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第五章 変幻

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 

 果たして、劉煌の予想通り、小銭入れやアクセサリー入れ等小物、そして柄紗布という首巻きに化けた端切れ達は、破格の値段であっという間に完売した。


 劉煌の隣で同じ時刻から店を広げていた八百屋のお兄ちゃんは、まだほとんど売れ残っている自分のブースを見て悔し紛れに言う。


「まったく、この世の中はどうなっちゃってるんだ。生きる糧となる食べ物は、とことん値切っておきながら、そんな生きるために必須ではない、無くても別段困ることのない物に言い値でどんどん金を出していくって。」


 劉煌もこのお兄ちゃんの言う通りだと思った。


 本当に人の価値観とは危ういものだ。


 人はお金を出して物を買っているように見えて、実は本人も気づかないうちに、夢にお金を支払っているのだ。


 今日劉煌は、念入りにまるですっぴんに見えるような難易度の高いメイクをし、花柄の淡いピンク色ベースの着物に淡いブルーシルバーの帯、着物と同じ花柄の淡いブルーの柄紗布を首に巻いて、ブースに立っていた。


 劉煌は、出羽島に行った時よりもさらに7cmも身長が高くなり、大人の男並みに背が高くなってしまったが、相変らず細身な上、当初小春が指摘した時よりも相対的に小顔度が上がり、立ち姿は完璧な8等身になっていた。しかも、元の顔立ちが美形な上にさらにメイク技術もプロ並みなため、その容姿は言葉にできないほど完璧に美しく、遠くからでも非常に目立った。


 特にその中でも劉煌の首は、くノ一の訓練のせいもあってか細長かったので、首に柄紗布を巻くとさらにその首の形の良さが目立ち、行きかう人が皆彼の方を振り返った。


 今日、劉煌のブースに訪れた人は皆、劉煌のその容姿に惹かれてやってきて、劉煌が着こなしたように自分達が柄紗布を着こなし、劉煌のような容姿で歩いている自分を想像して柄紗布を買っていったのだ。


 そして劉煌の巧みな話術でひとたびブースに入ってしまったら、柄紗布だけ購入するつもりだったのが、全て1点物の小銭入れ等小物にも目移りし、大抵の客は小物も一緒に買っていった。そのため、瞬く間に山のようにあった商品が完売してしまったのだった。


 劉煌は、早々にブースを畳むと、また呉服屋を回って端切れを回収し、山のような端切れを担いで亀福寺に帰っていった。


 亀福寺に戻ると、珍しく門の前で小春が待っていた。


 劉煌を見つけた小春は手を振りながら彼の方に走ってくると、

「美蓮、どうだった?売れた?売上は?」

 と矢継ぎ早に質問を投げかけた。


 劉煌は小春が待ってくれていたことが嬉しくて「うん。全部売れたよ。小春のおかげよ。」とつい小春を持ち上げるようなことを言ってしまった。


 そして二人で仲良く本堂に入ると、想像以上に早く帰ってきた上に、行きと同じ位大きな風呂敷を担いでいる劉煌を見て清聴と柊がとても心配そうな顔をした。


 劉煌は風呂敷を床にドサッと置くと、清聴と柊に向かって「大丈夫よ。30分で完売しちゃったわ。これはまた次の市で売る商品を作るための端切れ。また呉服屋で貰ってきたわ。」と言うと、座って売上を御本尊の前にお供えした。


 それを見た清聴は、思い出したように「そうだ。御本尊に御礼を言うんだよ。」と皆に向かっていうと、全員が御本尊の前に整列した。全員が御本尊の前で正座して恭しく御礼をしてから、徐に劉煌が売上を皆の前に広げると、清聴は普段皆に本堂で叫ぶのを禁止しているのをすっかり忘れて、御本尊の前にも関わらず、思わず「きゃー!」と叫んだ。


