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第八章 探索

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 結局昨晩と同様4人は馬車に乗り、、、と言っても、その馬車は、昨晩の馬車とは180度違い、呂磨で最近走り出した乗合辻馬車とそっくりな粗末な馬車で、フレッドが御者をしていたが、、、呂磨に向かった。


 馬車に揺られること10分の時点で、お陸は待ちきれずに劉煌に聞いた。

「それで、遺言執行者ってのは誰なんだい。」

 劉煌がそれに答えようとした瞬間、ミスター・レジデンスが両腕を開き口をはさんできた。


「答えないで。それは私が当てよう。。。

 ドクトル・コンスタンティヌスには、、、家族、うーん、それだけではない、そもそも親族が皆死んでいるんだ。。。なるほど、それで医者になったのだな。だから彼の遺言執行者は、血縁ではないが血縁並みに信頼が置ける人間となる。彼が最も信頼できる人はあなただが、遺言執行者に会いに行こうとしているのだから別にいる。。。あなたと同等に信頼している人物........................ドクトル・コンスタンティヌスは呂磨の医学会の異端児だった。。。だが彼は呂磨でも仕事を続けられていた。。。それも長年だ。。。どうしてだ??????・・・・・・・・・・・・・そうだ。それは権力を持つ人間が、彼を後押ししていたからだろう。呂磨で影響力のある人物と言えば、、、法王、、、まさか、、、グラディウス3世が彼のパトロン?しかし、どうしたら法王が一介の医者、しかもアウトローな奴のパトロンになるだろうか。。。ドクトル・コンスタンティヌスに何か借りがあった?ドクトル・コンスタンティヌスにできることと言えば治療しかない。。。そうか、治してもらったのだ。。。待てよ、たしか、、、グラディウス3世には、、、そうだ!彼には妹がいたはずだ。しかもその妹は、いつも深いベールをして外に出ていたのに、ある日突然ベールなしで歩くようになったともっぱらの噂だった。。。グラディウス3世が聖職に就いたのは、家族の健康のためだと話していたが、それは妹のことだったのだ。わかったぞ!妹を治したのが、他でもないドクトル・コンスタンティヌスだったのだ!!!そう言えばグラディウス3世も彼と同じ位に亡くならなかったか?なるほど、強力な後援者が死んだのだからカッチーニ会にとって怖いものは無くなったのだ。それでドクトル・コンスタンティヌスを殺した訳だ。。。だから彼が生前遺言執行者として指名していたのは、グラディウス3世の妹、アリーチェ・レオーネに間違いないだろう。」


 ミスター・レジデンスは、鼻高々にそう滔々と話すと周囲を見渡した。


 ところが、彼は賞賛の嵐がやってくると見込んでいたのに、他の三人は全く普通にしていた。


 拍子抜けしているミスター・レジデンスの肩をお陸はポンポンと叩くと「あんた、ありがとねぇ。呂磨までのいい暇つぶしになったよ。」と言った。


 そのお陸の爆弾発言にミスター・レジデンスは思いっきり嫌な顔を見せてから、お陸にむかって「あなたの子供は、、、」と始めたので、お陸は、すかさず懐から何やら取り出すと瞬く間にそれを彼の唇に塗った。するとミスター・レジデンスは、どうやっても唇を思うように動かせなくなってしまった。それでも何とか話そうともがくミスター・レジデンスに、

「ほんと、懲りない男だねぇ。腹話術で話そうとしたら今度は全身に毒を回すよ。」とお陸は、ミスター・レジデンスを威嚇した。

 劉煌も真剣な顔でミスター・レジデンスに助言する。

「ミスター・レジデンス、悪いことは言わないわ。師匠は本気よ。これ以上余計なことを話さない方が身の為よ。」




 ミスター・レジデンスは、腫れた唇のままお陸の方に顔を向けると、お陸は一人真剣に忍者の武器の一つ『くない』を磨いていた。その鋭く尖った『くない』の光輝く先端を見たミスター・レジデンスは、もう一言彼女に余計なことを言えば、本当に自分の命は無いと悟った。


 ”悟りが遅いんだよっ!”

