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第六章 錬磨

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 翌朝、梁家では、父母が客人のおもてなしに朝食の準備をしている間に、李亮が本日のスケジュールを二人に話していた。


「と、賭博場?」


 梁途と孔羽が同時にヒステリックになって聞きかえしたのにも関わらず、李亮は涼しい顔で1両硬貨を指しながら答える。


「そうだ。今日は博打だ。コイツを10万両に変えてやる。」


 途端に孔羽は真っ青になり「前もそうやって博打に行ってすったじゃないか。亮兄、やめときなよ。全くお腹空き過ぎて思考停止しているんじゃないか?」と言うと、すかさず李亮が孔羽を睨みつけて噛みついた。

「お前、誰のおかげで科挙を史上最年少で合格したと思ってんだよ!」

「確かに、全部亮兄が言ったところが試験に出たよ。って言うか、亮兄が言ったところしか出なかったよ。だけど前の博打は外しまくったじゃない!」と、珍しく孔羽も負けてはいない。


 李亮は不貞腐れた顔で吐き捨てる。

「あれは、私利私欲だったからな。俺の勘はムカつくが、こと自分の懐に入る金については、まっ・・・・・・・・たく当たらない。でも利他的なことなら俺の直観は99.99%当たる。まあ、見てな。天意が奴と会えということだったら、必ずコイツが10万両に変わる。」

「誰だよ、奴って。」梁途が面倒くさそうに箸をテーブルに並べながら聞く。

 李亮はスッと立ち上がって二人を見下ろすと静かに言った。

「俺たちがずっと会いたかった奴さ。」


 そして、朝食終了後、李亮の鶴の一声で賭博場に行った彼らは、途中まで李亮が面白いように勝ち続けるので、孔羽も梁途も一緒に1両を元手に李亮の手の通りに博打を繰り返した。すると5分も経たないうちに二人とも真っ赤になって興奮し始めたが、まさかの李亮の大予言通りの結果で、それぞれの1両が10万両になると、あまりのことに真っ青になってしまった。


 李亮は席から立って「な、言った通りだろ。天意だ。」と言っていると、大負けしてしまった賭博場の番頭が李亮に絡んできた。

「お兄さんよぉ、勝ち逃げする気かい?」

 李亮は落ち着いて答える。

「ああ、この金で女を買うんだ。派例好坊へは中から行けるんだろう?案内してくれよ。」


 それを聞いた賭博場の番頭は、系列の女郎屋に金が回る分には問題ないどころか、滅茶苦茶有難い話なので、さっきのいちゃもんのこともすっかり忘れて低姿勢になると「そうかい。変な事言ってごめんよ、兄さんは道理がわかってらっしゃる。派例好坊はこっちだ。」と言って道案内を始めた。

「兄さん、買う女はもう決まっているのかい?こっちのおすすめは、、、」と番頭が話している途中で、「決まってる。檀姐さんだ。」と李亮がしれっと答えたので、途端に梁途も孔羽も、そして番頭までうろたえてしまった。

 番頭は、どもりながら「ま、檀姐さんは芸しか売らないよ。身体をちょっとでも触ろうものなら半殺しにされるし。芸妓の中では一番高給取りだけど、姐さんの場合は金じゃないんだ。姐さんが気に入った客にしか芸を披露しない。悪いことは言わない、遊女にしときなよ。いい子を紹介するから。」と訴えるも、李亮は「俺は檀姐さんがいいの。昨日の礼も言いたいし、なっ?」と言って梁途と孔羽の方を振り返ったが、彼らは頭を断続的に横に振っているだけだった。李亮はちぇっと舌打ちをして、また進行方向に顔を向けると、派例好坊の番台に向かって一人歩いていった。