 それはそれはここしばらく見たことのない大金だった。


「美蓮、いったい幾らで売ったんだい。この悪徳商人!」

 清聴は目を丸くしてお金を数えながら、褒めているのかけなしているのかわからないことを言った。


 寺を出るタイムリミットが決まってから完全に金に関するスイッチが入った劉煌は、しれっと言う。


「こういうものは言い値なのよ。結局争奪戦になったから金額はどんどん釣り上がったわ。隣の八百屋のお兄さんが世の中おかしいって嘆いてた。」


 その劉煌の言葉を聞いているのか聞いていないのか、清聴は何度も頷きながらひたすらとてもとてもとても嬉しそうに金を数えていた。


 清聴が喜んでいるのが嬉しくて劉煌が「じゃあ皆で山分けしましょ♡」と言うやいなや、すかさず小春が横から入ってきて「私が分配するよ。」と言うと、明らかに均等でない分配を始めた。


 小春は山積みになった金の前に座って、金を1つずつ取って分配しては言う。

「はい、1つ小春、1つまま、1つ小春、1つ美蓮、1つ小春、1つ柊、1つ小春、1つまま、1つ小春・・・・・・」


 つまり、小春が3に対して後の3人が1ずつ.....


 すぐに柊が怒りだす。「どうして何もやっていない小春がお金を貰えるのよ。それどころか、何もやってないくせに一番お金取るってどういうこと?」


「いいんだよ、だって私はここの家の子だから。それに美蓮だって私のおかげだって言ってたもん。だいたい何よ。柊は年下のくせに生意気なのよ!」

 言われてもすぐ忘れるくせに、後になって都合よく使えると思うことに関しては必ず覚えている小春は、さっき劉煌に『小春のおかげ』と言われたことを正当な理由にしようとして持ち出した。


 このやり取りを見て清聴は眉をしかめて目を細めると、”小春は何もできないと思っていたけど、この金への異常な執着、堂々と相手を誤魔化す手口、屁理屈と逆ギレ、、、これならお座敷の女将はできそうだね。”と思うと、目の前に10年後、いたいけな幼い舞妓相手にチップを巻き上げて笑っている、ふてぶてしい自分の娘の姿が浮かんだ。


 清聴はその妄想を断ち切るかのように頭をブンブンふると、ふと何故劉煌が小春の言いがかりに異を唱えないのかと不思議になって横にいる彼をチラッと見た。


 すると、なんと劉煌は、微笑んでそんな小春を()()()()とした目で見ているではないか!?


 清聴は、ギョッとした。

 自分の実の子でも、なんてえげつない性格っ!と思うのに、()()()()とはどういうこと?


 ”ま、まさか、この子、小春が好きなんじゃっ!?”

 ”それはありえないだろう。これでも一応、皇子さまなんだし。”

 ”・・・・・・”


 そして清聴は劉煌がこの寺に来てからのことをフラッシュバックした。

 思い出せば思い出すほど、劉煌はやたら小春に甘かった。いやそれは違う。正確には、劉煌はやたら小春に()()甘かった。


 毎朝起こしてあげるし、歩けなければ担いであげる。

 小春を迎えに行く、送っていく、全て劉煌が率先してやっていた。

 小春ができない(正確にはやらない)ことは、全部劉煌が代わりにやっていた。

 そして、ついこの間も寝てしまった小春を優しく担いで部屋に連れて行ったのは、紛れもなく劉煌だった。


 ずっと小春をうっとり見ている劉煌に、雪の女王さえも敵わないほど冷ややかな視線を送ると、清聴は


「美蓮、あんた、これでいいの?おかしいでしょ。小春は何もやっていないのにお金だけせしめようなんて。私が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()けどね。」


と皇帝の部分を強調してバシッと言い、劉煌の白昼夢をバサッと断ち切った。


 劉煌は皇帝という言葉にハッと我に返ると、すぐに小春と柊の間に入って全額を均等に三等分にし、清聴と柊に1/3ずつ渡し、自分の取り分1/3の半分を小春に渡すと言った。


「小春、今日はこれを私からお小遣いとしてあげるけど、次回はちゃんと一緒に働かないと報酬はあげられない。」

「みれぇ~ん!」


 小春が甘えた声を出して劉煌を操ろうとしたが、彼の中の千年以上に渡って受け継がれてきた皇帝直系のDNAが動き出した劉煌には、小春のおねだりも全く効果が無かった。劉煌は、毅然とした態度で続ける。


