第八章 探索
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
一方、呂磨では、爆破の最終確認が終了し、明日の決行を待つのみとなっていた。
案の定お陸が、前祝いをやろうと言いだし、その夜はいつも通りお陸だけが盛り上がっている宴会となった。
「まったく、君の師匠はいったい何を考えているんだ。赤ワインをラッパ飲みする女は初めて見た。」
いつもは、自分が鼻つまみ者になる方のミスター・レジデンスは、完全にお陸に自分の御株を奪われて憮然としていた。
「私も最初は驚いたんだけど、何故か事を起こす前にもう成功したつもりで師匠と一緒にお祝いすると何でもうまくいくのよ。でもいつも本当にヒヤヒヤするのよ。べろんべろんになるまで飲むから。だから明日の決行時間も追悼式の開始時間じゃなくて終了間際にしたって訳よ、師匠の酒が抜けるのに時間がかかるから。」
ワイングラスをくゆらせながら劉煌は、そうミスター・レジデンスに答えた。
20歳になった劉煌は、お陸の特訓の成果で酒も強くなっていたが、酒に吞まれるような飲み方は初めて酒を飲んだ時だけで、高貴の血が成せる業か、それ以降は量よりも質にこだわっていた。
「私はタバコは依存症だが、酒だけは解せぬ。あんなまずいものを飲んで、酩酊状態になっていったい何が楽しいんだ?しかも、その先にあるのは悪心嘔吐と頭痛ときている。」
「それはミスター・レジデンスのお国が、お酒と言えば蒸留酒だからじゃない?アルコール度数が高すぎるし、お食事の御供でお酒をいただかないのでは?呂磨を御覧なさいよ。お酒は、お食事と併せて楽しむのよ。ほら、この赤と牛テールの煮込み。うーん、最高の相性よ。試してみて。」
劉煌は、そう言って薄明りの中では、赤というより黒に近い色の中身の入ったワイングラスをミスター・レジデンスの方に向かって傾けた。
「そんなうんちくは、君に言われなくてもわかっている。ただ、今日は試すときではない。明日があるからな。」
「そうね。」
劉煌は、初めてミスター・レジデンスに同意すると、正面に陣取っているお陸をチラッと見た。
お陸の横で、ゾロンはまるで彼女の付き人と化し、お陸の我儘;あれ食べたい、これ取ってという願いを全て叶えてあげていた。そんないたいけな主人の後ろに控えて、フレッドは大きなため息をついていた。
”そろそろ潮時ね......”
劉煌は、ワイングラスに入っていた深紅の液体をグッと飲み干すと、席から立ち上がってお陸の横に行き「さあ、さあ、師匠もうお開きにしましょうよ。明日は大事な日なんだから。」と言いながら、彼女の手からワインの瓶を優しく取り上げた。
お陸はムッとして見せながら「じゃあ、明日。」と言って、いきなりそこでドロンと消えた。
劉煌以外の全員が驚いていると、劉煌は手を振りながら「もう寝巻に着替えてベッドに入っているわ。いつものことよ。」と取りなしてから彼もまたそこでドロンと消えた。
「本当に噂では聞いていたが東域のスパイのレベルは半端ない。この仕事が終わったら奴らについていこう。」
そうしみじみ呟いたミスター・レジデンスに、「そうだ。それがいい。私も一緒に行く。」とゾロンが相槌をうち、それを聞いたフレッドがその場で頭を抱え恨めしそうな顔で2人を見つめた。
そしてその頃お陸は、自分の部屋ではなく、屋根の上で空を見上げていた。
ここは、呂磨と違いあたりに集落はおろか家一つ無いので、雪のように白く光る星の輝きを遮るものは何もないからか、空一面星、星、星だらけだった。
そんな滅多にお目にかかれない自然の天体ショーなのに、天を見つめているお陸の目には、その無限の星の中でも自分が一番とでもアピールするかのごとく瞬いている大きな星でさえ、ただ目に映っているだけで、自分の目が星を見ていることすら認識していなかった。
”明日でお別れだ。もうあの子と会うこともないだろう。”
すると、お陸の目に11年前小高美蓮ですと言って跪いた劉煌の姿が、ありありと浮かんできた。
西乃国の政変で手塩にかけて育ててきたお陸の技の継承者を全員失い、それが原因で骸組とも距離を置くことになり、もう自分の技を伝授することもないだろうと農作業だけをしていた彼女の目の前に、彗星のごとく現れたのが劉煌だった。初めから劉煌が何者であるかわかっていたお陸は、その時からこの日がやってくるのはわかっていた。
それに男が女のふりをするのも、もう肉体的に限界にきていた。
ただ、それだけではない。
彼には全うしなければならない使命があった。
くノ一は常に死と隣り合わせの危険な職業だ。
しかし、彼がこれから向き合うのは、そんなくノ一がかわいく見えてしまうほど危険なことだった。この世界ナンバーワン忍者のお陸をもってしても、彼のためにしてあげられるのは、ただ彼の無事を神に祈ることだけだった。
自分が感傷にふけっていることにようやく気づいたお陸は、思わず苦笑し「私も焼きが回ったもんだねぇ。まだ明日の大仕事も終わっていないのに。見てくれは誤魔化せても、中身は婆さん丸出しだ。」と寂しそうに一人で呟いた。
