第八章 探索
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
翌朝劉操は自分の手の痛みで目覚めると、自分の手や足元を見て、チッと舌打ちをした。
すぐに沐浴が必要と感じると、彼は自室から一歩外に出た。
彼の足元は、そこはまるで何事もなかったかのように、宦官が殺された廊下の辺りは、1滴の血も残っていなかった。
劉操はふんと言うと、廊下を大股で下り、お辞儀をしている宦官に向かって、沐浴とだけ言った。
浴槽につかり劉操は、自分の身体についた死臭を洗い流すと、沐浴の世話をしていた女官に「すぐ出立する」と言った。
それを聞いた女官は姿勢を正してひれ伏すと「御意」と彼に答えて、すぐさま部屋の外の宦官に「陛下はご出立されます。準備を。」と伝えた。
皇帝陛下ご出立の情報も、瞬く間に全皇宮に伝達されたので、筆頭宦官:石欣が慌てて皇帝の住まいである天乃宮にやってきた時は、劉操はもう昨日と同じ騎馬兵の服を着て朝食を食べていた。
石欣は、普段は全くしないお辞儀を、これまた普段は絶対にしない腰を低くして時間をかけ仰々しく行った。
劉操は、持っていた茶碗と箸をテーブルの上に置くと、毎度おなじみのことを石欣に事付けた。
石欣が御意と答えてまたお辞儀をして下がろうとすると、いつもとは違って劉操は、後宮に住まう自身の側室たちの話を始めた。
「あれほど無用の長物はない。とにかく好き勝手に金を使わせるな。もう着物の購入はそれぞれ年1回だけにしろ、毎月何枚も新調していったいどこに着ていくというのだ。笑わせるな。あと宝石・装飾品類ももう二度と買わせるな。死ぬまでに全部つけられないほどあるからな。それからぶくぶく太るだけだから、食事も肉は今後食わせるな。素食だ。だが特に肉に似せた手のこった料理も不要だ。それが嫌だったら、実家に戻っていただいて結構。」
石欣は、商人から自分に入る賄賂が減ると内心大きなため息をつきながらも「御意」と答え、また深々とお辞儀をしてその場を立ち去ろうとした。
すると劉操は箸を持ち直してから、おかずをつついて「そうだ。もっと大事なことがあった。」と言い、「後宮付きの女官・宮女の人数を半分にしろ。掃除も側室たちでやればもう少し身が引き締まるだろう。そうなったら、朕が見に行ってやってもいいと言っておけ。」と言い放つと、おかずに続いて飯を茶碗からかき込むようにして口に入れた。
〜
劉操が1月ぶりに皇宮に戻ったその1週間後、五剣士隊の一員で現西乃国軍参謀の李亮は、ようやく西域への侵攻前線基地にたどり着いた。
実は、李亮は中安の参謀本部からまっすぐ前線基地に向かわず、まず出羽島に行ったのだった。
出羽島についた李亮は、宿にもよらず直ちに刀剣屋に奉公していた頃、半年に一度会っていた刀剣屋出羽島支店の店長の元を訪れた。李亮から科挙は友人が合格したが、自分は合格できず代わりに国軍に入隊することになったと聞いてガッカリしていた店長は、2年ぶりに店の前に現れた李亮を、始めは誰なのかわからなかった。
「店長、私ですよ。本店の手代だった李亮です。ご無沙汰しております。」
そう言った青年は、軍服を着ていなかったが、明らかに上等な生地の仕立服を着ていた。
「李、李亮かね?でも君は軍に入隊したんじゃ?」
「はい。軍の参謀本部にいました。」
この回答に店長は益々狐につままれたような顔をして「君は幾つだっけ?貴族の出じゃないよな。だって丁稚奉公してたんだから。」と言うと、李亮は笑いながら勝手に奥まで入り込むと、ここに訪れた時はいつもそうだったように普段は店長が一人で座っているテーブルの反対側に腰掛けると、勝手に茶器を取って二人分の茶を入れて、店長の座席の前に湯飲みを1つ置き、もう一つの湯飲みは自分の口に運んだ。