 ミスター・レジデンスの頭の中に、今日もまた耳では聞こえないお陸の声が響いた。


 車内の空気が冷え切った馬車は、北側から呂磨市街に入り3Kmほど走った所で、突然劉煌がフレッドに馬車を停めるように伝えた。

「ここからは一人で歩いていく。皆は来るんだったら別ルートで来て。」


 劉煌は、黒いベールを被ると喪服のドレスの裾を踏まないようスカートの部分を少し持ち上げてフレッドのエスコートで階段から降りると、しずしずと西に向かって歩き出した。


 お陸は、あとの2人を見渡し、まずゾロンに「お坊ちゃんはおうちで待機していな。でも十分気を付けてな。」と言ってゾロンのブーイングを得ると、ゾロンに何も言わせぬまま今度はミスター・レジデンスに向かって「馬面は、ドクトルんちでよろしく。」と言うとその場でパッと消えた。


 目の前でパッと消えたお陸にゾロンとミスター・レジデンスが驚きのあまりにそこで呆然としていると、御者のフレッドが馬車の扉を叩き「坊ちゃま、リクさまが前を歩いて行かれたのですが、いつ馬車を降りられまして?全く気づきませんでした。」と言った。


 ゾロンはしまった!と思い、慌てて馬車から飛び降りて辺りを探したが、四方八方探してもお陸はおろか、劉煌さえ見当たらなかった。


 しぶしぶゾロンは、俯きながら馬車に引き返すと30年前のあの事件以来初めて人の言うことを聞いた。


「フレッド、まずミスター・レジデンスをドクトル・コンスタンティヌスの家まで送ってくれ。その後私たちはここの別荘に戻ろう。」


 ~


 その頃、西乃国の北国境を、突然、北盧国が宣戦布告もなしに奇襲し、西乃国に侵攻した。


 西乃国の国境を守っている将軍:趙明は、すぐに敵を撃退したが、千年以上永世中立国を自負していた北盧国が戦争を仕掛けてくることは初のことだったので、趙明は直ちに使者を皇宮、海の御用邸と西域戦の前線基地に送り国境の守りの強化のため援軍派遣を願い出た。


 そして、彼の母:言紫と彼の正室の胡琴と共に、念のため舞阪県の住民の避難について話し合っていた、まさにその時にまたもや北盧国からの攻撃の報が入った。


「母上、胡琴、民を頼みましたぞ。」


 そう言うと趙明は、私兵100人に言紫の指示に従うよう命令すると、母と妻をすぐ屋敷から出し、自らはまだ7歳の息子趙洋を連れて戦場へと向かっていった。


 言紫と胡琴は、すぐに舞阪県の民 ー今回の一件で避難民となってしまったー を説得し、隣の清水県に移動させようと民を連れて舞阪県と清水県との県境にやってきた。


 幸い胡琴は清水県の豪族の一人娘で、父も存命であったことから避難民の受け入れはことのほかうまく行った。


 しかし、もう一つの娘のたっての願い:援軍を出すこと については、彼は頑として首を縦に振らなかった。


 そして元西乃国皇太子の劉煌は、祖国の危機を全く知らずに、大陸の西の果てで故グラディウス3世の妹のアリーチェ・レオーネを訪ねていた。


 劉煌は、流ちょうな羅天語で「お久しぶり、アリーチェ。こんな形であなたと再会するなんて思いもしなかったわ。あなたのお兄様も亡くなられたばかりなのに、お手を煩わすことになってしまってごめんなさい。」と心を込めてそう言った。


 アリーチェ・レオーネは、相変らず透き通るような青白い肌で、長いブロンドの髪を流行に乗っていくつもの縦ロールにして垂らしていた。彼女もまた黒い喪服で、時折黒いベールの下に黒のレースのハンケチを忍ばせて涙を拭いながらポツリポツリと言葉を慎重に選びながら劉煌と話した。