~
北盧国首都:城都ー夏至の日の午前9時ー
北盧国首都の城都に着いた白凛は、北盧国のネイティブも騙せる会話力の隊員と連れだってまず服屋で服を新調し、次に髪結い処に行って髪と顔を整えた。
髪結い処の道を隔てた屋台で向かいの様子を見ながら麺を食べていた李亮と他の隊員は、髪結い処から出てきた通訳隊員が彼らの視界に入ると、彼に向かってヨッと手を上げ、どうした?と声を掛けた。
彼は李亮らが「どうした?」と言ってくることの意味がわからず困惑した表情を浮かべていると、李亮は箸で髪結い処の方をさして言う。
「彼女を一人店に残して大丈夫なのか?」
すると、通訳隊員が益々困った顔をして斜め後ろを振り向くと同時に「私ならここにいるけど。」というちょっとムスっとした白凛の声が皆の耳を直撃した。
その声の方向を見た全員は、驚愕のあまり思わず、一斉に口をポカーンと開けてしまったため、彼らの口に入れていた麺は、そのままダラダラと次々に元あった場所であるどんぶりの中に自動的に戻っていった。
なんとそこには、美しく化粧を施した、頭の部分は髪を結い大きな扇型の大拉翅にしてその両端には桃色の花と金の鳥型の簪をあしらい、首から下は、深紅の地に金の縁取りと大きな孔雀の豪華な刺繍の入った満州服を着た絶世の美女が立っていたのだ。
白凛は、将軍になるための英才教育を受けてきたが、それだけでなくばあやから女性としての躾けもきちんと受けてきた。それ故ドレスアップ・メイクアップすると、ばあやから躾けられた淑女スイッチが作動し、通訳隊員の斜め後ろをそろそろとついてきていたのだった。
李亮は、他の隊員達が白凛ショックからリカバリーしてもまだ一人トランス状態にいて、口をポカンと開け箸を空中に留めたまま、白凛を見つめていた。
「いやー、これなら必ず(皇帝に)御目通りがかないますよ!ね、閣下」
李亮の偉そうな口・態度もさることながら、国境から敵陣を抜けるという難関を彼の的確な戦略で潜り抜けてきたこの隊の面々は、そんな彼をいつしか閣下と呼ぶようになっていた。
そして李亮もいつしかそういう呼ばれ方に慣れてしまい、彼の右横に腰掛けていた菟隊員の閣下という呼びかけでようやく我に返った。
「さ、そろそろ乗り込むか。みんな昨日話した作戦で行くが、何しろ敵陣の中はどうなっているかわからないからな、細かいところは臨機応変に頼むぞ。」
~
呂磨ー夏至の日14時ー
劉煌、お陸、ミスター・レジデンス、ゾロンとフレッドの5人は、それぞれ観光客を装ってテオンパン宮殿内に潜入していた。
テオンパン宮殿の中央に位置するソーラパビリオンのサロンに他の観光客と一緒に入室した5人は、今迄のリハーサルと同様、ゾロンとフレッドがサロン内で見張り役、後の3人が見学を装いながらコースから外れ、地下への階段を降りるために廊下に出た。
その瞬間、劉煌とお陸は顔を見合わせた。
その2人を観たミスター・レジデンスは、いつもどおり彼らの表情等から状況を読みだし「今日は特別な日だからな。いつもいない見張りがいておかしくない。」と言った。
お陸は2人の方を振り返って「この手の仕事は、プラン通りに行く方が珍しいんだ。」と呟くと、それに頷いた劉煌がミスター・レジデンスの腕を取って、別の方向に歩きだし、お陸はそのまま階段をまるで自分の家のように降りていった。
階段下にいた見張りは、お陸の装いから完全に迷った観光客と誤解し、身振り手振りを加えながら、「お嬢さん、ここは部外者立入禁止区域だ。戻って。」と注意したが、お陸は北盧国語で「大丈夫、大丈夫。」と言いながら右手の親指を立てて見せた。
相手に言葉が通じていないことに気づいた見張りの男は、今度は持っている武器を振り上げながら「だから、ここに来ちゃいけないんだ。」とお陸を威嚇したが、お陸はまたも全然相手の言っていることがわからないふりをして、、、実際正確にはわからなかったが、たぶんここ来ちゃダメと言っているんだろうとは理解していた、、、そのまま両掌をキラキラ星の振付のようにはためかせ、右左にスイングしながら階段を降りていった。
見張りの男は困り果てて、武器を振り上げたままこの招かざる客の扱いをどうするか気をもんでいたが、彼の目の前まで降りてきたお陸の頭頂を見たままの形で、声も上げられずにそこで失神する羽目となった。
お陸は、気絶した見張りを音を立てないように横たえると、段上の劉煌とミスター・レジデンスを見上げて顎で合図した。
2人は階段を掛け降りると、すべての施設に続く通路が始まる地下の部屋の重い鉄の扉を開いた。
しかし、ギーという鈍い音を立てて開いたその扉の向こうに彼らが目にしたのは、全く予想もしなかった光景だった。
それを見たその手の訓練を受けていないミスター・レジデンスは、思わずそこでうううと唸り声を上げてしまった。
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