第八章 探索
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
白凛が凱旋帰国した舞阪県は、なぜかもはや彼女が以前知っていた所ではなくなっていた。
まず、重傷だった趙洋は手当の甲斐なく白凛が北盧国の皇帝を倒したすぐ後に息を引き取っていた。
そのためか、白凛が任命された職主が居とする趙候府には、趙洋の母で趙明の正妻であった胡琴の実父で隣の清水県の豪族の胡懿が陣取っており、皇帝からの勅命もないのにまるで主のようにそこで振舞っていた。
”僅か半月強でこんなに変わるなんて......”
”やっぱり胡懿が父様の座を狙っていたのね。そうすれば西乃国の北一体を全部掌中に収められる......”
実の弟のように可愛がっていた趙洋の死を悼む間もなく、白凛はまるで北盧国に潜伏していた時のように五感を研ぎ澄ませ、警戒した。そして、胡懿への挨拶もそこそこに、彼女は国境での対北盧国戦の指揮を任せていた常義を探しに基地に向かった。
常義は容易に見つかった。
しかし常義は、白凛を以前のように大切に扱わず、彼女をチラッと見るとよそよそしく慇懃に挨拶してすぐにその場から離れようとした。
戦場に派遣された時から趙明の命令で彼女の懐刀だった常義のこの変貌ぶりに、白凛は、主が亡くなるとこうも人は変わるのかと愕然としたが、それでも彼に話を聞きたい彼女は彼を捕まえて、話をしたいと下手に出て申し出た。常義は仕方ないという顔をして、周囲に部屋に入らないようにと言ってから、白凛を部屋に招き入れた。
常義は、扉をしめると突然白凛の耳元で「お嬢様申し訳ありませんが伏してください。」と小声で囁いた。白凛は直観的にさきほどは常義が人前で演技をしていたのだと悟り、すぐに彼の言う通りにその場に伏した。常義は、奥にあった鎧兜を着た人形の兜を取ってから人形を机の前に置き、今度は机に向かうともう1体の座っている人形を机に向かって座らせた。それを息をひそめ伏せながらジッと見ている白凛に向かって、彼は人差し指を口の前で立てて話すなという合図を送ってから、その指を左下に向けた。
白凛はそれだけで全てがわかり、伏せた状態で頷いてから匍匐前進して部屋の下にある秘密の部屋の入口を目指した。
白凛が密室に入ったことを見届けてから常義は部屋に蝋燭を灯し、すぐに伏せた。これで外側からはあたかも2人が部屋の中で話しているように見える。
常義は同じように床を這いながら秘密の部屋に入ると、すぐに白凛の前にひれ伏して「お嬢様、ご無事で何よりでした。それどころか素晴らしい戦功を立てられ、旦那様が生きておられたらどんなにお喜びになったかと思いますと、本当に無念です。」と言ってさめざめと泣いた。
声を押し殺し突っ伏して泣いている常義を白凛は優しく座らせると「おおよそのことは見てわかったけど、一体何が起こったの?どうして胡懿が主面してここにのさばっているの?」と聞いた。
常義はこれに唇を震わせながら涙ながらに語った。
国境基地の兵士と援軍は、北盧国軍と果敢に戦いを続けていたが、白凛によって北盧国の皇帝が暗殺され、北盧国軍が撤退すると、兵士達は勝利に喜び傷の手当てに入った。
まさにその時に、清水県の胡懿が大軍を引きつれてやってきた。もう援軍は要らないのにと皆で笑っていたら突然胡懿軍が無防備な兵士達に牙を向いたのだった。
何がなんだかわからず、そうでなくても北盧国との戦いで精魂尽き果てていた兵士達は、無情にも次々と胡懿軍に殺された。
常義はきな臭さを感じながらも、まさか同胞が知っていてここを攻めてきたとは思わず、自分たちは西乃国軍で北盧国軍はもう撤収したと大声で伝えると、胡懿軍の兵士達はうろたえ、ようやく攻撃を止めた。
常義は総大将の胡懿の前に躍り出ると、胡懿が味方を大量に殺したことには一切触れずそれどころか「応援に来ていただき誠にありがとうございます。」と言った。
これに気をよくした胡懿は孫の見舞いに来たと見え透いた嘘をついた。
常義は嫌な予感がしたが、趙洋の母である胡琴が胡懿と共に来ている手前、かれらを趙候府に案内せざるを得なかった。
勝手知ったる胡琴は趙候府に入るや否や、わき目もふらずに趙洋の部屋に向かった。常義はここで趙洋を守るつもりでいたが、胡懿に「母子水入らずにさせたい。」と言われ、すぐに趙候府を追い出されてしまった。
ところが、翌朝、大声で泣き叫ぶ胡琴の声で慌てて趙候府に飛び込もうとした常義を、胡懿の兵士達は剣を突きつけて追い払った。常義はそこで無理をせず「叫び声が聞こえた気がしたので。」と言ったが、兵士達は聞こえなかったと白を切った。常義は、ここで胡懿の陰謀を確信したが、味方の兵数は圧倒的に少ない上に、大戦を終えて皆疲れ果てていることから、彼の配下についたふりをした方が得策と考え、白凛が戻るのを待っていたと話した。