「ドクトル・ミレン。あなたがいなくなって本当に寂しかったわ。ドクトル・コンスタンティヌスは、、、名ドクトルだったけど、あなたには誰にも真似できないような、何というかしら、そう、、万人を包み込むような独特の安心感があって、みんなあなたが帰国したと聞いて、本当にがっかりしていたのよ。」


 召使がお茶のお代わりをそれぞれのカップに注いだ時、アリーチェは彼女に「しばらく2人だけにして。」と告げた。


 召使が下がってしばらくしてからアリーチェは突然椅子から立ち上がると、しずしずと部屋の片隅に行き、置いてあった装飾品をずらし、床板を剥がして中から箱を取り出した。彼女は部屋を元の通りに戻すと劉煌の側にやってきて、自分の膝の上にその箱を乗せて箱を愛しそうに上から撫ぜた。


「この箱は兄が作ったのよ。見事な彫刻でしょう?」


 劉煌は視線を彼女からその箱に移した。

 その箱は、上に茶色のニスが塗ってあるだけのものだったが、たしかに彫られている絵柄は非常に精巧で、プロ顔負けの仕上がりだった。


「でも、この箱の凄いところは外側の彫刻だけではないの。」


 そう言うと、彼女は箱の蓋を開けて見せた。

 劉煌が、完全に下箱だけになった箱の中を覗いてみたが、中は彫刻もなく、至って普通の木箱であり、紙が入っているだけで何が凄いのか全くわからなかった。

 アリーチェはふっと微笑むと、中に入っているものを取り出した。

 再度劉煌は空になった箱の中を覗いたが、ただ底があるだけで、底に細工があるわけでもなく至って普通の箱だった。


 劉煌が怪訝そうな顔をしていると、アリーチェは「見ていて。」と小声で囁き、箱の上蓋を横から押してみせた。

 するとまるで引き出しのように箱の上蓋の厚みの部分がスライドし、その中から2通の封書が現れた。


 劉煌は封書よりもその箱の上蓋の仕掛けに感心して、「いい?」と許可を取ってから上蓋を手に取って観察した。


「これは凄いわ。あなたの話からてっきり下箱の底部に仕掛けがあるのかと思っていたら、まさか上蓋だなんて。貴女に上蓋と言われなければ上蓋が不自然に厚いことすら気づかなかったわ。」

「そう。だからカッチーニ会の人も見破れなかったわ。」


 完全に劉煌の想定外の回答がアリーチェの口から発され、劉煌は内心ギクッとしたが、そこは血を吐くようなお陸の訓練の賜物で、全くそのようなことを顔に見せず、劉煌は「カッチーニ会?」とごく自然な口調で聞いた。


 アリーチェは、さらに声を潜めて話し始めた。


「工商医連合組合のこと、、、表向きはね、、、でも、呂磨王朝も破滅させ、東域の国の皇帝も国民が気が付かないうちにカッチーニ会に都合の良いようにすげ替えたって兄が憤慨していたわ。私、兄も殺されたんだと思うの。だってどこも悪いところなんて無かったのよ。それが突然執務中に倒れて死んだって言われて、ドクトル・コンスタンティヌスと一緒に遺体の引き取りに行ったのに、法王は特殊公人で私人ではないから遺体を法王公所から出せないって言われたのよ。それでも私は、、、」


 D()O()K()A()H()H()H()H()M()()B()O()O()O()O()O()O()O()M()() ()G()A()S()H()A()A()A()A()A()A()A()A()A()A()A()A()A()A()M()()


 アリーチェの話の途中に突然呂磨中に、天地をつんざくような音が、大きな揺れと共に響き渡った。


 その衝撃で2人のいる部屋の窓ガラスは、粉々になって飛び散り、テーブルの上のカップからはお茶が溢れ、ティーポットはテーブルの上に落ち着いておられず、何度かバウンスしてから横に倒れた。