「ぷはー」
一気に湯飲みの茶を飲み切り、乾ききった喉に潤いを与えた李亮は、2年前に起きた出羽島の野良犬事件の話をすると、店長は大きく頷きながら李亮の幸運を喜んだ。
「そうかいそうかい。それで、参謀本部に行くことになったのかい。いやあ、前線でなくて良かった。」そう店長が喜んだのもつかの間、李亮は「それが、、、」と自分が前線の参謀としてこれから赴任することを話すと、店長は途端に顔を曇らせ、李亮が聞きたかった情報を自ら話し始めた。
そこで、李亮は、劉操が発注していた大量破壊兵器が船ごと沈んでしまった話を聞いた。
「最も、この件は、劉操の懐が痛むくらいで、他の誰の懐も全く痛んでいないのだよ。それどころか、面白いことに皆もっと儲かった。それぞれ船舶会社から賠償金、保険会社から保険金が入ったからな。船舶会社も保険会社から保険金が下りたから全く無傷だ。そんな物騒な物を運ぶってんで、廃棄するにも金がかかって困ると嘆いていたオンボロ船を使っていたから、実は一番喜んだのは船舶会社だった。ただ、武器屋は劉操の無知をいいことに、新しい武器を使って一瞬でどの程度の範囲の人間が、何人死ぬかのデータを取りたかったようだが。まあ、下手すると使用する方にも甚大な被害が出かねない代物だったので、クレームを起こしかねなかったものが無くなって、逆にホッとしているという武器屋の幹部もいたよ。」
店長は躊躇なく自国の皇帝を呼び捨てにして話を続けた。
「最も、もう10年だからな。西域の武器商人も消費したい武器はもう全部はけたので、あっちとしてもそろそろ終わりにしたいようなんだが、何しろ劉操は何もわかっていないから、西域へ攻撃を続けるだろう。そうなると、西域への攻撃をやめさせるために、あっちが北かどこかをそそのかしてこの国に攻撃を仕掛けるかもしれない。とにかく十分気をつけろよ。」そう言うと店長は、空だった李亮の湯飲みに茶をなみなみと注いだ。
李亮は、先日参謀総長宛に届いた趙明からの文『白凛を戻してほしい』を思い出していた。
”あながち趙明の言い分も、大袈裟なことではないのかもしれない。”
李亮は、思い切って店長に西域の武器商人に自分を紹介してもらえないかと伝えた。
店長は顔をさらに曇らせると「私は君の手を汚したくなかったから科挙を勧めていたのに。残念だが軍人になっているのなら、こういうこととは無縁ではおられないな。」と残念そうに呟いた。
李亮は、科挙に合格した孔羽の話をデフォルメして店長に話すと「役人になっても、似たり寄ったりでしたよ。」と賄賂が横行していることをほのめかした。店長はしばらく黙っていたが「君は、参謀だったな。幹部を動かせるような役回りなら、君がうまく終戦の方向に持っていけるかもしれないな。」と呟くと、今度はしっかりと李亮の目を見てこう言った。
「わかった。相手に聞いてみよう。相手に会う気があれば紹介しよう。」
そして、2日後、刀剣屋出羽島支店の店長の仲介で、李亮は、西域の武器商人マルティヌス・ヨハネスに会った。
勿論、西域の武器商人マルティヌス・ヨハネスとの対談も実りの多いものだったが、密会場所への往復も李亮には大きな学びだった。
まず相手の迎えの馬車が到着する前に、店長は李亮に丸薬を渡した。そして実に面白いことを言った。
「これは相手が馬車に充満させている強力な眠り薬の解毒剤だ。どこに連れていくかわからせないために相手はそういう手段を取る。こいつを飲んでいれば問題ないが、馬車の中では相手の薬が効いているふりをしろ。絶対に眠り薬が効いていないと悟られるな。馬車に乗ったらすぐに寝たふりをして絶対辺りの様子を伺うんじゃないぞ。そして着いたら解毒薬を飲まされるが、それは飲んだふりをして目を覚まし、後で帰りの馬車に乗る前に相手に見られないようにそれを飲むんだ。わかったな。」
