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第八章 探索

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 呂磨のゾロン邸に飛び込んだ劉煌は、すぐに家の中の雰囲気が今朝とはだいぶ違っていることに気がついた。


 劉煌がお陸にどうしたの?と尋ねると、お陸は顔を曇らせた。

「どうも、こうも、北盧国が無くなっちまったらしい。」

「それなら知っているわ。北盧国が中立を破って西乃国に侵攻して、戦争になって西乃国が勝った。」劉煌は、孔羽からの手紙を手に握りしめたままそう話した。


 お陸はそれでも信じられないらしくしきりと「北盧国の侵攻もありえなければ、西乃国の勝ち戦もありえないだろう。」とブツブツ繰り返していた。


 お陸があまりに壊れたレコードのようにありえない、ありえないと言い続けているので、劉煌は、お陸蓄音機の針を手動で飛ばすことにした。

「その2つのありえないが起こってしまったようよ。ところでゾゥ・ロンはどうしている?」

 劉煌によってようやく次に進めたお陸は、答えた。

「母国からやってきた使いと話しているよ。」


 劉煌は、厨房にいたフレッドを見つけると、後でマスター・ゾゥと話したいと伝えた。


 その様子にただならぬ気配を感じたフレッドは、お辞儀をしてからゾロンと使者が話している部屋の扉を叩いた。


 フレッドは、大きなストライドで部屋を進むと身体を縮めゾロンの耳元に口を近づけた。


 ゾロンは一度頷くと、フレッドはすぐに部屋の外に出て、劉煌が入れるよう扉の横に移動し劉煌にどうぞ中へと手で促した。


 劉煌は、普通に一緒にくればいいだけなのに、屋根裏を伝って部屋の上にお陸が移動しているのを察知して、目をひっくり返してから、気を取り直して部屋に入ると、ゾロンと使者に挨拶して言った。


「大変なことになったわね。」


 ゾロンと使者は顔を見合わせると、ゾロンは「あながちそうでもないかもしれない。」と言った。


劉煌が怪訝そうな顔をしていると、彼は続けた。


「実は、30年前に起こった大事は、私の両親の失踪事件だけではないんだ。北盧国の皇帝も秘密裏にすげ替えられたんだ。だからこの30年表向きは北盧国と言いつつ、実際はあの国は北盧国ではなかったんだ。だから私はこの30年、国に帰ることができなかった。でもこれで帰れるかもしれない。」


「夢を潰してしまうようで申し訳ないけれど、西乃国に支配されれば同じかそれ以上に悪くなるかもしれないとは考えなかった?」


 これには使者が口を挟んだ。「小高様、あなたは北盧国がこの30年どんな状態だったかご存知ないからそう思えるのでしょう。この30年の地獄をご存知ないから。我が国は骨の髄まで吸いつくされたのです。」


「・・・・・・」


「それに、西乃国の人達が皇宮を占拠した後、すぐに皇宮内の食料を民に還元してくれたのです。これなら、、、」


「話を遮って悪いけど、まだ1週間しか経っていないから真価はこれからよ。それに民への食糧配給は絶対に西乃国の皇帝の指示ではないわ。勝利した軍のトップの判断なだけよ。そのトップは絶対に西乃国の皇帝ではないわ。」

「確かに、西乃国の皇帝ではないでしょう。女性でしたから。」

「女性?」

「ええ、民に施すところは女神に思えますが、実際は猛烈に恐ろしい女で、白昼皇宮の大広間で大立ち回りし、何人兵士を殺したことか、、、彼女の前には死体が山積みされたと。。。まあ、私はその現場にいなかったので尾ひれ背びれついた話だとは思いますが、その後、皇帝の首を槍の先に突き刺して仁王立ちしていた姿を見ているので、あながち全く嘘でもないかと。」

「・・・・・・」


 ”西乃国でそんなことができそうな女性はただ一人。西域との戦争最前線にいると聞いていたが、北盧国が侵攻してきて北に移ったんだんな。”

 ”辛いことだが、お凛ちゃんとは敵味方という関係で再会することになるのだろう。”


