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第八章 探索

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 孔羽は全く予想だにしていなかった人物の到来に、驚きのあまり危うく大事な饅頭を落としそうになった。


「えっ!た、たぃ、じゃない、、り、梁途~。よ、よく来たなぁ。あ、上がって。」


 しどろもどろになりながらも孔羽は、なんとか頑張ってそう言うと、饅頭を握りしめてベトベトになった右手は使わず、左手で劉煌の腕を取ると、サッサと家に向かった。


 家の扉を開けながら孔羽は、側迄ついてきた母に向かって「あ、母ちゃん、水汲むんでしょ?水汲むんだったら、いつもの所じゃなくて、南口の方にしな。いつもの所は昨晩酔っ払いがトイレにしたって苦情が役所に来てたから。」と小声で囁くと、劉煌を先に扉の中にドーンと押し込んだ。


「そうだった。水がなかったんだ。ああ、まったく、どこのどいつだろうね。そんな酷い事するなんて!遠くまで行かなきゃならないじゃないか。水は重いんだよ。もう何考えてんだい。」

孔羽の母は、ブツブツ文句を言いながら踵を返して南に向かって歩いていった。


 劉煌は、この数時間で得た西乃国の首都:京安の惨状事象の数々に、さらにこの話が加わったことで我慢が限界まで達し憤慨して「本当にどこのどいつだ。そんな酷いことをっ!」と叫ぶと、涼しい顔で孔羽は唇に人差し指を添えて答えた。

「しー。そんなの嘘に決まってるじゃん。これで母ちゃんしばらく帰ってこないから。」

 劉煌は、これにまず素っ頓狂な顔をした後、顔をしかめ、心配そうに聞いた。

「でも、その嘘の話を広めちゃうんじゃ?そうしたら孔羽が大変なことになるぞ。」

「大丈夫だ。そんな大事な情報、母ちゃんが漏らすわけない。」

「どうして?」

「うちは僕が科挙に合格したってんで、近所から酷い嫉妬でいびられているんだ。母ちゃんはいつも煮え湯を飲まされているから、そんなこと聞いても、絶対誰にも教えてあげるもんか。近所が近くの水汲み場で汲んでいるのを見て、ほくそ笑んでいる母ちゃんの姿が目に浮かぶよ。」


 劉煌は孔羽の機転に感心しながら、2階への階段を登った。

 劉煌は孔羽の部屋の椅子に座ると、はい と言って饅頭の折を差し出した。

 孔羽はまさか劉煌から手土産を貰える日が来るとは思ってもいなかったので、思わずその場で跪き首をたれて両腕を伸ばし、まるで聖旨を受け取るかのように恭しくそれを受け取ろうとした。

 劉煌も劉煌で、孔羽が饅頭如きに跪いたことに動揺して、慌てて手をひっこめるとすぐに孔羽を立たせた。


「まさか太子が僕に饅頭を買ってきてくれるなんて。」

 孔羽は感慨深げにそう言いながら、自分の着物の帯を緩めて懐から大きな長い包みを取り出しそれを劉煌に手渡した。


 劉煌は「何これ?」と言いながら包みを開け、中身を見たとたんに目を皿のようにして息を止めた。


 劉煌は恐る恐るそれに書かれている内容を読むと、うーんと低い唸り声をあげた。


 それは、紛れもなく父である先帝:劉献が書いた、朝廷の重鎮達の前で劉煌に宦官を介して渡すはずだった正式な劉煌を皇帝にするという聖旨だった。


 “前文もしっかり書いてある聖旨らしい聖旨だ。”

 ”玉璽印も本物だ。”

 ”そうか...父上は、僕が3か国の祭典から帰ったらすぐに皇帝の座を僕に譲位するつもりだったのか。”


 劉煌は、読み終わった後もその聖旨から目を離さず、やっと一言だけ発した。

「こ、これは、、、」

「梁途が見つけたんだよ。皇宮で他の奴に見つかったら処分されるから僕に渡したんだ。太子が来た時に渡すようにって。」


 劉煌は呆然としながら、梁途とのやり取りを思い出していた。

『太子が持っていなきゃいけない物を床下で見つけたんだ。他の人に見つけられたら大変だから、孔羽が隠してここから持って出てくれたんだ。』


 劉煌は思わず目をギューっとつむった。


 ”梁途も孔羽も、未だに本当に僕の味方なんだ!”


