第六章 錬磨
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
そう言って3人の男たちの顔を見た劉煌は、お陸にどんなことがあっても動揺を表に出さない訓練を受けていたことを、こんなにも有難いと思ったことはなかった。
”えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!”
”何で君たちが揃いも揃って3人で出羽島なんかにいるんだ!!!!!!!!!”
劉煌は、彼らと最初に出会った時とよく似たシチュエーションに心の中で苦笑しながら、ふと孔羽を見ると口から血を流している。
”あれほど言ったのに、相変らず首から上の防御ができていない!”
そう思ったら、そのまま放って置けなくなり、つい、孔羽の顔を触ると「あら、お兄さん、酷いお怪我じゃないの。あたしのところで、お手当しますわ。」と言ってしまった。
下男は慌てて「檀姐さん!」と窘めたが、劉煌はキッとなってその下男を睨みつけ「何言ってんだい。あんた達の尻拭いしてやってんじゃないか。さっさとこのお兄さんたちに手を貸してやんな。」とタンカを切ると、さっさと通用口に向かってお尻をフリフリ歩き出した。
下男は渋々李亮、孔羽と梁途を立ち上がらせると、檀姐さんについていけと顎を使って指示した。
3人は項垂れながら、科を作って時折挨拶しながらお尻をフリフリ歩いている檀姐さんの後ろ姿を見ながら、その後ろについていった。
劉煌は3人を部屋に入れると、扉を閉めずに3人に指でそこに座るよう指示した。劉煌は奥から救急箱を取り出すと、まず科を作ってから孔羽の頬に手を当てて綺麗なハンケチで小指を立てながら彼の切れた口から血を拭った。孔羽はそれが劉煌だとは全く気づかず、あまりに美しい芸妓のお姐さんが自分の頬に手を当ててくれているということで、夢心地になり顔を真っ赤に染めた。劉煌は、孔羽に「お兄さん、他にお怪我は?」と聞いたが、孔羽は口をポカンと開けて、惚れ惚れした目でボーっと劉煌を見ているだけで、全く聞こえていないようだった。
”もう、孔羽の奴。僕だって知ったら、絶対食べたものを全て戻すな。”
そう思いながらも、それも全く表に出すことなく、劉煌は、今度は梁途の方を振り向いて「お兄さんは拳ね。」と言うと、たらいをしずしずと持ってきて梁途の前に置いた。しかし、梁途も劉煌に見惚れていて、何もしようとしないので劉煌は心の中でため息をつきながら、また科を作って梁途の腕を取りそっとたらいの中につけた。梁途は、拳の傷に水がしみて思わず「いてぇ。」と言って手をひっこめようとしたが、劉煌は力技でそれを阻止し「お兄さん、我慢して。」と言うと、水の中で傷口を布で優しく拭いた。劉煌は梁途にも他に傷が無いか聞いたが、彼はさっき孔羽がしたリアクションと同じく、ただ劉煌をボーっと顔を真っ赤にして見つめていた。
”梁途も、僕だってわかったら、絶対この部屋破壊するな。”
最後に劉煌は、李亮の前に斜めにやってくると、首も斜めに傾げながら「お兄さん、お怪我は?」と怪我の場所を聞いた。
劉煌は、この部屋に来てからずっと李亮がずっと真剣な顔をして自分を見ていることに気づいていたので、さらに女っぽく科を作ると、ジッと李亮の目を見た。李亮は目を逸らすことなくしばらく劉煌を凝視し、それからやおら左の口角だけ上げると、いきなり劉煌の腕を掴んで彼を自分の方に引き寄せた。
これには、孔羽も梁途も慌てふためいてダメダメと両腕を突き出してきたが、劉煌は慌てることなく、お座敷でエロおやじをあしらうように「あ~れ~、お兄さん、いけないわ。」と言って離れようとすると、李亮はなんと大胆にも劉煌が離れないように抱きしめて、彼の耳元で彼にしか聞こえないように素早く囁いた。
「良かった!やっぱり生きていてくれたんだな!」
劉煌は、李亮の胸の中で抱きしめられていたが、何も答えず、ただすーっと腕を李亮の後ろに回して、彼の首の後ろを手刀でパンッと叩くと、彼をその場で気絶させた。