 すっかり目を細めて劉煌が考え込んでいると、ゾロンが口を出してきた。


「ミレン嬢、どうしてあなたは民への心遣いが絶対に西乃国皇帝の指示じゃないって言い切れるのか?本当は指示があったのかもしれないじゃないか?」

「マスター・ゾゥ。あなたは西乃国の出羽島から首都の京安まで移動したことがあるわよね。その間西乃国の状態はどうだった?」

「・・・・・・」

「酷いものだったでしょう?劉操が民の全てを吸いつくしたのよ。先帝の時代はそんなことはなかった。」

「ミレン嬢、言葉を返すようで悪いが、若いあなたが先帝の時代の西乃国の地方の様子なんかわかるわけないじゃないか。」


 そのゾロンの発言に、劉煌は瞬時に目をキッと吊り上げてから、ギロッとゾロンを睨んだ。


 すると、ゾロンは、まるで自分が目に見えないロープで全身をがんじがらめに縛られているような気がしてきた。

 ”なんだ、この迫力は。今迄数々の経験をしてきたが、その中でも一番信じられないほど凄い。”


「とにかく、結論を出すのはまだ早いわ。悪いことは言わないわ。せめてもう1週間待ちなさい。あなたのためよ。」そう言うと、劉煌は立ち上がって部屋から出ていった。


 代わりに入ってきたフレッドは「坊ちゃま、旅の支度は出来上がりました。」と上機嫌に言ったが、彼のマスターは何か考え事をしているようで何も答えなかった。


 フレッドは再度「坊ちゃま」と声を掛けたが、代わりに本国からの使者が「マスターは、今考え中だ。すぐに帰国されないかもしれない。」と残念そうに小声で囁いた。


 フレッドが驚いた様子でそれに頷いていると、やおらゾロンが重い口を開いた。

「30年も待ったことだ。それが1、2週間位遅くなっても変わりはない。ミレン嬢は若いがマルチリンガルで驚くほど博識だ。しかも彼女が言うとおり、確かに西乃国はとても荒れていた。もう少し様子を見たほうがいいかもしれない。」


 使者はそれを聞くと「では、私は一人で戻ります。様子を再度確認してからまた参ります。」と言って、早々に席を立った。


 ゾロンはそれを手で制すと「まあ慌てなくていい。今晩はここで美味しいものを食べて、いいベッドで休んで、ゆっくりして行ってくれ。」と言って席を立った。


 ゾロンと使者がダイニングにやってくると、そこでは既に劉煌とお陸が席につき、お陸は御多分に漏れずワインをラッパ飲みしていた。


 ゾロンがお陸の隣に座ると、彼女は珍しく優しくゾロンに話しかけた。


「お嬢ちゃんの忠告を受け入れたようだね。賢明だよ。私がイイ事を教えてあげよう。たとえこれから情勢が益々悪くなったとしても、慌てずに耐えることだ。10年もしないうちに状況は必ずひっくり返るから。」と言うと、今度は劉煌の方を向いてお陸は、「ね、そうだろう?お嬢ちゃん。」と劉煌に相槌を求めた。


 ところが劉煌は首を横に振った。


 お陸もゾロンも使者もフレッドも、皆この劉煌のNoという回答に当惑していると、すかさず劉煌はこう言った。


「10年?とんでもない。3年以内だ。」


 お陸以外が全員ホッとした顔をしたが、お陸は珍しく青くなり「そんなこと言って大丈夫かい?」と聞いた。


 劉煌は落ち着いて答えた。

「もう呂磨の要件は終わった。残念だけど、ドクトル・コンスタンティヌスの遺体はわからなくなったし、ミスター・レジデンスの遺体は明日合同墓地に埋められるだけ。あとの用事は中ノ国だけよ。」


