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第八章 探索

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 お陸は、ゾロンを指さしながら叫んだ。


「あ、あんた、もしかしてあの世界的大富豪の北盧国の蔵家の御曹司?!」


 劉煌も何か閃いたように、腕を組ながら「そうか、ゾロン、ゾロンと呼ばれているからゾロンという名前かと思っていたら、本当はゾゥ・ロンだったのか。」と独り言を言った。


 お陸は、記憶を手繰り寄せながら呟いた。

「でも、あんたのご両親、たしか30年前に謎の失踪を遂げたんじゃ......」

 それを聞いたゾロンは、お陸にむかって珍しく語気を強め「謎でもなければ、失踪でもない!」と吐き捨てるように言うと、心配そうにフレッドがゾロンの肩に両手を乗せて「坊ちゃま......」と囁いた。

 ゾロンはフレッドに頷きながら「大丈夫だ。彼らが知っても何も問題はない。何故なら彼らと私の敵は同じなのだから。」と言った。


 劉煌は、北盧国の大富豪蔵家のことは知っていたが、その家族構成のことはおろか彼が生まれるずっと前に起きた失踪事件のことなど知る由もなかった。一人このお陸とゾロンの会話について行けずにいる劉煌を察したお陸は、

「でも、世間的にはあんたのご両親は、呂磨のオークションでザ・ピンチの手稿を落札した後、警察が護衛している真っ只中、行方をくらましたって話だった。全くもって奇怪な話だったからよく覚えているよ。何しろ1万年先までの予言書だから凄いお宝だってんで、それを隠すために行方不明を装っているって、当時西域だけでなく東域の端迄このニュースで持ちきりだったからね。」

と、劉煌にも話の内容がわかるようにゾロンに向かってそう言った。


「実際はそうじゃないんだ。だけど、私はそれよりリク嬢の話の方がもっと気になっている。30年も前の話を何であなたがそんなに知っているんだ。」

「それはお坊ちゃん、あたしがこの道云十年のくノ一だからだよ。言っとくけど、あたしゃあんたのご両親はおろかお婆ちゃんよりずっと年上だ。」


 それを聞いたゾロンが卒倒しかかったので、劉煌とフレッドは慌ててゾロンを助けに行くと「嘘だ。そんな、、、」とゾロンは両耳に手を当てて首を横に振った。


「だから、忠告したじゃない。やめとけって。」

 劉煌は、ゾロンに心底同情しゾロンの背中をさすりながらそう呟くと、ゾロンは何かすごく腑に落ちたようで「そうか、それでドクトル・コンスタンティヌスの所に居たんだな。」と呟いた。


「そうだよ。どっちかっていうと、お坊ちゃんの執事の方が私にはピッタリさ。」

と、大胆にもお陸がフレッドにむかってウインクすると、フレッドは震えあがり、ゾロンは烈火のごとく怒り始めた。


 劉煌は、さもあらんとゾロンの背中を今度は別の意味でさすりながら「まあ、ドウドウドウ。落ち着いてゾゥ・ロン。いつもの師匠の悪い冗談なのよ。悪気はないので許してやって。」と言うと、彼は劉煌の手をバンッと乱暴に払いのけ、お陸の前によろけながら進むとなんとそこで片膝を立てて跪き


「リク嬢!私が年の差を気にするような男だと思っていたの?あなたが90だろうが100だろうが、つるつるの頭だろうが、皺くちゃだろうが関係ないんだ。あなたが呂磨の広場で私の上に着地した瞬間に、私はわかったのだ。あなたは私を完全にするパズルの最後の1ピースだと!」


と訳の分からないことを叫んだ。


 これには、

百戦錬磨のお陸もぶっ飛び、、、

それ以上にフレッドが衝撃のあまりに後ろ向きにそのまま卒倒し、、、

劉煌は、横でぶっ倒れたフレッドを手扇で介抱し、、、

ようやくフレッドの意識が戻ったと思ったその瞬間、お陸はゾロンの目を覚まさんと思いぶっちぎれて叫ぶ。


「まず、皺皺だけど髪は立派にあるし!それに皺だけじゃないんだよ!本当は顔なんかシミだらけだし、スーパーモデル養成ギブスを外したら腰も曲がったままなんだし、起き上がるとき、どっこいしょって掛け声かけないと起き上がれないんだよっ!」