 劉煌は、爆発音が鳴った瞬間、反射的にアリーチェに覆いかぶさりアリーチェを衝撃によるデブリスから守った。


「ドクトル・ミレン。大丈夫?」


 劉煌の耳元で何かアリーチェが言っているようなのだが、爆発音とその二次災害による音で劉煌の耳は、大音量による一時的な難聴になってよく聞こえなかった。劉煌は、アリーチェが何を言っているのか推測しながら、


「大丈夫よ。あなたは怪我は無い?」


 と聞いたつもりだったが、アリーチェも同じ場所にいたので彼女の耳も内側でホワーンホワーンと音がエコーしていて、劉煌が何を言っているのかさっぱり聞こえなかった。


 爆発は1回だけで、その後続かなかったことから劉煌は立ち上がって辺りを見まわし、ガラス等の破片が無い所までアリーチェを誘導してそこに座らせると、医師らしく彼女の脈を診、呼吸の誘導をして彼女を落ち着かせた。


 しばらくして2人の耳が元に戻ると、劉煌はアリーチェの怪我が無いことを確認してから窓辺に赴き、そっと外を見た。劉煌の目には、そこから南東の方向に火柱が立っているのが映った。


 ”この方角、距離、、、まさか、ドクトル・コンスタンティヌスの家では?”


 そう思った瞬間、お陸が窓越しにやってきて「ずらかるよ。」と言ってきた。劉煌はお陸に向かって一度頷くと、箱から2通の封筒を取り出し、部屋の奥にいるアリーチェの所に向かった。


「アリーチェ、本当に気を付けて。あなたの容姿から察するにあなたは呂磨の人じゃないわよね。もっと北の方の人でしょ?悪いことは言わないわ。お国に帰られた方がいいと思う。」

「ど、どうして?」


アリーチェは自分の出身がここではないと当てられたことにも、ここにいない方がいいと言われたことにも動揺しながら、そう尋ねずにはおれなかった。


「今の爆発。たぶんドクトル・コンスタンティヌスの家よ。カッチーニ会は、きっと本人がこの世からいなくなるだけでは満足できないのよ。彼の創造物、関係者全てを葬り去るつもりよ。だから遺言執行者のあなたも命を狙われてもおかしくない。これは私が貰っていくわ。あなたも、早くここから離れた方がいいわ。」

 ドクトル・コンスタンティヌスの向かいに住むヘレナ・コッタとの会話が頭によぎった劉煌は、封筒2つを高い位置で振りながらアリーチェにそう説明した。


 アリーチェは激しく動揺し、神経質な高い声で召使を呼んだ。

「ドクトル・ミレンがお帰りよ。玄関までお送りして。」

 劉煌が部屋を出る時、アリーチェは大きなカバンをクローゼットから取り出していた。


 劉煌は、玄関から出ると、アリーチェの家の死角に入ってから彼女の家の屋根に登った。


 案の定、そこにはお陸がいて仰向けに寝ころんで日向ぼっこしていた。

「ちょっと日向ぼっこしている場合?」

「あんなに火の手があがっているんだ。今行ったって何もできないだろう?それより、久しぶりに呂磨でゆっくり日向ぼっこができるんだ。こんなチャンスは滅多にない。骨を強くしなきゃ。今となってはドクトルの遺言になっちまったけど。」

