第六章 錬磨
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
実地訓練第一課題をクリアして武王府を出た劉煌への実地訓練第二段として、今度は西乃国の出羽島をお陸は選んだ。
『最近時々政府高官がやってきて密談を重ねているとの噂がある西乃国の出羽島で、劉操の動向情報を得ること。』
これがお陸が劉煌に与えた実地訓練の第二課題だった。
とここまで聞けば、お陸が西乃国皇宮に潜入したい劉煌の思いを汲んだ実地訓練のように思えるが、なんのことはない、ちょうどその頃ドクトル・コンスタンティヌスが島にやってくるから、お陸は彼に顔を見せるだけで結構な銭になるという、自分の金儲けこそがそこの場所を選んだ真の理由だった。
それに、いくら武王府のサラリーが良かったと言っても、毒舌のお陸が上玉と太鼓判を押す劉煌なら芸妓として働けばその100倍、、、いや1万倍の銭を稼げるかもしれない。それならお陸の取り分を10分の1としたって老後の生活は保証されたようなものだ。(って既に結構な老人なのだが、本人はすっかりそれを忘れているようだ。)
そういうことで、劉煌をうまく丸めこみお陸は、彼を西乃国の出羽島でフリーランスの芸妓として出羽島一番の遊郭:派例好坊に送り込んだのだった。
お陸は、久しぶりに香姐さんに扮装し会心の笑顔になると、劉煌の前にスッと立って鼻息を粗くした。
「いいかい。ここが終われば、今度こそ本丸潜入だ。だから、ここでは派手に稼ぐよ。」
そう言ったお陸の”だから”の使い方も腑に落ちなかった劉煌は、お陸のダブルスタンダードについていけず思わず驚いて聞いた。
「えっ?師匠、いつも忍者は目立っちゃいけないって言うじゃない。それに噂によると、近々劉操も来るらしいし。」
お陸はやれやれという顔をして「だからお嬢ちゃんはおつむが弱いって言われるんだよ。」とぼやいた。
劉煌は顔色を変えない絶賛訓練中のためか、今回は全く嫌そうな顔をしない。
”ちっ。つまらない。煽ったのに顔色一つ変えなかったよ。本当に本丸に突入する気なのかね。”
お陸は心でガッカリしながら、思いっきり呆れた顔をして言う。
「アイヤー、ここはどこ?出羽島だろう?西域とあたしらの東域が交わる所だ。そんな場所は、スパイ天国。行き交う人皆同業者って思えってことだよ。だから裏をかくのさ。」
出羽島は開けた都会だが、島の面積自体はさほど大きくはなく、二人が活動を始めると瞬く間にスーパー芸妓の香姐さん・檀姐さんの名前を知らない者はこの島にいないほどの有名人になった。
その日もお座敷から声が掛かった二人だったが、お陸は珍しく喉を痛め、一人で行くことになった劉煌は、ドクトル・コンスタンティヌスのデモの最終日が数日後に迫る中、マイ三味線を担いで、この島にある4軒の遊郭の中で一番格式の高い派例好坊に向かっていた。
すると、その派例好坊の方から、どう考えても男たちが喧嘩している声が聞こえてくる。
”やれやれまたお上りさんが、ぼったくり会計に会って、店から追い出されたのか。。。”
劉煌は、そう思いながら、いつものように大通りから派例好坊の通用口のある細い路地に向かって、小指を立てて首筋をさすり、お尻をフリフリ、科を造りながら曲がった。
案の定細い路地では明らかに派例好坊の通用口付近で、若い男の客3人と下男8人がもめていた。
通用口とは言っても、表通りから筒抜けであり、下男の大声で罵る声がそこら中に響いていた。
「あんなはした金で遊びたいだの!まったく一昨日きやがれってんだ!」
若い男の客は、どうみても劉煌と年齢はかわらなさそうで、一人は、身長の高い劉煌でも見上げるであろう大男で、もう一人は劉煌と身長も体型も同じ位の細身、最後の一人は細い男と一緒にいるせいか、とても太って見える奴だった。
”あらあら、どこのお坊ちゃん3人組だろう。こんな所にやってきて世間知らずだなぁ。”
しらふの8人に囲まれた酒の入った若い客の3人組は、請求された不明瞭会計のことを大声で言い返しながら、手を出されたらやり返すガッツも持っていたが、いかんせん酔っぱらっているので、殴り返しているのだがその方向があらぬ方向でほとんど相手に当たらず、形勢は不利だった。
劉煌は、目を細めてその様子を見守った。
”あの子達、酔っぱらっているけど、武術をやってたな。あの構えだと、本来は相当できるはず。目にばかり頼っているからああなるんだ。酔っぱらっても目を閉じればよけられるし、拳も相手に当たるはずだ。”
殴られても大男は、これまた下男に負けずそこら中に響き渡るような大声で言い返す。
「女も部屋に入れていないのに、3人でお銚子1本飲んだだけで、どうして1万両になるんだよ!」
その声に大通りの通行人達も足を止め、何事かと路地の方を見始めた。
”やれやれ、はあ。それにしても格式高いって言ったって所詮は遊郭。やることがホントお下劣。これじゃ、お客さんいなくなっちゃうぞ。”
劉煌がそう思った時には、彼の後ろに黒山の人だかりができていた。
劉煌は自分の商売にも影響するので、大きなため息を着くと、派例好坊の下男たちに向かって叫んだ。
「ちょっとぉ。そんなところでやんないでよ。あたしが入れないじゃないの。」
その声に下男の一人が気づくと、
「あ、こりゃ、檀姐さん、失礼しやした。おい、お前ら道をあけろ。」
と前半は劉煌に向かってこびこびトーン、後半は3人組に上から目線モードで言い分けた。
下男達は、劉煌の姿を見て慌てて劉煌に向かってお辞儀した後、また3人の男たちを蹴とばした。
劉煌は、いつの間にか3人組の前にスーっと入り、男たちの盾になって下男に向かって続ける。
「あ、あ、あ~。蹴とばすのはおよしよ。通りから丸見えだよ。派例好坊の名前が聞いてあきれるよ。」と言って、大通りの方を顎でさし示した。それを見た下男達はばつの悪そうな顔をしてその場で小さくなった。劉煌は、小さくなった下男たちにくるっと背を向け、振り返って科を作りながら3人の男達に芸妓のお辞儀をして言う。
「お兄さん方、ごめんなさいよ。こいつらときたら口より手が早い連中でね。お怪我は?」
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