第六章 錬磨
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
西乃国皇帝劉操が出羽島にやってきたのは、五剣士隊(とは言っても一剣士欠けていたが)が再結成された翌日だった。
劉操は、自分が先帝を騙し打ちしたことから自分自身は極端に暗殺を恐れ、いつも影武者を使っていた。この日も馬車には影武者を乗せ、自分は馬車の後ろの馬に護衛のふりをして乗って出羽島にやってきた。
劉煌とお陸はいつも通り派例好坊に居たが、客の相手をしながら劉操はまだかまだかと窓から外の様子をチラチラうかがっていた。
すると、突然、あきらかに獰猛な犬の吠声と共に辺りが騒然となった。
なんと複数の狼並みの大きさの野犬が数頭、群れを成して大通りを北から南に向かってドーっと走ってきたのだ。
途中で数人が襲われ悲鳴が上がる中、群れはそのまま南に向かって走り劉操の行列と鉢合わせになるのも時間の問題となった。大通りに居た人は皆物陰に隠れ、劉操の行列も騒然となり大通りは北から南までパニック状態になった。
劉操は、すぐに危機を感じ取るとサっと列から離れ馬で来た道を逃げたものの、残された行列は皆劉操は馬車に乗っていると信じているので、馬車を守ろうと武器を持って構えていた。
そんなカオス状態の大通りに突然孔羽が飛び出してくると、身構えている劉操の護衛達のだいぶ前に、抱えてきた自分の大切な肉まんを山盛置いて物陰に隠れた。
すると、突進してきた野犬たちは、肉まんの臭いにつられて肉まんの周りで走るのをやめ、すぐにそれを食べ始め、しまいに犬たちの間で道の中央に置かれた肉まんの奪い合いになった。その隙を狙って、物陰に隠れていた李亮と梁途が弓矢で次々と野犬を射、うまく急所に当たった犬はその場で絶命したが、外れた犬は彼らに向かって襲い掛からんばかりの勢いで猛進してきた。しかしその犬は孔羽が投げた石によって目的を阻止されると、その犬を含めあたりは、犬たちのキャイーンという悲鳴の後に動けなくなった犬たちの墓場と化した。
ようやく県令(知事)の下男たちがやってきて、犬の死体を片づけると、この状況を鎮圧してくれた李亮ら3人には目もくれず去っていき、馬車の行列も何事もなかったかのように目的地に向かって出立した。
その状況の一部始終を見ていたお陸は、
「へえ~。お嬢ちゃんのお友達はなかなかやるじゃないか。落ち着いた見事な連携プレーだったよ。」と言って劉煌の方を見ると、彼は黙ってただボーっと外を眺めていた。
劉煌は、遥か昔、彼が7歳の時にあった出来事を思い出していた。
ある日、みんなでいつものように秘密基地で武術の稽古をしていると、遠くから突然猪がこちらを目掛けて一直線に走ってきたのだった。
慌てた孔羽は、持ってきた饅頭のことを忘れてそれを置いたまま逃げた。
すると猪は、饅頭の散乱しているところで突然急ブレーキをかけ、あたりの臭いを嗅ぎだし、見つけた孔羽の饅頭をむしゃむしゃ食べ始めたではないか。隠れながらも孔羽が自分の食べ物を食べられている悔しさをにじませていたので、劉煌は皆に弓矢の稽古の実践の提案をしたのだった。劉煌の1.2.3の合図で、全員で一斉に猪に矢を射った。矢は全て命中したものの、猪は絶命に至らず、狂ったように劉煌らを目掛けて走って来た。その時、突如孔羽が巨大な石を持ち上げ「よくも僕の饅頭食ったな!」と叫びながらそれを猪の頭目掛けて投げつけた。頭に巨大な石が当たった猪は、ギューッと変な声をあげてその場に倒れ込み、すかさず劉煌が飛び上がって猪の首に剣を刺しその場で狂暴な猪の息の根を完全に止めた。その後、孔羽の饅頭のリベンジということで李亮が器用に短刀で猪の皮を剥ぎ、その4本の足をまとめて棒に吊り下げると、それを焚火の炎の上にくべて猪の丸焼きを作ったのだった。
今日孔羽がとっさに自分の大事な肉まんを犠牲にすることを思いついたのも、李亮と梁途が矢で応戦したのもあの時のことを思い出したからに違いないだろうが、あまりに出来過ぎではないだろうか?
