第七章 迂回
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
一方、劉煌を乗せたクルーズ船:サンタニック号は、色々な港に寄港しながら西乃国の出羽島を目指していたが、その船が文倍港に寄港した時、仮面をつけた全身黒づくめの一人の男が乗船してきた。
そう、それは、声を失ってまでも、ただひたすらお陸を想い続けてきたゾロンだったのだ。
ポトックスの効果が切れ元通り声を出せるようになったゾロンは、乗船後は完全にお陸のストーカーと化し、お陸の仕事中はマチネであろうとソワレであろうと毎回客席でヤンヤの拍手喝采を送り、仕事が終わると楽屋前で花束を持って出待ちをし、カジノではお陸の椅子を引いてお陸にチップを山ほど渡した。そして何度も食事に誘ったが、お陸からはけんもほろろに断られ続けた。
ある日ゾロンはこの方法では埒が開かないと気づき、お陸ではなく、バーのハイチェアに一人腰掛けて、カクテルのオリーブをいじっている劉煌に迫ってきた。
「ミレン嬢。どうしたらリク嬢とお近づきになれるだろうか?」
ゾロンはいつものように黒いマントを翻して、バーカウンターに肘をつき、劉煌の方に顔を向けて突然そう言った。
劉煌はゾロンの目を見て、真摯に答えた。
「悪いことは言わない。手を引きなさい。マジであなたが敵う相手ではない。」
予想外のミレン嬢の回答にゾロンは、今迄繕っていたポーズを取るのも忘れて、必死になって聞く。
「何故だ?」
劉煌は、ゾロンの顔をしげしげと見直した。
”仮面をつけているけど、見える部分からしても、師匠の半分以下の年齢ね・・・・・・”
「世の中には、知らない方が幸せな事もあるのよ。」
そういうと劉煌はバーの席からスッと立ち、ゾロンを押しのけてメインダイニングに進んで行った。
しかし、人間とは厄介な動物で、鶴の恩返しのように見てはいけない!と言われると見たくなり、浦島太郎のように開けるな!と言われると開けたくなり、、、つまり反対されると逆によけい気分が盛り上がり強い欲求につながってしまうものなのだ。
ゾロンもしかり、劉煌の忠告を忘れ、やめておけばいいのにまたもやお陸にちょっかいを出した。
お陸もいい加減ゾロンのしつこさに癖癖し、もう決着をつけようと思っていた。そして、今日は、ゾロンがデッキで一緒に夕陽を見ようとお陸に言ってきたことをいいことに、お陸は「OK」と言って親指を立てると、2人はデッキに夕陽を見に行くことになった。
お陸は早々にゾロンをデッキに残して船首まで行くと、船首に立ち、両腕を広げて「うおおおおお」と海に向かって吠えた。それを眩しそうに見ていたゾロンがお陸に「楽しい?」と羅天語で聞くと、お陸は「OK」と言って親指を立てた。
ゾロンは何がOKなのかわからなかったが、リク嬢が楽しそうにしているのでとても嬉しかった。
するとお陸は、ゾロンに向かって、手でおいでおいでと船首の方にゾロンを誘ってきた。
ゾロンは、心の中でヤッター!とガッツポーズをしていた。
哀れゾロンは、リク嬢がようやく彼に目覚め、船首で2人っきりで両腕を広げて愛に浸りたいのだと妄想して、喜んで船首の所まで行くと、お陸は身振り手振りで自分と同じことをやるように彼に促した。
ゾロンは折れそうに細い船首の先端に恐る恐る立つと、お陸の言った通り両腕を広げた。
”うおおお、これは思った以上に気持ちいいが、スリル満点......”とゾロンがまさにそう思った瞬間、何かが自分の背中を思いっきり蹴とばした。
「わあああああああああああああああああああああああああああああああ」という絶叫が3秒程続いたかと思うと、その声に変わるかのようにドッボーンという鈍い音が響き、その後、誰も船の上でゾロンの姿を見かける者は居なくなった。
それから28日後、クルーズ船は平和に西乃国出羽島に無事到着した。
そして、劉煌の予想通り、出羽島は東風が吹いていた。
劉煌とお陸は、船内で何度も行ったシュミレーション通り、乗員乗客が下船した直後に船に潜入し、船の舵を沖合に向けて進むよう固定してから、船のあらゆる場所に隠しておいた爆弾の導火線に火をつけた。2人はその後すぐに錨をあげ船のマストにササササと素早く登り、そこから地上の建物の屋根にバッと飛び移った。そして屋根を伝って内陸までだいぶ走った時、激しい爆発音と共に海に真っ赤な火柱が立ち上がった。
お陸と劉煌は、奇しくも派例素坊の屋根の上でサンタニック号が沈んで行くのを見た。
「とりあえずこれで変な武器の国内流入を阻止できた。」
「うん。今日のところはお嬢ちゃん満点だったよ。少しの狂いもなくできたからね。」
「師匠。満点なら、これで、西乃国の皇宮に潜入できる準備は整ったということよね。」
「むむむ。お嬢ちゃん本当に行くつもりなのかい。」
「当然よ。あそこに行かなければ何も始まらないもの。」
しばらく劉煌の顔をジッと見ていたお陸は、覚悟を決めて大きなため息を一つついてからこう言った。
「本丸に突入するにせよ、一度は中ノ国に戻らなきゃだよ。骸組の頭領の話も聞いておくに越したことないからね。」
2人がこんな会話を屋根の上でしていた時、その屋根の下では西域の黒装束の男が、女郎たちに優しく介抱されていた。
「ゾロンちゃん、本当によく回復したわね。」
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