第八章 探索
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
「プロフェッサー・カッチーニ・・・・・・」
ミスター・レジデンスがそう唸るように呟くと、劉煌とお陸は思わず顔を見合わせた。
「なんだ、お前も死んでいなかったのか、ミスター・レジデンス。」
ミスター・レジデンスからプロフェッサー・カッチーニと呼ばれた男は、両腕をソファーの背もたれに乗せてふんぞり返って座っていた。
「なんだ、自分の追悼集会に人が集まるのかチェックでもしようとしているのか?」
挑発的にミスター・レジデンスがそう言うと、プロフェッサー・カッチーニは大声で笑い出した。
「いやー、君こそ死んでいる間に、人を透視する力がすっかり落ちてしまったようだ。」
ミスター・レジデンスは忌々しそうな顔をして言う。
「イエス・キリストの真似事でもしようというのか。」
「ドラマチックでいいだろう?」
そう言うとプロフェッサー・カッチーニはソファーからやおら立ち上がった。
ミスター・レジデンスとプロフェッサー・カッチーニはお互いの目を凝視して睨み合った。
お互い一歩も譲らず睨み合っている光景が、よほどお陸の目に面白く映ったのか、お陸は彼らの間に入って両腕を上げて手を振って見せたが、2人とも視線は変えず同時にお陸をサッと視界からどかして睨み続けるのを辞めようとはしなかった。
お陸は、劉煌の方を振り返ると、顎で行くよ!と合図した。
お陸と劉煌は、この2人のナルシストが睨み合っている間に、サッサと4つの扉を一つずつ開け、それぞれの通路頭上に並行して走る通気口にからくり人形を設置し発条をmaxまで巻いて歩ませ始めた。
すぐにその場を離れ、4つの扉に鍵を掛け劉煌とお陸が振り向いた時も、ミスター・レジデンスとプロフェッサー・カッチーニは先ほどと全く変わらない位置で、同じように睨み合ったままだった。
お陸はミスター・レジデンスの横まで来ると、そこで背伸びをして彼の肩をポンポンと叩きながら声を掛けた。
「馬面、いい加減にしなよ。」
「いい加減?とんでもない。ここで決着をつける。」
ミスター・レジデンスが相変らず目線を外すことなくプロフェッサー・カッチーニに向かってオクターブ低い声でそう言うと、プロフェッサー・カッチーニも間髪入れずに「望むところだ。」と静かに答えた。
2人の間には、まるで青い炎がメラメラと音をたてて立っているかの如く、烈しい気が立ち込め、どちらも一歩も引く気配はなかった。
劉煌とお陸は顔を見合わせると、2人をそこに残したまま廊下に出た。
2人はあちこち見まわしたが、そこにいるのは先ほどお陸が気絶させた見張りがまだそこで気を失ったまま横たわっているだけだった。2人は同時にくるっと回ると呂磨警察の制服に変わり、お陸が階上に上がったのを見届けてから劉煌が、ベルを叩いてカンカン音を鳴らし「火事だ!火事!」と叫んだ。
その音で目が覚めた見張りをもう一度気絶させてから劉煌は、階上まで駆け上がった。
そこで劉煌が目にしたのは、パニックになって右往左往している人々と、冷静に彼らを外へと誘導しているゾロン、フレッドとお陸の姿だった。劉煌は彼らと合流し、どんどん人々を外に誘導し、後ろが詰まっているからと言って、建物から遠くへ遠くへと避難させた。
~
、
夏至の日 呂磨時間15時、呂磨中を震撼させる出来事が起こった。
呂磨にある3つの教会、カッチーニ会本部とテオンパン宮殿の中央が、白昼同時に木っ端みじんに吹き飛んだのだった。
ただ、その日震撼したのは呂磨だけではなかった。
呂磨より東1800里(約7000Km)離れた北盧国の首都:城都も震撼していた。
何故なら、城都の中心にある皇宮の門の上で、現帝の首から上を槍にさし、仁王立ちしている武将が現れたからであった。
その武将は、大声で何かを言っていたが、それは北盧国語ではなかったので市民は何を言っているのかわからなかった。ただ、その声が男ではなく女の声だったので、市民は度肝を抜かれていた。
市民が何事かと騒然としていると、李亮に連れてこられた縄でグルグル巻きに縛られている首相が、その武将の横に現れ、集まっている市民に大声で皇帝の死を伝えた。
しばらく水を打ったようにシーンと静かになっていたその場だったが、突然、一人の男が
「やったー!万歳!」
と叫ぶと、至る所で市民による万歳三唱が起こり、喜びの奇声・歓声、中には爆竹を鳴らすものも出るほど市民は狂喜乱舞した。
この展開に白凛は、皇帝の首を刺している槍を握ったままガクッとすると、李亮は首相に説明を求めた。
首相は呟いた。
「我々は、これで地獄から解放されたのだ。」
~
西乃国の最北端の国境基地に、白凛が北盧国皇帝を打ち取ったというニュースが流れ込んだのは、同日の夜のことだった。
これに勢いづいた西乃国の同胞は活気づき、それに対し騎兵数で圧倒するはずの北盧国軍は、軒並み浮足立ち、瞬く間に北盧国軍は散り散りになって逃げ出してしまった。
