表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/129

第七章 迂回

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 西乃国で地震が起きたちょうどその瞬間、中ノ国の東宮では、1か月ぶりに中ノ国皇太子:成多照挙が目を覚ました。


 照挙は、何がなんだかわからないままベッドから起きて、ふらつきながら部屋の扉の所まで行くと、外に向かって声をかけた。


「だ、だれか。」


 1か月ぶりに目覚めた為、本人も気づかず喉が枯れ切っていた照挙の声は、大声を出したつもりでも小声でしかもかすれていた為、とても閉め切った厚い扉の外に聞こえるような声量ではなかった。


 しかも、これまた本人気づかず、すっかり体力も筋力も無くなっていたので、照挙は声を出し終わるとフラフラしてしまい思わず扉にもたれかかってしまった。


 ドーンという扉の内側から漏れた音にいち早く中の異変を感じて飛び込んできたのは、照挙が見たこともないぽっちゃりとした体型の自分と同じ年位の女の子だった。


 ”女官の制服ではない。立派な仕立の着物だから貴族の娘か?”

 ”大方、私に取り入ってうまく行けば未来の皇后にでもなろうと思っている不届きな奴であろう。”

 ”ふん、私の皇后になれるのは簫翠蘭だけだ。”


 そう思った瞬間、照挙は稲妻が落ちたかのように全てを思い出した。


 ”簫翠蘭。。。死んだ等と、そんな馬鹿な。”


 クラクラしながらまた気が遠くなり倒れそうになった時、バッと先ほど部屋に飛び込んできた女の子が手を出して、照挙が倒れるのを阻止した。


「殿下!危のうございます!」

「き、君は?」助けてくれた人の手を乱暴に払いのけ、照挙は叫んだ。

「私は、仲邑備中の娘、波瑠でございます。皇帝陛下より皇太子殿下のお世話を命じられた者でございます。」仲邑波瑠は、慌ててその場でひれ伏すとそう言った。


 照挙は、父の命と聞いて、しげしげとその娘を見てみた。


 髪は一筋の後れ毛もなく、きっちりと結い上げられ、着物も、襟はピーンとしっかりと糊付けされていた。ひれ伏しながらも背筋がピンと伸び、曲げた肘の角度といい、全ての指先まで神経が行き届いた両掌をついた座礼は、まるでお辞儀のお手本を見ているかのようだった。


 ”まさしく淑女としてのたしなみをしっかりと教育された令嬢だ。”


 そう思った照挙は、仲邑波瑠と名乗るその女に向かってこう言った。

「面をあげよ。」

 波瑠は、指を三つ指にし、ゆっくりと顔を上げたが、決して照挙を正視せず、視線を床に向けたままだった。

 俯き加減のその顔は、お世辞にも美しい顔立ちではなく、また化粧がうまいとも言い難かったが、今貴族の間で流行っている異母妹の照子がしているような、目尻に朱を入れる化粧を施していた。


 ”父親によく似ている。女の子なのに可哀想だな。”


 照挙は、顔を見た瞬間、仲邑備前の開いているのかわからないような小さい目と、低いだけでなく横に広がっている大きな鼻が娘に遺伝していることに激しく同情し、今迄の敵意に満ちた姿勢を改め優しく話しかけた。

「今日は、何日だ?」

 波瑠は間髪入れずに、「宗保21年12月29日でございます。」と答えた。


 照挙は、この回答に仰天して仁王立ちになりながら「何だと?!」と声を荒げた。

 これに波瑠は、少し上げていた顔をまた床にこすりつけんばかりにひれ伏し、

「殿下、殿下は、1か月昏睡状態だったのでございます。」

 と小さい声で申し訳なさそうに答えた。


 照挙はしばしそこに呆然として立っていた。


 波瑠はしばらくそこにひれ伏したままだったが、いつまでたっても照挙がうんともすんとも反応しないので、恐る恐る顔を上げて照挙を見ると、彼は目を見開いたまま呆然と立っていた。

 ”また昏睡状態になってしまったら大変だわ。”

 そう思った波瑠は、そっと立ち上がると居室内にある茶棚まで行き、お茶を入れ始めた。そして呆然としている照挙の手を取り、御湯呑みを握らせた。その御湯呑みの熱さという刺激で我に返った照挙は、ハッとして波瑠を見た。


 顔は全く簫翠蘭と違ったが、波瑠の立ち居振る舞いは簫翠蘭を彷彿とさせる気品があった。

 簫翠蘭恋しさのあまり、体の内側から自分が引き裂かれていくような感覚に襲われた照挙は、突然詩を口ずさみ始めた。


 撃鼓其鐙、踊躍用兵

 土国城漕、我独南行


 すると、そこから突然胸の前で手を組んで横に立っていた波瑠が、そのままの姿勢で、従孫子仲、平陳与宋、、、と詩の続きを言い始めたではないか。

 照挙は驚いて、波瑠を見つめたが、波瑠は視線を落としたまま、最後まで詩を諳んじると、ようやく顔を上げて、「東之国の御姫様が恋しいのですね。」と淋しそうな顔をしてそう言った。


 照挙はしばらく波瑠を見つめ続けた。


 ”私の心が君にはわかるのか。”


 波瑠は、照挙の強い視線に耐えられず、また視線を落とした。


 それを見ていた照挙は立ったまま茶を一口飲むと「とてもうまい。」と感想を述べた。それは決してお世辞ではなく、本当に今迄飲んだお茶の中で最も美味しく感じたお茶だった。


 その一言でようやく顔をあげた波瑠に照挙は、優しく微笑むと「君は碁はうつかね?」と聞いた。波瑠はそれにニッコリ笑って「はい。」と答えると、照挙は嬉しそうな顔をして碁盤を置いているテーブルの方に腕を伸ばし「どうぞ。」と言った。波瑠は小さな目をさらに細くして嬉しそうに照挙に向かってお辞儀をしてから、姿勢よく、でも、いそいそと碁盤の方に向かっていった。



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