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第八章 探索

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 一方呂磨周辺諸国では、カッチーニ会員が全滅したため、全ての公的機関は下っ端だけになってしまったものの、以前から実務は彼らが行っていたため、1週間もすると滞りない日常が戻ってきた。


 お陸は、劉煌を手放すことにしていたのに、ミスター・レジデンスの行方がわからないことからまだ劉煌と共に呂磨に留まっていた。


 劉煌は、以前の呂磨滞在でドクトル・ミレンとしてかなり名前が通っていたことから、ミスター・レジデンスの行方の手がかりを掴むために呂磨警察に検死の手伝いを申し出たところ、両手を広げて歓迎され、毎日爆発現場に通っていた。そして、この日インスティンクト教会跡で検死をしていた劉煌に、すぐにテオンパン宮殿に来て欲しいとの連絡があった。

 ”とうとうこの時が来た。”


 劉煌は、頷くと道具箱を抱えてテオンパン宮殿に急いだ。


 テオンパン宮殿は、広大な敷地のうち中央のソーラパビリオンが爆発し、周辺の木々や建物がもらい火で消失していた。劉煌は、案内者の後をついてソーラパビリオン跡に行くと、既に建物の残骸がよけられて、そこだけクレーターのように深く巨大な穴が開いていた。劉煌が付けられた梯子で、穴の底まで降りると、そこには3人の遺体と思われる黒こげの人型があった。そのうち2人は向き合っていて、お互いの胸元に両手がくっついた状態で黒焦げになっており、もう1人はそこから少し離れた場所で黒焦げになって横たわっていた。劉煌は呂磨のしきたり通り、胸の前で十字を切ってから検死に入った。劉煌は向き合った遺体のうち大きい方の遺体を検死していると、遺体に溶けたルーペがくっついていることに気づいた。


 劉煌は感情を押し殺したまま、そのまま検死を続け、3人の遺体の検死報告書にサインをすると、またインシティンクト教会跡に戻って検死作業を続けた。


 ドクトル・ミレンに、あっちこっちに出向いて貰っていることに恐縮した若い警官は、気を利かせたつもりで、呂磨でも極上と誉れ高い店の事もあろうに珈琲を買ってきて、


「いやー、ドクトル・ミレン、連日ほとんど休みなしで、もう疲れがピークに達していると思います。これで元気だしてください。」と微笑んで渡した。


 ミスター・レジデンスの犠牲を確信し少なからずショックを受けていたことと、あたりの焼死体の臭いも相まって珈琲の香りに気づかなかった劉煌は、喉も乾いていたこともあり「ありがとう。」と言って何も確認せずにごくっとその黒い液体を飲んでしまったから、さあ大変である。


 劉煌は、思わず「わぁ~!にがー!」と言って顔をしかめた。


「ドクトル・ミレン、苦いのが苦手なのですか?すいません。すぐ取り替えます。」

警官は慌てて、カフェに走って行った。


 劉煌は、呂磨が好きだったが、ここに茶が殆ど普及していないことが苦痛であった。逆にお陸は、珈琲をたいそう気に入っていたが、食べ物が合わず、何でも持ってきた醤をかけて食べていた。


 検死も殆ど終わったこともあり、あとはドクトル・コンスタンティヌスの遺言状を役場に届けて手続きをすれば、ここにはもう用事はない、、、そう感傷にふけっていると、先ほどの警官が今度は大きなカップから白い泡状のクリームが盛り上がっている飲み物を持ってきた。


「好きな甘さにしてください。」


 そう言われて劉煌に砂糖と共に渡された液体は、初めて珈琲を飲んだ時とは比べ物にならないほど美味しかった。。。それどころか、劉煌は、これがかなり気に入ってしまった。


 顔を上げて「これは美味しいわね。」劉煌がそう言うと、若い警官は笑いながら「ドクトル、ここ、ここ。」と言って自分の口の上を指さした。


 劉煌は彼が何を言っているのかわからず、首をかしげて不思議そうな顔をしていると、彼は全く悪びれずに「これは最近若い女性の間でトレンドなんですが、飲むとクリームのせいで口ひげができるんですよ。」と自分の上唇の上に指を当ててそれを左右に動かしながら笑って言った。


 劉煌は、それを聞いた途端真っ青になって慌ててハンケチで口元を拭った。


 警官は、ドクトル・ミレンが女性なので恥ずかしかったのだと思い「あ、女性に大変失礼な物言いをしてしまいました。申し訳ありません。」と本当にすまなそうに言ったが、劉煌にとっては、改めて自分が女装できるタイムリミットが近づいていることに気づく出来事となった。