 しかし、恋は盲目を地で行っているゾロンは涼しい顔をして「それが何か?」と言ったので、哀れなフレッドはまたもや意識を失ってしまった。


 これでお陸は、もはやこの御曹司につける薬は無いと判断すると、劉煌の方を振り向いて

「お嬢ちゃん、それより敵の話をしようよ。あ、お腹も鳴った、食べながら作戦会議としゃれこもう。」と話題を変え、目の前でプロポーズ座りをしている青年を置いてけぼりにし、一人で前へと進みテーブルの上に置いてあるピザのスライスをつまんだ。


「ほらさ。買ってくるもんだって全く金持ちじゃないんだよ。」


 お陸はそう文句を言いながら、もうすっかり冷たくなってしまったピザを口に運んだ。


 劉煌もフレッドを正しく横にし、頭にクッションをあてがい、腹から下にブランケットを掛けてやると、やおらお陸の横に来て、自分の懐から呂磨の地図を取り出しそれをテーブルに広げてからピザをつまんだ。


 しばらく劉煌とお陸は、完全にゾロンを無視し、ゾロン邸で、ゾロンが買ってきた食べ物を食べ、ゾロンの執事が出してきた飲み物を飲み、ゾロン邸の金の肘掛のついた椅子に座り、ゾロン邸の大理石のテーブルに肘をついて地図と睨めっこしていた。


 ゾロンが、気を取り直して劉煌とお陸の間に入ろうとすると、お陸は椅子からサッと立ってわざと劉煌との距離を縮めて彼が間に入れなくした。


 ゾロンは口を尖らせいじけながら、2人と対面に座るとテーブルに肘をついて組んだ手に顎を乗せた。


 それでも居候の身でありながら邸宅の主人をガン無視しているお陸を見て、さすがにゾロンが気の毒になった劉煌は、コホンと咳ばらいを一回すると、ゾロンに向かって「ねぇ、ゾゥ・ロン。さっきあなた、あなたの敵と私たちの敵は同じって言っていたわよね。そもそもあなたの敵って誰?っていうか、そもそも敵なんているの?」と聞いた。


 ゾロンは、ようやく自分に注意を向けられたことに少しホッとしながら、チラッとお陸を見たが、相変らずお陸は自分のことを無視していることに気づくと、また顔を曇らせ、目線を下に向けながら劉煌の問いにポツポツ答え始めた。


「さっき、リク嬢が言ったように、私は、世界一の富豪:北盧国の蔵家の一人息子だ。表向きには両親は失踪ということになっているけど、実際は落札後に殺されたんだ。」

「殺されたって、、、何でわかるの?」

「だって、2人とも私の目の前で殺されたから。」


 この衝撃的な話に思わず無視を決め込んでいたお陸も動揺してしまった。

 彼女はそれを面に出さずジッとしていたが、かれこれ10年強彼女に教えを受け、亀福寺を出てからの3年は彼女と24時間共に暮らしてきた劉煌には、彼女の心の動揺が痛いほど伝わってきていた。


「その日、6歳だった私は呂磨の学校で初めて優等を取ったんだ。だから両親を驚かせようと思って学校に迎えに来たフレッドに、家ではなくオークション会場に連れて行って貰ったんだ。私は両親を驚かすために隠れて待っていたんだけど、トイレに行きたくなって、そこの裏路地に入った時、私とフレッドは両親が銃で撃たれる所を偶然見てしまったんだ。フレッドはすぐ私の口を手で塞ぎ、横抱えにしてその場から逃げた。犯人は、私たちに背を向けて立っていたから、フレッドも私も顔を見ていないから誰かわからなかった。危険を察知したフレッドは、警察の家宅捜査が終わった後、それまで住んでいた呂磨の家を引き払って、ここに私を連れてきて育ててくれたんだ。蔵家は代々商家で、、、」


「お坊ちゃんのご先祖さん達が何百年と世界各地で派手に稼いだんだよ。有名な話だ。だけど、30年前のあの事件からトンと蔵家の噂は無くなったねぇ。第一子供が居たとは誰も知らなかったんじゃないかい?」


「それは、両親もフレッドも私のことを表に出していなかったから。呂磨の学校も偽名で通っていたんだ。だけど両親が殺されてから学校も辞めて、ここで家庭教師から学んだ。ここの家は、200年前まだここが北盧国の領土だった頃の北盧国の迎賓館の一つだったんだ。私の両親は、北盧国の皇帝の命で、私財を投げうって西域にある、かつて北盧国の物だったモノをお金と引き換えで取り戻すことをして北盧国を支えていたんだ。そしてここも、両親の功績の一つだ。」


そこまで一息で言うと、ゾロンは喉が渇いたのか水を一杯飲んで、さらに話し続けた。


「元々迎賓館だったから200年前とはいえ、貴賓の安全を確保しなければならないから、ここは特殊な造りになっていて、外見はただの豪邸に見えるが実際は白亜の要塞だ。まず敷地を囲む城壁からして侵入は不可能なんだ。」


