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第二章 変改

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 その日の午後、劉煌は、わけのわからないまま『小高美蓮』という女の子として、この尼寺で生活するためのレクチャーを受けた。


 レクチャーを受けながら劉煌は、見たこともない変わった部屋に気を取られて、部屋中を上から下まで舐めるように見まわしていた。


 その部屋は、、、よく言えばとてもシンプルで、、、普通に言えば殺風景で、置物も壁掛けも一切ない、簡素な部屋だった。


 椅子は無く床にじかに座らされた。


 部屋の大きさは、以前の自分の住まいであった東乃宮の中にあった自分の寝室の10分の1位の大きさの部屋で、そこに背の低い机が一卓と古びた箪笥が1竿あるだけだった。寝床も東乃宮の寝室のようなベッドではなく、布団を床に直に敷くスタイルで、日中は部屋の片隅に布団を畳んで置いておくようになっていた。壁も皇宮のように塗り壁になっておらず、木の板がむき出しになっており、所々ささくれ立っていた。


 劉煌は、目を丸くしながら3Dでこの部屋をもう一度見渡すと、壁も床も天井も全て同じ木の板で、もし忍者のように天井からぶら下がれるのならば、天井が床であると錯覚するであろうと思うくらい、上下左右区別のつかない造りだった。


 結局劉煌は、清聴のレクチャーの間中この部屋の構造設備にばかり気を取られていた。


 そんな劉煌の様子に気づくことなく、清聴は、レクチャーの最後に「ま、理論より実践だから。まずはあまり自分から他の子と話さないこと、周りをよく見て真似することだね。」と〆てから、「じゃあ実践開始にしますか。一緒に夕食に行くのよ。さあ、ショータイム!」と言うと、立ち上がって姿勢を正してから、斜に構えて顎を上げて歩き出した。

 その後ろを劉煌・・・もといこれからは『小高美蓮』と言う名前で『女の子』として生きる『彼』が、女の子の髪型をして、ピンクの着物を着て、身体を小さくしながらうつむいてついていった。


 食事部屋では皆、膳の前に座って待っていたが、ままが後ろに知らない女の子を連れてやってきたので、皆は驚いて思わず立ち上がった。


 口々に、「まま、誰、その子?」というのを手で制すと、何か言おうとする小春を一にらみして黙らせ、清聴が、「この子は、小高美蓮。これから皆と一緒に暮らすから仲良くしてあげてね。さあ、先に食べてなさい。あ、お祈りは省略しないで。」と皆に向かって告げてから、彼の方を振り向いて、「一緒に台所に行くわよ。自分の分は自分でつぐの。」と言った。彼は清聴にむかって頷くと、他の女の子達と目線を合わせないよう、また黙ったままうつむいて清聴について台所に行った。


 台所と呼ばれたいた場所に来たもののどうしていいかわからず、その場に突っ立っている彼を見て、清聴は「これは食器棚で、食器が入っているわ。ここから食器を出して。御膳はあっちにあるから、食器を御膳に乗せて。」とやれやれという感じに、身振り手振りを混ぜて逐一説明していった。彼は言われた通りにすると、清聴が今度は、「あれが囲炉裏、囲炉裏では串にさしていろいろなものを焼くことができるわ。囲炉裏の上にぶら下がっているのは鍋。ご飯や汁物、鍋料理に使うわ。」と言って、囲炉裏を指さすと、「今日は囲炉裏の鍋の中はご飯が入っているから、ご飯をしゃもじでよそって、この器に入れなさい。」と言ってしゃもじを渡した。彼は、受け取ったしゃもじをみつめ、”これがしゃもじ。”とインプットすると、土間より少し高い位置にある部屋の真ん中を見て、”あれは囲炉裏”とこれまた知っていた言葉と見たことのなかった実物とを結びつけていた。彼は言う通りに囲炉裏端に行こうと、台所からの階段を昇り、履物をはいたままでその部屋に入ろうとした。それを見た清聴は大慌てで、「あー美蓮、土足厳禁だから。」と劉煌に注意した。


