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第八章 探索

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 

 午後になり掃除の為に後宮の蔵にやってきた梁途は、いつものように蔵に入ったが、その日は蔵がなぜか土埃くさいと感じた。


 “黄砂の影響か?でも屋内で?”


 梁途は口元を袂で覆いつつ、いつものように地下に続く扉を塞いでいる棚の所にやってくると、棚を移動し、扉を開けた。するとそこにはあったはずの階段はなくなっていたどころか、中はすべて土砂で覆いつくされてしまっていた。


 ”いったい何があったんだ?”


 梁途はパニックになりながら扉を閉めると、棚を元の位置に戻して、周りに散らばった土砂を掃除し始めた。


 梁途が土砂を外に掃き出していると、蔵の前を通りかかった宦官が彼に宮女は掃除を手伝っているかと聞いてきた。

 梁途は怪訝そうな顔をして、「いや。」と答えると、宦官は甲高い声で「全く鍵を探していたからやる気があるのかと思ったのに、来ていないなんて。あっ、違うわ。今それどころじゃないんだわ。皇宮に誰が残るかで揉めてるんだわ。どうなったか見に行かなくっちゃ。」と言うと、いそいそと庭園に向かって速足で歩き始めた。


 梁途は、宮女がこの蔵の鍵を探していたという言葉に、直観的にあの床下の崩壊とその宮女が関係していると閃くと、すぐに蔵に鍵をかけてやはり速足で宦官の後を追った。


 ~


 後宮の庭園では、居残りに決まってしまった劉煌がボーっと突っ立っていたが、突然背後から

「お前が蔵の掃除をする宮女か?」

と言う声がかかった。


 劉煌は、その声で劉煌に声をかけてきている人物が誰なのかを察すると、大きな深呼吸を1回して、くるりと向きを変えると「そうです。」と言いながらお辞儀をした。


 梁途は、顔を上げようとしない宮女にますます怪しさを感じ「お前、ちょっと来い!」と言って、劉煌の腕をガシッと鷲掴みにすると、禁衛軍指令室に連行しようとした。

「あ、ちゃんとついていきますから、そんなに強く掴まないで。」劉煌がそう言って顔を上げると、その顔を見た梁途は今迄の勢いが全くなくなり、驚きのあまりそこで立ち止まって宮女の顔を口を大きく開けた状態のまま呆然とみた。

 そして、次の瞬間、劉煌の変装=すなわちほっぺたに大きな黒いほくろをつけてること=の強烈さに、ブーッと吹き出して腹を抱えて笑い出した。


 劉煌は、とにかく目立ちたくないのと、ここでは話せないことから機転を利かして「私は居残り組に決まったんです。今日から蔵の掃除も担当します。蔵の鍵をいただけませんか?」と言うと、梁途は我に返って「わ、わかった。蔵を案内する。」とだけなんとか言うと、クククと必死に笑いを抑えながら足早に蔵の方に向かった。


 2人は鍵を開けて蔵に入ると、梁途はすぐに跪き、なるべく劉煌の顔を見ないように必死に笑いを抑えて先ほどの無礼について一言「お許しを。」とだけなんとか言えた。


 劉煌は、これを彼が今は劉操の配下になっているので、それを許してくださいと言っているのだと誤解し「許すも何もないよ。君の人生、君の選択を尊重するよ。」と囁いた。


 梁途は、劉煌の変装を笑ったことが自分の人生の選択になるほど大袈裟な事とは思わず

「太子、何言ってんのかさっぱりわからないよ。」

と他に誰もいないのに劉煌にしか聞こえない程の極小さな声で言った。そして、

「それより、ね、ここ忍び込んだ?床下の、、、見たの?」

とまた小さな声で聞いてきた。


 劉煌は、それでも梁途が敵なのか味方なのか思いあぐねていたので、はあと曖昧な返事をした。

 梁途は、劉煌に逢えたことが本当に嬉しくて、劉煌が彼に対して斜に構えていることに全く気づかず「なんだ、ここにいるんだったら何で俺に声をかけてくれなかったの?ここにいるって知らなかったから回りくどいことしちゃったよ。とにかくここを一刻も早く出て、孔羽の所に行って。孔羽の家は覚えているでしょ?前と変わらない所だから。」

と言った。

 劉煌は、眉を潜めて

「どうして彼の所へ?」と聞くと、

梁途はニコニコしながら

「太子が持っていなきゃいけない物を床下で見つけたんだ。他の人に見つけられたら大変だから、孔羽が隠してここから持って出てくれたんだ。それにしても孔羽に託していて良かったよ。そうじゃなかったらあれも生き埋めになってた。」