「さっき、洋ちゃんは死んだって言われたわ。」
「たぶん胡懿に殺されたのだと。」
「それに趙候府の使用人達も全員替わっていたわ。」
「おそらく皆殺しにしたかと。お嬢様、とにかく身辺お気をつけて。」
「わかった。それで私は第五歩兵部隊長の呂葦を探しているんだけど。」
「奴なら北の第一兵舎にいます。なぜ呂葦を?」
「うん。彼がばあやを殺った捕虜を連行してここに来たはずなの。」
「そうですか。でもお互いのために今は話を聞かない方がいいでしょう。あまりに我々の分が悪い。」
「わかった。あなたも気を付けて。」
「はい。お嬢様。」
2人は静かに隠し部屋から戻ると、人形を片づけ、常義は机の前に座り、白凛は扉の手前で立ち止まると、
「もういい!常義、お前を見損なったわ!」
と大声で叫び自ら扉をバーンと開けて出ていった。
その時、視界の左隅に居た兵士がすーっと持ち場を離れ基地を出て趙候府の方に曲がって行ったのを白凛は見逃していなかった。
”これは、北盧国皇帝暗殺よりも難しそう。”
”まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。”
基地の外に出て馬に乗ろうとしたその瞬間、白凛は李亮の言葉を思い出した。
=「とにかく早まるな。命を大切にしろよ。それで、、、俺が必要になったらいつでも連絡してこい。」=
”まさか私が亮兄ちゃんを必要とする日が来るとは思わなかった。しかもこんなに早く。”
白凛は、飛び上がって馬に乗ると、その尋常ではない身のこなしに呆気に取られている基地の門番兵に向かってクスっと笑うとウインクして見せてから、趙候府とは反対方向に向かって馬を走らせた。
(元)国境にあと100mという所で、白凛は遥か彼方に馬を走らせている大きな男を見つけた。白凛はニヤリと笑うと馬面をその男の方に変えてから馬の尻に鞭を打った。
馬の大男の方は、左手から猛スピードでやってくる馬に気づいて、それを2度見した。
”えっ?まさかお凛ちゃん?”
李亮は馬をそこで止まらせると、白凛がやってくるのを待った。
白凛が息を切らせながら李亮の馬の横に自分の馬をつかせると、李亮は、自分史上最高にセクシーな流し目をしながら「そんなに俺が恋しいか。」と一オクターブ低い声で囁いた。
しかし、白凛にはそんな馬鹿なことに付き合っている暇もなければ、答える余裕もない。
白凛は、肩で息をしながら途切れ途切れに言った。「胡懿に、、、乗っ取られたの、、、」
李亮は、すぐに流し目から鋭い参謀の目に変えると、「まず、息をしろ。落ち着いたら全部話すんだ。胡懿ってたしか清水県の豪族だろ?」と呼びかけた。
白凛は、息が整うのを待たずに、今迄の経緯を流れるように話した。
李亮は途中から思いっきり顔をしかめ、手を拳にして口に当て、間に何も挟まずジッと白凛が話し終わるまで聞いていた。
「要は、胡懿が皇帝を欺く大罪を犯したってことだな。たぶんお凛ちゃんのばあやさんを殺ったのも奴だろう。」
「うん。私もそう思う。北盧国が攻めてきたのに乗じて舞阪県を乗っ取るつもりで援軍を出さなかったのだと思う。実の孫まで平気で殺す奴に聖旨を見せて正論を投げかけても偽物と言われてしまうのが関の山だし、正攻法で行くにしても軍力が違い過ぎる。あっちは何にも戦っていないんだから。それに証拠も有力な証人もいない状況で私が胡懿を殺しても、私が不利になるだけ、それこそ皇帝を欺いたと間違えられかねない。」白凛は、歯ぎしりをしながらそう吐き捨てた。
李亮は作戦を考えていたのだが、ジッと黙っている彼に何を誤解したのか白凛は、
「私は何も趙候府や舞阪県が欲しいって言っている訳じゃないの。。。」と始めたので、李亮はびっくりしてその細い目を大きく開くと、「そんなこと思ってやしないよ。お凛ちゃんが、趙明の後を継ぐのも趙洋が成人したらその座を趙洋に継がせるためだって知っているし。」と言った。
白凛は心底驚き珍しくポカーンとした顔をして「そんなことまで知っているの?」と聞くと、李亮は「えらい噂だったからな。なんだかんだ言ってやっぱり女だって。お凛ちゃんくらいできる男なら野心の1つや2つ無いわけがない、跡継ぎがいようがいまいが絶対こんなチャンスを逃さない。絶対家を乗っ取るってさ。」とつまらなさそうに答えた。
”なるほど、類は友を呼ぶって言うけど、あの皇帝にしてあの取り巻きありってことね。”
”でも、私はあの皇帝の手先にこうやって頭を下げて知恵を借りている、、、本当に情けない…でも、ばあやと洋ちゃんの敵を打つまでそんなこと言ってらんないっ!”