 劉煌は、西域の言語は7か国語、さらに亜羅微亜語、東、中、西の3か国の南に位置する南埜国と北に位置する北盧国の言語にも精通している程の語学能力を持っていたので、東、中、西の3か国の共通言語である”参語”は、全ての方言まで学び博士も収めていた。


 そんな劉煌が、母国語である参語の”ドソクゲンキン”と言う言葉の意味がわからず、私でも知らない参語があったのか?と愕然としながら、「はあ?」と言って困惑した。


 清聴は清聴で、まさか土足厳禁がわからないとは思わず、注意した場所でそのまま固まって立ち止まっている劉煌に向かって「何してるんだい。」と聞いた。


 劉煌は、台所に立っている清聴を見下ろしながら真剣な顔をして、


「清聴殿、ドソクゲンキンとは何であろうか?もしかして、中ノ国の方言か何かか?」


と聞いた。


 清聴は、それを聞いて頭が真っ白になったが、次第に頭の中が色々な色で満たされてくると西乃国の生活習慣を思い出し、

「中ノ国では、部屋には靴脱いであがるんだよ。土足のドは土、ソクは足って字。」

と言うと、劉煌は驚愕して


「清聴殿、それは違うはずだ。つい先日中ノ国の皇宮にも行ったが、部屋は全て履物で入っていたぞ。外も内も区別なく同じ履物で。」


と反論すると、清聴は大慌てで劉煌の側まで駆けのぼると、


「アンタが知っている中ノ国は、中ノ国であって中ノ国じゃあないのよ!皇室は別世界なの。」


と小声で鋭く叫んだ。


 劉煌は益々混乱して、「清聴殿」と言い始めると、清聴はまよわず劉煌の後頭部を手で下から上にパンっとはじいた。


 あまりの失礼さに劉煌はとうとう今の自分の状況を忘れて、まず丁寧に御膳を囲炉裏端の床に置くと、はじかれた後頭部を手で摩りながら、


「何をする!」


と清聴を叱った。


 それを聞いた清聴は言葉では何も答えず、手でまた劉煌の後頭部を同じようにはじくことで答えた。


 劉煌は、怒って清聴に喰ってかかろうとした時、清聴は素早く劉煌の口を手で抑えて、


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?庶民の女の子が、そんな物言いするわけないでしょうが。それに、私のことはさっきのレクチャーで『まま』って呼ぶようにってあれほど言ったじゃないか。それも覚えていないなんて、アンタ頭悪すぎ。だから頭がちゃんと働くように、外側から頭に刺激加えているんだよ!」


と言った。


 部屋の様子に気を取られていて、レクチャーが上の空だった劉煌は、『頭悪すぎ』と言われたことにムカツキながらも、確かに話を聞いていなかった自分が悪いと素直に反省して、「まま、ごめんなさい。」と言って頭を下げた。


 西乃国の皇太子が素直に自分に頭を下げて謝ったことに、清聴は心を痛めながら、トーンダウンして「美蓮。わかればいいのよ。本当に180度何もかも変わってしまって、美蓮のことは本当に気の毒だとは思うよ。だけど、頑張って生きなきゃ。そのためには庶民の生活に慣れること。女の子として生きることに慣れないとダメなんだよ。」と優しく諭すように囁いた。


 劉煌は、唇をかみしめながらうんと言って頷くと、今度はキチンと履物を脱いで囲炉裏端に上がった。


 清聴は、はああと大きなため息を付きながら、屈んで劉煌の脱いだ履物を手にもって揃えた。

 そのままの状態で清聴は、自分の右下に目線を落とすと、劉煌の生末を案じて大きなため息をついた。


 ”西乃国の皇帝と皇后は、本当にこの子を素晴らしい子に育てたんだ。皇太子なのに平民に素直に謝れるなんて。この子がそのまま皇帝になれていたら、西乃国は今迄以上に暮らしやすい国になっただろうに。とにかく、まずはこの子を一日も早く庶民の女の子として適応させなきゃ。それができたら手に職を付けさせて、一人で生きていけるように導かないと。”


