第七章 迂回
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
その日の晩、お陸が家に戻ってくると、劉煌は彼女の腕を鷲掴みにして自分の部屋に押し込んだ。
お陸は、部屋に入った途端劉煌の手を払って聞く。
「お嬢ちゃん、どーしたんだい。」
「ねぇ、師匠、カッチーニ会って聞いたことある?」
劉煌がそう聞くと、お陸は顔をしかめて
「お嬢ちゃんも悪やねぇ。ドクトルとお客さんの話を立ち聞きしただろう。」と言った。
劉煌は、ドクトル・コンスタンティヌスからここを離れた方がいいと言われたことを思い出すと、珍しくきつめの口調でお陸に尋ねる。
「知ってるの?知らないの?どっちなの?」
”やっぱりあの怪しい老人は招かざる客だったのか。”
お陸はそう心で思いながら、
「カッチーニ会は知らないけど、今日のお客さんがどこに行ったかは知ってる。今晩の実地訓練はそこにするかい?」と聞いた。
劉煌はそれに返事をするまでもなく、くるっと回って黒装束に変わると、お陸は左の口角だけ上げてニヤっと笑い同じくくるっと回って黒装束に変わった。
「こっちだよ。」
お陸の言う通りに後を跳んで行くと、街の西の外れにこじんまりとした教会が立っていた。
「あの爺さんは、ここに入っていった。」
劉煌はその教会の前の看板の前に立って呟いた。
「インスティンクトゥス寺院...みょうちきりんな名前ねぇ。」
そこは外から2人で見る限り、呂磨の至る所にある教会と何ら変わらないように思えた。
2人は教会の鐘のついている塔をまるで蜘蛛のようにスルスル登って、鐘撞場から中に忍び込むと、下まで続く螺旋階段は使わず吊るしたロープで降りていった。そしてオルガンの後方に音もたてずに着地すると、オルガンの影から真っ暗な祭壇と会堂を見渡した。
そこは中に入って見ても、一見至って普通の教会のように思えた。
「なんか怪しい。」お陸が呟いた。
「師匠、どこが怪しいの?」
「直観さ。お嬢ちゃんもこの場の状態と雰囲気を感じてみてごらん。」
お陸は、実地訓練師匠モードでそう言うと、劉煌も自分の五感を研ぎ澄まして辺りを覗った。
「この、、、何というか、、、場の状態が、、完璧、、、過ぎる?、、、あと雰囲気と場が一致しない感じ?」
「いいせん行っているよ。もっと五感を使って感じてごらん。」
「師匠、わずかに煙臭いけど、ここは教会だからインセンスを炊いて煙がでるのは当たり前、、、待って、この臭いはインセンスではないわ。まさか、、、もしかして火薬。もしかしなくても火薬だ!」
劉煌が興奮しながらそう小声で言った。
「そうだよ。知識を持っていることはいいことだ。だけど、人はどうしてもその知識に物事を当てはめようとする。そうすると、時にこういう落とし穴に引っかかる訳だ。教会は煙いのが当たり前ってね。だからまずは、必ずそういうバイヤスを全て外してありのままを観るんだ。」
お陸がそう言い終わった瞬間、教会の扉がバーンと開いた。
お陸と劉煌はオルガンの影に隠れていたので、相手から見えるはずがなかったが、それでも2人はさらにオーラまで縮めて完全に気配を消した。
劉煌は、神経を研ぎ澄まして相手の出方をうかがっていたが、お陸はそんな劉煌を目を細めて見守っていた。
”本当にこのお嬢ちゃんは大したもんだ。天下を取り返せたら無敵になるだろう。”
教会に入ってきた人物が床を歩くカツカツという足音が天井にこだまし、その響きがどんどんこちらに近づいてくる中、劉煌もお陸も身体に着けている武器にそーっと手を伸ばした。
ところが、その足音が突然止まり、ギーっという扉を開閉するような音がした後、足音は今迄のカツカツという高い音からゴツゴツという低い音に変わり、段々とその音が遠のいていっているのがわかった。