その話はまるで光速のように海の御用邸にいた劉操に届き、彼が禁衛軍1万騎と共に北盧国の首都:城都についたのは、白凛達が北盧国皇宮を占拠して1週間経った時だった。
北盧国首都を制圧した10人の先鋭隊は、文学好きの隊員の遊び心から、いつしか参謀である李亮と敵国皇帝を打ち取った白凛から李白部隊と呼ばれるようになっていて、西乃国皇帝の劉操が北盧国皇宮に入る時も、この李白部隊全員が門前に並んで劉操を迎えた。白凛以外の9人は、劉操の影武者を劉操と思って馬車から降りた人物に恭しく跪いて一礼をしたが、白凛はおもむろに影武者の左横に立っている衛兵の前に進み、そこで跪いて一礼をした。
「校尉白凛、陛下に拝謁いたしまする。」
李亮が驚いて振り向くと、その衛兵は、李亮の記憶では出羽島で李亮達3人を呼び出した人物で、自らを劉操の側近と名乗っていた人物だった。
その衛兵の恰好をした人物は、白凛に向かって「うむ」と一言だけ声を発すると、皇帝の衣装を着た人物の前に躍り出て、胸を張り先頭を切って歩き出した。
皇帝の衣装を着た人物が、自分の前に躍り出た人物に礼をしている間に、白凛はすぐに衛兵姿の劉操の斜め後ろについて歩き出した。その後、皇帝の衣装を着た影武者が遅れて歩き出したが、李白部隊の隊員達は何がなんだかわからずそこでしばし立ち尽くしてしまった。
「とにかく、俺たちが行かないと話が始まらない。行くぞ。」
李亮が気を取り直して隊員たちにそう告げると、彼らは長々と続く西乃国禁衛軍の行進の途中に割り込んだ。
行進は途中で止まったが、それでも李白部隊の隊員たちは前に進み、1週間前に自分たちが乗り込んだ大広間の前にやってきた。
大広間の前には禁衛兵以外に宦官が立っており、その宦官の所に伝達係の宦官がやってきて何やら小声で話すと、その宦官は李亮たちの方をチラッと見て「参謀本部の李亮はいるか?」と聞いた。
李亮は1歩前に出ると宦官に一礼し「ここに。」とだけ言った。
宦官は李亮の側迄来ると彼の背の高さに驚きを隠せず、首を高く傾け甲高い声で「陛下がお召しである。」と言ってから、「さあ。」と言って開けた扉の方へ手で彼を促した。
すると、大広間の中から「参謀本部李亮」と叫ぶ声が響き、それと同時に李亮は大広間に1歩足を踏み入れた。
人々の視線を浴びながら李亮は、大広間の中央を一人、前へと進んだ。
流石に皇帝の手前、扇子を仰ぎながら歩くことができなかった李亮は、右手を丸めて腹の前に置き、自分の着物を指でいじって自分を落ち着かせながら前へと進んだ。
そして白凛がいる場所の横までくるとそこで歩みを止め、跪いて一礼しながら「参謀本部李亮、陛下に拝謁仕ります。」と言った。
李亮がそのままの恰好でひれ伏していると、劉操は、側にいた宦官:宋毅に何やら告げた。宋毅はすぐに李亮のところまでやっていき「陛下の思し召しです。」と言って李亮を立ち上げようとした。
李亮はもう一度深くひれ伏して「ありがとうございます。陛下。」と言ってから、宋毅の手をかりて立ち上がった。
劉操の李亮への最初の言葉は「また大きくなったようだな。」だった。
それを聞いた白凛は、李亮の横でギクッとした。
この2週間は、とにかく趙明と言紫の敵討ちとその後処理のことで頭も心もいっぱいで、すっかり脇に置いてしまっていた、”李亮が信頼するに価する人間であるのか”という疑念が、この一言で一気に再燃してしまったのだった。
横に立つ白凛の動揺を知ってか知らずか李亮は、頭を下げながら「陛下のおかげでございます。」と言うと、その珍回答がツボにはまったのか、はたまた11年以上不毛の戦いを続けてきて初めて勝利したことに上機嫌になっているからか、劉操は「ほぉ~?」と言ってから、ハハハと大声を上げて笑った。
しばらく笑っていた劉操だったが「白将軍から聞いたぞ。(この奇襲は)お前の策だったそうじゃないか。さすが朕が見込んだ男なだけある。」と言うと、彼の横に戻ってきたばかりの宋毅に顎で指示を出した。
”白将軍、、、ってことはお凛ちゃんは将軍になったのか。。。”
宋毅は、また壇下の李亮の前までやってくると、やおら手にしていた大きな布を広げた。
李亮は事態を素早く察知し、そこですぐに跪いた。
「李亮は、以前から緊急時にも慌てることなく、臨機応変に対応し、国家に貢献してきた。その功績により、階級を上げ参謀本部次長とする。以上」
読み上げてから聖旨を畳み、跪いている李亮の両手に聖旨を乗せ「直ちに中安の本部に戻るように。」と言ってから、宋毅は、劉操の元へと戻っていった。
”以前からって、いったいいつから劉操の手先だったの?”
聖旨を持って立ち上がる李亮の横で、白凛は両腕を自分の横にピタっとつけたまま、真っ白になるほど拳を強く握りしめ、自身がワナワナ震えるのを必死に抑えて立っていた。
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