 そう清聴が物思いにふけっていると突然


「あぢゃー!!!!!!!!」


 と耳をつんざくような悲鳴が寺中に響き渡った。


 清聴は、大慌てで振り返ると、囲炉裏の鍋の上で劉煌の左手が舞っていた。


 ”しまった!鍋が揺れるから鍋の縁に触っちまったのかも!”と思った清聴は、さっきは劉煌に土足厳禁と言ったのに、履物を履いたまま囲炉裏端に突入すると、劉煌を小脇にかかえ、外に飛び出して井戸水を汲み、彼の手を汲んだばかりの井戸水の中に乱暴に突っ込んだ。


 清聴は青ざめながら「あんた、馬鹿じゃないの。囲炉裏の上にあったら鍋は熱いに決まってるじゃないか。」と言うと、大きな目に涙をいっぱいためた劉煌は、


「火は消えていたし、熱源と鍋間の距離を換算すると、こんなに熱いはずはないのに。不覚であった。」


と呟いた。


 はあと大きなため息をつきながら清聴は、


「あのさ、美蓮、本当にその物言いやめなさい。

一、誰もそんな言い方しない、

二、完璧男脳、

三、育ちがわかる。」


と言うと、彼を哀れそうに見て、「しばらく冷たい水につけておきなさい。今日はご飯ついどいてあげるから。」と告げて台所に戻っていった。


 清聴は台所に戻ると囲炉裏端を見上げた。

 幸い御膳の食器は無事だったので、ご飯をよそってから御膳を持って土間に戻ると、御膳を長机の上におき、今度は雑巾を持って囲炉裏端に上がって行った。囲炉裏端の床にくっきりついた自分の履物の後を雑巾で拭きながら、清聴は劉煌の前途を憂いた。


 ”あんな調子で、あの子やっていけるかしら......”


 ”でも、これに適応できなければあの子は殺されてしまう。”


 ”何が何でも適応させなければ。”


 そう結論付けた清聴は、気を取り直して劉煌の履物を手に持つと、井戸の前で座り込んでいる劉煌の元に行って、彼の前に履物を置いた。


 清聴は「足袋は汚れているから、足袋を脱いでから履いてね。」と言うと、もう一つのバケツを井戸の中に落として水を汲んだ。劉煌は清聴を横目で見ながら、まず片足だけ足袋を脱ぐと、その足を履物の中に入れた。もう一方の足も同じ動作を行っていると、清聴が新しいバケツを劉煌の前に置き、「もうそっちの水はぬるくなっているだろう。こっちの新しい水で冷やしなさい。」と言って、劉煌の手を新しいバケツに入れた。


 清聴は古い方のバケツを持って庭の方に向かうと、柄杓でその中の水をすくって、庭の作物にやりはじめた。


 劉煌は、清聴の様子を目で追いながら、情けなさと火傷の痛さでいっぱいいっぱいになっていた。


 水やりが終わり、清聴の姿が寺の中に消えて行っても、劉煌は手を水につけながら落ち込んでいた。


 しかし、手の痛みがだんだんと引き、やがて落ち着きを取り戻した劉煌は、周囲をキョロキョロと見まわした。すると、さっき清聴が水やりをした先にアロエが生えていることに気づいた彼は、手を冷やすのをやめて台所に行って刃物を探した。そして、短剣のようなものをを見つけた彼はそれを持って畑に行ってアロエの葉を1枚とると、厚い皮を器用に剥いてゼリー状の部分を露出させ、それを左手の火傷の部位に貼り付けた。


 台所に戻り、辺りを見回すと土間の長机の上に御膳があり、そこにはご飯と汁物そしておかずが一つのっていた。


 ”こ、これが食事か?”


