第六章 錬磨
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
そして季節は巡り、秋がやってきて、その年も3か国の祭典が行われる日がやってきた。
3か国の祭典とは言っても、西乃国の皇帝が劉操になってから7年、この間一度も西乃国は参加していないので、実質的には東之国と中ノ国の2か国の祭典であった。そのため、毎年西乃国の皇帝の代役をさせられていた成多照挙は、まるで織姫と彦星のように1年に1日しか会えないにも関わらず、彼の想い人である東之国の皇女簫翠蘭と、毎年なかなか話せるチャンスが無く祭典が終わるたびに意気消沈していた。
しかし、今年は違う。
今年は、成多照挙の策略が功を奏し、そのお役目を東之国の7歳の皇太子に押し付け、もとい、譲ったのだ。
去年、東之国は、ようやく6歳になったばかりの皇太子:簫翠袁を、この3か国の祭典にデビューさせた。
なんとか簫翠蘭とお話ししたい成多照挙は、その翌日から、毎日のように中ノ国の皇帝である父に、全く鬼が笑う話だが、翌年の3か国の祭典で、また西乃国の皇帝が欠席なら、来年は東之国の皇太子に西乃国の皇帝の代役をやっていただくよう提案していた。
それも、ホスト国として、他の国の皇太子を差し置いて自分が大役をやらせていただくのはいかがなものかと調子のいいことを言って。
中ノ国の皇帝は、当初はデビュー間もない東之国の皇太子に大役をさせるのもいかがなものかと難色を示していた。しかし、照挙は全くそれに怯まず、自分はデビューの年にすぐその役をやったと、自分が2年間ボイコットしていたことは全く棚に上げて、さもえらそうにそう父に話した。
毎日のように照挙からそう訴えられた中ノ国の皇帝は、まさか自分の息子の発言が下心からのものであるとは露ほども思わず、半年後には確かに照挙の言う通りと納得して、東之国に、3か国の祭典で西乃国の皇帝の代役が必要になれば、今年は東之国の皇太子に大役を担っていただければという趣旨の手紙を持たせた使いを派遣したのだった。
そして今、成多照挙は、自分の策略通り、”邪魔者たち”を儀式に送り出し、自分は残って、ホスト国として東之国の皇女をおもてなしするという名目で、今、6年来の夢であった簫翠蘭をエスコートして皇宮内を練り歩くことを、まさに実現しようとしていた。
実は、照挙には、子供の時から照挙の3人衆と言われた彼と同じ年頃の家来、中山鉄(通称小鉄)、野中朝一(小朝)、そして小林資三(小資)がいた。それなので、照挙は自分が儀式に出なくていいと決まった時から、今日の簫翠蘭とのデートコースを練っていて、そのコース内の主要3か所に3人衆の助けを借りて、デートが盛り上がる細工を施していた。
まず、中ノ国皇宮の後宮よりにある広大な庭園に翠蘭を案内しようと思った照挙は、その庭園の真ん中にある噴水を見て閃いた。彼は、噴水が吹き出て寒さに身体を縮こませる翠蘭に、上着をかけてあげられるように、噴水の裏に女性用の上等な毛皮のついたコートを小朝に持たせ、待機させていた。
そして、暖かい服装になった翠蘭を、この皇宮内の最も高い建物に案内する。
その皇宮内でひときわ目立つ高い棟である天空楼には、大きなバルコニーがあり、そこからは京陵は勿論のこと、京陵を囲んでそびえる遥か彼方の山々-しかも今は秋で、赤や黄に美しく染まっている-まで一望できる。そんな絶景ポイントの建物の鋭い傾斜の屋根に小鉄を登らせ、照挙と翠蘭がバルコニーに出たら、真っ赤な薔薇の花びらをそこから、まるで花びらのシャワーのように、小鉄に撒かせることになっていた。そのため、小鉄は地上45階はありそうな所で寒さと恐怖に震えながら、花びらの籠を持って待たされていた。
極めつけは、クライマックスである。
照挙は、東宮に翠蘭を案内し、その建物の前で膝まづいて翠蘭に美しい色とりどりの花で作った大きな花束を渡すことにしており、その花束を小資に用意させ、太陽の容赦ない日差しが正面から直撃する東宮の入口で、彼に太陽に面と向かって花束を持って待たせていた。
ところが、このように半年前から綿密に計画し、シュミレーションを重ねていたこのデートも、照挙が簫翠蘭に皇宮内を案内すると提案した途端、母である中ノ国の皇后:成多富貴が、手をたたいて「そうだわ。そうしましょう。」と言うなり、なんと、照挙の役をサッとかっさらって行ってしまったのである。