と言った。


 ”まさか、3体目の蒼石観音のことか?いや、そんなはずはない。それを僕が持っていなきゃならない物であることなんて、梁途が知っているはずがないもの。”


 梁途は、てっきり劉煌が彼に会えて喜んでいると思っていたのに、劉煌が暗い声で「そう。」とポツリと言うと、ようやく劉煌の様子がおかしいことに気づいた。


「ね、どうしたの?俺と会えて嬉しくないの?そうか。いつもそうなんだ。みんな俺のことは透明人間だと思うらしい。皇帝もそうだった。」


 梁途は、今度は急に不貞腐れてそう言うと、蔵の壁に寄りかかった。


「皇帝もそうだったって?」劉煌は、思わず心のガードが下がりそう聞いてしまった。


「この前会った後、あの島で野犬騒動があったんだ。俺たち猪のことを思い出して、あの時の作戦で野犬をやっつけたんだ。そしたらその話が皇帝の耳に入ったらしくて、皇帝の口利きで亮兄は前線に出征のはずが参謀本部に、孔羽もいきなり中央省庁勤めになったんだよ。」


 そこまで梁途は一気に言うと、今度はものすごく不快そうに、

「だけど、俺だって一緒にそこにいたのに、俺だけ皇帝の口利きがなかった。だから、禁衛軍に入ってもノンキャリア組で、こんなところの掃除係さ。」

と足で何かを蹴とばすような素振りを繰り返してそう吐き捨てた。


 ”?梁途は、、、もしかして劉操と無関係?”

 劉煌はボーっとしながら、「そうか。」と答えると、しばらくしてから今度は梁途の顔を始めてしっかりと見て


「梁途は、透明人間じゃないよ。いつでも締めてくれるのは君じゃないか。」と言った。


 その言葉に梁途は心底喜んで、また上機嫌に戻ると、

「そうそう、この前心配していたでしょ、お凛ちゃん。どこにいるのかわかったんだよ。」

と話し始めた。

 劉煌は、白凛が生きているとは信じていたが、それが現実であることに喜びを隠せず、間髪入れずに「本当か?良かった!」と興奮して何度も頷いた。

 梁途も嬉しそうに今持っている白凛の情報を全て劉煌に伝え、彼女の側に李亮がついていることも教えた。


「だから一日も早く戻ってきて。そのためにはまずここから出ないと。」と梁途がしめた。


 ~


 劉煌は、少し気分を取り戻して宿舎に戻った。

 しかしその時には、もうお陸は跡形もなく忽然と消えていた。

 それに気づいた劉煌は、顔をしかめると、まずお陸の使っていた道具入れを開けてみたが、そこには文字通り何一つ残っていなかった。。。

 劉煌は、頬につけたほくろが取れそうになるほど鼻に更に皺をよせ、お陸と共に暮らした空間の隅々まで確認したが、書置き一つそこには残っていなかった。


 ”あの、クソばばぁ!今度顔を何とかしてくれって言ってきても、絶対助けてやんないからっ!”


 劉煌は、呂磨に行って以来、勝手に日課に組み込まれていたお陸へのエステサービスを思い出してそう思った。


 ”それにしても、つい先だってまでは、先に出ていったらと言ってもくっついていたのに、いったいこの変わり身の早さは何って感じ!”


 そこで劉煌は、ハッと気づいた。


 ”もしかして、僕が探している物を見つけたから?”

 ”まったく、師匠ったら慌て者だ。まだ全部は見つけ終わっていないんだけど。”


 そう劉煌が苦笑していた頃、お陸は孔羽の家を見つけ出し、彼の家の屋根裏に潜んでいた。

 ”このおデブちゃんは、あの蔵で何を渡されたのだろう?”


