではなくて、彼の使いだった。


 宋毅は、その使者から石欣はまだと聞かされて露骨にがっくりと肩を落としたが、すぐに仕事は仕事モードに切り替わると、気を取り直して劉操の所に行った。


 劉操のこの日の機嫌は悪くなく、宋毅はホッと胸を撫でおろすと、茶を出すタイミングで石欣からの使いが御目通りを願っている旨を劉操に伝えた。


 宋毅が命じられた通り廊下で待っていると、面会を終えた使いと機嫌が非常に悪くなった劉操が部屋から出てきて、彼を見ると「出かける。用意しろ。」とだけ言った。


 宋毅はこの用意しろの意味がすぐわかり、慌てて劉操の影武者役の部屋に飛んでいった。


 李亮が劉操に会ったのはその翌日のことだった。

 劉操は不愉快な気分丸出しの顔をしていた。李亮はてっきり胡懿出頭命令の聖旨が来ると思って待っていたのに、皇帝自らやってくるとは思わず、すぐにひれ伏した。


「謀反の兆しだと?」

「は。」 

「この大変な時に、国内まで煩わせよって。」

「御意。」

「それで、どうしたいのだ?考えがあるのだろう?」

 李亮は、再度ひれ伏すと「私が乗り込みますので、ここにいる禁衛軍をお借りできればと存じます。幸い趙候府の裏手は山で、ここから獣道を進むことになりますが、念のためそこに軍を待機させておけば万一胡懿軍が攻撃してきたとしても撃破できるかと存じます。」と進言した。


「軍は貸す。あと石欣、お前は兵士の恰好をしろ。胡懿と李亮の話を聞いて報告するのだ。」

 そう言うと、その旅館の部屋に数百人の兵士と共に居座った。


 李亮は、劉操との会談で、側にいた石欣と共にやってきた禁衛軍の中でトップの斉副統領と2人きりになると、その中でも腕が立つ20人を石欣の護衛につけて欲しいと頼んだ。斉副統領は見るからに丸い体型で、孔羽という体型と動きが一致しない例を身近で見ていなければ、武術はできないと判断するに違いないような人物だった。彼は、守る相手が石欣だからか、李亮がぱっと見た禁衛軍の兵士の中では見るからにましな人材を出してきた。


 そして、その20人の一番後ろに立っていた人物の顔を見たとき、李亮の細い目は点になってしまった。


 李亮はその最後の人物の横に来ると「お前をこの特殊任務部隊のリーダーにする。後の者は、外で出発まで待機せよ。」と偉そうに言った。


 その部屋でリーダーと李亮が2人きりになると、李亮は自らサーっと扉の所に行って扉を閉めてから部屋の中央に戻ると、自分がリーダーと任命した男を相好を崩してガシッと抱きしめた。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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