第八章 探索
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
白凛らは、舞阪県に帰る途中、(元)国境付近でバッタリ李亮に遇ってしまった。
これには李亮も驚いて「なんだ、もっとゆっくりしてくるんじゃなかったのか?」と声をかけると、「十分ゆっくりしてきたわよ。そっちこそそんなにゆっくり戻るのでいいの?」と、白凛は呆れ果てながら凄く嫌そうに答えた。
「本部に戻ったって机上の空論の世界だからな。この際、今後の為にせめて通る道沿いくらい、実際の様子をみていこうと思ってな。」
李亮のこの言葉が本当に意外だった白凛は、心底驚いたからか胸が急にドキドキと高鳴った。白凛は、俯いて自分を落ち着かせようとした。
”亮兄ちゃんは昔から変わっているし、学歴も家柄もないけど本当に底知れぬキレ者だわ。”
”暗殺の件だって、彼の計画は絶妙だった。彼がいなければ到底目的を達成できなかった。”
”それなのに達成した後も、その後のことを誰にも言われていないのに考えている......”
いつもなら、なんだかんだ食いついてくるあの白凛が俯いて黙っているのを見て、李亮は酷く心配になった。
白凛の顔をうかがうように李亮は首をかがめて囁いた。
「おい、どうした。疲れが出たか?そりゃそうだろうな。大の男だって疲れてんだから。いくら鍛えていたって(男とは)元の作りが違うんだ。絶対無理するなよ。せっかく将軍になったんだから、自ら動かずに兵に命令してやらせればいい。」
女性の肉体的ハンディの話をされた白凛は我に返ると、李亮に向かっていーだという顔をして見せてから「疲れてないし。それに言っとくけど、(北盧国の皇宮では)アンタよりずっと殺ったから!それに一緒に行ったのはみ~んな男だったけど、一番殺ったのは私なんだから!」と叫ぶと、チャーと言って李亮をそこに置いて馬を走らせ始めた。李白部隊の8人はそれを見て慌てて「しょうぐ~ん!」と叫びながら後に続いた。
“ふうぅ。いけない。彼は劉操の手先だった。気をつけなければ、太子兄ちゃんの二の舞になってしまう。”
白凛がそんなことを考えているとは露知らず、李亮はいつもの彼女に戻ったことに安堵すると、彼女の後ろ姿に向かって叫んだ。
「いいな。着いたらすぐ呂葦に会うんだ。基地に戻っても誰にも気を許すなよ。」
白凛は手綱から右手を離すと、その腕を高く上げて手を振ったが、決して李亮の方を振り返ることは無かった。
李亮はずっと目で彼女を見送り、彼女の姿が豆粒になり、視界から全く消えてなくなると、1回大きく息を吐いてから今日視察しようと計画していた村を目指して馬の向きを変えた。
~
その頃、西乃国の首都:京安では、西乃国の勝利の第一報の波がだいぶ収まり市民が落ち着きを取り戻していた。
孔羽は相変らず役所のメールボーイ係だった為、今日届いたばかりの西乃国勝利の報の第二波になるであろう公文書内の情報も、いの一番で知ることになった。
孔羽は、その報を読みながら珍しくとても興奮していた。
その理由の第一は、
総勢何百万人もの敵に、たった10人で勝てたこと。
そして第二は、
その10人のうち2人は五剣士隊のメンバーだったこと。
最後の第三は、
白凛が敵国皇帝を仕留め、更に迫りくる相手を次から次へと倒し圧倒的勝利に導いたことから、将軍に昇進したこと。
”五剣士隊で力を合わせれば、本当に劉操に勝てるかもしれない!”