 派例好坊の入口で立ち止まった孔羽は、横でやはり立ち止まった梁途を右ひじでつついて言う。

「亮兄は昨日のこと全然懲りてないんじゃないか?」

 梁途は背の低い孔羽に合わせて身体を丸めて彼の耳元で呟く。

「酔っぱらってたし、やられた本人は何が起こったか気づいていないんじゃないか?」


 そんな二人を置いて、李亮は番台と交渉し始めた。

「前金1万両置いていくって言ってんだ。ちゃんと檀姐さんを座敷に連れてきてくれたら、残りの29万両払うから、檀姐さんを必ず出してくれ。」

 番台は昨日のこともあるので、胡散臭そうに李亮を見ると、賭博場の番頭が、番台に向かって小声で囁く。

「さっき、あっちで勝ち逃げしたんだ。回収してくれよ。」


 そして李亮も30万両を袂からチラッと見せた。


 それを聞いていた孔羽と梁途は、自分たちの10万両も使われるのに納得が行かず、慌てて番台の所に走ってやってくると、李亮を捕まえ小声で怒った。

「亮兄、俺たちの金まで使う気か?」

 それを聞いた李亮は極めておかしな理論で二人を丸めこもうとした。

「お前たちの金って、元は1両ずつじゃないか。俺の言う通りにしたからそれぞれ9万9999両ずつ増えたんだろう?だけど、お前たちが単独でやってたら、1両が0両になっていたに決まってら。だから30万両は俺が好きに使っていいんだ。」

「でも......」

 3人が内輪もめしていると、派例好坊の中央階段から檀姐さんになっている劉煌と香姐さんになっているお陸が前の座敷が終わってしずしずと降りてきた。それを見つけた梁途がサッと顔色を変えると、それに気づいた李亮が階段の方を振り返った。


 その時、李亮と劉煌の目が合った。


 ”李亮、何またこんなところでやってるんだ......”

 ”お前と話すために決まってんだろう。太子。”


 二人は7年という時を感じさせないほど、目で会話ができていた。

 それをしっかり見て、聞き取っていたお陸は、劉煌にこれまた目で言う。

 ”話すんだよ。”


 劉煌が下まで降りていくと、番台がしぶしぶ声をかけた。

「檀姐さん、こいつらがどうしても檀姐さんの芸を見たいってしつこいったらありゃし......」番台は劉煌が相手にしないものと思い込んでいたので、彼の言葉の途中で劉煌が「じゃあ、天空一号で。」と言うなり、くるっと背を向けてまたお尻をフリフリ階段を登り出したので、すっかり肝をつぶしてしまった。


 お陸は、心の中でニヤリと笑うと、劉煌が彼女の横を目配せしながら通り過ぎた後に、李亮らに向かって言った。

「ちょいと、お兄さん達、そこで何してんだい。来ないんだったら檀は別のお座敷に行かせるよ。」


 3人は慌てて中央階段を登ってくると、全員目の前にある1歩ごとに左右に振れる劉煌のお尻を見上げながら彼についていった。


 劉煌は天空一号の部屋の前まで来ると、ガラッと扉を開け、3人の方を振り返り科を作って「どうぞ。」と言った。李亮が言われた通りにすぐ入ると、他の2人も後に続いたが、二人とも完全にビビっており、劉煌の前を小さくなって足早に通り過ぎた。


 ”李亮は、僕のことを孔羽にも梁途にも話さなかったのか。”


 3人を座敷に通すと、劉煌は香姐さんに酒と魚を頼んでから扉を閉めて客に挨拶をした。3人と7年ぶりに向かい合って座った劉煌は、感慨に耽ることなくすぐに無表情で彼らを観察しつつ三味線の調律を始めた。


 すると、孔羽が備え付けの茶菓子に気づき、すぐにそれを手に取って食べ始めた。

 劉煌は思った。”7年経っても、どこに行っても相変らず食べ物か......”


 それを見た李亮がどうしようもないという顔をするのも、7年経っても全く変わらなかった。


 そして、梁途も7年前もそうであったように背格好は劉煌とほとんど変わらないのに、相変らず居るのか居ないのかわからないほど、ここでも影が薄かった。


 ちょうど香姐さんが酒と魚を運んできたので、それを机の上に並べると、3人に笑顔で「ごゆっくり。」と声をかけてから、劉煌を見て意味深に頷き座敷から出ていった。


 劉煌は改めて3人にお辞儀をすると、三味線の弾き語りを始めた。


 劉煌は、あのお陸が上玉と言い、ここの女将が是非置かせて欲しいと言うだけあって、あの食いしん坊の孔羽でさえ食べ物を手に持ったまま口に入れることなく、劉煌が三味線を引き出すと劉煌に見入ってしまった。