 そう確信した瞬間、天井から女の声が響いた。

「やっとわかったかい?」


 これには、劉煌よりも孔羽が驚いて「誰だ!」と天井に向かって叫びながら、とっさに劉煌の前に躍り出て、明らかに彼を守る体制に入った。


 劉煌は、短い首をさらに短くし緊迫感溢れる孔羽の肩をポンポンと叩きながら「大丈夫だ。味方だ。」と彼の耳元で囁くと、「師匠、降りてきて。」と天井に向かって声をかけた。


 劉煌は呆気に取られている孔羽の前に進むと、劉煌の目の前に若い女性がサッと降り立った。孔羽はその女性の顔を見て、彼女が出羽島で劉煌と一緒にいた三味線弾きだと思い出すと、一気に緊張感が取れ、ヘナヘナとその場にへたり込んだ。


 お陸はそんな孔羽のことは眼中にないようで、劉煌に風呂敷包みを渡すと「さ、これに着替えて。そんな服着て街中にいたら逆に怪しまれるよ。」と告げた。

 劉煌は、うんと頷いてから風呂敷包みをほどくと、中から出てきたのはなんとあの芸妓の檀のピンクのお衣装だった。劉煌は、目をひっくり返しながらお陸を睨みつけると「アイヤー、これが一番お嬢ちゃんらしい服装じゃないか。」と訳の分からない回答が彼女から戻ってきた。


 劉煌は、男の服装を堪能する間もなく、それを脱ぎ、しぶしぶ渡された女物の着物を着、化粧を施して、みるみるうちに檀に変身していった。


 それを横目で気の毒そうに見ていた孔羽も、檀になりきった劉煌を見て思わず「いやー、絶世の美女だな。」と、褒めているのかけなしているのかわからないことを言ったので、すかさず劉煌は孔羽をギロッと睨んだ。


 孔羽は「ごめん、ごめん。」と謝りながらも、クククと笑いをこらえきれずにいた。


 そんな2人を見ながらお陸は、冷静に「さあ、ここを早く出よう。お座敷は取ってあるから、話はそこで。」と言うと、パッと屋根裏に飛び上がり、劉煌もそれに続いて、瞬く間にぴょんと一っ跳びで屋根裏に登ってしまった。


 孔羽は、6歳で劉煌と出会ってから武芸をたしなんできた。実は、孔羽は、その体型からは想像できないほど俊敏で、よくお前は重力に逆らっていると言われていた。しかし、今まさに孔羽がこの目で見た劉煌は、当時からは予想できないほど進化していて、その離れ業に彼は完全に度肝を抜かれてしまった。

 

 孔羽は、慌てて、「僕はそんな風には登れないよ。」と部屋から天井に向かって文句を言うと、お陸の毒舌がさく裂した。


「もう、お嬢ちゃんのお友達もお頭が弱いのかね。あんたは家の玄関から出ればいいだろう?四つ角の所で待ってるから。あっ、お嬢ちゃんが脱いだ軍服は隠しておいてね。」


 この物言いに孔羽はムッとすると、

「言っとくけど、僕は頭は悪くない。史上最年少で科挙に合格したんだ。」と反論した。お陸はそれを鼻で笑って、茶化す。

「そんな机上の試験では、本当の頭の良さは測れないんだよ、おデブちゃん。」

「で、デブって、それ、差別用語だからな!モラハラだ!」


 孔羽が、眉を生え際迄吊り上げてそう正当な抗議をした時には、もう2人の姿はどこにもなかった。

 孔羽はブツブツ文句を言いながら、それでも劉煌が脱ぎ捨てた軍服一揃いをまとめ、それを持って椅子の上に立つと、それを屋根裏に隠した。


 ”いくら細くて美人で太子の師匠だって、面と向かってデブはないよな!しかもおデブちゃんって、僕を子ども扱いして!”