そうなのだ。照挙は去年まで儀式に参加していたので、儀式の終わりを待っている人が、何も簫翠蘭だけではないという基本的なことが、ポンと頭から抜け落ちていたのである。
ということで、中ノ国の皇后が、サッと照挙の腕を取り、東之国の皇后と簫翠蘭を引きつれて中ノ国の皇宮を自分の好きなように案内するという、照挙の全く想定外のことが起こってしまった。
中ノ国の皇后にとって、後宮の庭園は自分の最も自慢の場所であったので、皆をそこに連れていくと噴水の前でお茶を点てると言いだした。
噴水の後ろで水飛沫を浴びながら震えて待っていた小朝は、ギャラリーが多いなと思いつつもとにかく照挙と翠蘭がやってきたので、噴水の裏手から毛皮のコートを持って出てくると、照挙はすかさず小朝に向かってあっちいけと手を腰のあたりで振って合図を送った。
しかし照挙と家来たちの間で、万一中止になった場合の話は一切検討されていなかったので、勿論ハンドサインも決めていなかった。そのため小朝はそのハンドサインの意味を誤解して、そのままやってくると照挙に渡すはずだった毛皮のコートを直接翠蘭に手渡してしまった。翠蘭は何がなんだかわからなかったが、寒かったので「ありがとう。」と言って受け取ると「母上、おかけします。」と言って自分の母の肩にそれをかけて着せた。
そして全員でお点前をいただいた後、中ノ国の皇后は、また照挙と腕を組み、率先して皇宮内を案内し始めた。
途中でこの皇宮で唯一起伏のある場所があり、その丘を横目に見ながら中ノ国の皇后は、歩みも止めずにペラペラと話し続ける。
「ここは、いったい誰がどの時代に何の為に設計したのかまったくわからないのですが、何故か平にせず小さな丘のようなものを作ったようなんですの。庭園と内裏殿間を斜めに横切れるので起伏さえなければ早道なんですが、起伏があるので誰も通りませんのよ。」
それを聞いた全員の注意が右手にある丘に向いた。
皆がボーっと関心なさそうに丘の方に顔を向けている間、簫翠蘭だけはその丘を悲しそうな目でジッと見つめていたが、誰もそれには気づかなかった。
丘を通りこしてしばらく歩くと、この皇宮内の建物の中でひときわ目立つ大きな建物、天空楼の前に出てきた。
照挙は、意を決して口を開く。
「皇后陛下、天空楼に登りましょう!」
それを聞いた中ノ国の皇后は、苦笑すると「照挙ちゃん、確かにここに登れば景色が綺麗に見えるけど、何しろ階段が千段もあって登るのも一苦労だし、登ったら登ったで高い場所だから吹きっさらしですっごく寒いじゃない。やめましょ。」とサラッと切り捨てて、さらに北にある自分の楼の方に向かって一人で歩き出してしまった。
小鉄は、地上から遥か上の、皇后が言うところの吹きっさらしの、そのまた上の屋根から地上を見下ろしていたが、言われていた話と違って、照挙も翠蘭も階段を登ってくる気配が全く無く、それどころか天空楼を素通りで北に向かって進んで行るのを見て眉を潜めた。
小鉄は、本当はもうここから降りたかったのだが、とにかく小さい頃から照挙の癇癪に手こずっていたので、万一照挙が階段を登ってきた時、言いつけ通りに花びらが降ってこなかったらどんなに激怒するかと思うと、寒いし高くて怖いという理由でここから降りることができず一人吹きっさらしの中、籠を抱えて耐えていた。
結局その後、中ノ国皇后は寒いからと自分の楼の中に全員を入れ、茶菓子を振舞って、午餐が始まるまでここにいましょうと提案した。そして勿論東之国の皇后も翠蘭もそれに礼儀正しく頷いた。
このようにして、照挙の翠蘭への愛のサプライズ計画は、一つも実行されることなく終わった。
それでもなんとか翠蘭との距離を縮め、会話をしたいと望む照挙は、皇后楼の中でも諦めず翠蘭に近づこうとしたのだが、そんな時に限って皇后楼に訪ねてきた異母妹が駄々をこねて照挙の行く手を阻んだため、結局、ここでも照挙は翠蘭とろくすっぽ話せずじまいだった。
そして、例年の如く離れ離れの席で午餐が始まり、例年の如く同じ料理と催しがあって、例年の如く時間通りお開きになった。
照挙は思った。
またこれから1年、翠蘭に会えないと。これはまずい、なんとかせねばと。