こういう話に関しては、李亮は素直に店長に従った。
そして店長と共に予め解毒薬を飲んでから馬車に乗り、店長が眠りにつくタイミングで李亮もバタっと前のめりに倒れた。
半時ほど経ったところで馬車の揺れは止まった。
そして誰かが彼らの口に丸薬を含ませた。
李亮は、それを手の中にペッと掃き出すと店長の動きを参考に、うーんと言って起き上がりながら両手をグーにして伸びをした。
彼らが連れてこられた所は、人里離れた所で、小屋が一つあり、その外側に小屋に隣接するように一基の水車がカラカラと音を立てて回っていた。
中にいたのは、彫りの深い顔立ちで目は透き通るように青く髪の毛は茶色の中肉中背の男だった。
店長は、両腕を広げ青い目の男に近づくと、相手も両腕を広げて店長をハグした。
ヨハネスはたどたどの参語、店長はたどたどの羅天語で、時には絵やジェスチャーを交えながら意思疎通を図っていた。
劉操が西域へ侵攻してから、参謀本部は部員にそれらしく羅天語の読解を義務付けていたので、この1年半参謀本部で暇を持て余していた李亮は、ある程度羅天語の読み書きができるようになっており、文章や単語を書いてヨハネスと意思疎通を図った。そして互いの思惑が一致していることを理解すると、ヨハネスは、西域側のベースキャンプの大将は、武器商人の息のかかったカロラスという者であることを李亮に伝え、終戦に向けての根回しを行うことで合意した。別れ際ヨハネスは握手しながら李亮に、ブローチ状の金物を取り出して見せると、「これ、あなた、守る。いつも、持ってる。」と参語で言い、羅天語で書かれた巻物と一緒に李亮に手渡した。
李亮は支店に戻ってからその金物を上にあげて様々な角度から眺め、怪訝そうな顔をした。
それは、表は花の中に舌を出したへびがいるという奇妙な金物で、裏には留め金がついていて服に括りつけられるようになっていた。
「それは、奴らの身内だけがつけられるシンボルさ。」
眉を潜め口を尖らしたまま不思議な形の金物に見入っていた李亮は、その店長の一言で、店長の方に振り向いた。李亮の顔は明らかに、続きを教えてくれるよな?と言っていた。店長は大きなため息をつくと、李亮にそのシンボルについて情報を与えた。
それは、西域を影で牛耳っている組織:カッチーニ会のシンボルであり、これを持っているということは西域での免罪符になるとのことだった。
店長は暗い顔をして、「ヨハネスは君のことをかなり気に入ってしまったらしい。」と呟いた。
~
その後すぐに出羽島を後にした李亮が2日かけてやってきた前線の基地は、周りは見渡す限り砂しかない殺伐とした砂漠の中にあった。
前線に送っている兵士の数およそ70万騎、歩兵を含めればざっと100万人は下らないこの広大な基地に足を踏み入れた李亮は、どうやったら白凛に会えるのかと考えながら衛兵の案内で、着任の挨拶のため前線部隊の孫粛大将軍の陣に向かっていた。
李亮は小さい頃から同年代の子供の中でもひときわ背が高かったが、20歳となった彼の身長はすでに190cmもあり、ほとんどの兵士が鎧をつけている基地内にあって、一人軍服でもなければ、鎧も着けていないことから、彼が進む道では全員彼の方を振り返って彼のことを見上げた。
兵士達の視線を感じながらも李亮はそれを無視して、ここに来るまでの間に自分の中で作り上げてきた”クールな参謀”のペルソナをつけたまま、扇子をバサバサと仰ぎながら口を真一文字にして、大きなストライドで歩き続けた。
彼が孫粛大将軍の陣にたどり着いた時、孫粛大将軍は昼飯の炒飯を食べていた。
李亮は孫粛に礼をすると、参謀総長からの文を孫粛の机の上に置いた。
