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第八章 探索

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 たしか李亮は彼女より2つ年上だった。それでもまだ20歳そこそこである。しかも彼の家柄は決して良くなかったことを彼女は覚えていた。家柄も悪ければ年もいっていない人物が、参謀本部にいた事自体非常に怪しい。


 白凛はそこがお開きになると、わき目も降らず足早に自分の天幕に戻って、彼女の懐刀の常義を探した。


 常義は慌てて白凛の元に来ると、彼女の前に跪いて「お嬢様、私に何か。」と言っている最中に、なんと白凛の方が彼の横に跪いて常義の耳に何か囁いた。


 白凛の依頼だけでなく彼女の異例の行動にも驚いた常義は、白凛の方を向くと、1回だけ大きく頷いてから、立ち上がってお辞儀もせずに天幕を飛び出した。


 ”あんなに幅をきかせられるのは、どこか名門の養子になったか、、、”

 そう思った白凛は、李亮と出会った頃のことを思い出していた。

 松明の炎をぼんやりと見つめていると、この10年間封印していた全く屈託なく過ごせていた日々の記憶が次々と彼女の頭の中で蘇り始めた。ノンストップで続くノスタルジックな記憶に、気持ちまで完全に浸っていた白凛は、最後に五剣士隊が解散する直前のことを思い出した。


 顔色が変わった李亮に白凛はこう聞いた。「亮兄ちゃん、どうしたの?」

 李亮はそういう白凛には答えず、劉煌に聞いた。

「どうしても行かないといけないのか?俺、護衛でついて行ってもいいか?」


 あの、劉煌を皇帝にするという聖旨を見た時から、明らかに李亮はおかしかった。


 そして、護衛でついていきたいとまで言ったまさにそのイベントの帰り道で、劉煌は襲われたのだ。


 ”毎年行っていたのに、あの時に限って護衛でついていきたいと言った......”


 ”もしかして、あの時から劉操の駒で、太子兄ちゃんの動向を探っていたとか。”

 ”でも、どうやってあんな身分の子供を劉操が知り得たのかしら。”

 ”まあ、どうだって私には関係ないわ。それに、私のことなど、とうに忘れているに違いないし。私だって今日まですっかり彼のことを忘れていたんだから。”


 白凛が、10年ぶりに李亮を思い出していた頃、李亮は自分の天幕で荷をほどきながら、どうやったら彼が10年間行方を探し続けてきた、この基地にいる100万分の1人に、偶然を装って近づけるかを考えていた。

 将軍との話で、将校たちの名簿から白凛がここにいることに間違いないことはわかっているものの、近づく口実が無い。

 下手に動けば、2人とも謀反で殺されてしまう可能性も否定できないことから、ここまで来ながら思うようにならない腹立たしさに、李亮はイラついて舌打ちをすると「ちょっと気分転換してくる。」と荷ほどきの手伝いに来てくれた兵に伝えてから、重い足取りで外に出て行った。


 ~


 翌朝、李亮が前線基地に入って初の戦略会議が行われた。


 李亮は1人だけ軍服を着ることなく、将軍の斜め後ろに座り、時折扇子をバサバサ仰ぎながら会議の行方を見守っていた。


 一通り、意見がで終わった後、都督の許飛が李亮にうかがいを立てると、李亮は偉そうに扇子を仰ぎながら大股でゆっくりと戦地の模型の前までくると、バサッと派手な音を立てて一発で扇子を畳み、左手を腰に当てて屈み、右手で掴んでいる扇子の先を模型の自国軍の陣営のところに持っていった。


「ここ、よく見てほしい。こんなところに全陣営を構えていたら、どこからでも敵に攻撃してくださいって言っているようなものだ。」

 と言いながら、今度は扇子の先を周辺の長々と続く平地を囲むように回した。


 許飛が「でも」と言いかけるのを孫粛が左腕で制すると、李亮はその場で孫粛にお辞儀をした。


 李亮はまた扇子の先を使って「だから、ここに大将軍の陣を置く。」と言って、現在の前線基地より20Kmも内陸の地点をさした。これには、他の将校たちも黙っていられなくなり「撤退するというのか!」と李亮に食ってかからんばかりの勢いで噛みついてきた。


 李亮はそれを見ながら心の中で苦笑すると、腰を曲げた姿勢のまま挑戦的に将校らを見上げると、

「せっかく100万近くの兵が居るのですぞ。何で一か所に集中させますか?」

 と言うと、今度は、すくっと曲げていた腰を戻して姿勢よく立ち、彼らを見下ろし、模型の方に視線を移すことなく、李亮が大将軍の陣とすると言った場所を中心にして回りの丘を扇子で次々にさしながら、「こことここに30万ずつ、相手が中心に攻め込んで来た時に背後の丘から襲い、将軍の陣の40万と挟み撃ちするのです。」と言った。