 まさか、お陸が自分の祖母より年上とは知らない孔羽は、怒りながら家を出、お陸が言った四つ角の所に行くと、お陸は目を細めて孔羽を見た。


「ほら、やっぱり来ただろう?お嬢ちゃんは良い仲間に恵まれているんだ。大事にするんだよ。」

 お陸は、劉煌に諭すようにそう言うと、桃花楼という遊郭に向かって歩き出した。



「へえ、香姐さん、本当にお客を連れ込んだんすね。」

 遊郭の引き込みの男は、孔羽を見てそうお陸に挨拶すると、今度は劉煌の姿を上から下まで何度も顔を上下にしてしげしげとみてからお陸に向かって言った。


「いやー、話には聞いていたけど、これは上玉だ。女将に後で座敷に顔を出すよう言っときますよ。」


 劉煌は、完全に檀になりきっていたので、これにしなしなしながら色っぽくお辞儀をした後、やおら手鏡を出して、自分の顔を四方八方に向けて鏡の中の自分に微笑んでいた。

 その横に立っていた孔羽は、劉煌のナルシストっぷりに唖然としながら、口をポカンとあけ突っ立って劉煌をずっと見つめていた。


 それを見ていたお陸は、いきなり孔羽の腕を取って自分の腕に絡ませると「女将の挨拶は1時間後にしておくれよ。あたしゃ、この人と積もる話があるんだ。」と言った。


 先ほどの差別発言でお陸の好感度が地に落ちていた孔羽も、一見若い美女に腕を絡まれると、一気に好感度が持ち直しているのをしっかり横で感じていた劉煌は、後で孔羽がお陸の実年齢を知ってしまったらきっと卒倒するだろうと心を痛めていた。


 座敷に入って扉を閉めたお陸は、すぐに本題に入った。

「お嬢ちゃん、塩梅はどうだい?」

 劉煌は、孔羽の前でもお嬢ちゃんと呼ばれることに全く抵抗がないかのように「上々よ。もうこの国の皇宮に潜入する必要はなくなったわ。」と答えた。

「そうかい。それは良かった。まあ、そんなところじゃないかと思ってお嬢ちゃんの荷物は回収しといたよ。さあ、サッサと中ノ国に帰ろう。」

 そう言うと、お陸は、劉煌の目の前に緑色の大きな風呂敷包みを置いた。

 中身を確認すべく風呂敷を開いて中を見た劉煌は、その美しく化粧した顔を歪め、眉間に深く大きな皺を寄せながら


「これって師匠のメンテナンス用のエステ用品だけじゃない。他の私のものは?」


と、お陸に詰問した。


「アイヤー、全部お嬢ちゃんの物を回収してきたら、居なくなったってすぐバレるじゃないか。」


 お陸はいつものように、全く悪びれることなくそう言い放った。


 劉煌は、横に孔羽がいることをすっかり忘れるどころか、自分自身が檀なっていることも忘れて、真っ赤な唇を思いっきり尖らせながら叫ぶ。


「これって、師匠にしか使わないんだから、私の荷物って言わないと思う!」


 お陸はそんなことなどお構いなしに、


「アイヤー、お嬢ちゃんしか扱えないんだからお嬢ちゃんの荷物じゃないか。もう、そんな細かいことは置いておいて、さっさとこれ持って帰るんだよ。」


そう言うと、お陸は劉煌の手から風呂敷包みを奪って、また前のように結んで、彼に向かって顎で”これをお前が持て”と指示した。


 そのやり取りを見ていた孔羽は、さすがに科挙に合格するだけあって、全く意味不明な2人のやり取りの中から、自分に必要な部分だけを頭の中で抽出すると、地肌が塗った頬紅よりも赤くなるほど怒っている劉煌に向かって困惑気に尋ねた。


「えっ。太子。戻ってきたんじゃないの?」


 残念感満載に孔羽が言うのを聞いたお陸は、間髪入れずに「まだお嬢ちゃんは実地訓練中だから。」と答えたので、孔羽は不思議そうに「実地訓練?なんの?」と聞いた。


 お陸は全く躊躇なく間髪入れずに答えた。

「くノ一さ。」


「く、くノ一ぃ~!?」


 あまりに突拍子の無いお陸の話に思わず素っ頓狂な声を上げた孔羽は、すぐにお陸に口を抑えられてしまった。


「おデブちゃん、あんた声も大きすぎるよ。」

「だって、あんまり突拍子が無いから。くノ一なんて伝説の生物(いきもの)じゃないの?」

「何だい、ひとのこと妖怪みたいに言いよってからに。」

「えっ?まさかお姐さん、本当にくノ一なの?」

「そうだよ。この道云十年の・・・」

とお陸が言いかけたところで、それまで2人の会話があまりにも面白くて完全に観客状態になっていた劉煌が、慌ててお陸の口を手でふさいだ。


 しかし孔羽は一つも聞き洩らすことなく「えっ?云十年って、お姐さん本当は幾つなの?」と青ざめて聞くと、お陸は劉煌の手を払いのけぴょんと飛び上がって劉煌の側から離れると、その軽業に驚いている孔羽の頭をピシャリと叩いてから彼の向こう側に着地した。