 そして、梁途は劉煌を皇宮から逃がす方法を必死に考えていた。


 ~


 その晩、孔羽が床についてから、お陸は屋根裏からそっと音も立てずに孔羽の部屋に降りたった。お陸は棚を順に開けて探したが見つからず、ふと孔羽を見ると、彼は布団を蹴とばしていびきをかいて寝ていた。その懐に視線を移した時、お陸は彼女の探し物は彼の懐の中にあるとわかった。


 お陸は、そっと彼に近づき、懐に手を入れようとした瞬間孔羽はガバっと起き、慌てて両手で懐を抑えた。そして左右をキョロキョロと見渡したがそこには誰もいなかった。

 孔羽は、寝ぼけ眼で「気のせいか。」と呟くと、また布団をかけて寝始めた。


 孔羽が起きた瞬間、飛び上がって天井に蜘蛛のようにぶら下がったお陸は、ふううとため息を着くと、天井を開け屋根裏に逃げ込んだ。


 ”いやあ、意外に反応が素早かった。これは繁華街でスリの要領で失敬するしかないかね。”


 そう思ったお陸は、屋根裏から屋根に出ると、民家を屋根伝いに走り抜け、最後に皇宮の城壁に飛びついた。皇宮の城壁から中の様子を探ると、西側の一角だけ全く守衛が配置されていないことに気づいた。お陸はその一角を目指して城壁を猫のように巧みに駆け抜けると、そこから皇宮内に侵入した。お陸はそのまま身体を屈めて警戒しながら歩き、宮女宿舎の劉煌の部屋の外側に着くと、猫の鳴きまねを始めた。


 その猫の声は、本物そっくりで、宮女たちは本物の猫だと信じて疑わなかったが、その中でたった一人、違いの分かる宮女がいた。

 その宮女は、何も言わずにスッと宿舎から出、辺りに人がいないことを確認すると、今度は自分が猫の鳴きまねを始めた。


 すると草場の影から、小さな声で「お嬢ちゃん」と呼びかける声が聞こえた。

 劉煌は、また辺りを見まわして再度誰もいないことを確認すると、草の生い茂った1画に身体を丸めて入っていった。


「なんで戻ってきたの。」

「全く、ご挨拶だね。危険を犯してまでここに来てやったのに。」

「よく言うわよ。書置き一つ残さなかったくせに。」

「おデブちゃんの所に行っていたんだよ。」

「どうして?」

「あの時持って帰ったのが何か知りたくてさ。」

「で、手に入れたの?」

「おデブちゃんが寝ている時も離さないから今日は無理だった。明日でも、、、」

「必要ないわ。」

「へ?」

「僕が訪ねれば渡して貰えるものだから。」

「訪ねるって、どうやって。」

「抜け出す準備をしている。」

「どうやって。」

「うーん。まだわからない。でもこの皇宮、誰がいつ居なくなっても無関心じゃない?」

「そりゃ、中で始末されているからだろう。外に出るのとは訳が違う。今日だって女官と併せて150人解雇で出ていくのに、いざ門外に出ようとしたら、全員門でチェックがあったよ。」

「でも師匠、こうやって門を経由しないで入っているじゃない。同じ感じで出るわよ。」


 ~


 翌日の午後、梁途は、蔵にやってくると劉煌が来るのを待った。

 程なくして劉煌は、この皇宮でのいつもの恰好:すなわち宮女の制服に、髪飾りの無い左右の頭頂に丸く結った髪、頬に大きな黒いほくろをつけた状態で、蔵にやってきた。


 梁途は待ってました!とばかりにいそいそと蔵の扉の所まで来ると、すぐに劉煌を中に入れ、左右を見て誰もいないことを確認してから扉をきっちりと締めた。


「これを持ってきた。」

そう言うと、梁途は、禁衛軍の兵士の装いを一式劉煌の前に広げた。劉煌が、怪訝そうな顔で梁途を見ると、梁途は「さ、早く着替えて。」と言って劉煌の制服を脱がそうとした。


「着替えてどうするの?」

「太子が俺になるんだよ。」

 そう言うと、梁途は劉煌の腰ひもから手を放し、持っていた禁衛軍の軍札を劉煌に渡した。


 劉煌は、何がなんだかわからないでいると、梁途はこう言った。

「覚えていない?昔、皆で同じ服を着て稽古してたら、後ろ向きだとみんな俺と太子を間違えていたじゃない。今だって背格好は殆ど変わらないじゃん。だからこの恰好して軍札を持っていれば、門番は俺だって信じると思うんだ。」


「それで梁途はどうするんだ?」

「いつもと同じさ。夜になったらここを閉めて宿舎に帰る。」

「だって、外に出たことになっているだろう?」

「大丈夫だよ。禁衛軍の軍服を着ていれば、挨拶一つでスルーさ。それに門も1か所じゃない。ただ、太子が出る門は朱祜門にして。あそこの老兵は、もうだいぶ記憶が曖昧なんだ。だから万一後で何か不都合なことが出てきたとしても、あそこならいい意味でも悪い意味でも証拠にならない。」