 その日全ての検死を終え、呂磨警察でボランティア活動終了手続きをした後、劉煌は、いろいろ考えながら歩いていたからか、気づいたらドクトル・コンスタンティヌス邸跡に来てしまっていた。思わず苦笑いしていると、彼の耳にクルックー、クルックーという鳴き声が聞こえてきた。劉煌が目線を鳴き声の方に落とすと、そこには鳩が一羽その辺りをつつきながら時折羽をバタバタさせて歩いていた。劉煌は、ハッとするとその鳩の足元を凝視した。劉煌が思った通り、その鳩の足元には小さな筒が括りつけられていた。


 ”孔羽からだ!”


 劉煌は、すぐにその鳩を捕まえるとその足元の筒を取り、中から小さく丸められた紙を取り出した。


 その紙に書かれた内容を見るなり、劉煌は、紙を懐にしまい、鳩を抱えたまま呂磨にあるゾロンの別邸目指して走り出していた。


 ~


 劉操が北盧国皇宮に入宮した晩、御多分に漏れず大きな宴が催された。


 李亮に誂えられた席は、白凛の席と中央の()を隔てて向かいのかなり離れたところにあった。

 翌早朝、西乃国中安に向けて旅立たなければならない李亮は、このチャンスを逃すと今度はいつ白凛に会えるかわからなかった。


 李亮は白凛の様子をずっと伺い、彼女が席を立った瞬間に彼も席を離れ、彼女の後を追った。


 白凛は、久邇御殿を離れ、さらに北に向かって歩みを進めた。

 そして池の所までやってくると、その縁に座って、ボーっと池を眺めていた。


 しばらくその様子を物陰に隠れて見ていた李亮は、う、うんと咳払いをすると、白凛は目線を池に向けたまま「ようやく話しかける気になったの?」と言った。


 李亮はこっそり後を付けていたものの、白凛にバレていたことに気まずさを隠せず、頭をかきながら白凛に近づくと、彼女は立ち上がって李亮の方を振り向いた。


 李亮はもう一度咳ばらいをすると「明朝中安に向けて出立する。」と言った。


 白凛は目をひっくり返して「そんなの知ってるわよ。(指令が出た時)隣に立ってたから。」と面倒くさそうに言った。


 李亮はうんと頷いてから「だけど俺は知らない。お凛ちゃんがこの後どこに行くのか。」と言った。


 白凛はこれにどう答えようか迷ったが、参謀本部に戻る人間に嘘を言っても仕方ないと思うと「父様(ととさま)の代わりよ。」とだけ言った。


 それを聞いた李亮は、とても嫌な予感がした。

 そして、白凛の腕を掴むと辺りを見まわして誰もいないことを確認してから囁いた。


「気を付けろ。俺の勘では、お前の父様(ととさま)はともかく、お前のばあやさんに直接手を下したのは、北盧国の奴ではない。」


 白凛は腕を掴まれた瞬間から抵抗していたが、この李亮の言葉は彼女にとってまさに青天の霹靂だったので、思わず動きを止め、顔を上げて彼の目をキッとした目つきで凝視した。


 李亮のその瞳は、いつものおちゃらけたものとは全く違い、初めて北盧国の皇帝を暗殺する計画を白凛に話した時と同じく真剣な光を放っていた。


「どういうこと?」白凛は姿勢はそのままで、眉間にしわを寄せながら彼にそう聞いた。


 李亮は、白凛のばあやの馬車を襲った奴らが西乃国人だったこと、国境基地に着いた時に重傷を負っている幼い趙洋の母がいないことに不審を抱き使用人に聞くと、どうも彼女は言紫(ばあや)と一緒に実家に応援を頼みに行っていたこと、それなのに襲われた馬車に彼女がいなかったことを白凛に淡々と告げた。


 言紫の死後、基地に戻った時には趙明は亡くなっており、趙洋は重傷で口を利ける状態でなかったことに酷く動転し、そこに趙明の妻:胡琴がいないことに、白凛は全く気づいていなかった。


 李亮の話から白凛は、趙明との最後の会話を思い出していた。


≪「母上は清水県に援軍の依頼に行っている。兵をつけて行かせたが、心配だ。お前も行ってくれないか。」

「それで、ばあやは今どこに?」

「県境の宿に、胡琴(つま)と共にいるはずだ。」

「それでばあやと奥方は、どちらにお連れしたらよろしいでしょう?」

「京安にある趙公府へ。たとえここが陥落したとしても、京安ならもっと時間を稼げる。」≫


 ”父様(ととさま)は何かを察してたのかもしれない。”

 ”まさか奥方が父様(ととさま)を罠にかけたの?”