お互い吐息をつくと、劉煌はお陸の方を振り返った。
お陸も頷いて「今晩はこれまでにしよう。」と言うと、音もたてずに飛び上がった。劉煌もお陸の後を追って教会の屋根の上に出ると、すぐに教会の外の路地をうかがった。
「他に人はいないようだ。」
お陸もそれに同意すると「うん。念のため屋根伝いに帰ろう。」と言って、すぐに隣の屋根に飛びうつった。
翌日、劉煌とドクトル・コンスタンティヌスが診療中、お陸は、いつものように洋装にパラソルをさして昨晩訪れた教会の近くを訪れていた。お陸はパラソルを肩でくるくる回しながら辺りをうかがっていたが、平日のお昼間だからか教会に訪れる人もなく、外から見れば本当にそれはただの教会にしか見えなかった。呂磨の言葉は全然覚えないが、習慣はすっかり身についていたお陸は「日曜日まで待つしかなさそうだね。」と独り言を言いながら側のカフェに入ると、呂磨で覚えた3つの単語のうちの1つの「コフェーア」(珈琲)を注文してゆっくり味わいながらしばらくその教会を偵察していた。
翌日曜日の朝の礼拝に出たお陸は、信徒でもないのに堂々と信徒席に座り、何を言っているのかさっぱりわからない牧師の言葉をさもわかっているような素振りで聞いていた。。。もとい、聞いているふりと牧師を見ているふりをして、祭壇の下を見ていた。
”この地下に何かがある。この前の足音の感じだと、あの祭壇の下の扉の向こうは下に向かう階段?”
お陸がそう思いながら座っていると横から銭の入っている籠が回ってきた。
百戦錬磨のお陸をもってしても、なぜ銭の入っている籠が回ってくるのかわからず、この籠の中の銭をもらうべきなのかとふと前の列を見ると、皆自分の財布から銭を出してその籠の中に入れていた。
”なるほど、この宗教の賽銭箱は籠でできているのか。なるほど移動式賽銭籠で漏れなく銭を回収できるシステムになっているのか。しかも籠の銭が丸見えだから、みんなミエはって高額を入れてしまう仕組みだ。これはいい。”
”でもあたしに賽銭(正確には献金)の無心をするなんて100万年早いんだよ。”
そう思ったお陸は、くノ一モードになると目にもとまらぬ速さで銭を入れるフリだけして籠を横の人に回した。
ようやく礼拝が終わるとお陸は、最近はまっているコフェーアを飲みたい誘惑を断ち切って家に直行し、すぐに劉煌を捕まえてドクトル・コンスタンティヌスとの通訳にさせ、ふつう教会の地下はどうなっているのかと聞いた。
「墓だよ。」
”なるほど、下で音がしていても誰も不思議がらないはずだ。”
そしてそれから数日たったある晩、とうとう劉煌とお陸は、その教会の地下に潜入できた。ただしそこは墓ではなく、火薬の臭いが立ち込める何かを作っている場所だった。
地下の天井裏でその様子をジーっと眺めていた劉煌とお陸は、そこで何を作っているのか、彼らにしてもさっぱりわからなかった。
”医者が、こんなところで火薬やら鉄の塊やらを前に何をしているのか?”
劉煌がそう思っていた時に、下から会話が聞こえてきた。
「あと、2週間で完成だ。」
「そうか、ところで、試し打ちはどこでするのか?」
「こんな恐ろしい物を試し打ちなんかしたら、下手するとその場にいる奴が無差別に死ぬかもしれない。何しろ弾がどんどん弾けてどこにどう飛ぶかわからないからな。どうせ東域の野蛮人が使うんだ、試射なんか不要だ。これでアイツらがどうなろうとこっちの知ったこっちゃない。」
なんと、ここは彼らがずっと探していた劉操の注文した大量破壊兵器の制作現場でもあったのだ。
地下室の天井裏からその様子をその目で見た劉煌は、それが大量破壊兵器だとはにわかには信じられなかった。
”本当にそんなことができるのか?”
彼は真っ青になった。
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