 お陸は、ぶっちぎれて叫んだ。

「全くあんたは脳みそも脂肪でできてんのかい?レディに年を聞くなんて!言っとくけど、あんたの婆さんよりずっと年上だよ!」


 孔羽は自分の聞き間違いだろうと思って恐る恐る劉煌を見ると、劉煌は本当に申し訳なさそうな顔をして「本当だ。美容整形で今でこそ外側は若く見えるが、10年前初めて会った時、私は彼女をおばあちゃんと呼んだ......」と小声で言った。


 ところが、予想に反して孔羽は卒倒するどころか、勝ち誇ったような顔に変わると、命知らずにもお陸に向かってこう言い放った。


「やっぱり伝説の生物(いきもの)じゃないか!自分で言った通り妖怪だよ!」


 これにカチンと来たお陸は「何を、このデブっ!」と言って、サッと孔羽の横に来て、今度は彼の腹の脂肪を鷲掴みにした。


 孔羽は、あの李亮と共に成長してきただけあって、そんなハラスメントぐらいでしなびてしまうような軟な男ではなかった。孔羽は、お陸に容赦なく言い返す。


「何を!この妖怪っ!」


 むしゃくしゃしたお陸は矛先を変えて、劉煌に向かって吠える。

「全くお嬢ちゃんも減らず口なら、その友達も減らず口だ!」

「なんで私に絡んでくるの?」

 劉煌は、お陸の八つ当たりに文句を言うと、今度は3つ巴になってののしり合いの喧嘩が始まった。


 それが3分程続いている最中に突然


 ガラーッ


 という音とともに、女将が微笑みながら、「おこしやすぅ......」と入ってきてしまった。そして、女将が視線をあげると、なんと中の3人が取っ組み合いをしているではないか......


 3人と女将は、そのままの状態で固まってしまった。


 それでもそこは百戦錬磨のお陸である、咄嗟に孔羽の胸倉を両手で掴むと、


「あんた、何で何だい!よりによって檀とできてたなんてっ!!」


と、突然予想だにしないことを叫んだ。


 もう10年こんなお陸の相手をしてきた劉煌は、この手には慣れ切っているため、すぐにお陸に口裏を合わせお陸の足元に抱きつくと


「香姐さん、やめて!この人は悪くないの。全部あたしのせいなのよぉぉぉぉぉ~。」


と臭い芝居を始めた。


 孔羽は、何がなんだかわからず動転しながらも、流石に科挙に受かるだけの頭の回転の速さがあり、すぐに話を合わせると


「ゆ、許してくれ。お、俺は、、、お、俺、えっと…その…俺は檀が好きなんだ!」


と、途中詰まりながらも、最後の方はやけっぱちなのが誰でもわかる叫び声をあげた。


 この3人の修羅場を女将は、見て見ぬふりをして、そのままの形でバックし部屋を音もたてずに出ていった。


 それでも劉煌は、しばらく演技をやめず孔羽に向かって「あんたぁぁぁぁぁ~」と泣き叫び、孔羽は吐き気を必死にこらえながら「ま、まゆみぃ~。」と叫び、お陸は「どーしてーえー!」と天に向かって吠え続けた。


 そして上を向き「どーしてー」と叫び続けながらお陸は扉に近づき、外の様子を覗って、周りに誰もいないことを確認すると劉煌に向かって手で合図した。

 劉煌は、それを見るとピタっと演技を止め、孔羽に目配せした。


 お陸は、妙に感心した顔つきで孔羽を見ると、両腕を胸の前で組んで頷きながら言う。


「お嬢ちゃんのお友達は筋がいいねぇ。この前忍び込んだ時も、寝てんのに懐の中に隠している物を離さなかったし、すぐにあたしの気配に気づいて起きたもんね。今日も咄嗟にこんなことができるなんて、お嬢ちゃんよりずっと頭が柔らかいよ。それに出羽島の時も、この体型なのに機敏な動きだったし、ね、あんたもくノ一やってみないかね。」