 劉煌は、以前の自分の住まいであった東乃宮に毎食運ばれる、テーブルに所狭しと並ぶ数々の色とりどりの料理を思い出し、愕然とした。


 ”西乃国の庶民の食事もこんなものなのだろうか......”


 劉煌は、五剣士隊で食べ物の話になると、孔羽の暴走が止まらなくなるので、いつも劉煌以外の誰かしらが話を遮っていたことを思い出した。


 ”彼らはどうしているのだろうか?”


 それでももう何日も食事をしていなかった劉煌は、御膳の上にあるお箸をとると何も言わずに、立ったまま一人でガツガツとご飯を食べ始めた。


 すると、突然、「美蓮、大丈夫?」と言いながら、顔も体も丸い女の子が台所に飛び込んでくると、そのままドンと長机の上に尻から乗った。あまりの無作法さに劉煌は完全に呆気に取られ、食べるのも忘れ箸を持ったままその女の子を凝視した。

 彼女はそんな彼のことはお構いなしで、彼の左手を見て、「どーしたの?」と指さしたかと思うと、その指を彼の御膳のおかずに入れて、おかずを指でつまむと、それを自分の口に運んで美味しそうに食べた。そして、その女の子は、「大丈夫、大丈夫。私がいるからなんとかなる。」と言いながら、彼の御膳のおかずをどんどん手づかみで食べていった。


 彼は呆気に取られていただけなのだが、急に小高美蓮が食べていないことに気づいた女の子は、指でつまんだ彼のおかずを今度は自分で食べるのではなく、「はい、あーん。」と言って劉煌の口元に持っていった。


 心が折れかかっていた劉煌にとって、普段なら絶対許せないこんな無礼で不衛生な行いも、極限状態の今日の彼には心のオアシスに感じてしまい、彼女の小さな目で見つめられると、砕け散った心が癒され、ホンワカした。


 彼女の唾液まみれの指でつままれた青菜の切れ端を、彼女の言うままに口を開けて自分の口の中に入れてもらうと、極限状態の劉煌は、完全に恋に落ちてしまった。


 青菜を咀嚼して飲み込むと、劉煌は、「ありがとう。」と言って微笑み、はにかみながら「貴女の名前は?」と聞いた。


 女の子は自分の口元を手の甲でぬぐいながら、「小春」と答えると、何かを思い出したようで、「あ、行かなきゃ。また怒られちゃう。じゃあ、またね。」と言うやいなや、彼の返事も待たずにさっさと台所から出ていった。


 一人残された彼は、御膳に残ったご飯を一瞥すると、クスっと笑い、「小春」と呟いた。


 すると、まるで魔法のように彼に力がみなぎってくる感じがした。


 そして、「よし!」というと、残ったご飯をまた勢いよく食べ始めた。


 ご飯を食べながら、彼はつくづく自分がいかに、”生きるために絶対必要なこと”を知らないのかを、身に染みて感じていた。


 そして何を思ったのか、食べ終わると、台所を見渡した。


 台所は囲炉裏端より腰の高さ一つ分低い所にあり、床材は無く、下は地面のままだった。

そこには流しが1つと竈が2つ、明らかに木の切れ端で作ったに違いない建付けの悪い長机が1卓と、少し右に傾いた食器棚が1竿あり、長机の下には調味料の茶色い陶器でできた甕や木の米櫃、野菜の籠等の食材、鍋やしゃもじ等の調理器具等があった。


 劉煌は、台所を隅から隅まで見ていろいろな物を一つ一つ手に取ってはじっくりと観察していった。


 劉煌がどうなったか気になっていた清聴が、皆に気づかれないように忍び足で回廊を歩き、台所の近くまでやってきた時、彼はちょうどお釜の蓋をあけて、中を覗き込んでいた。その後、お釜を持ち上げて、かまどを覗き込むと、「なるほど、この構造は熱伝導がよいな。」と呟いていた。


 清聴は、吹き出しそうになるのをこらえながら、しばらく劉煌の台所研究を見守っていた。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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