 そう彼が話したところで、突然扉が開き、劉煌とお陸の荷物を運んできた御者が「それはどうだか。」と呟いたので、フレッドが頭を抱えながらも、飛び起きてゾロンの前に躍り出ると御者にピストルを向けた。


 御者は両手を挙げると「久しぶりだな、フレッド。」と言った後、今度はゾロンの方を向いて、「ジュニアは私の忠告を聞き入れたのだな。正直あの後何度か呂磨に来たが、あの怪盗ゾロンがジュニアだとは私も気づかなかった。金ぴかの馬車を出して初めて気づいたよ。」と言うと、御者帽を取って彼の馬のように長い顔を見せた。


 するとフレッドは驚いてピストルを降ろし「まさか、ミ、ミスター・レジデンス。生きていたのか?」と大声で叫んだ。


 ゾロンも驚愕した顔つきで、フレッドがミスター・レジデンスと呼んだ人物を見つめた。


 フレッドからミスター・レジデンスと呼ばれた男は長身で、まずお陸をチラッと見ると、両手をまだ挙げたまま高速でしかも参語でこう言い放った。


「あなたは、東域、、、中ノ国の伝説的な女スパイ、、、代々スパイの家系でサラブレッドだ。もうこの道60,いや少なくとも70年は行っている。。。失敗なしのスパイだったが、1度いや2度失敗している。弟子たちを救えなかったこと、、、それから監視対象を愛してしまい子供が、、、」

 お陸はパッと消えたかと思いきや、次の瞬間にはミスター・レジデンスの横に立っており、彼の首に懐剣を突きつけていた。

 お陸は低い声で「あんた、まだ何か話したいのかい?」と聞いた。

 ミスター・レジデンスは、さらに両手を挙げると「あなたが今ご自身の能力を示したように、私も私の能力を示しているだけだ。カッチーニ会の壊滅にはこれしかないと思ってね。」と言って、お陸にウインクした。


 お陸は、癖癖した顔で「うええ。」と吐きそうになりながらも「あんたの能力は嫌って程わかったよ。それより何であんたがここに?」と聞くと、彼は「カッチーニ会の最後の生き残りを一掃するために。」と言い、今度は劉煌を見ると眉を潜め「どうして女の恰好をしているのだ?」と聞いた。


 劉煌がそれに答えようとすると、ミスター・レジデンスは「ああ、答えなくていいというか答えないでくれ。その謎を解くのが私の仕事だから。」と言うと、続けて「あなたは彼女の弟子だが、身分的に彼女と出会うはずがない。いったいどういうことだ?」と独り言を衛語で呟いた。それに劉煌が慌てて衛語で「どういうことかなんか考えなくていいのだ。」と言うと、ミスター・レジデンスはハッとして目を大きく見開き「あなたは、西乃・・・」と言った時点で、今度は劉煌がミスター・レジデンスの喉元に剣をキーンと言う音と共に突きつけた。


 ピンクのフリルの沢山ついた洋装の劉煌から、凄まじい殺気がメラメラと溢れ出、女の格好をしているのに相手に剣を突きつけているその姿は、そんじょそこらにいる騎士たちとは比べ物にならないほどの高貴さが潜んだ凄みがあった。さらにミスター・レジデンスを睨みつけるその目にも、本物にしかない迫力と計り知れない深い何か底知れぬ万緑で深淵な輝きがあった。


 ミスター・レジデンスは、紳士らしく「ユア・ロイヤル・ハイネス」と劉煌にしか聞こえないような小声で言うと、次は大きな声で「私の失礼をどうぞお許しください。」と言って深々と頭を下げた。


 これにはフレッドもゾロンも仰天した。

「ミスター・レジデンスが謝罪しているのを初めて見た......」と2人同時に呟いた。

 そして安心したのかフレッドが痛そうに頭を抑え、椅子に座った。


 劉煌は、このミスター・レジデンスと蔵家の関係がわからなかったものの、フレッドが安心していることから少なくとも蔵家の敵ではないと判断すると、グラスに水を注いでフレッドに渡した。


 フレッドはお辞儀をしてそれを受取り「坊ちゃまのゲストに水を注がせてしまった失態を、どうぞお許しください。」と言ってからグラスの水を一気に飲み干すと、これまた一気に話し始めた。