 その歌の内容はこうだった。

 昔々、あるところに友達のいない子がいた。ある日その子に友達ができ、そしてまたある日その子にさらに3人の友達ができた。5人の仲間たちは毎日山で稽古した。

 一人は背が高く、一人は食べ物に夢中で、一人は女の子だった。後の2人は背格好はそっくりだったが、顔は似ていなかった。


 そこまで歌った時、突然梁途は閃いたようにガバっと立ち上がり「お凛ちゃん!お凛ちゃんなんだろう?」と叫んだ。それに驚いた孔羽が、「えー!?誰がお凛ちゃんなの?」と叫ぶと、梁途が劉煌を指さすと同時に李亮の手が梁途の腕をバシッと叩いた。


「痛いなぁ、亮兄、何すんだよ。」梁途は叩かれた腕を摩りながら、また孔羽の横に座りなおすと「指さすんじゃねぇ。無礼者!」と叫びながら李亮はそのまま劉煌の前に躍り出て、額を床にこすりつけんばかりにひれ伏した。


 劉煌は、三味線を横に置き立ち上がって李亮を両手で抱き起こすと、2人の目が合った。


 李亮は頷いてからすぐに孔羽と梁途の後ろに戻って座ると、やおら劉煌は、何がなんだかわからなく途方に暮れている梁途と孔羽の前にゆっくりと歩み寄り、彼らの前で片膝を立てて座ると、顔を彼らに近づけて彼の地声で「皆、元気でよかった。」と小さい声だったが、本当に嬉しそうにそう言った。


 目の前の、ピンクの着物を着た絶世の美女の、口紅で赤く染まった形の良い口から男の声が飛び出した瞬間、孔羽と梁途の思考回路は完全にショートし、目をカッと見開いたまま後ろ向きにズーッと卒倒した。


 李亮は卒倒した2人の下敷きになりながら「お、俺は絶叫するかと思ったんだが、まさか気絶するとは......」と意識不明で自分の上に覆いかぶさっている男2人の重さで、息も絶え絶えにそう言うと、劉煌は李亮が圧死しないようにサッと彼の横に来て、彼からまず梁途をどかして梁途を横に寝かしつけながら言う。

「全くだ。特に梁途は禁衛軍に入るんだろう?こんなことで気絶するようでは、務まらないぞ。」


 李亮は孔羽をよいしょと言いながら自分の上から落とすようにしてなんとかどかすと、はあはあ言いながら姿勢を正して劉煌に向かって恭しくお辞儀をした。


 劉煌はまた李亮を立ち上がらせ「それは昔のことだ。今は見ての通り、流浪の民さ。」と言ったが、李亮はそれに対して首を横に振って何か言おうとするのを劉煌の手が彼の口を押さえて阻止した。


 すると天井裏から香姐さんが音もたてずに降りて劉煌の横にスッと立ち、劉煌に「音が消えていたらまずいだろう。あたしが適当に引いとくからサッサと話すんだよ。」と言った。


 李亮は驚いた顔で「仲間か?」と劉煌に囁いた。それには、劉煌の素性を知っているのか?ということも含まれていた。

 劉煌は首を横に振ると「仲間じゃない。師匠だ。」とサラッと言った。

 李亮は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして「し、師匠って、あの女の子、俺らと変わらないくらいじゃないか。」と言うと、劉煌は苦笑しながら「見てくれはな。」と言った後、ふと李亮の顔を見ると、酷く心配そうな顔をしていたので「大丈夫だ。危機の時もわざわざ自分の命も顧みず救いに来てくれた人だから。」と付け加えた。


「恩人か。まさか、知ってて救ってくれたのか?」李亮は、細い目をmaxに開き、驚いた顔をして聞く。

 劉煌が頷くと、李亮は満面の笑みを浮かべてから、三味線を引いているお陸の方に向きを変えて、よっ!と手を挙げた。


 若いお兄ちゃんによっ!と手を挙げられたお陸は、三味線を弾く手を休めず李亮に軽く会釈しながらこう思った。

 ”どうも、お嬢ちゃんはあたしの年をばらしていないようだね。よしよし。合格!”