「あちゃー、やっぱり馬面はダメだったかい。」

「プロフェッサー・カッチーニとお互いの上腕を組んだままで見つかったわ。」

 フレッドがそれを聞いて何度も頷きながら呟いた。「それならば本望だったでしょう。」


「じゃあ、明日全員で埋葬を見守ろう。」ゾロンがそう提案したが、お陸はそれに釘をさした。

「行ってもいいけど、誰にもあんたの姿を見られないようにするんだよ。一応カッチーニ会を一掃したつもりだけど、まだ残っているかもしれないからね。」


 それを聞いた使者は驚いて席から飛び上がった。

「マスター。それは本当ですか?」

「そうだ。」

「では、本当に脅威は西乃国だけになったということですね。」

「だから、すぐ帰るつもりだったんだ。」

 北盧国人同士の会話の中に、劉煌は呼ばれてもいないのに突っ込んでいく。

「水をさすようで悪いけど、劉操もカッチーニ会と繋がりがあるわ。少なくともカッチーニ会から武器を仕入れていた。」

「劉操、、、西乃国の皇帝か!」

 使者がそう言うと、劉煌はとても嫌な顔をしてそっぽを向いた。

「でもどうしてカッチーニ会同士なのに戦ったんだ?」使者は難しい顔をしてそう言うと、劉煌が、嫌そうに答える。

「そんなこと言ったら、西乃国がずっと西域に仕掛けている戦争だってそうよ。」


 すると、お陸が懐剣を胸から取り出して見せた。


「例えば、これ。こういう武器は平和なご時世ならまあ買ってもせいぜい人生1回だ。だけど戦争になったら?大量に必要だ。カッチーニ会は表向き商工会だったけど、実際は地下で武器の製造から販売までをやっていた。西乃国と西域の戦いはまさに連中にとっては甘い汁だったんだよ。永遠と戦争が続いてね。西域が本気を出してりゃすぐ終わるのに、全然本気出していないだろう?西乃国は奴らにとってはいいカモだったんだよ。今回の北盧国の侵攻もカモったれとカッチーニ会がやらせたのに、まさかの西乃国の誰かに本気出させちゃう結果になっちゃったんだろうね。だってさ、今回の北盧国への反撃は、今迄の西乃国の戦い方とは月とすっぽんだもの。」

そう一気にまくしたてるとお陸は、次のワインボトルに手を出した。


 ~


 その頃中ノ国の皇宮では、皇帝の成多照宗が北盧国が破れた話に頭を抱えていた。

 ”(西乃国は)龍も使わずに北盧国に勝ってしまうとは。”

 ”兵部相(中ノ国の軍事に関する全てを扱う機関の長)に指示はしてあるが、軍が一朝一夕で強くなるものでもない。とにかく西乃国の矛先がこちらに向かわないことを祈るしかない。”

 ”こうなると、ご先祖さまが東乃国に封印した我が国の龍を何としても取り返したいところだが、それにはまず西乃国にある蒼石観音を手に入れねば。”

 ”蒼石観音の秘密は門外不出と言われてきたが、もうそんなことは言っていられない。


 照宗は、あまりに集中していたので、心配した羅宦官が茶を差し出したことにも気づかなかった。


「陛下、何をお悩みですか?」

 ”何かではなく、何をと聞きよったわい。”

 さすがに照宗が皇太子時代から40年彼に仕えている羅宦官は、彼に悩みがあること、しかもそれが複数あることを知っていて、そのうちのどれかと彼に聞いてきたのだ。


 照宗にとって羅宦官は、宰相をはじめ他の側近の中で、唯一その発言の裏に秘められたことを深読みしなくてよい相手だった。


 照宗は羅宦官から茶碗を受け取った際、彼にしか聞こえないくらい小さな声で「万蔵を呼べ。ただし誰にもわからないように。(ここに来るまでも)宰相らに悟られないようにと万蔵にも釘をさしておけ。」と言った。