「当時私は、蔵家の執事として旦那様奥様の事件について直接呂磨警察の話を聞きましたが、聞けば聞くほど私では到底太刀打ちできない巨大な陰謀を感じました。でもリク様の仰る通り、あの事件は、不可解な失踪事件として30年前世界中に広がったおかげで、世界中の謎解きマニアの心をくすぐり、その中でも彼:ミスター・レジデンスは、頼んでもいないのに自ら呂磨にやってきて、私たちの存在を探し当て、さらにこれは殺人事件で、どこでどう殺されたのかもピッタリと言い当てたのです。」


 劉煌とお陸は、それを聞くと2人揃ってとっても嫌そうな顔をした。


「そんなの難しいことではない。明らかだからな。」

ミスター・レジデンスは涼しい顔をして鼻高々にそう言ったので、お陸が「あんたが犯人だからわかるんじゃないかね。」と噛みついた。


 ミスター・レジデンスはお陸に向かってニヤリと笑うと、「先ほどの私の推理では足りなかったかな?あなたの息子は、、、」と言いだしたので、怒ったお陸が吹き矢をだしたその瞬間、劉煌はお陸の手を止め、ミスター・レジデンスに衛語で「黙れ。この大口野郎。」と叫んだ。


 ミスター・レジデンスは肩をすくめてみせると、「私には、何もかも手に取るようにわかってしまうんだ。人ならしぐさ、表情、癖、持ち物、服にできる皺のパターンからも、事件現場なら、土に残った跡、壁に残ったわずかな傷や落ちていた繊維等、全ての証拠が私の頭の中で勝手に繋がっていくのさ。」と全く悪びれずに言った。


 フレッドは、お陸の緊張した面持ちを見て

「当然私たちも、初対面の時、彼が犯人の一味なのではないかと疑いました。しかし、それも彼は見通していて、まず私のことをチラッと見ただけで、私の半生等私しか知らないはずのことをピタっと当て、そして、坊ちゃまのことも、私と坊ちゃましか知らないことをズバリ言いあてたのです。私は、殷具覧土出身なので、新聞を取り寄せたところ、当時彼は国内で難事件のエキスパートとして有名だったことがわかりました。彼は、現場を見て、旦那様と奥様が、どう倒れてどのように運び出されたかだけでなく、これがカッチーニ会という世界中の紛争・犯罪の大元締めによる犯行であることを教えてくれたのです。そして我々に巨大すぎる敵に挑むようなことはしないことと忠告したのです。そして坊ちゃまの存在が知れたら、坊ちゃまの命も無いだろうとも。それ以来、坊ちゃまは、しぐさや習慣だけでなく、頭のてっぺんからつま先まではもちろんのこと、服にできる皺のレベルまで自分が何者なのか、相手に推察されないように心を配ることが習慣となったのです。」


「へぇ~。なるほど、それでお坊ちゃんの正体がわからなかった訳だ。」

ここでお陸は妙に納得した。


 お陸にお坊ちゃんと言われたゾロンは、彼女に子ども扱いされ気分を害しながらも「でもミスター・レジデンス。あなたは数年前カッチーニ会の会長と決闘して、相打ちで亡くなったって呂磨では当時ビッグニュースで取り上げられていたけど。」と質問した。


「あああれは自分の身を守るために死んだことにしていたんだ何しろプロフェッサーカッチーニが死んでも私が生きていると世間が知ったら彼の右腕や子分たちに命を狙われるからなだから先回りしてここ数年で世界各地のカッチーニ会を破壊してきたあと残っているのはここ呂磨だけだそれにしてもあれほど巨大過ぎる敵に挑むなと言ったのにジュニアは何故私の忠告を聞かないんだ」ミスター・レジデンスはイライラしながら一気に早口でそうまくしたてた。


「私が関わるなと言われて素直に関わらない人間とお思いか?」


 ゾロンが挑戦的にそう答えると、ミスター・レジデンスは、何か腑に落ちたようであったのにも関わらず、大きくはああとため息をついた。劉煌もお陸も、ゾロンのお陸へのネバーギブアップ精神をイヤというほど経験してきただけに、今迄最悪だった印象のミスター・レジデンスにさえ思わず同情してしまった。


 ゾロンは、遠い目をしている3人を見ると、ニヤリと笑い、目を不敵にキランと輝かせた。


 そして、「さあ、どうやってカッチーニ会を撲滅させる?」とゾロンが言うや否や、鼻で笑いながら「そんなことは私一人で十分だ。」とミスター・レジデンスが偉そうにそう言った。