白凛が俯いているのをジッと見ていた李亮は、重い口を開いた。
「お凛ちゃんが生き残るためには、胡懿の息の根を完全に止めなければならない。生かしておけばまたいつ攻めてくるかわからないからな。だけどお凛ちゃんが言う通り、今闇雲に殺ってしまえば、お凛ちゃんの前途が危うい。だけど、それは胡懿にとっても同じことだ。自分が生き残るために、胡懿もお凛ちゃんの命を狙うだろうが大義名分がなければ手出しできねぇ。でも奴は血を分けた孫まで平気で殺す位だから、お凛ちゃんを潰しにかかるのは時間の問題だ。ただ、もう京安にまでお凛ちゃんの武勇伝が伝わっているくらいだ。奴がお凛ちゃんがどんな聖旨を持っているかは知っているはずだ。だからお凛ちゃんが攻撃しない限り、あからさまな武力での攻撃はしてこないだろう、ただし、、、」
「ただし、私が武力による死ではなく、病死だったら話は別ね。」白凛が全く怯むことなくそうポツリと呟いた。
李亮は一度大きく頷くと「趙候府でも基地でも絶対勧められた物を口にするな。」と言ってから、白凛の肩に手をかけると「俺も趙候府に行こう。」と宣言した。
白凛は李亮の手を払いのけながら露骨に嫌そうに言う。
「なんで。自分で何とかできるわよ。」
「そんなこと知っている。」
「じゃあ、なんで。」
”なんでって、君が心配だからに決まってるじゃないか!”
李亮はそう心の中で叫びながら、真剣な顔をして口では、
「陛下にとって危険な分子は、根こそぎ取り除かなければならんからな。」と言って誤魔化した。まさか、この一言で完全に白凛が李亮が劉操の手先と誤解したとは全く気づかずに。
白凛は俯いて黙ったままそこにいた。
李亮は、鼻から息をフーっと吐いてから「お凛ちゃんは趙候府で2,3日耐えてくれ。俺は遅くとも3日後までには趙候府を訪ねるから。」と白凛に諭すように言うと、自分用に持っていた保存食の包みを白凛に渡し「いいか、絶対出された物は口にするな。これでしのげ。」と〆た。
それでも何も言わない白凛に李亮は「じゃあ、怪しまれないようにもう戻れ。俺ももう行くから。」と言うと馬面を反転させ、元来た道を走って行った。
白凛は、李亮を見送ることなく、しばらく下を向いたままぼーっと包みをみていた。
そしてやおら包みを開けると、そこには沢山の干芋や干肉が入っていた。
恐らく彼の旅のための食料だったのだろう。白凛はようやく顔をあげて李亮の走り去った方を振り向いたが、そこにはただ李亮の馬と風が起こした砂埃が立ち込めるだけで、彼の姿は何も見えなかった。
”とにかく兵が復活するのにも時間がかかる。彼が戻って来る来ないは別にして3日は波風を立てずにいよう。”
そう思った白凛は、馬を反転させると元来た道をゆっくりと戻っていった。
一方李亮は3時間ほど走ったところで、軍隊の行列に追いついた。
李亮は自分の身分を証明する参謀の札を見せると、兵士に言った。
「先ほどすれ違いざまにご挨拶申し上げた参謀本部次長の李亮だ。至急、石公公にお取次願いたい。」
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