 そこに参加していた将校たちは地理的に前に進むことばかり考えていたので、李亮の策にぐうの音も出ず、ただ歯ぎしりしながら涼しい顔でまた扇子を広げて仰ぎだした李亮を睨みつけた。


 孫粛は、一応兵法も机上で学んだことがあり、これが一般的な兵法であることは知っていたが、10年前から続く劉操からの『何が何でも前に進んで領土を広げろ!一歩たりとも後退は許さぬ。』という命令に、兵をどんどん失おうが、とにかくずっと前へ前へという想いでここに陣どっていた。

 もっともおそらくそのせいで、この10年、全く領土は広がっていなかった。


 しかし、いくら参謀の提案であっても、もし、それでうまくいかなかった場合、皇帝の命令を無視して指揮をした大将軍である孫粛の責任になる。


 ”どうせうまくいかないなら、皇帝の命令どおり、ここで踏ん張るしかない。”


 孫粛は重い口をようやく開いて「確かに李参謀の言うことは一理あるが、陛下から後退の指示は出ていないどころか、何が何でも前に進めという指示が出ているのだ。」と言うと、「とにかく陛下の新しい武器が到着するまで踏ん張るのだ。」と、その武器が、劉煌とお陸によって海に沈められたことを知らずにそう付け加えた。


 李亮は、孫粛にお辞儀をして「御意。」と応えたが、その心の内は、これでは永遠にここでの戦いが続くはずだとあきれ返っており、自分自身も自分の目的である『白凛の無事をこの目で確認すること』を遂行のために全力を尽くそうと思った。


 ~


 一方、白凛の陣では、いつものように白凛が陣頭指揮をしながら戦闘訓練を行っていた。

 すると、昨日用を言いつけた常義が戻り、白凛の前に跪いた。


 白凛は、側にいた隊長の一人に戦闘訓練の続きを命じた後、常義と共に入口の布をバサッと大きく翻して天幕にはいると、さらにその奥へと進んでいった。


 奥まで突き進んだ常義は、開口一番こう白凛に向かって囁いた。

「お嬢様の御推察通りでした。あの李亮という男は、皇帝の口利きで、いきなり参謀本部に入った輩だそうです。」

「皇帝の口利き、、、」

「はい。皇帝の命ということで、参謀本部も彼の扱いに戦々恐々としていたらしいです。とにかく、皇帝直属ですから。」


「・・・・・・」”やっぱり、最初から劉操の駒だったんだわ。”


 白凛は、顔が真っ青になり、めまいを覚え、吐き気がした。


それでも常義は容赦なく白凛に報告を続けた。

「あの男は、軍での経験は一切ありませんが、、、」

「ありませんが、、、何?」

「入隊の前は、武器商だったようです。」

「はあ?武器商?」


 白凛の頭は混乱した。

 ”皇帝から武器商に行かされていたってこと?そんな商人のところに行かせるってどういうことかしら?”


「はい。あと、、、」

「あと、、、何?」

「先ほど戦略会議があり、李亮が撤退案を出したとか。。。」

「はああ?」

「私も訳がわかりません。」

「何?じゃあ、私も舞阪に戻っていいのかしら。」

「何でも、大将軍の陣を1/3位の規模にして、ここよりかなり手前にもどすらしいです。あと残りで左右の丘に陣を張るって。」

「それは、撤退案じゃないわ!撤退と見せかけて敵をおびき寄せる気よ!私はどこの陣になるの?」

「えっ?撤退じゃないんですか?でも、大将軍がその案を却下しました。撤退はありえない、前に進まないとって。」


 白凛は、一瞬ここにやってきて初めて勝ち戦を経験できるかもという興奮がよぎったのに、大将軍の決定にガックリきたと共に、彼のふがいなさと、李亮の出した案の出所を思い出しての怒りで、頭髪が全て逆立ちそうだった。


 ”大将軍たら、折角戦局の打開策がでたのに、それを却下するなんて。いつまで同じこと繰り返したらわかるのよ!これじゃ無限ループじゃない!”


 ”あと、あいつ、太子兄ちゃんから習った兵法を劉操のために使うなんて。どこまで汚い人なのかしら。当時はそんな人だなんて思わなかった。口は悪いけど、本当に太子兄ちゃんを一緒に守ってくれるって信じていたのに。”


 そう思ってからふと白凛は自分のことを顧みた。

 ”ふっ、全く他人のことを言えた義理でもないくせに。”


 白凛は、普段露出しているため小麦色に日焼けしたおでこに、いつもは籠手で覆っているため日焼けしていない白い手を当てながら、自分の18年の人生の中で、最も屈辱的だった日のことを思い出していた。


 両親の命を守るために劉操に忠誠を誓ったあの10年前のことを。



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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