 そう言われた劉煌は、ニッコリ微笑んでからすぐに頬のほくろをむしり取ると、髪をばらして頭頂に1つにまとめ、梁途と同じ冠簪をつけた。


 しかし、着替えている途中で、劉煌の頭を一抹の不安がよぎった。

 ”そんな他の人を誤魔化せるほど似ているかな。”

 そう思いながらも宮女の制服から禁衛軍の制服に着替えて化粧を落とした劉煌は、久しぶりに男の恰好に戻ったのが嬉しくて、満面の笑みを浮かべながら梁途の目の前に立った。


「ほら、ぴったりだろう?」

「何が?」

「俺の制服さ。」

 そう言われた劉煌は、左右の腕を交互にあげて袖丈をチェックした。

「たしかに。。。」


 劉煌は同じ背丈の男の中でも手足が長く、大抵の着物は袖の長さが彼には短かった。

 それなのに、梁途が持ってきた制服一式は、肩口から袖、裾までまるで誂えたかのようにピッタリだった。

 不思議そうに何回も自らの腕を挙げて袖を見ている劉煌に、梁途は「俺も腕が他の奴より長いんだ。だからいつも袖を出してもらうんだ。」と言った。


 突然劉煌は梁途の手を引き、100年前の姿見の所まで行くと、梁途を彼の前に立たせた。

 その状態で劉煌は姿見を見ることができず、彼は梁途の横に立って姿見を見た。

 劉煌は女の子達がうらやむほどの長い首をしていたが、梁途も全く同じで、なんと肩の高さまで同じだった。

「今度は僕が前だ。」

 劉煌はそう言って梁途の前に立つと、梁途の姿は彼の影にスッポリ隠れて全く見えなかった。


 ”なんと気づかなかったが、本当に僕と梁途の体型はそっくりなんだ。”


 さらに禁衛軍の被る烏帽子は通常より深く、眉毛が隠れるので、パッと見た瞬間なら、劉煌でも自分と梁途を見間違えるかもしれないと思えた。


 ”これは梁途の言う通り、イケるかもしれない。”

 劉煌は、烏帽子をわざと梁途よりも深々被っていると、その間に梁途は劉煌の腰に軍札を付けた。


 それを見た劉煌は慌てて「でも、これが無ければ梁途が困るだろう?」と、とても心配そうに尋ねると、梁途はニヤリと笑って「大丈夫。」と言いながら自らの懐からもう1枚軍札を取り出した。


「なんで、軍札を2枚も持っているんだ?!」


 劉煌は、狐につままれたような顔をしてそう聞いた。すると、周りに誰もいないのに梁途は口に人差し指を立てて、「シー」と言ってから続けて

「この前俺たちノンキャリに嫌がらせしてきたキャリア組の奴の軍札を失敬した。」

と涼しい顔で言った。


 劉煌は、大きな目をさらに皿のように丸くして、彼がこの皇宮に皇太子として住んでいた時のことを思い出していた。

 当時禁衛軍の軍札を無くしたら、その者はどんなに家柄が良かろうが、手柄が沢山あろうが追放に決まっていて、二度と皇宮の門を跨げなかった。


 劉煌は慌ててあおざめながら「そいつは追放されたんじゃ。。。」と聞いた。

 梁途は劉煌の心配をよそに腹を抱えて笑うと、現在のこの国の内情を全く知らない、この国の元皇太子に勿体つけながら教えた。 


「太子のいた頃と、ここの建物は同じでも中身は全然違うのさ。キャリア組ならたとえ軍札であっても無くせばお咎めもなくすぐに再発行だ。街に出たら質屋に行ってみるといい。いっぱい禁衛軍の軍札扱ってるから。」

「そ、それじゃ、誰だって皇宮内に入れるじゃないか。」

「ま、そうとも言う。」

「よく劉操が許してるな。」

「許すも何も、皇帝は知らないだけさ。月に1回フラッと戻ってくるだけじゃ、裏のことなんかわかりゃしないよ。それに、皇帝の意識は常に国外にあるから、国内の、まして自分の庭なんかに興味はないんだよ。実質的にはここの主は宦官の石欣だ。アイツが一番言うことを聞く相手は金だ。アイツに賄賂を渡せば何でも思いのままさ。」


 劉煌も宮女になってこの皇宮に潜入すること数か月、石欣の賄賂の話は噂では聞いたことがあったものの、ここまで劉操の目が行き届いていないとは思ってもいなかった。


 ”たしか、石公公はずっと劉操と共に海の御用邸にいた宦官だった。”