 そう言うとお陸は自分の横の場所をポンポンと叩いた。


 劉煌は、渋々指定された場所に座ると、先ほど取ってきた封筒の一つを開いて読み始めたが途端に、ああああああああああああと大きなため息をついてガクッと項垂れた。


「どうしたんだい?」

「ドクトル・コンスタンティヌスは、あの家、家財道具、彼の遺品全て丸ごとぜーんぶ僕に渡すつもりだったっ、、、」

「あちゃー、全部今燃えているよ。」

「ま、重要な研究内容は全部この前回収してきたから良かったけど、試作品とかはまだあの家にあったのに!!爆破した奴、絶対許さないっ!」

「ま、でもあのお邪魔虫の馬面も木っ端みじんだから、許してやんな。」

「ゆ、許してって、まさか師匠が爆破したの?」


 お陸は、これを聞くと飛び起きて目にも見えない超スピードで劉煌の頭をバシッと叩いた。


「なんでこのあたしがたかだか一人を殺るのにそんな回りくどくて、人目について、他の人にも迷惑をかけるような殺し方をする必要があるんだい。あたしゃ、この道云十年のくノ一だよ。殺したかったら誰にもわからないようにやるに決まってんだろう?もうお嬢ちゃん、卒試不合格!一からやり直しっ!」


 たしかに、お陸が本当にミスター・レジデンスを殺ろうと思ったら、こんな派手な殺し方はしないと思った劉煌は、素直にお陸に自分の非を認めて謝った。


 お陸は、相当ムカついたらしく、劉煌が謝ってもふんと言って、顔をあっちに背けたままでいた。


 こうなったお陸は、餌を、しかも大好物の物を与えない限り振り向かないことを十分わかっている劉煌は、肩をすくめてから2通目の封筒を取り出して中を見て目を丸くした。


「師匠、師匠!大変よ。アリーチェの言う通り法王は殺されたんだわ。たぶんこれを知ったから。」


 劉煌は、そう言って封筒の中身をお陸に見せようと、自分の前で紙の表面をお陸に向かって広げた。


 そう言われたお陸は、チッと舌打ちをしてから顔だけ向けてその紙を上目遣いでジロッと見た。


 そう、お陸の餌は、何も食べ物とは限らない。

 このようなくノ一の魂が揺さぶられるような物には、食いつかないではおれないのだった。


 やがてお陸は、渋々身体全体を劉煌の方に向きなおすと、その紙を劉煌から奪って隅から隅まで、時に上に向けたり、裏面を見たりしながらしばらく眺めてポツリと言った。


「いいかい、お嬢ちゃん。1回だけ敗者復活を許してあげよう。だけど今度あまりにアホなことを言ったり、やらかしたりしたら、もう後先はないからね。卒試不合格で師弟の縁も切る。」


 劉煌は、初めてお陸に会った時のようにその場で跪き「わかりました、師匠。卒業試験合格を目指して頑張ります。まずは作戦会議ですね。その前にドクトル・コンスタンティヌスの家を見に行ってもいいですか?」と尋ねた。


「そろそろ頃合いだと思っていたところだよ。その点は合格。」

「ありがとうございます。」

「って言っても、さっきは0点を下回るほどの不合格を出したんだ。まだスタートラインにも立てていないことを忘れるんじゃないよ。」

「はい。師匠。」と劉煌が答えた時には、もうお陸はドクトル・コンスタンティヌスの家に向かうために向かいの屋根の上に飛び移っていた。


 劉煌は、クスッと笑ってから封筒に中身を入れ、しっかりとそれをパースに入れてからお陸の後を追って向かいの屋根に向かって飛んだ。


 2人がドクトル・コンスタンティヌスの家の周辺にたどり着いた時には、そのあたり一帯を警察が封鎖していて、誰も入れないようにしていた。消防が必死に火消を試みていたものの、化学薬品も多数置いていた彼の家の消火は簡単なものではないようだった。爆発から数時間経っているというのに、まだそこには珍しい物好きの呂磨人が沢山いて何か情報が入らないかと好奇心旺盛に警察に話しかけていた。


「そうだった。参語圏の人達と違って呂磨人はオープンで好奇心旺盛なんだった。」

お陸は癖癖しながらそう呟くと、まるでお陸探知機でも持っているかのように、お陸の前にゾロンが現れた。


 お陸は、ゾロンの顔を見てげんなりしていたが、ゾロンはそんなことお構いなしでお陸の手に接吻してから言う。

「リク嬢。あなたの言う通り私たちは別荘にいたよ。でも彼をここで降ろしたものだから、心配になってやってきた。彼は今度こそ死んでしまったのだろうか?」

「だと禍の元がいなくなっていいんだけどね。」


 ゾロンから手を払いのけてまるで汚い物でもふるい落とすかのように、下の方で手を振りながらお陸がそう言うと、ゾロンはそれにもめげず、自分のマントを取ってお陸に羽織らせてこう言った。