劉煌は、そのまま外を眺めていると、劉操のお付きと思われる馬に乗った人物が南からやってきて、李亮らの前で馬を止めた。その人物は馬上から何やら彼らに話かけていたが、すぐにまた馬を進め始めた。ところが、その後思ってもみなかったことに彼ら3人ともその馬の後ろについて歩き始めたではないか。
劉煌は、お陸の方を振り向くことなくジッと彼らを目で追いながら、お陸の方に身体を寄せてからこう言った。
「ちょっと気になるから見てくる。」
~
まるで音をいっさい立てないモモンガのように、劉煌は窓から木に飛び移ると、木を登って隣の建物の屋根に移った。そのまま屋根伝いに彼らが消えた所の屋根に着地すると、いつの間にか追いついてたお陸が、突然劉煌の手を取り「ここじゃダメだ。危ない。」と囁くと、そのまま彼を遠くまで連れて行ってしまった。
劉煌が異を唱えようとしたまさにその瞬間、その建物の扉がガラッと開き「誰だ!」という怒声が辺り一面に響いた。
その声は劉煌が忘れもしない、7年前、自分を「殺せー!」と言った、あの声だった。
劉煌は、すぐに李亮らの危険を察知するとその建物に突入せんばかりの勢いでお陸の手を払ったが、そこは1枚も2枚も上手なお陸である。逆に劉煌を羽交い絞めにし「お嬢ちゃん、犬死にはいかんよ。」と耳元で囁いて自分より3回りも大きい劉煌を離さなかった。
劉煌は、涙をポロポロこぼしながらそれから何度も逃れようとしたが、お陸はそれを決して許さなかった。そうこうしているうちに李亮ら3人は建物から無傷で出てきた。それどころか、3人ともにこやかな顔で出てくると、何やら談笑しながら梁途の家に向かっていった。
その時、劉煌の脳裏に黒に限りなく近い煙色の疑念がゆらゆらと漂った。
”師匠は彼らを信用していいと言ったが、本当は劉操の手先なのではないだろうか?”
「師匠、彼らの所に行ってくる。」そう言うと、劉煌はお陸の返事を待たずに、屋根伝いに梁途の家に向かった。
梁途の家の屋根の上で、劉煌は耳を澄ましていた。
「まさか、猪の時と同じことがここであるなんて、びっくりしたな。」と孔羽が言うと、李亮の声で、「まったくだ。それが皇帝のお付きの者の目に止まるなんて、人生何が起こるかわからないな。」と言うのが聞こえてきた。
”・・・・・ということは、劉操は身分を隠していたのか......”
