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第八章 探索

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 その頃、中ノ国皇宮の東宮では、成多照挙と仲邑波瑠が、静かに囲碁をうっていた。


 照挙は、簫翠蘭ほどではないが、波瑠のことを気に入っていた。


 それは、とにかく簫翠蘭を全く思い出させない容姿だったことが大きかった。

 波瑠は、簫翠蘭とは異なりぽっちゃりとした体型で、顔はお世辞にも綺麗とは言い難かったからだ。


 だが、彼女は誰よりも心根が優しく、照挙を心から思いやり、彼の傷つき粉々になった心を癒してくれた。


 おかげで、照挙は、簫翠蘭を思い出すことが段々と減り、1年近く経った最近ではほとんど思い出さなくなっていた。


 ただ、何かのきっかけで簫翠蘭を思い出してしまうと、途端に照挙は理性を失い、慟哭するは、側近に当たり散らすは、挙句の果てには失神してしまう。あまりにもこれが頻発したので、いつしかこのことを中ノ国皇宮では隠語で、皇太子殿下の”発作”と呼ぶようになり、”発作”予防に異例の配慮が成されたのだった。


 まず、中ノ国皇宮では、簫翠蘭という名前は禁句になり、皇宮内の女性は、簫翠蘭を彷彿とさせる容姿;例えば、前髪を短く切ることも、垂髪にすることも、さらには細い体型も、全て禁止という理不尽な掟までできてしまった。それ故可哀想に異母妹の照子も、年端もいかないのに髪はいつでも全て結い上げ、夏でも面綿の入った厚い着物を着せられていた。


 対局の碁盤の1/3が碁石で埋まった頃、東宮に珍しく中ノ国皇帝の成多照宗が自らやってきた。


 東宮付き宦官の北公公は慌てて東宮から飛び出し、皇帝の前にひれ伏すと、皇帝は北公公に皇太子の様子を聞いた。


「波瑠様がお相手をされるようになってから、随分と落ち着かれました。最近はとんと発作もおこしません。」

「そうか。。。」


 皇帝はホッとしたようなホッとしないような複雑な気持ちだった。


 皇帝は、波瑠が気立てのよい娘だとは思っていたが、彼女が宰相の娘であることに戸惑っていた。

 当初は、とにかく皇太子が元に戻るために藁をもつかむ思いで波瑠を側に置いたが、皇太子がここまで簫翠蘭と似ても似つかぬ彼女を気に入るとは、誠に想定外だった。


 ”仲邑備前という男は、腹の内が読めない男だ。私兵の数も中ノ国で一番多い。宰相になってからというもの、国軍や禁軍でも明らかに備前に胡麻をする奴が増えてきた。さらに最近はその勢力を骸組にまで伸ばしている。そんな男の娘が皇太子妃になれば、成多王朝が転覆しかねない。”


 そう思いながら部屋に入っていくと、すぐに気づいた波瑠がサッと椅子から立ち上がり、その場に跪いて皇帝に挨拶をした。


 それに皇帝はウムと頷いただけで、彼女の前を素通りすると立ち上がってお辞儀をしている息子には、よしよしとでも言うかのように手のサインで椅子に座らせ、自身は波瑠の座っていた椅子に座って碁盤を眺めた。


 対局は、なかなかの膠着状態で、波瑠が強いのか、皇太子が弱いだけなのか、、、

 そこで皇帝は、はたと、彼自身は息子と囲碁を打ったことがないことに気づいた。

 皇帝は、ばつの悪さを感じて碁盤を見つめながら「私が続きを打とう。君は帰ってよろしい。」と波瑠に言った。


 波瑠はその間もずっとひれ伏していたままだったが、その皇帝の冷たい対応にさらに萎縮して、体型からは想像もつかないほど消え入るような声で「はい。」と返事をすると、立ち上がって皇帝、皇太子にお辞儀をして、後ずさりしながら退室した。


 そんな波瑠にきづかず、従って彼女のことを気遣うはずもなく、照挙は、父である皇帝が自分と対局してくれる喜びでいっぱいとなっていた。

「父上、父上からです。」

 皇帝は2分考えて白の碁石を碁盤の上に置いた。

「なるほど。」そう言ってから照挙は、黒の碁石を親指と人差し指で弄びながらしばらく考えた後、ニヤリと笑って皇帝を見上げながら黒の碁石を碁盤の上に乗せた。

 それを見た皇帝は大いに焦り「そ、それは待った!」と言い始めた。


 勝利を確信している照挙は、笑いながら「では、父上、続きではなく、初めからやりましょう。」と提案すると、碁盤上の碁石を碁笥の中に戻し始めた。


 皇帝はそんな息子に微笑んで、白い碁石をどんどん碁笥の中に戻しながら聞く。

「どうだ?調子は。」

「いいですよ。波瑠は囲碁の腕前もなかなかだし、茶を入れるのも上手です。そうだ、波瑠に茶を入れてきてもらおう。波瑠!波瑠!」


 すると北公公がばつの悪そうな顔をして、照挙にお辞儀しながら言う。

「殿下、波瑠さまは、お帰りになりました。」


 照挙は明らかに機嫌が悪くなり、ムスっとして、怒った声で叫ぶ。

「私が帰っていいって言っていないのに、どうして勝手に帰ったんだ!」

 北公公はそれに困ってお辞儀の姿勢のまま皇帝を見ると、皇帝は、碁笥の中の碁石を弄びながら呟く。

「朕が帰らせた。お前が元に戻ったなら、もうあの娘に用はない。それより早く始めよう。」

「用はないって。私は、波瑠に用があります。波瑠は私の心を察する能力があるんです。お茶を飲みたいと思ったら、それを口に出さなくてもズバリのタイミングで持ってくるし、黙っていて欲しいと思ったら、言わなくても一言も発しません。波瑠と私は、菓子や食べ物の好み、本や芸術の好み、それに趣味が囲碁であることまで、ピッタリ同じなのです。」