「フレッドが警察と掛け合ったが、これより先には行かせてくれないし、案の定情報もくれなかった。」


 お陸は、辺りを見まわすとフレッドが馬車を横手の路地に横付けしていた。

 劉煌が何か言おうとするのを遮ってお陸は、劉煌の手を取って、ここにいても仕方ないと呟きながら彼を引きずるようにして馬車の方に向かって歩き出した。ゾロンは慌てて彼らの後ろについていくと、まずお陸の手を取って馬車に乗せた。


 お陸が馬車の中に入ると、なんとそこにはあの爆発で死んだと思っていたミスター・レジデンスが、狭い空間なのにパイプをふかしながらデーンと座っているではないか。


 そこは世界一の忍者:くノ一であるお陸である。


 彼を見ても声どころか眉一つ上げなかった。


 続いて入った劉煌は、お陸が奥に入って行かないことで異変を察知しており、くノ一モードになっていたので、やはりミスター・レジデンスを見ても顔色一つ変えずにおられたが、あまりの煙さに我慢できずに咳き込んだ。


 そして最後に入ったゾロンが、正面にミスター・レジデンスがふんぞり返っているのを見て驚きのあまり声を上げそうになったその瞬間に、それを察知していたお陸に首の後ろを手刀で叩かれ、ゾロンはあえなくそこで気絶した。

 お陸は、劉煌に顎で命令すると、劉煌はゾロンを引きずって奥の座席に座らせ、フレッドにむかってゾロンの声色で「戻ろう、出してくれ。」と言った。


 フレッドは、すっかりそれがゾロンからの指令と疑わず「はい。坊ちゃま。」と返事をすると、郊外の蔵邸に向かって馬車を走らせ始めた。


 馬車が呂磨市街から離れるや否や、劉煌はゾロンの背部に活を入れてゾロンの意識を戻し、すぐにミスター・レジデンスにどういうことなのかと聞いた。


「いやー。私としたことがやっちまった。」


 爆発から生還したのに、やっちまったとはどういうことなのかと、その場にいた全員が首を傾げていると、ミスター・レジデンスは、パイプをプカプカ落ち着かなさそうにふかしながら続けた。


「みんな知らないだろうが私はケミストでもあるのだ。だからドクトル・コンスタンティヌスの家はあまりに誘惑が多かった。。。」


 そこまででミスター・レジデンスが何をやらかしたかわかってしまった劉煌は、頭から湯気を出しながら突然ミスター・レジデンスの胸倉をむんずと掴むと


「お前がやったんだなー!カッチーニ会じゃなくて!」


 と叫んでミスター・レジデンスを前後に激しく揺らした。


「全く自分の意図とは反対のことが起こってしまったのだ。探偵でありながら、自ら敵の証拠を隠滅してしまったとは。」と、まるで第三者のように言うミスター・レジデンスに劉煌は、素知らぬ顔でパイプをふかしている彼の目の前に、ドクトル・コンスタンティヌスの遺言状を突きつけて叫んだ。


「返してよ!私のものなんだからっ!」


 ミスター・レジデンスは、片眉だけを吊り上げて劉煌の突きつけた文書を見ると、こともあろうにその端をパイプにくべ、これもまた証拠隠滅しようと試みた。


 そうでなくてもミスター・レジデンスの暴言奇行愚行にぶちぎれていた劉煌は、瞬く間に文書をひったくるようにして取り返すと、思いっきりミスター・レジデンスの向う脛を蹴とばした。


