第八章 探索
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
北盧国首都:城都:夏至の日の午前9時半
見事に北盧国皇宮の正門を正々堂々と跨いだ李亮と白凛の一行は、その先にそびえたつ白亜の久邇御殿に続く赤い絨毯が敷き詰められた外階段を、緊張しながら一歩ずつ登っていた。
李亮は、右斜め後ろを歩く白凛をチラッと見ると、やれやれと頭を横に振って「皇帝に御目通りするってのに、それじゃ、敵を打つって丸出しだぞ。」と嘆いた。
そのセリフに白凛を襲っていた妙な緊張感は一気に取れ、彼女は李亮をギロッと睨んでから”いーだ”という顔をしてみせた。
それを見た李亮は、顔を正面に戻すと、正面を向いたまま左の口角だけ上げてフッと笑った。白凛からは李亮の顔は全く見えなかったが、彼がどんな顔をしているのかが目に浮かび、彼女もまた左の口角だけ上げてフッと笑った。
再度カッチーニ会のシンボルを見せて久邇御殿内に入った彼らは、宦官の案内で皇帝との謁見ができる唯一の場所である大広間に入ると、すぐに中央を練り歩いた。北盧国の皇宮も、西乃国皇宮と同様、皇帝と謁見できる場所は、広大なフロアと、皇帝と皇帝直属の数人しか登ることの許されない階上に別れていて、下々と言っても重鎮たちもそうであるが、フロアから上に上がることはできない。
皇帝との距離が最も近い場所までフロアを進んだところで、彼らは、皇帝と重鎮達に挨拶した。
これもまた西乃国の皇宮と同じように、最前列まで行っても皇帝の顔は見えないくらい遠く、また皇帝から見ても、フロアの最前列の女の顔等全く見えなかった。
皇帝は、白凛だけ1段上がるよう指示した。
白凛はお辞儀をしてから1段登ったが、頭を北盧国の女性のように大きく作っていたので、彼女の顔を皇帝は見ることはできなかった。
皇帝はイライラしながら、手で白凛をもっと前へと促した。
しかし、白凛がまたお辞儀をしてから1段登ると、なぜか階上階下含めてその大広間にいた人物が次々と力なくその場に倒れ始めた。
白凛の懐刀である常義が目視で全員倒れていることを確認するや否や、倒れている衛兵の所まで走っていくと、衛兵の呼吸を確認した。
「完全に眠っています。」
「へえー、本当に効いたんだ。」
李亮の方を振り向いて感心してそう言うと、白凛はすばやく壇上に登り、皇帝の椅子に座りそのまま前に突っ伏している男を乱暴に背もたれに戻した。
すると、その勢いでその男の頭から黒い塊が落ちた。それを見て白凛は、思わず「えっ?」と叫んだ。
大きなストライドで白凛に追いつき、皇帝の机の上の香炉を掴んでいた李亮は、背後からの白凛の叫びに直ちに反応して後ろを振り向くと、彼もまた驚きのあまり細い目を大きく見開いて、なんだ?と呟いた。
李亮はすぐに我に返ると、香炉を元に戻し白凛と共に皇帝の椅子に座っている彫りの深い顔立ちの金髪の男を椅子にしばりつけた。
「ここ(皇帝の椅子)に座ってはいるが何者かまだわからないからな。俺がいいって言うまで絶対に手を出すなよ。」
李亮がそう白凛に釘をさすと、白凛は口を尖らせ一度肩をすくめてからすぐにその場に倒れている衛兵の剣を抜いて、目の前の皇帝の椅子に括りつけられた男の喉元にその剣先を突きつけた。李亮は、白凛の姿をもう一度見てからやおら香炉を携えて檀下に飛び降りた。
その間8人の隊員たちは倒れている者を次々にしばりあげ、李亮は、香炉を広間の中央に置き、その中に2種類の香を追加でくべた。
するとしばらくして静かに倒れていた人達の身体は完全にコントロールが利かなくなり、ピクピクと痙攣し始めた。あたりは、声にならない声と身体の痙攣による床の不規則な振動が無機質にこだましているだけになった。
李亮は、重鎮の中でも一番前にいた紫の官服を着た男を縄でしばり、自分の懐から瓶を取り出し、その中から黒い丸薬を1粒取り出すと、その男の口を開けてそれを無理やり飲み込ませた。