「国軍人事管理からも通達が来ているかと存じますが、参謀本部より派遣されました李亮と申します。お食事中のようですので、また後程出直します。」
そう言うと、李亮はお辞儀をして退席しようとした。
孫粛は、李亮が皇帝の勅命で参謀本部に入ったという情報を得ていたので、慌てて最後の一掬いを口の中に放り込むと口をもぐもぐ動かしながら「待ってくれ。すぐに将校たちを呼んでこよう。」と言うと、世話係の兵に向かって顎をあげた。
その兵は「御意。」と答えると、すぐに陣を後にした。
孫粛は手の甲で口を拭いながら「李参謀、長旅で疲れただろうが、もう少しお付き合いくだされよ。まずこの基地の将校と顔合わせが必要だろうからな。」と言った。
李亮はまたお辞儀をして「御意」と答えていると、孫粛の陣の前に次々と人が集まってきた。
どこの国の軍隊でも同じだが、西乃国軍もヒエラルキー主義で、軍での地位の高い順に整列する。
”校尉だと、呼ばれても最後尾だな。”
李亮は心の中でそう呟くと、扇子を畳んで、次々とやってくる人を腕を組んで陣内の椅子に腰掛けて見守っていた。
伝言をになった兵が戻り、全員が揃ったと伝えると、孫粛はやおら立ち上がり陣の最前部に行き、将校たちに演説を始めた。
それはどこの国でも同じように、全く簡単な話を、さも大変難しい問題であるかのように話し、時折、全軍を掌握するために必要な脅し文句も取り交ぜていた。これまたどこのお偉いさんでも同じように、その話は中身が殆ど無いのに、やたらと長かった。それに慣れているはずの将校たちもいい加減うんざりしている頃を見計らって、李亮は椅子から立ち上がると、ゆっくり孫粛の方に近づいていった。
軍服さえ着ていない、誰も知らない見知らぬ男が、陣の奥から前方に出てきていることに、将校たちは驚いて緊張が高まった。
お飾り大将軍とは言え、それなりに武術をたしなんできた孫粛は、目の前の将校たちの変化を見て取ると、「そうだ。今日は皆に紹介したい男がいるのだ。」とようやく本題に気づいて李亮の方を振り向き「李参謀どうぞこちらへ。」と言って、孫粛の横に立つよう彼を促した。
李亮は腰を低くして孫粛に向かって丁寧なお辞儀をしてから、両手を後ろで組み、彼の横にスッと背筋を伸ばして立った。
西乃国の男の平均身長173cmちょうどの孫粛の横に、190cmもある大男の李亮が立つと将校たちはざわめきたち、辺りは騒然とした。
孫粛は「参謀本部から派遣された李亮参謀だ。これから軍の戦略会議には必ず出ていただくから、皆顔を覚えておくように。」と言った。
それでも騒然としている将校たちに向かって、李亮は一回ゴホンと咳ばらいをすると、偉そうに無いことだらけの話を適当にし、さも自分が参謀中の参謀のような言い方で手短に挨拶をしてから、孫粛に今日のところはこれでよいでしょうかとおうかがいを立てた。孫粛が頷いたのを見て「では、私はまだ自分の天幕の準備もままならぬ身故、これにて失礼いたします。」と言って礼をしてからサッサと奥に退いた。
この前線基地に今迄全く居なかった役職で、しかも人間としても全く居なかったタイプの人物がやってきたことに、李亮の挨拶が終わった後、将校たちは、しばし呆然としてその場に立ち尽くしていた、、、ただ一人を除いては。
そのただ一人は、男の平均身長173cmより低く169㎝だった為、一番後ろに立っている姿は、李亮からは見えなかった。しかし、そのただ一人は、李亮が口を開いた瞬間、その偉そうな独特の話し方で、彼女が知っている李亮という名の人物と、参謀本部から派遣された李亮という人物が同一人物であることを見抜いていた。
お読みいただきありがとうございました!
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