 お陸としては最後の部分を言いたかったのに、孔羽は、最初の”忍び込んだ時”の部分に反応して、お陸に突っかかる。


「忍び込んだってどういうことだ!」

「アイヤー、あたしはくノ一だよ。どこでも必要とあれば忍び込むのさ。特にあんたは、お嬢ちゃんの大事な物を預かっていただろう?」

「それなら、もういの一番で渡したよ。」

そう孔羽が言うや否や、お陸は劉煌の方を振り向いた。


 劉煌はそれに1回だけ頷いて答えると、口を尖らして逆にお陸に質問した。


「ねえ、師匠。確か私が入門する時、あちゃこちゃ舐めまわすように私のこと見てから合格って言ったわよね。しかも脚のラインを細くキープしとくようにって。それなのに、彼をスカウトするってどういうこと?」


 自己陶酔型ナルシストであり、呂磨ではウェヌス(ビーナス:美の女神)というニックネームがついていたほど美しさに自信のある劉煌は、そのプライドもあって不満げに孔羽を指さしながらお陸に問いただした。


「アイヤー、お嬢ちゃんまだお頭が弱いまんまかね。あんたの容姿は典型的なくノ一、おデブちゃんはワイルドカードだよ。皆まさかこんなくノ一がいるなんて思いもしないだろう?」

「なるほど!」

 間髪入れずに思いっきりそれに納得して劉煌は、叫んだ。


 それに孔羽は、全然納得がいかず「ちょっ、なるほどってどういうことだよ!」と言ったが、劉煌がキッと睨んできたので、仕方なく口を閉じて小さくなった。


「とにかくさあ、もう早くここからお暇しよう。」お陸がそう言うと、孔羽は「ちょっと待って。」と言って劉煌に部屋の片隅に来るように促した。


 孔羽はお陸が聞こえないところまで来ると、小声で「ねえ、太子、いつになったら戻ってくるの?」とひそひそと聞いた。


 劉煌は、ようやく蒼石観音が3体揃ったものの、西乃国の龍の探索に至ってはまだ何の手がかりも無いことから、顔を曇らせ、「まだ僕の準備が整っていないんだ。」と暗い声でボソッと呟いた。

「準備って?そんなの待ってたら国がもっとおかしくなっちゃうよ。」

孔羽は、劉煌がこのまま西乃国に留まると思っていたので、がっかりして言った。

「ごめん。表現が悪かった。大丈夫だ。この準備は、父上から万一の時にと仰せつかったものなんだ。だから踏ん張っていて欲しい。とにかく今は劉操に決して逆らわず、命を大事にしていてくれ。」

劉煌がそう言うと、先帝からの命ということで少し安心した孔羽は、余裕ができたようで、頷きながら「わかった。でも一つ条件がある。あとで伝書鳩を渡すから、それで連絡をして欲しいんだ。出羽島に行っても、中ノ国に行っても、どこに行っても。」と言った。


 お陸がしびれを切らして「さあグズグズしていないで行くよっ」とガラッと扉を開けた瞬間、彼女は廊下にいた男と目と目がバッチリあってしまった。


 そして、絶叫のような男の羅天語の声が響いた。


「おお、なんと、こんな所で。リク嬢!やはりあなたは私の運命の人!」


 お陸は何を言われたのかわからなかったが、その声は忘れもしない、あの下手くそなセレナーデを歌っていた声だった。


 ”どうりで呂磨でずっと仮面を付けたまんまでいたはずだ。西域人ではなく、この顔つきは北盧国人?”