すると、その紫官服男の痙攣は止まり、口もきけるようになった。
李亮は、彼をしばりつけている縄を掴んで皇帝のいる一段下の段まで連れて行った。
李亮は、紫官服男に低い声で
「助かりたかったら教えろ。あの男は本当に皇帝か?」
と白凛が剣を突きつけている相手を指さして言った。
李亮の前の男は、痙攣も治まり、口を歪めながら一言「そうだ。」と答えた。
李亮は間髪入れずにその男の頬を一発殴ると、叫んだ。
「嘘つくんじゃねぇ。どう見たってあいつは北盧国人じゃねぇーじゃねーか。東域にあんな顔の奴がいるわけねえ。しかもそれが皇帝って!ありえねぇだろう!」
それを聞いた白凛は、李亮に向かって「お仲間よっ!同じだもん。」と叫びながら皇帝の席に座っている男の胸元を指さした。そこには、カッチーニ会の銀色のシンボルが不気味に黒い光を放って輝いていた。
それを聞いた李亮は、懐から薬包紙の包みを取り出すと目の前の男に見えるように中身を広げてみせた。それは見るからに毒とわかる真っ赤な粉末だった。
紫官服男は、恐怖のあまりひどく震えながらも必死に抵抗した。
李亮は彼の口元に薬包紙を近づけながら「本物はどこにいるんだ?」と怖いほど優しく聞いた。
「本物も何もない。(見てくれが)北盧国人じゃなくたって皇帝は皇帝なんだ。」
李亮は小さい頃から憧れていた久邇気弥皇帝の肖像画を思い出すと、容赦なく男の口角に赤い粉をつけ、白凛の剣の先を指さして叫んだ。
「あれが久邇気弥皇帝の子孫だっていうのか? ふざけるな!!」
男は赤い粉が口の中に入らないようにフーフー口角に息をかけ、ペッペと何度も唾を吐きながら、かろうじて「そう言われているのだ。」と言った。
まるで昔話のような、そう言われている等という曖昧な返事に完全に頭にきた李亮は、
「何だよ、そう言われているってのはよ!」と叫んだ。
男は困り果てて必死の形相で答える。
「本当だ。嘘じゃない。30年前に先帝が突然譲位されたのだ。その昔、久邇気弥皇帝が西域遠征で彼の地でも王国を作ったことを知らない奴はいないだろう?だから西域の血が入っていてもおかしくないのだ。」
「そんな話聞いていないぞ。」
「そりゃそうさ。この国の者だって知っているのは僅かだ。」
「先帝は?」
「29年前に亡くなった。」
「他の皇族は?」
「(先帝と)同じころに全員亡くなった。今は陛下とその女達だけだ。」
「ということは、久邇気弥皇帝の血を引く者はもういないってことか。」
「だから今の皇帝が子孫だと言われているんだ。」
また”言われている”と言ったので、李亮は男の口を無理やりあけて、その口に赤い粉末を全て流し込みたい気持ちをグッと抑えて、本来の目的を達成するために男に尋ねた。
「永世中立国のくせに、なんで西乃国を攻撃することに決めたんだ。」
男は赤い粉末からなるべく顔を遠ざけながら言った。
「皇帝からの指示だ。」
「なんで誰も反対しないんだ。」
「陛下の言葉は絶対だ。血を分けた皇族だってみな容赦なく殺されたのだ。」
ブシュッ
突然鈍い音が上から聞こえてきた。
李亮が慌てて頭を上げると、ちょうど白凛が皇帝の椅子のクッションを刺したところだった。
李亮は思わず「おい、俺がいいって言うまで本当に殺るなよ。まだそいつの話を聞いていないんだからな。」と苦言を呈したが、白凛は振り返りもせず「あんたがそこでウダウダ管巻いているからじゃない。父様とばあやの敵なのよ。早くしてよ。もう待てない。」と全く悪びれずに言った。
李亮はため息をつきながら、「絶対手出すなよ。」とだけ言って、また紫官服男に目線を戻した。
李亮は、白凛のせっかちな性格が全く変わっていないことに内心苦笑しながら、気を取り直して紫官服男の尋問を始めた。
「お前は誰だ?役職は?」
「しゅ、首相、牛鍛、、、」
