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第六章 錬磨

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 一方、亀福寺では、朝食中に遠くの悲鳴が聞こえた清聴が顔をしかめて「なんか、この声、美蓮の声に似てる......」と独り言を呟いた。


 それを聞いた柊は、箸を休めて「ままはいつでも美蓮の心配ばかりしているから、何でも美蓮の声に聞こえるのよ。この前だってカラスの鳴き声を美蓮だって間違えたじゃない。」と嘆いた。


 確かに、美蓮が亀福寺から姿を消して以来、清聴は毎日毎日彼を恋しがっていた。あまりに酷い美蓮ロスで、全く元気のなくなった母に、実の娘の小春は美蓮への怒りを通り越して美蓮に激しく嫉妬するようになっていた。


 それ故、柊の心配とは逆に、小春は今日は何故だか虫の居所も悪いこともあり思いっきり悪態をついて言い放った。

「まま、私がいるじゃない!それに、あんな女男のどこがいいのよ。なよなよして、小指立てて、お尻振って、ああ、気持ち悪いったらありゃしな......」


 バシッ!


 小春は始め何が起こったのかわからなかった。

 ただ、自分の左頬がヒリヒリして痛かった。


 自分の左頬を押さえながら、小春は叫ぶ。

「まま、何でぶつの!」

 小春の小さな目から大粒の涙がボロボロ流れた。


 これには柊も驚いてどうしてよいかわからず、ただオロオロし、”美蓮がいてくれたら”と思わず思ってしまっていた。


「アンタ、美蓮の気も知らないで、酷いこと言うんじゃないよ!それに、美蓮だけじゃない。世の中には、苦しんでいる人が沢山いるんだよ。みんながみんなアンタみたいじゃないんだ。女の身体で生まれたけど男の心を持っている人もいれば、その逆もいるんだよ。性別だけじゃない。いろんな要因で、自分らしく生きられない人がいて、苦しんでいるんだよ。苦労知らずで怠け者で好き勝手しているアンタに、そんな人のことをとやかく言う資格なんてないんだ!今すぐ御本尊に謝ってきなさい!」

 仁王立ちになってそう叫ぶ清聴も、ボロボロ涙を流している。


 小春は最初、ちゃぶ台をひっくり返してやろうと思っていたが、清聴のあまりの取り乱しぶりに逆に冷静になり、生まれて初めて、他者、今日の場合はまま、の気持ちも考えてあげなければならないと思った。


 小春、14歳の初夏の朝だった。


 これもまた生まれて初めて言われた通りに御本尊に謝りに行った小春は、その後しばらく自室に閉じこもった。

 そして、これもまた生まれて初めて反省をした。


 思い起こせば、今迄全部美蓮が小春を助けてくれていた。

 朝も起こしてくれて、本堂に連れて行ってくれて、小春の分の用事も全部美蓮がやってくれていた。彼女はそれを当たり前だと思っていた。


 何で彼女がずっと美蓮に頭に来ているのか、本当は、それは美蓮が性別を誤魔化し、女のふりをしていて気持ち悪いからではなかった。


 彼がいなくなって、自分のことを自分でやらなければならなくなったからだった。


 ただ、それを彼のセイにしていただけだった。

 今迄は美蓮が親切でやってくれていただけだったのに。。。


 いや、それは違う。親切ではない。愛でやってくれていたのだ。


 小春にはわかる。何故なら小春も愛してしまったが故に、あの少年:成多照挙皇太子殿下 の世話を焼いたのだった 。


 ここで小春が普通の女の子と異なるのは、小春は、美蓮が恋に落ちた理由を、”あたしがこんなにも魅力的だから、普通の男だけでなく、美蓮のような女男まで虜にしてしまった。罪なあたし。”と思ってしまったことだった。


 こうなると、小春に鏡を見せても全く効果はない。

 小春は、美蓮までをも虜にしてしまった自分の魅力を恨めしく思った。


 そう、劉煌が隠れ蓑になっていたが、実は小春こそが生まれながらにして超のつく生粋のナルシストだったのだ。


 ~


 その日の午後、小春はいつものように山羊のメイを散歩に連れ出した。

 ところが、その日に限って、寺の門を出たとたん、何故かメイが狂ったように全速力であらぬ方向へ駆け出したではないか。


 足が短いせいで足の遅い小春は、だいぶ遅れてメイの名前を叫びながら走っていたが、ようやくメイに追いつくと、ゼーハーゼーハー息切れしながらメイに話しかける。


「まったく、メイったらどうしたの?こんなところまで走ってくるなんて。」


 メイがそれを聞いているのか聞いていないのかわからなかったが、メイは山羊らしからぬ甘えたような鼻声を出して、hmmヘェ~ンと言いながら、とある民家の戸の前で、戸をジッと見つめていた。


 小春は、メイに向かって「知らない人の家に行っちゃいけないってあれだけままに言われているじゃないのよ、さ、帰ろう」と言ってメイを抱っこすると、メイは民家の戸に向かって右前足を伸ばしながら悲しそうにメヘェ~ンメヘェ~ンと言ったが、無情にも小春はそれをガン無視して、その場から去って行った。


 強制的に抱かれて連れていかれながらも、メイはジッとその家を名残惜しそうにずっと見ていた。


 その家は、亀福寺の田んぼを隔てて反対側の端にあった。


 そして、それ以来、毎月1回、伏見村にギャーという絶叫が響く日に限って、メイは小春を無視して、亀福寺の田んぼを隔てて反対側の端にある家を目指して走り続けた。



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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