「あと、僕が知っておくべきことは何かな?」

「西乃国はもはや一部の特権階級のための国だ。皇帝は西域に領土を広げることしか頭になく、皇帝の側近は金のことしか頭にない。民はもう一揆を起こす気力さえも残っていないほど特権階級に吸いつくされている。」

「わかった。皇宮を出たら質屋に寄るよ。質に出されている物で大体のことはわかるから。」

 そう言いながら、劉煌は蔵の扉の所までやってきた。


 劉煌が辺りを覗いながら扉を開けようとすると、突然梁途が劉煌を背後から抱きしめた。

 劉煌の耳元で梁途は寂しそうな声で、


「太子、今度はいつ会えるのかな。ここに来てたのに連絡くれなかったのは悲しかったよ。俺らじゃあんまり頼りにならないかもしれないけど、皆太子の味方だから。」

 

 と囁いた。


 思いがけない梁途の囁きに劉煌は扉を開けるのを止めて後ろを振り返った。


 劉煌の頭の中は文字通りこんがらがっていた。


 出羽島で劉操に会っていた3人

 その後自分たちの将来は明るいと言っていた李亮

 その通りになった李亮と孔羽

 その通りになっていない梁途

 白凛のためにわざわざ戦地に出向いた李亮

 その話を梁途に危険を冒してまで伝えにきた孔羽

 その孔羽に隠し部屋から発見した物を託した梁途

 そしてその物は劉煌が持っていないといけないと言った梁途

 自分に包み隠さず西乃国のネガティブ情報を伝えてくる梁途

 皇宮にいる自分を助けて外に出そうとしてくれている梁途

 3人とも味方だと言った梁途


 ただ一つ確かに言えることは、梁途が自分の制服の一揃いを劉煌に渡してくれたことに、劉煌が御礼を述べるべきだということだけだった。


 劉煌は、最後の1体の蒼石観音の行方が気になりながらも、とりあえず孔羽が持っているという”自分が持っていないといけない物”を回収しようと思った。


 梁途の手を取って「ありがとう。梁途も元気で。」と言うと、劉煌は難の迷いもなく蔵の扉を開け、北に向かって歩き出した。


 梁途は、蔵の中からだんだんと小さくなっていく劉煌の後ろ姿を見つめながら、心の奥底からこう思った。


 ”太子。今度ここに戻って来るときは、君を陛下って呼びたいよ。”


 劉煌は、不思議なほど全く誰にも声をかけられることなく、また怪しまれることもなく、皇宮内を歩いていたが、ある地点で急に思い立って、そこに立ち止まり朱祜門を見上げた。


 10年前まで毎日この門をくぐっていた時は、なんと大きな門だろうと感じていたが、あれから、身長も50cm位高くなった今の劉煌の目には、この門がさして大きな門とは映らなくなっていた。


 ”ここをくぐるのも10年ぶりだ。”


 そんな感傷に浸っている場合ではないのに思わずそう思ってしまった劉煌は、守衛に会釈すると、思いがけずお互いに目と目が合ってしまった。


 ”え?もしかして、金譲?まだいたのか?”

 そして劉煌は、梁途が言ったことを思い出した。

「あそこの老兵は、もうだいぶ記憶が曖昧なんだ。」


 それはそうだろう。

 何故なら金譲は、10年前も既に80近い老兵で、その時もこの門を守っていたのだから、今は少なくとも90に手が届くはずだ。彼は元々先帝の側付きで、その中でも清廉潔白・品行方正で、年老いてからも門番として皇宮に残り、皇宮の門を守っていたのだった。


=10年前の劉煌の記憶

「太子、お気をつけて。」

「うむ」

「陛下には何も聞かずに通せと言われておりますが、この老夫は毎日肝を潰しております。」

「大丈夫だ。毎日ちゃんと帰ってきているだろう。」

「はあ。」=


 劉煌は、当時毎日ここで顔を合わせていた金譲のことを思い出し、記憶が曖昧な彼が相手でも自分の顔をしっかり見られないようにすぐに目線を外した。


 ところが、梁途が言ったことは、正しいようで正しくなく、適切でないようで適切だった。


 なんと、金譲は、劉煌の顔を見るなり、明らかに驚愕し、手にもっていた槍をガタンと落として震えながら劉煌に向かって声をかけてきた。


「へ、、、へか、、陛下ぁ、、、」


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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