第七章 迂回
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
それから3週間後、劉煌とお陸は、船底に大量破壊兵器を含む密輸品を乗せたクルーズ船:サンタニック号に船内エンターテイナーとして乗り込んでいた。
実は、お陸の銭目当てで始めた呂磨の広場での忍者の技が、瞬く間に呂磨中の評判になり、それ以来彼らは金にも食べ物にも困ったことが無かった。それどころか、このクルーズ船の乗客になろうと2人がチケットを買いに行ったところ、お陸の顔を見るなり、興行側が是非エンターテイナーとしてクルーズ船に乗って欲しいとスカウトし、その提示された金額を見て、お陸は二つ返事で西域で覚えた三つの言葉のうちの一つ「オケー」と言って親指を挙げてみせた。
クルーズ船では、芸の披露時間以外は好き勝手にしていいということで、お陸はもっぱらカジノに出没し、目立たない程度に毎日日銭を稼ぎ、劉煌はエステサロンに入り浸って技術を磨いた。
そして、毎晩ソワレが終了すると、彼らは船が寝静まった頃合いを見て、船内にあるはずの密輸品格納庫を探し回った。
そして船が希望蓬を通過した頃、彼らはようやく大量破壊兵器の格納場所を見つけたのだった。
「お嬢ちゃん、見つけたはいいけど、こんな巨大な代物どうするつもりかえ?」お陸が、これ以上顎を上げられないくらい首を縦に伸ばして大量破壊兵器を見上げながらそう呟いた。
劉煌もお陸と同様、顎を限界まで上げて上を見ておもむろに答えた。
「何とか壊せないかしら。」
2人は3階建ての建物程の高さのある鋼鉄製の巨大な大砲のような大量破壊兵器の周囲をくまなく見て回ったが、壊せそうな隙間一つ無いその造りを目の当たりにして、完全に途方に暮れてしまった。
とりあえず部屋に戻った彼らは、作戦の建て直しを余儀なくされた。
”とにかくあの兵器を劉操に渡してはならない。”
結局2人が出した結論は、乗員乗客が全員下船した直後に船底を爆破し、兵器を船ごと海の藻屑とすることだった。
方針が決定すると、お陸は晴れ晴れとした顔をして、すぐに金儲けの方にシフトした。
「良かったじゃないか。これで心おきなく、出羽島に着くまで稼げるよ。」
「え?師匠、あたしの訓練は?」
「もう、9年近く休まずに教えてきたんだから、いくら何でも大丈夫だろう?クルーズ船にいる時位、バカンスを楽しもうよ。」
そう言うと、お陸はまた着替えてカジノに出かけていった。
ちょうどサンタニック号内でお陸がカジノで遊び、劉煌がエステサロンでフェイシャルエステをしていた時、遠く離れた西乃国皇宮の後宮の蔵では、今日も禁衛軍に入った五剣士隊の梁途が一人黙々と掃除をしていた。
この半年、梁途は午前は軍事訓練、午後は後宮の蔵掃除を続けていた。
彼なりに調査を行った所、禁衛軍に縁故で入隊した貴族の隊員達、すなわちキャリア組は、午前の過程はノンキャリア組とは別メニューの軍事訓練(のちに名称だけで、実際は軍事訓練はおろか剣術訓練さえ行っていなかったことが判明)、午後は後宮にいる妾達や上級宦官の護衛の任務を司っていた。
そして梁途と同じノンキャリア組は、午後は皇宮内の掃除を分担させられていた。
劉操がほとんど皇宮に居ないことをいいことに、梁途が出会ったあのキラキラ宦官こと石欣が強大な権力を持つようになってからというもの、本来は宦官や宮女等がやるべき掃除の仕事は、禁衛軍のノンキャリにあてがわれるようになってしまっていたのだった。
それも掃除場所まで家柄順のヒエラルキーになっており、梁途はそれでもいい方で後宮の蔵担当になったが、一番家柄の低い田英という同僚は、厠担当だった。
梁途は毎日とてつもなく広い後宮の蔵を掃きながら、時にはそこに保管されている物を手に取って眺めたりして午後を過ごしていた。
梁途はその日も朝起きた時、いつもと変わらない一日だと思っていたが、実はその日はいつもと同じ日ではなかった。
梁途達ノンキャリ禁衛軍が掃除をしていた午後2時46分に、地震が西乃国京安を襲ったのだった。
梁途は危うく棚の下敷きになるところだったが、昔劉煌に鍛えられていたことが幸いして難を逃れる事ができた。そして倒れた棚の一つを元に戻そうとした瞬間、なんと彼はある棚の下の床に扉がついていることに気づいたのだった。
”えー、もしかして秘密の部屋?”
梁途はそれを見つけるや否や、迷わず蔵の出入口に向かってダッシュし、内側から出入口に鍵をかけると、その床扉のある棚の所までまた走って戻り床の扉をそっと開けた。
すると、そこには下に続く階段があり、その階段の下には無数の巻物が所狭しと置いてあった。
梁途は、ドキドキしながらその中の1本を取ってろうそくの火に照らして中を見た。一字一字確かめながら読み進めていた梁途は、読んでいる途中で手が震え危うくその巻物を落としそうになってしまった。
なんとそれは先帝が書いた聖旨だったのだ。
それは、内容からも持ち主に渡されることなく終わったことは明白で、奇跡的に劉操に発見されずにこの秘密の部屋に保管されていたのだった。梁途は、震える手ですぐにそれを巻き戻し元の場所にしまうと、階段を登って床の扉を閉め、その上に元のように棚を置いて扉が見えないように塞いだ。
梁途の心臓は今にも外に飛び出さんばかりの勢いで、ドクンドクンと鳴っていたが、梁途はそれに気づく余裕もなく、全ての棚を元の位置に黙々と戻すと、蔵から外に出て蔵の鍵を閉めた。
蔵の外は、彼が思った通り地震のアフターショックで、宦官・女官たちはパニックになって右往左往していた。
梁途は、服についた汚れを手で払いのけながら後宮の劉操の妾:何晴の楼に向かった。
やはり今日も妾たち4人は何晴の所に集まって麻雀をしていたらしく、部屋には辺り一面に飛び散った麻雀牌と腰を抜かした劉操の妾達が泣きわめいていてカオスになっていた。どうも女官や宦官そして禁衛軍のキャリア組も自分たちの仕事をすっかり忘れ、皇族をおいて、自分たちはサッサと逃げてしまったらしい。
梁途はため息をつきながら、一人ずつ妾を助けて椅子に座らせ、茶を飲ませて落ち着かせた。それでも、時折続く余震の度にキャーキャー言って右往左往する妾たちを大丈夫だと言って励まし続けた。
このように一人で皇族を護衛し続けたのにも関わらず、その後梁途には褒美もなければ、昇進もなく、仕事内容も全く以前と変わらなかった。
”西乃国の皇宮はもはや皇宮として機能していない。劉操以外の皇族へは、いざとなった時に助けの手は差し伸べられないし、差し伸べてもその差し伸べた人物への褒章を与える権限すらない。これではあのキラキラ宦官の天国になるはずだ。それにしても、あの衣装といい宝飾品といい、あの宦官はいったい裏でどれだけ搾取しているんだろうか。”
そう思いながらも、梁途としては、あの地震で見つけた秘密の扉の中の秘密を全部知りたい欲望から、むしろ後宮の蔵掃除の仕事から栄転させられなくてホッとしていたのだった。
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