”なるほど、護衛たちが馬車を守る体制に入っていた時、1人馬で逃げていた護衛がいた。そいつが劉操だったのだな。あの馬車に乗っていたのは影武者か。アイツならやりそうだ。何しろ馬車に乗っていた僕の首を狙った張本人だからな。それは警戒するわな。”
「でも、追って皇帝から沙汰があるって本当かな?」梁途が呟くと、これまた李亮が答える「わからん。だが、もし皇帝に近づけるならチャンスだぞ。皇帝の信頼を得られれば、俺たちの未来は明るい。」
劉煌は、これを聞いて真っ青になると、すぐにその場を離れお陸の待つ旅館へと戻っていった。
ところが、劉煌が旅館の部屋に戻ってきた時、居るとばかり思っていたお陸は不在だった。劉煌は心を落ち着かせるため瞑想をしながら彼女の帰りを待っていると、1時間ほど経ってからお陸が戻ってきた。
劉煌はお陸を見るや否や、お帰りなさいとも言わずに「巨大な権力という誘惑の前では、友情などまるで虹のように儚いものだ...が、彼らの人生のためにはそれがいいのかもしれない。」と感情をこめずに静かに呟いた。
お陸はそれを聞いていなかったのか、何も答えず、青い顔をしながら慌てて言う。
「奴は西域の大量破壊兵器を買おうとしているみたいだ。」
想像を超えたお陸の持ち帰った情報に、友人達が敵側についた悲しみという湖に浸りまくっていた劉煌も、あまりのことに瞬間に湖から揚がり、眉間にしわを寄せながらきつめの小声で聞いた。
「大量破壊兵器って?」
「全く見当がつかない。ただ何年かかっても全く勝てないから、武器を考え始めたようだよ。ただ、参語を話す西域の奴も同じ位胡散臭かった。本当にそんなものがあるのかわからないけど、もしあるのなら、あんな奴に持たせたらこの世は地獄になるね。」
珍しくお陸が息を切らせながら一気にそう言うと、劉煌は何度も頷きながら
「ちょうどいい。ドクトル・コンスタンティヌスが知っているかわからないけど、明日聞いてみよう。」と言った。
それを聞いたお陸は、今迄の暗いモードから一転パッと明るくなると「そうだ。明日はドクトルに会えるんじゃないか。お肌の為にもう休んでおこう。お嬢ちゃんも早くお休み。」と言うと、顔を洗いに部屋から出ていった。
劉煌は、隣でスヤスヤ眠っているお陸とは対照的に、全く眠れなかった。
去年からドクトル・コンスタンティヌスの出羽島滞在中、彼から医学の指南を少しずつ受け始めた劉煌は、彼の医学論にすっかり魅せられて彼の下でもっとしっかり学びたいという気持ちがあった。しかし、蒼石観音像を見つけ、さらに父からの暗号文まで見つけてしまい、非業の死を遂げた父の遺志を一刻も早く継がなければならないという想いも同時にあった。それが五剣士隊のメンバーと再会したことで、更に彼の中で拍車をかけトッププライオリティーになっていた。ところが、今日、五剣士隊のメンバーの行動を見て、改めて今の自分が父の遺志を継ぐのは並大抵のことではないことを悟った。少なくとも、ここ1,2年で実現できるものではないと悟ると、西域の情報見分がてら西域に行ってドクトル・コンスタンティヌスの下でしっかり医学を学びたいという欲も沸々と湧いてきた。
”それに、師匠の言う大量破壊兵器も決して西乃国に持ち込ませてはならぬ。”
劉煌は、部屋が真っ暗にも関わらず、忍者の暗目付の訓練の成果でくっきり見える天井の雨漏りの跡をボーっと見ながら、一晩中自問自答し続けた。
”私は今どうするべきか。”
そして一睡もせずに迎えた朝、お陸と朝食を取りながら劉煌は重い口を開けた。
「師匠、ドクトル・コンスタンティヌスの許可が取れたら、いや、取れなくても西域に行ってみたい。」
すると、劉煌の予想とは全く異なりお陸はすぐに「それは、いいんじゃない?あたしも行きたい。」と返事をした。
劉煌がこれに驚いていると、お陸は顔をしかめながら言う。
「アイヤー、お嬢ちゃん、そんなに感情がすぐ顔に出るんじゃ、全然あたしが教えたこと出来ていないってことじゃないか。失格。そんなんじゃ、到底本丸は無理だから、そうだよ、この際、西域に行こうよ。行こう。行こう。西域がどんなところか知らないけど、まあ、所詮西域人も我ら東域人も人間なんだ。人間の男がいる限り女の需要はあるもんなんだよ。西域行って荒稼ぎしよう。」
お陸は、劉煌を火中の栗になるような西乃国皇宮に行かせたくないこともあり、なんとかここでの仕事を長引かせたいと思っていただけに、劉煌が出した結論に内心ホッとしていた。
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