 ミスター・レジデンスは、馬車の中でギャーっと叫びながら飛び上がって悶絶した。


 その絶叫に驚いたフレッドが慌てて馬車を停めて、後ろを振り返り「坊ちゃま」と言った瞬間に、ミスター・レジデンスの姿が彼の視界に入り、彼もまたギャーっと絶叫した。


 珍しく理性を失い、怒り狂ってハイヒールのヒールの突先でミスター・レジデンスの足を思いっきり踏みつけようとしてる劉煌を見たお陸は、いつもとは逆転して彼女が、両こぶしを肩まで上げてウーウーウーと唸っている劉煌を羽交い絞めにし、ドウドウドウと言って彼を諭していた。


 そんな師弟の様子を唇を噛みしめながら見ていたゾロンは、ミスター・レジデンスの方を振り向くと疑わしそうに彼に聞いた。

「それでミスター・レジデンスは、まだ本気で一人でカッチーニ会を仕留められると思っているの?」


 すると、ようやく脛の痛みで片足ジャンプしないでおれるようになったミスター・レジデンスが、今迄のことを完全に棚に上げて偉そうに答えた。


「勿論だ。この私が、ドクトル・コンスタンティヌスの家を木っ端みじんに吹き飛ばすという代償を負ってまで作り出したこの爆弾があるからな。」


 それを聞いた劉煌は、お陸の手を払って、ミスター・レジデンスの前にやってくると仁王立ちになって、ミスター・レジデンスが持っていると言った爆弾を見ようと彼の手をジッと見た。


 そう宣言したミスター・レジデンスの手には4つの小さい黒い塊があった。


「こんなんで大丈夫なのか?」

 劉煌もまた、普段抑えまくっている男脳が勢いづいてミスター・レジデンスの手の中を指さしながら興味津々に尋ねた。


「勿論だとも。何しろドクトル・コンスタンティヌスの家はこの1/10量でいまだに燃え続けているじゃないか。これは見ての通り起爆は至って簡単だが、消火は困難を極める。しかも爆発の瞬間にその場の酸素が大量消費され、高さ10mは下らない火柱が立つ。しばらくは建物が吹っ飛んでも部屋の高さ位は煙で満たされ続けるので、その場にいた者は残らず、まず爆発に気づいた時は既に死んでいる状態だ。」

「じゃあ、何であんたは生き残っているのよ。」

「爆発前に家から飛び出したからな。」

「じゃあ、やっぱり意図的に家を爆破したんじゃない!」

「それは誤解だ。あんな宝箱のような家を爆破するわけないだろう?ちょっとしたアクシデントで爆弾が、、、その、、、テーブルから意図せず落ちてしまったんだ」


 あまりに滅茶苦茶なミスター・レジデンスの言い訳と、腹も空いていることも重なって劉煌はキレた。

「なんでそんなことが起こり得るのよ!!!」


 しかし、ミスター・レジデンスは、劉煌の爆発など意に介さず、いたって真面目に答えた。

「いやー、タバコを詰めてたら肘が当たっちまって。」


 劉煌は、いやーな予感がして目を細めながらミスター・レジデンスに聞いた。

「ちょっとあんた、まさかパイプふかしながら爆弾作ってたんじゃないでしょうね。」

「そのまさかをやっちまったんだな。」

「あんた、ケミストじゃなかったの?爆弾の側で火を扱うなんて、いったいどこの大学出たのよ。」

剣橋(けんぶりっじ)だ。」

「馬鹿な。世界一の大学がそんなデタラメ教えるわけないでしょ。嘘仰い!」

「勿論剣橋大学ではそんなことは教えない。だいたい大天才の私が、爆発物に火を付ける訳がないだろう?実際タバコの火で起爆した訳ではない。」

「タバコ詰めてて落としたんでしょ。」

「そうとも言うが、爆弾には直接着火していない。」


 ミスター・レジデンスと劉煌の激しくもあほらしい衛語のやり取りに、言葉のわかるフレッドがここで仲裁に入った。

「とにかく、まず蔵邸に帰りましょう。お話しの続きは蔵邸で。」


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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