 李亮がお陸に手を挙げている間に梁途を起こした劉煌は、汗だくになりながら同じように孔羽にも喝を入れて起こすと、額の汗を手の甲で拭いながら3人に向かって「みんな、久しぶり。」とニッコリ笑って言った。


 その顔には確かに面影があった。

 秘密基地で、劉煌が彼らに「僕のお友達になってくれるの?」と言った、あの時の。


 孔羽はすっかり机の上に並べられた食べ物のことも忘れて「ま、まさか、太......」とまで言うと、自ら口を閉じてその場にひれ伏した。

 梁途に至っては、もう死んだと半分思っていたこともあり、目を見開いて絶句していた。


 劉煌がひれ伏している孔羽を起こすと、思いがけず孔羽は声を押し殺して泣いていた。

「どうしたんだ!」

 そう、劉煌が孔羽に声をかけると、まぐれとはいえ、李亮のヤマ勘が当たったとはいえ、科挙に合格しただけあり、孔羽は声を押し殺して嗚咽しながら劉煌に言う。

「ヒック。よ、良かった。生きていて。ヒック。信じてたけど、あまりに長い間音沙汰が無かったから、、、ヒック。お願い、戻ってきて。本当に酷いんだ。太......じゃなきゃダメなんだよおおおおおおおおおー。」


 お陸の演じる香姐さんの三味線の音がどんどん激しくなる。


 劉煌は思わず孔羽を強く抱きしめた。


 梁途は、そんな2人の姿を見ながら愕然として「女に化けていたのか......」と呟くと、李亮は拳を握りしめて「絶対に許せねぇ。」と歯ぎしりをしながら呟いた。


 3人はあれから西乃国に起こったことを劉煌に話した。

 劉煌は、それをピンクのお座敷衣装+美しく化粧を施した顔で、その顔を酷くしかめながら聞いていた。そして彼らに聞いた。

「白家は、、、お凛ちゃんは、無事なのか?」

 李亮は暗い顔をして、白家に纏わる全ての事を劉煌に話した。


「ふむ。父も兄一家も殺されたのに白学が生きていてまだ秘書省の副長官をしているのなら、その娘の白凛も殺されてはいまい。ただ、どこかに幽閉されているかもしれない。」

 劉煌が口に拳を当ててむつかしい顔をしながらそう言うと、梁途は劉煌を見て「どうやって暮らしてきたの?」と聞いてきた。


 劉煌は、振り向いてチラッとお陸を見ると、お陸は相変らず激しく三味線の弦の上で撥を躍らせながらうんうんと頷いた。


「見ればわかるだろう?僕は僕なりに父上の遺志を継ぐ為に毎日修行している。ただ、敵が巨大であればあるほど1度の失敗が命取りになる。だからタイミングが重要だ。残念だが、まだその時ではない。だから、申し訳ないが、みんなまだこのまま頑張って生きていって欲しい。」と劉煌は一人一人と順に目を合わせながら話していった。


 3人は真剣に劉煌の話を聞いていたが、次に劉煌が「それから、これは重要なことだ。僕のことは忘れるんだ。」と言うと、李亮が途端に激しく怒りだした。劉煌は李亮を手で制して落ち着いて言う。


「僕の力になろうとしてくれているのは凄く嬉しい。だけどあまりに相手が巨大すぎる。当たって砕け散るのは一人で十分だ。皆は手を引け。」


 李亮は自分の顔を劉煌の顔の前5㎝まで近づけると目を凄ませながら言う。

「お前、俺がはいそうですか、じゃ、手を引きますって言う訳ないだろう?お前は一人でならず者達に立ち向かって俺たちを助けてくれた。だから今度は俺が必ずお前を守るって言っただろう?お前を守って死ねるなら本望だ。」

「僕だってそうだ!」突然孔羽が言いだした。「絶対守る!」

 いつも口数の少ない梁途まで黙っていない。「俺だって。じゃなきゃ、禁衛軍なんて入らないよ。軽はずみなことは絶対しないから、そんなこと言わないでくれよ。一人がみんなのためにやろうとしているのに、みんなが一人の為にやろうとするのをなんでダメだって言うんだよ!」


 気が付いた時には、お互いに両肩を組んで4人で円陣を作っていた。


 根負けした劉煌は明らかに心配そうな顔をして「わかった。でも絶対勝手に動かないで。その時が来たら、僕が必ずみんなに知らせるから。」と優しく囁いた。


 円陣を組みながら3人は「うん」と同時に答えた。


 一人の行方は依然として不明ながらも、五剣士隊が再結成した瞬間であった。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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