そう思った照挙は一目散に自分の楼まで戻ると、その前で花束を抱えて何時間も立っていた小資に労いの言葉の一つもかけることなく、何も言わずにその花束を彼の腕からむんずと略奪すると、それを持って大手門までひた走った。
大手門では、東之国一行がまさに馬車に乗り込もうとしていた。
照挙は、か細く、虚弱体質なのに、全速力で何100mも走ってきたので、喉はゼイゼイいい、もう殆ど声も出ない状態の中最後の力をふり絞って「待って!」と叫んだ。
東之国一行は、中ノ国の皇太子が走ってくるなど何事かと思い、呆然としてつっ立っていると、照挙はその場に倒れ込んで「こ、これを…」と言って、酸欠で震える手で翠蘭に花束を差し出した後意識を失った。
ところが、その花束は、本当は何時間も前に手渡される予定だったのがその代わりに直射日光に何時間も照らされていたために、花も葉もしおれ、茎も力なくふにふにゃふにゃになっていた。
差し出された花束を見た翠蘭は、その場に突っ伏して倒れている照挙には目もくれず、慌てて花束を持ったまま近くの水場に向かって走り出した。一方、東之国一行の見送りに来ていた宦官達は、自国の皇太子の命の危機に泡を吹きながら典医を求めて皇宮内に一目散に走って行った。
池についた翠蘭が、水を梳くって花束の下の部分に含ませると、花も葉も茎も、まるではあ~とため息をついているかのようにホッとしたオーラを出してきて、だんだんとしおれていたものが、シャキッと元に戻っていった。
翠蘭は、それを見てホッと心を撫で下ろしたが、すぐに顔を顰め
「まったく、ここの皇太子ときたら、自分の半分の年の他国の皇子に儀式の代役を押し付けるは、お花の水やりまで他国の皇女に押し付けるとは。完全に東之国の皇族をご自身の家来と勘違いしているわ。」
と呟くと、大手門まで蘇った花束を抱いて戻り、典医の救急処置でなんとか座り込むまでに回復した照挙に花束を返しながら冷たい声で言う。
「皇太子殿下、お花がしおれてしまって驚かれたようですが、お花はお水をあげないと枯れてしまうのですよ。ご自身でおできにならないのなら、今後はご自身の召使にご命じ下さいませ。」
照挙は、返された花束を抱えた酸欠でまだ震える腕を伸ばしながら何か言おうとしているのだが、ゼイゼイ言って声にならない中、翠蘭は言いたいことだけ言うと、照挙にお別れのお辞儀すらすることなく瞬時に踵を返し「父上、母上、出立が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。」と言って両親にお辞儀をすると、さっさと馬車に乗り込みそのまま照挙の視界から消えてしまった。
座り込んでいる皇太子を尻目に、東之国の皇帝家族一行を乗せた馬車は無常にも出立した。
どんどん小さくなっていく馬車の後ろ姿を目で見送りながら、照挙は心の中でこう呟いた。
”また来年......私の織姫......”
ところが、その半年後、思わぬニュースが中ノ国皇帝に飛び込んできた。
なんと、東之国の皇后が馬車の事故で急逝したというのだ。
それ故、東之国は3年の喪に服するので、今後3年間の3か国の祭典への出席を東之国は見合わせるというのだ。
中ノ国の皇帝は、大きなため息をついた。
西乃国の皇帝の出席も望めないことから、今年から3年は中ノ国単独で3か国の祭典を実施しなければならない。
中ノ国の皇帝は、お付きの北宦官にすぐに皇太子照挙と、第二皇子照明を連れてくるように言うと、頭を抱え込んでしまった。
皇太子照挙が皇帝の前に参見した時、既に第二皇子の照明は皇帝と話をしていた。
照挙に向かって振り向いた照明は「皇兄。大変なことになったよ。」と言った。
照挙は、異母弟を無視し、皇帝にまずお辞儀をして挨拶した。
皇帝は、ため息をつきながら東之国の訃報を伝えると、突然照挙はそこでヘナヘナと座り込んでしまった。驚いた照明が照挙に駆け寄って助けると、照挙は「3年も会えないなんて......」と呟くと意識を失ってしまった。
皇帝は、先ほどよりもっと大きなため息をつくと「照明、お前が東之国の皇帝の代役をやりなさい。照挙にはいつも通り西乃国の皇帝の代役をさせるから。とにかく、時間はたっぷりあるから、儀式までにきちんんと手順・作法を覚えておくように。」と言ってから、北宦官に御典医を連れてくるように言った。
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