 この照挙の発言で、皇帝は、仲邑備中がこの1年ではなく、自分の娘が生まれてからこのかたずっと、彼女を未来の皇后にすべく娘を調教してきたことに初めて気づいたのだった。


 皇帝は、今発見したことで頭が痛くなり、おでこを指先でこすりながら「朕は、皇太子の趣味は、武術や馬術と心得ていたが。」と照挙に向かって歯ぎしりしながら言うと、事の重大さに全く気づいていない照挙は、笑いながら「波瑠は、ああ見えても宰相の令嬢ですよ。武術や馬術など不必要ですよ。」と呆気らかんとして答えた。


「朕の祖母は、やはり宰相の娘だったが、馬に乗って一緒に狩りに行ったぞ。」

「そうなんですか?いつの話です?」

「朕が7つの時だ。」

「そうですか。それなら明日波瑠が来たら、馬に乗る練習をさせましょう。」

 ニッコリと笑って、ウキウキしながらそう答えている照挙は、父が憂いを帯びた目で彼を見守っていることに全く気づかなかった。


 皇帝は、座りなおし、真剣な眼差しで我が息子に話しかけた。

「照挙よ。波瑠をどうするつもりなのか?」

「どうするって、今迄通り日中私の世話をしてくれれば、、、」

「備中はそれでは納得せぬぞ。」

「・・・・・・」

「宮女にするには、波瑠の身分は高すぎるのだ。備中の魂胆ぐらいお前にもわかるだろう。」


 そのことは照挙でもわかっていた。

 わかっていたからこそ、最初は敬遠したのだった。


 でも波瑠と過ごすようになってから、本当に照挙は楽だった。


 波瑠の照挙に対する態度は、父のようにほったらかしでもなければ、母のように過干渉でもなく、何につけてもほどほどで、丁度いい塩梅だった。


 しかも両親のように的外れな事は一切なく、いつでも、まさに痒い所に手がすっと知らぬ間に届く女だった。


 照挙は、父に指摘されて、今、波瑠と親しくなってから初めて、自分の妃としての波瑠のことを考えた。


 ずっと考え込んでいる照挙のことを知ってか知らずか、皇帝は続ける。


「照挙よ。決して波瑠に心を許してはならぬ。波瑠に心を許すということは、宰相に今以上に力を与えるということになるのだ。備中は、腹黒い奴だ。お前を傀儡にするだろう。よいか、備中・波瑠親子に惑わされるでないぞ。」


 その翌日、いつもの通り東宮にやってきた波瑠に、玄関で待ち構えていた照挙はろくろく挨拶もせず、待ってましたとばかりに聞いた。

「君は何でここに来ているのだ?」


 波瑠は、突然照挙に思いがけない質問を投げかけられ、しばしそのままの体制で固まっていたが、やおら照挙にお辞儀をすると「父から皇帝陛下の命でこちらに伺うよう言われました。」とそつなく答えた。


「では、君は、君の父親の言うことだったら何でも聞くのか?」

 照挙は、彼女の答えが想定内だったので、そう言われたらこう聞こうと思っていたことをすぐに返した。


 波瑠は、そこそこの囲碁の腕前を持つ者らしく、照挙のこの問いに、照挙が何を探ろうとしているのかと考えた。

 波瑠は、居ずまいを正し淑女のお手本のようなお辞儀をすると、静かに答えた。

「女たるもの、三従四徳*の教えに生きるのが道理と心得ております。」


 *三従四徳とは、大昔まだ男尊女卑だった時代にあった概念で、「三従」は女性が従うべき三つのことをさし、幼い時は父親に従い、嫁いだ後には夫に従い、年老いたら子どもに従うべきであるということ。

「四徳」は女性がいつもの生活で心がけるべき四つのことで、節操を守ることをいう婦徳、言葉遣いをいう婦言、身だしなみをいう婦容、家事をいう婦功のこと。


 この答えを得て、照挙は昨晩眠れなかった原因に終止符を打った。


 照挙は、波瑠に向かって微笑むと静かにこう言った。

「小波瑠、では、今日から乗馬の練習に入ろう。私の供で鷹狩に行くのに馬に乗れなければ困るだろう。」


 照挙が、名前の前に小をつけて呼ぶ相手は、彼の腹心の部下だけだった。


 自分の名前に小をつけて呼ばれたことと、皇太子が、鷹狩に女性を同伴するという意味の重大さに波瑠は、真っ青になってその場にひれ伏し何とか「ははあ。」と答えた。


 皇太子の事実上の結婚宣言が東宮であった頃、そんなことなど露知らぬ伏見村の亀福寺に住んでいる、これで未来の皇太子妃の名前の読み方が同じになってしまった小春は、この数年毎日欠かさずしてきた照挙の姿絵にチュッとキスをしていた。


 そして、中ノ国の皇帝は、、、真剣に照挙の廃太子を考え始めていた。



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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