李亮が気絶して崩れ落ちていくのとは対照的に劉煌はすくっとその場に立つと、両手をパンパンと叩いてから両腕を胸の前で組んで倒れた李亮を見下ろし、氷のように冷たい声で「酷いセクハラね。」とだけ言った。そして、顔をくるっと後ろに回し、今度は真っ赤から真っ青な顔になった孔羽と梁途に向かって「あんた達もコイツみたいに私にセクハラしたら、ただじゃすまないからね。さ、私は、これから大事なお座敷があるんだ。帰った帰った。」と言うと、孔羽と梁途を部屋から追っ払った。
劉煌は、孔羽と梁途が部屋から出ると、気を失ったままの李亮を起こして彼の背部に回り、彼の胸を広げながら背中のツボをおして喝を入れた。
それでようやく我に帰った李亮は、劉煌を見て思わず「太...」と言ったところで、劉煌の人差し指が李亮の口を押さえた。
李亮と劉煌は見つめ合った。
李亮の目は、優しく、思慕に満ち溢れていたが、劉煌の目は恐ろしいほど冷たかった。
劉煌は李亮に言った。
「お兄さん、あたしを誰かと勘違いしているようだけど、あたしゃ、アンタのことは見たこともないよ。」
李亮は眉をしかめて小声で自分の名前を言おうとする。
「俺だよ。李…」と言ったところで、また劉煌の人差し指が李亮の口を押さえた。
李亮はまた劉煌の腕を取り、彼の耳元に口をつけて早口でまくしたてた。
「何で知らないくせに俺の名前を言わせないんだ?気づいているからだろう?俺に危険が及ぶと心配してるんなら、そんなことどうだっていいんだ。一人は皆の為に、皆は一人の為にじゃないか。お前がどんなに俺たちをかばって知らないふりをしようと、俺たちは一人の為に進むんだ。もうずっと前から、、、初めて会った時から決めていたんだ。今日ここに来たのは、それぞれの門出の前祝いの為だった。孔羽は科挙に合格した。梁途は禁衛軍に入隊することになった。そして俺は出征が決まった。」
劉煌は思わず、眉をしかめて李亮を見てしまった。
李亮は声を押し殺して低い声で言い続ける。
「お前が帰ってきた時、少しでもお前の役にたつように、お前が消えた日から3人で準備してきたんだ。行政、宮中、軍隊に入り込むってな。」
劉煌は、これを聞いて怒り狂いそうだった。
”何を馬鹿なことを!これはあの頃のような子供の遊びじゃないんだ!劉操にバレたら殺されるだけじゃ済まないぞっ!”
劉煌は李亮の手を振り切って立ち上がると、益々顔をしかめて真剣に言う。
「お兄さん、悪いけど何を言っているのかさっぱりわからない。誰か。誰か来て頂戴!」
すぐに下男がやってきて言う「檀姐さん、お呼びで?」
劉煌は、科を作って李亮を指さしながら「このお兄さんが悪酔いしたみたいで。あたしがお金を出すから、家に連れて帰ってあげてちょうだい。」と言うと、机の前に移動してそこに科科座ると、李亮に背を向けたままで持ってきた三味線の調律を始めた。
”こいつ、まだ俺らを守る気でいやがる。お前がそういう態度を取るなら、こっちだって本気だってことわからせてやるからな。”
李亮はそう思いながら派例好坊の勝手口から出てくると、近くで待っていた孔羽と梁途と合流した。
李亮は、派例好坊の下男に友人と一緒だから大丈夫と言ってこれから先のエスコートを断ったが、下男はそれでは檀姐さんへ顔が立たないと言って、結局三人を梁途の家まで送っていった。
下男は派例好坊に戻るとすぐ劉煌のお座敷まで顔を出して、劉煌の耳元で経過報告をした。
”なんと、梁途の住まいが出羽島にあるとは......”
下男に礼を言って下がらせると、劉煌はまたお座敷に集中した。
その座敷では、西乃国の政府高官が出羽島の官吏から接待を受けていた。
劉煌は、三味線の弾き語りをしながら、彼らの話を読唇術を使って解読していた。
”明後日、劉操がここにやってくる。”
“わざわざ政府高官までこんな僻地に来させて話すって何事か。少なくとも朝廷では話せない議題。”
“それにしても、師匠は喉の調子が悪いんだったら宿で寝てればいいのに。”
劉煌は、とっくに気が付いていた。
控室に3人を連れてきた時から、屋根裏にお陸が居たことを。
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