 ”いや、そんな度胸はあの人にはないし、なによりも洋ちゃんを愛していた。”

 ”まさか、胡懿が…父様(ととさま)の義理の父なのに、父様(ととさま)を裏切ったの?”

 ”そんな、馬鹿な。そんなことしたら自分だって北盧国に殺られるのだから......”

 ”でも、、、”


 白凛の顔つきから、彼女が何を考えているのか予測がついてしまった李亮は、


「言っておくが、あくまで俺の勘だから。証拠も何もない。絶対に早まったことはするなよ。せっかく小さい頃からの夢を叶えたんだからよ。」と釘をさした。


 李亮としては、早まるなと言いたかったのに、白凛が反応したのは、小さい頃からの夢を叶えたの部分だった。

 白凛はすっかり驚いた顔をして彼を見上げ「そんなこと覚えていたの?」と呟いた。


 ”お凛ちゃん、君の夢を俺が忘れるわけないだろう?”


 そう心の中で絶叫しながら李亮は、左の口角だけ上げてふっと笑うと「当り前さ。女の子に将軍になるのが夢って言われたら誰だって忘れねーよ。」とわざと茶化して言った。


 白凛は苦笑しながら思わず「そりゃそーだ。」と言うと、11年前小白府に劉操が脅しに来た時を思い出し「まさか陛下がその夢を叶えてくれるとは思わなかったわ。」と呟いた。


 それを聞いた李亮は、今日の昼、李亮をはじめ誰も知らなかった本物の皇帝を、白凛だけが全く迷うこともなく見抜いて素早くその前に跪いたことを思い出した。


 ”まさか、お凛ちゃんは本当に劉操の駒なのか?”

 ”そう言えば、政変時、先帝と太子の関係者は一族皆殺しにあった。大白府(白家の本家で白凛の祖父・伯父一家)はすぐ皆殺しになったのに、誰よりも太子に近かったお凛ちゃんと小白府(白家の分家で白凛の一家)が殺されなかったのも、考えてみれば妙な話だ。”

 ”お凛ちゃんが太子に近づいたのは、劉操からの指示だったのかもしれない。。。”


 ”ならば、いずれ敵味方として相まみえることになるのか。。。”


 そう思うと、李亮の顔は酷く曇った。

 だが、李亮はたとえそうなったとしても、白凛には生きていてほしかった。


 李亮はまた真剣な顔つきに戻ると、白凛を熱く見つめて「お凛ちゃんのばあやさんと我々を襲った奴らを捕まえて第五歩兵部隊に連行させていたんだ。もう(最北端の国境)基地にはいくらなんでも着いているはずだ。基地に戻ったら隊長の呂葦に聞くといい。」と静かに言った。


 そして身体の向きを変え、白凛の正面に立つと、彼女の両肩を優しく手を丸めて包み込み、彼女の目をジッとみながら「とにかく早まるな。命を大切にしろよ。それで、、、俺が必要になったらいつでも連絡してこい。」と言った。


 白凛は、今後李亮に連絡するつもりなど毛頭無かったが、ここで不要と言ったら、また李亮の長ったらしい話が始まるだろうと思うと、とりあえずうんと1回だけ頷いてみせた。


 李亮も同じく1回うんと頷くとそのまま踵を返して久邇御殿に向かって歩き出した。白凛は彼を目ですら見送ることなく、すぐにまた池の方を向くと、そこに脚を抱えてうずくまった。


 李亮は歩きながら空を見上げた。

 空には星が所狭しと無数に輝いていた。

 白凛に命を大切にしろと言っておきながら、彼自身はたった4人位で何百万の敵相手に戦いを挑むことになるのだ。

 その時がくれば、彼の最愛の人:白凛と剣を交えることになるかもしれない。


 李亮は視線を自分の目の前にデーンとそびえ立つ久邇御殿に移した。

 ”ま、どうせ殺られるんなら、汗臭い男じゃなくてお凛ちゃんに殺られる方がいいか。”


 そんなみょうちきりんな落としどころに落ち着いた李亮は、首を左右にふりながら久邇御殿の裏門を潜り抜けた。



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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