 ミスター・レジデンスは咳ばらいをしてから、さらに偉そうに鼻を高くして言う。

「今迄世界中のカッチーニ会の支部を破壊してきた。だからここも私一人で十分だ。」


「一人で全く取りこぼしなく全滅させられると本気でそう思っているのか?」

 劉煌はミスター・レジデンスを横目で睨みながら落ち着いた声で、衛語でそう聞いた。


「くどいな世界の支部を破壊してきたと何度も言っているだろうここも同じだそれに万一取りこぼしがあったとしてもそれは重要な事だろうか本部が機能出来なくなるくらい叩けば問題ないだろう」

 ミスター・レジデンスは気分を害して超早口衛語でそう答えると、劉煌は珍しく「甘い!」と、今度は全員がわかる北盧国語に戻して大声を挙げた。


「いいか?こういうものが少しでも残ったらそれがすぐに火種になる。少なくともカッチーニ会員は全員死あるのみだ。本来は会員一族郎党全てあの世行きで初めて火種を完全に消せるのだ。」


 フェミニン感満載の女子の格好のままでも、まるで千数百年前の戦国の世を勝ち抜いてきた劉王朝の創始者が乗り移ったかのような気を発する劉煌の姿に、お陸は何とも形容しがたい顔をして劉煌をジッと見つめていた。


「それでも、このような組織はまたいずれ世界各地で発生するだろう。だが、カッチーニ会のような大きな組織を木っ端みじんにしておけば、少なくとも今後10年位は世界規模の犯罪・紛争はなくせよう。だから一人で組織を壊せるなど甘い考えは慎むべきだ。私も参ろう。」


 真っ赤なルージュの唇から威厳に満ちた声を出して劉煌がそう言うと、横でお陸がポツリと参語で「お嬢ちゃん、これが卒業試験だ。」と呟いた。それに劉煌がハッとしてお陸を見ると、お陸はそんな劉煌を無視して全員を見渡してからテーブルに片肘をかけて北盧国語で、


「全員で行くんだよ。」


 と宣言した。


 これにミスター・レジデンスは、思いっきり嫌そうな顔をしながら口を開こうとしたが、お陸がテーブルの下で手裏剣を指にさしてクルクル回しているのを見て、口を閉じた。


 ”おっと、東域のスパイの七つ道具は、西域とは比べ物にならないほどバラエティーに飛んでいるからな。油断禁物だ。”


 ミスター・レジデンスがそう思った瞬間、ミスター・レジデンスの頭に、


 ”あんた、自分が優秀だと思っているみたいだけど、一つ間違ってたからね。”


 という声が響いてきた。


 ミスター・レジデンスは、目をカッと見開くとお陸を凝視した。

 お陸は、ミスター・レジデンスが口を噤んでも、涼しい顔をして相変らずテーブルに片肘をつき、もう片方の手はテーブルの下で手裏剣をクルクル回していた。


 ミスター・レジデンスは、今度は思いっきり参ったという顔になり、拳を握りしめてそれを振りながら、「またやってしまった。必ず何か一つ読み間違えるんだ。くそっ!」と呟いたが、お陸以外の誰も何故ミスター・レジデンスが突然地団太を踏み出したのかはわからなかった。


 その夜、各自あてがわれた部屋に戻り、一人ヘレナから貰ったドクトル・コンスタンティヌスの手紙を開いた劉煌は、翌日一人で呂磨に戻ることを決意して床に就いた。


 翌朝食卓を囲んでいると、珈琲を飲みながらお陸が劉煌に話しかけてきた。

「お嬢ちゃん、一人で呂磨の遺言執行者んとこへ行くつもりだろう。卒試の監督官として一緒に行くよ。」


 毎度のことながら行動が全部読まれていることにムカつきながらも、劉煌はやめておけばいいのにしらを切った。

「何言ってるのかわからない。」


 堂々としらを切った劉煌に呆れながらお陸は呟いた。

「アイヤー、お嬢ちゃん。しらを切っても無駄だよ。馬面だって行く気満々なのわからないのかい?」


 劉煌は伏せていた目を上げ、正面に座っているミスター・レジデンスをチラッと見た。

ミスター・レジデンスは、昨晩は一切見せなかった微笑みを湛えており、その姿は不気味以外の何物でもなかった。

 ”クソー!なんでギャラリーが多いんだ。”


 本日もまた、蔵家で、主をシカトした客人3人衆の腹の探り合いが食卓を囲んで繰り広げられる中、主であるゾロンはサラダのフォークを皿にマナー通り置き、膝に置いていたナプキンの端で口を拭くと、


「皆気づいていないようだけど、リク嬢が行くところには私も行く。」と呟いた。


 それを聞いたお陸が、目をひっくり返して天を仰いだのは勿論言うまでもない。

お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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