白凛がこの11年で劉操派に変わったとは露にも疑わない孔羽は、このビッグニュースを一刻も早く五剣士隊メンバーと共有したいと思い、すぐにまた皇宮宛の文書が誤って届いていないか、郵便袋を漁って皇宮宛の間違い郵便物を目を皿のようにして探したが、そういう時に限って間違いは1つもなく、梁途への連絡は明日以降になるなとため息をついた。孔羽は終業後すぐに自宅に帰ると、劉煌宛のメモをしたため伝書鳩を飛ばした。
そして夕食を食べようと階下に降りた時、孔羽はいつもと家の様子が違うことにようやく気づいた。
なにしろ先ほど戻った時は、文字制限がある劉煌への文に気を取られていてすっかり気づかなかったのだが、いつもはいるはずの両親が不在で、いつもは量だけは山盛り用意されている食卓には、申し訳程度の昨日の残りがちょこんと乗っているだけだった。
孔羽は、食卓を見てごはんの少なさにムッとすると、家での食事を諦めて外食することにした。
”ちっ、しょうがない。俺一人で太子が皇帝になる前祝いでもするか。”
そう思った孔羽が、たまに一家で行く飯屋の近くまで来ると沢山の人が群がってあたりが騒然としていた。
孔羽が何事かと近くの人に尋ねると、思いもよらない言葉が返ってきた。
「講談師が、今日から新ネタの女将軍の話をしているのよ。その名も”斬女神将軍白凛”。何でもこの女剣士、来る敵来る敵一人残らず斬って斬って斬りまくること3千人ですって。」
孔羽は、まず、今日来た公文書の内容をもう講談師が語っていることに驚き、さらに白凛が倒した敵の数31人が、いつの間にか巷では3000人に膨れ上がっていることに慌てふためき、文句を言う人に役所の札を見せ、職権乱用で人を掻き分け掻き分け店の中に進むと、なんと特等席で立ち上がって拍手している父と母を見つけてしまった。目を丸くした孔羽は、周囲の邪魔にならないよう身体を小さくしながら両親の所まで行くと「父ちゃん、母ちゃん、何やってんだよっ!」と語気を強めながら小さい声で叫んだ。
孔羽の両親はともに、講談師への熱い視線からその話を妨害している息子の方へ振り向くと、実の血を分けた息子に対して思いっきり冷たい目線を送った。父親はすぐに息子を無視して講談師の方を振り向くと、仕方なく母親の方が「見ればわかるだろう?ね、知ってた?この話李亮君も出てくるんだよ。もうかれこれ何年になるかねぇ。彼のご両親が生きていたらどれほど喜んだかしれないのにねぇ。」とだけ言うと、知ってた?と聞いたくせに孔羽のことはほったらかしにして、また熱く語られている講談に集中した。
そして講談で語られている話はクライマックスになり、北盧国皇宮の大広間で、李亮らが階下で応戦している中、それを潜り抜け階段を登ってくる敵を白凛が一人また一人と斬り捨て、敵を1歩たりとも前に進ませず、階段の下には敵3000人の遺体が山積みにされたという所で、大歓声と拍手でショーストップがかかった。
歓声が収まると、講談師は続けた。
「真っ赤な血が、滴り落ちる
その剣の
先が自らの首と化した
北盧国皇帝の宝剣を
戦場の女神は軽々と持ち上げ
階段を埋め尽くす
敵の死体を踏みしめ
階下に降臨した
味方のその数僅かに10
それが3000の敵を
あっという間に倒したのだ
ここで皆さんに聞く、こんな状況でいったい誰が味方の勝利を予測できただろうか?」
その講談師の問いかけに、こっちでは「できないできないできない!」を連呼し、あっちでは「無理無理無理っ!」と叫んでいた。
講談師は観客が盛り上がったところを見計らって続けた。
「しかも驚くなかれ、それに要した時間僅かに5分
これに恐れをなした100万の敵がすぐさま
我が国の女校尉白凛と参謀李亮率いる李白部隊の前にひれ伏したのだ
しかーし、最も忘れてならない大事なことはその後のことだ!
我が国の皇帝陛下のご英断だ!
陛下は若干二十一歳の李亮を参謀本部次長にした!
この話の何が凄いか皆さんお判りか?」
講談師はまた聴衆に問いかける。
もうこの日何度も聞いている観客はすぐに答える。
「親・学歴・コネ・金の4無い元丁稚の大出世!!」
講談師は微笑みながら頷き、また語りだす。
「陛下は若干18でしかも女の白凛を将軍にした!
女の将軍など前代未聞だ!
4無い元丁稚の参謀本部次長など有り得ない!
それを陛下は全く気にせず能力のある者を登用したのだ!!!
皆さんこれでお判りかな。
皆さんの陛下は、今迄のように身分や性別に囚われない
身分や性別より、その人物の能力を買われているのだ
この意味がお判りか?
陛下のおかげで、誰にも輝かしい未来が待っているということなのだ!!!」
と言って講談師は話を〆た。
勿論聴衆は喜びで大騒ぎである。さらに陛下万歳!と言う者迄出て、そこにいた全員が陛下万歳と言い始めた。ただ、たった一人、孔羽を除いて。。。
孔羽は、この聴衆の異常な興奮状態に憂いを感じていた。
”なんでお凛ちゃんの話がこんなに早く伝わっているのかわかったぞ。”
”劉操は、このニュースをうまく自分の宣伝に利用したんだ。”
”しかし、大衆操作とはいとも簡単にできるのだな。皆ついこの間まで皇帝が劉操になってから、税金は毎年バンバンあがる、11年前に比べて物価が100倍とか、このままでは飢え死にするとか散々文句を言っていたのに。まったくどの口が陛下万歳と言う?”
”いずれにせよ、太子には不利な展開だ。”
”とにかく大衆が早くトランスから戻って、劉操の欺瞞に気づいてほしいものだ。”
そう孔羽が思っていると、また講談師が出てきて次の部の『斬女神将軍白凛』の話を始めた。孔羽は、これを一言一句聞き逃さぬ勢いで真剣に聞き入った。
”この話の聴衆がのめり込むところを特によく聞いて覚えておこう。それは裏を返せば太子の宣伝にも使えるってことだからな。”
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