第六章 錬磨
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
それから数か月後、お陸と劉煌の姿は、武王府にあった。
二人は、実地訓練のファーストステージとして、中ノ国の現皇帝の叔父にあたる武王の住まい、武王府の下女として潜入した。
武王府は、中ノ国の京陵から30Kmほど西に離れたのどかな山間部にあるが、皇族であるので、その警備は厳重で、下女と言っても、皇宮の女官のように厳しい掟があった。この府の主である武王は60歳の壮年で、小さい頃からずっと平和で緊張感の無い暮らしをしていたからか、ぶよぶよの身体つきで、自身の体重が重すぎてもう一人ではしっかりと歩くことすらできなかった。
そんないつでも誰か側にいて、警備も厳重なところで、武王自身が肌身離さず彼の腰につけている玉佩を取って、それをお陸に見せた後、武王が気づかないうちに玉佩を元の場所に戻す。
それが、お陸から出た実戦を想定した訓練だった。
勿論、武王も誰も、劉煌がくノ一の実地訓練のためにここにいるとは知らないので、訓練とはいえ、見つかれば命は無い。
劉煌は、まず周囲が自分を信用するように心理的アプローチで周囲とよい人間関係を築くことから開始した。
劉煌の美しさに、女官長は当初良い顔をしなかったが、どんなにいじめられても劉煌は女官長に尻尾をふり、皆が嫌がる仕事でも二つ返事でニコニコしながら引き受け、京陵へのお使いも身銭を切って女官長にお土産を忘れなかったことから、三月もしないうちに劉煌はいつでもどこでも顔パスで府内を闊歩できるようになっていた。
結局潜入4か月で、劉煌は、見事お陸の課題をクリアした。
実のところ、劉煌にとってこの課題自体はさほど難しいものではなかった。
彼にとって一番高かったハードルは、何を隠そう自らを下女の一人称である”この奴隷”と言わなければならなかったことだった。
劉煌は、腐っても鯛ならぬ腐っても皇子なのである。
いったいどこの皇子が、自らをこの奴隷と言って自分よりも遥かに身分の低い女官達に頭をさげられようか。
ただ、劉煌は、普通の皇子と違って6歳から平民の子供たちと対等に付き合い、9歳からは他国の片田舎にある亀福寺の面々やお陸から鍛えられ、彼には身分の低い者に頭を下げることへの抵抗は全く無かった。
しかし、自分のことを、”この奴隷” と表現しなければならないことは、この劉煌をもってしても、筆舌に尽くせぬほど耐えがたいことだった。
そんな彼がどうやってこれを克服したのかというと、千年に一人の天才である彼は、ドレイという言葉の響きに似た衛語の男に使う名前Derekを当てはめ、自分はDerekとアファメーションをかけていき、ついに”この奴隷”ならぬ”このDerek”と言ってその場をしのぎ続けるのに成功したのだった。
武王は物理的な腹も出ていたが、礼金についても太っ腹で、給金はどこよりも高かったので、劉煌は、武王府の4か月の給金・礼金、今迄コツコツ貯めていた金と2年分のドクトル・コンスタンティヌスの通訳料を元手に、密かに伏見村の亀福寺とは田んぼを隔てて反対側の端にある小さな小屋を購入した。
それは、京陵より西乃国に近いということの他に、密かに、亀福寺の様子をみたり、ままの様子をみたり、柊の様子をみたり・・・小春をみたり、小春をみたり、小春をみたり・・・と言う理由もあったが、自分の身体のメンテナンスが必要になってきたこともあった。
というのも、16歳になった劉煌に襲い掛かったのは、思春期の身体の変化、体毛だった。
幸い、出羽島のエステティックサロンで美容家に今年も半月くっついていたことから、脱毛法にも詳しくなっていた劉煌は、その日、もうどうにも隠せなくなった腕の剛毛を見て、全身脱毛する決心をしたのだった。
未明に伏見村のマイ小屋に入った劉煌は、扉を固く締め、鍋を火にくべ、とりもちのような脱毛剤を作ってから仮眠した。早朝、紙の上に伸ばした脱毛剤をまず右脛につけ、しばらく置いてから紙を一気に毛の生えている向きと反対方向からビリッと剥いだ。
========テロップ:良い子の皆さんは真似しないでください。=========
「ギャアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」
天地をつんざくような悲鳴が伏見村中に響き渡った。
田んぼで田植えをしている村人たちがその絶叫に思わず手を止めて、声の方向に振り向く。それでも、さすがあの小春でさえ浮かない伏見村だけあって、村人達はすぐにまた何事もなかったかのように、田植えの続きを始めた。またしばらくすると、悲鳴があたりをこだました。そして3回目の悲鳴からは、もう悲鳴がまるで聞こえないかのように、村人たちは手も耳も休めることなく、黙々と田植えを続けていった。
2時間かけて両腕両脚と脇の脱毛を終えた劉煌は、息も絶え絶えになっていた。
劉煌は、いつも思っていた。
”女でいるのは、本とーーーーーーーーーーうに大変だと。”
でも、今日ほど女でいるのは、本当に大変だと思ったことはなかった。
出羽島で、美容家に指の脱毛をしてもらった時とは比べものにならないほど、今日の脱毛は痛かった。
しかも脱毛時だけではない。脱毛した後も肌がヒリヒリして痛いのである。劉煌の白い肌は、四肢だけが嘘のように真っ赤に腫れあがり、毛穴という毛穴にまるで意思があり、それらが全て怒り狂ったかのように頂点は白く周囲は赤黒く盛り上がっていた。
はっきり言って、お陸の課す修行よりも、女になるための身だしなみを整える方が100万倍,、血を吐くように辛かった。実際、手足の毛穴の少なくとも数十か所は本当に血を流していた。何しろ脱毛後2時間経っても、空気が対流するだけで皮膚に激しい痛みが生じるのだから、何かが直接少しでも触れようものなら、思わず絶叫するほど痛い。従って、着物すら着られないのだ。
自分の家で、扉が開かないようにつっかえ棒をつけて、ヒーヒー言いながら、全裸で大の字になって立ち続けている元皇太子:劉煌は、皮膚の灼熱地獄が治まるのを今か今かと、微動だにもできず一日千秋の想いで待っていた。
劉煌は、思った。これに耐えられたら何でもできると。
正直、今の劉煌にとって、何100万騎の兵力を持つ劉操との対峙よりも、自分の顔に髭が生えてきた時の脱毛の方がよっぽど恐怖だった。
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