紫官服男がそう答えた瞬間、キーンズバッという音が、李亮の耳を直撃した。李亮が反射的にそれらが襲ってくる方向に顔を向けると、ドバッと生暖かく真っ赤な血が大量に李亮の顔を直撃した。
瞬時に李亮の視界は真っ赤に染まり、辺り一面ただ赤い色一色になってしまった。
何がなんだかわからない李亮は、何度も瞬きをしたり目を手でこすった。
次第に彼の視界は、全体的にどす赤いものの、物の輪郭がはっきりしてきた。
そしてその次に李亮の目に映ったのは、白凛が切り取った皇帝の生首を、近くにあった槍に刺しているところだった。
李亮は、自分の顔に直撃した生暖かい液体の出所とその正体をようやく察知すると、口に入った物を吐いたが、そのヘモグロビン特有の鉄の味や臭いが鼻につき、顔についている液体の赤い色とは対照的に、彼自身の肌の色はどんどん青くなっていった。
オ、オエ~
李亮は、吐き気と猛烈な悪寒に襲われ、すぐに目線を外して、皇宮突入前に食べた麺を思いっきりその場にまき散らしてしまった。
その隙に李亮に尋問されていた首相は悲鳴をあげて助けを呼んだが、すぐに李亮の隣にいた隊員に殴られて意識を失った。
しかしその声は、広間の外に待機していた宦官と衛兵達にまで聞こえてしまい、衛兵たちが扉を開けて一気に広間になだれ込んできてしまった。
これに白凛は、嬉々として「そう来なくっちゃっ♡」と叫ぶと、即座にそこに飾ってあった弓矢を掴み、弓を横にして一度に3本の矢を掴んでなだれ込んできた敵をめがけて弓を射続けた。
李亮も手の甲で口を拭うと、白凛が投げた弓矢を受け取り矢を射って応戦した。
白凛の手元の矢が尽きた時、彼女は迷わず皇帝の剣を抜き「父様とばあやの敵いいいい、覚悟おおおおお~うおおお~」という雄たけびを上げながら2本の剣を両手に持ち、広間中央に躍り出て剣を振りかざした。
そして、一人切っては、ひとーり!、また切ってはふたーり!!と、切り殺した数を自ら大声でカウントしながら2本の剣を器用に扱い、次々と敵を打ち取っていった。
頭を大きな大拉翅にしてドレスアップした美女が、バッチリ美人メイクで鬼の形相になり、返り血をもろともせず切るたびに数を大声で叫びながら、次々と敵を切り捨てて行くその異常な迫力に、人数で圧倒するはずの北盧国皇軍は完全にビビッてどんどんと後退していった。
そういう白凛に、李亮も隊員達も続いたので、戦闘経験の無い実質お飾り軍だった北盧国皇軍はあっという間に死体の山になり、それを見た後続部隊は戦おうともせず次々とあっけなく白旗を挙げていった。
自身のアドレナリン量が平常に戻った李亮は、以前は全く平気だったのに、さっきの予期せず皇帝の返り血を顔に思い切り浴びたことが大きなトラウマとなり、目の前の死体の山と臭いから先ほど目と口に入った赤い液体を思い出し、気絶寸前になってしまった。
気力だけで剣を杖にして自力で立っていた李亮に、頭の天辺からつま先まで返り血で真っ赤に染まっている白凛が、わざわざ彼の方に顔を向けてまったく悪びれることなく
「切り落とした皇帝の生首、持ってくるけどさ~、鬘も付けといたほうがいいよね~。」
とまるで「お団子食べる?」とでもいうかのように、非日常的なことを普通に話しかけた。
李亮は震えながら白凛の方を見ないようにして答える。
「す、好きにしてくれっ。。。」
なんとか気力だけで気絶を食い止めていたのに、白凛のこの一言で李亮は、ついさっきの出来事をまた思い出し、吐き気を催すと隣の隊員に支えて貰わないと立てない状態にまで追い込まれてしまっていた。
そんな彼を白凛は、”偉そうに参謀なんかしているから体力が落ちるのよ” と心の中で見下しながら、槍の先に刺した皇帝の生首に黒のドレッドヘアスタイルの鬘を被せた。
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