 お陸はそう思うと、サンタニック号で海に突き落としたことを思い出し、参語で「この死にぞこない。」と呟いた。


 劉煌も声ですぐに相手がゾロンだとわかったが、Uターンして部屋の中に戻ってきたお陸の後を追ってきた男の顔を見てさらに驚いた。


 劉煌は、サッと部屋の扉を閉めると、流ちょうな羅天語で「ゾロン、どうしてあなたがここに?それに貴方って本当はどこの人なの?」と聞いた。


「ミレン嬢あなたもいたのか。それなら話が早い。これを見て。」


ゾロンはそう言うと、少し色褪せた新聞紙を見せた。


 その新聞を見た瞬間、劉煌は真っ青になった。


 それを見たお陸はため息をついてこぼす。

「アイヤー、お嬢ちゃん顔色簡単に変わりすぎだよ。まだまだ独り立ちは早いかねぇ。」


「師匠、戯言を言っている場合じゃないわ。すぐに呂磨に行かなくては。」


 そう劉煌が言った途端、お陸と孔羽は同時に叫んだ。

「えっ何で?」


「ドクトル・コンスタンティヌスが、、、亡くなった。」

 劉煌は、悲痛なあまりそう言うのがやっとだった。


 突然顔つきが真剣になったお陸が、冷静に聞く。

「死因は?」

「拳銃自殺、、、」と、劉煌が新聞を訳している最中にお陸は、すぐに「殺されたね。ドクトルは、自殺する動機もなければ拳銃も持っていなかった。」と淡々と言った。


 その言葉に劉煌は、新聞から目を逸らし、お陸を怪訝そうに見ると「なんで彼が拳銃を持っていなかったって師匠が知ってるの?」と呟いた。

「アイヤー、居候になるんだから、貸主の全てを知っておく必要があるだろう?ドクトルの家全部あたしが知らない物は何もないよ。」

 お陸が平然とそう言うと、劉煌は、目をひっくり返して頭をふりながらまた新聞の方に顔を向けた。


 お陸は、両腕を胸の前で組みながら「しかし呂磨の警察はお粗末だね。コイツもくくりつけて置けなければ、ドクトルも自殺にしちゃうんじゃ。」とコイツのところでゾロンを親指で指さしてそう言った。


 孔羽は、全く話が見えないので、劉煌、お陸、ゾロンの三角形の中に巨体でムニムニ入っていくと、「ドクトル?自殺?他殺?それでどうして呂磨に行くことになるの?だいたい太子はそんなことに構っていられないでしょ。」と吐き捨てた。


 今度は、劉煌が部屋の隅に孔羽を連れていくと、ドクトル・コンスタンティヌスとの関係や劉操の発注した大量破壊兵器について孔羽に要点をまとめて話した。


 孔羽は、ドクトル・コンスタンティヌスとの関係についてはめんどくさそうに聞いていたが、大量破壊兵器の話になった途端真っ青になり「あの武器購入名目の大金はそれだったのか。」と叫んだ。


 劉煌は、孔羽の応えが予想外だったので驚いて彼に問う。


「孔羽、何で君がそんなことまで知っているの?」


 孔羽は自分の役所での役割とそれを利用して全ての情報を掴んでいる話をした上で、「だから太子がいつ帰ってきても、行政のことは全部把握しているから安心して。」と付け加えた。


 劉煌は、政変のその先を見据えている孔羽の働きに苦笑しながら、心の中、”その前の政変が、4~5人 対 ん100万人なんだけど…”と、思っていた。


 孔羽は、自画自賛モードから突然不満モードに切り替わると「でも太子、呂磨なんか行ってたら益々西乃国に戻ってくるのが遅くなるじゃない。」と愚痴った。


「孔羽、僕は確かに劉王朝の正統な後継者で、第28代皇帝の譲位の聖旨もある。だけど、その道理が通用する現状ではない。父から仰せつかった準備も一朝一夕でできるものではなかったが、大詰めを迎えている。それになんとなく、ドクトル・コンスタンティヌスのことも繋がっているような気がするんだ。」


 劉煌は、ドクトル・コンスタンティヌスを脅した奴と劉操が発注した大量破壊兵器が結びついていたことを思い出してそう言っていると、いつの間に側にやってきたのかお陸が口を挟んだ。


「それにお嬢ちゃんのことは、まだあたしが独り立ちOKを出していないんだよ。今ここに一人残してお嬢ちゃんが死んじまっちゃ、おデブちゃんも困るだろう?」


 孔羽は、またおデブちゃんと言われたことにムカツきながらも、

「わかったよ。妖怪。でも絶対太子に無茶言わないでよ。」と返した。

「全くこのおデブちゃんときたら、あたしを誰だと思っているんだい。」と、お陸は呆れて答えるも、その目が笑っていることに劉煌だけは気付いていた。


 ”師匠は本当に孔羽が気に入ったんだな。僕が師匠に妖怪なんて言ったら、その瞬間に消されちゃうよ。”


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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