 その晩、照宗が床につこうという時分に万蔵は天井裏からやってきた。


「陛下。」と言って跪き首をたれた万蔵に、照宗は手で彼を招き寄せると、枕もとにあった1体の蒼石観音を見せ、「これと同じものを西乃国で入手しろ」とだけ言った。


 万蔵は「御意。」と返答するや否や飛び上がり、瞬く間に照宗の視界から消えた。


 万蔵は皇宮から戻ると、すぐに配下に百蔵を呼ぶように言った。


 万蔵は皇宮で見た蒼石観音像の絵をしたためていると、「頭、お呼びでしょうか。」という百蔵の声が障子の向こうから聞こえた。


「入れ」の最後のれの字の音が残る間に百蔵は万蔵の前に姿を現した。

 万蔵は百蔵に絵を描いた紙を見せると、「西乃国にあるこの像を入手しろ。陛下からの直々の命だ。どうも蒼石サファイアでできた観音像のようだ。大きさは3寸だ。」と言ってからすぐにその絵を蝋燭の火にくべた。


「頭、では千兄の連絡係はどうしましょう。」

 百蔵の言葉で、万蔵は、すっかり劉操がいわゆる西乃国を離れ、旧北盧国の皇宮に出かけたことを忘れていたことに気づくと、「それは別の者にさせる。」と言ってから手で百蔵に退けと合図した。


 百蔵が部屋から出ていくと、奥の襖がゆっくりと開き中から宰相の仲邑備中が出てきた。

「陛下は何を考えておられるのでしょう。」万蔵が頭を下げながら備中に問うと、備中は顔をしかめて「それは私のセリフだ。頭領こそ陛下から直接話を聞いたのだろう?」と吐き捨てるように言った。


 それでも万蔵は備中にすがるように聞いた。


「陛下のお考えは全く読めません。最後に骸組に直接指令を出されたのは20年前です。しかもあの頃は西乃国はあんな国ではなかった。劉献は友好的で理想的な皇帝だった。それなのに、そんな方の所に間者を入れ、実兄を殺しすぐに侵略戦争を起こした劉操のところには、(我々に)全く陛下から指令が無かったのですよ。拙はもう陛下は骸組のことをお忘れになっているのかと思っていました。(西乃国の皇帝が劉操になって)あれから11年、ようやく陛下に呼ばれたと思ったら訳の分からない宝探しをしろと。それもあなた様には告げるなと念を押したのですよ。」


 備中は万蔵の最後の言葉に大きなため息をつくと、「陛下は誤解しておられる。私が照挙殿下を傀儡にしようと思っておられるようだ。。。まあ、そんなことはどうでもいい。中ノ国が平和に存続できるのなら、私はどう思われようが構わん。だが、いったい陛下は何でそんな物を、わざわざ西乃国で入手しろと言われるのか。」とこぼした。


 万蔵は万蔵で、「御意。手元に同じ物を持っていらっしゃるのだから、石屋にでも作らせれば、、、」とこぼしている途中に、備中が口を挟んだ。


「何だと?陛下が持っているのに、それと同じ物を西乃国から入手しろと?」

「さようでございます。」

「うーん。おそらくこれは単純なことではないな。皇帝のみぞ知る秘密があるのかもしれぬ。3か国の祭典のことは知っておろう?あの中の儀式は3か国の皇帝達だけで行うのだ。何が行われているかは他の者達は一切知らぬ。皇帝のみぞ知る秘密だ。」

「しかし、劉操に変わってから儀式は確か照挙殿下が代わりをなさっていましたよね。」

「そうだ。皇帝のみぞ知る秘密であれば、当然それを次世代に伝えなければならぬからな。つまり皇族、少なくとも皇位継承者はその秘密を知っているであろう。」

「では、照挙殿下に間者を、、、」

「間者をつけてもわかるまい。おそらく代々受け継がれてきたことだろうしな。それよりも、もし我らの推察が正しければ、皇帝が門外不出のことをほのめかしたということは、これが成功しても失敗してもこれに関わった人間は、、、」

 そう言いながら備中の顔はどんどん暗くなってきた。


 しばらくの沈黙の後、万蔵は寂しそうに答えた。

「、、、始末されるということですね。」


 またしばらく沈黙が続いた。


 備中は頭を上げ天井を見つめると、気の毒そうに囁いた。

「まだそうと決まった訳ではないが、十分に注意せよ。」

 万蔵は覚悟を決めていたのか素早く「御意。」と答えると、備中が帰るのを見送るために立ち上がった。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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