「ダメよ。何故なら、お金を分けているのは、()()()()()()()()だから。労働していないのに報酬はあげられない。逆の立場だったら小春はどう思う?柊が寝ていて、小春が縫ったのに柊にお金を上げる?」


「ううう。。。もう、美蓮なんか、知らない。大っ嫌い!」

 ぐうの音も出ないことに気づいた小春は逆ギレしてそう言うと、貰った小遣いを振り上げて床にぶちまけようとしたが、そうすると自分のお金が無くなるとすぐに思い直し、捨て台詞だけ吐いてお金を大事に抱えながら走ってはいけない本堂を走り抜けて部屋に戻っていった。


 そんな小春を劉煌が悲しそうな顔をして見送っていたのを、清聴は見逃さず劉煌に向かって言った。

「美蓮、ちょっとままの部屋に来てくれる?頼みたいことがあるんだ。」


 清聴は部屋に入るまで1歩後ろを歩く劉煌を完全に無視していた。

 そして彼女は劉煌を部屋に入れると、扉を閉めるように彼に言った。


 次に清聴は、机の前に座ると彼女の前に劉煌に座るよう手で指図した。


 しばらくして重い口を開くと、劉煌の目を見て清聴は冷ややかに言った。

「あんた、何考えているんだい。」

 清聴の様子の変化についていけず、何がなんだかわからない劉煌は困惑して言う。

「何って?」


「言っておくけど、小春をあんたには絶対やらないよ。」


 劉煌は、ハッとして清聴を見つめると、その美しい顔を歪めて、しばらくしてから悲痛な声で一言だけ言った。


「どうして?」


「あたしはあんたの命の恩人だよ。それだけで十分だろう。それとも何かい?さらにあたしに要求するってのかい?図々しいにも程があるってもんだよ。」

「だって、この前ままは、小春の将来を心配してたじゃない。僕が一生小春の面倒を見るか・・・」

 清聴は益々焦り、自分が僧侶であることをすっかり忘れて大きな雷を落とした。

「ふざけるんじゃないよ!あんた、自分の面倒だって見られないくせに、あたしの娘の面倒をみるなんて、どの口で言えるんだよ。」

「そんなことない。金だってちゃんと稼げるし。」

「あたしは、あんたは誰なのかいって言ってるんだよ。逃亡者の身であたしの娘を巻き込む気かい?何言ってんだよ!」

「今はそうかもしれないけれど、いずれ国を取り返して......」

「何夢物語言ってんだよ!あんた一人で、何百万の軍隊の長を倒せるわけないだろう?まだそんなバカなこと考えているんだったら、うちには置いておけない。もう15なんだし、さっさと出て行っておくれ。」

「まま!」

「金だってちゃんと稼いでいるって言ってたじゃないか。自分の面倒も見られるんだろう?それなら何でここにいさせる必要があるんだい。さ、出て行っておくれ。いいかい、1週間以内に出ていくんだよ。話はそれだけだ。」

 そう言うと、清聴は立ち上がって劉煌の腕を掴むと、彼を立ち上がらせ「上に隠してある物取って、出て行っておくれ。」と言って、荒荒しく彼から手を放すと両腕を胸の前で組みながら彼にくるっと背を向けた。


 劉煌は、しばらくそこで両手を拳にして横にぴたっとつけてジッと立っていたが、一つ大きな呼吸をすると、スッと飛び上がって、屋根裏から彼の荷物を取ってまた音もたてずに部屋に降りた。

 劉煌は、化粧をした女の子の恰好のままで、清聴の背中に向かってこう言った。


「清聴殿、助けていただいたご恩、この劉煌は決して忘れない。今迄本当にありがとう。いつか必ず恩返しする。そして、もう一つ、いつか必ず国を取り返し、小春を迎えに来る。その時は、清聴殿も一緒に私の国に来てほしい。皇后の生母として、私の恩人として手厚くおもてなしする。」


 そして、彼は、静かに扉を開けて廊下に出ると、そのまま自室に向かって胸を張って歩いていった。


 一人部屋に残された清聴は、しばらくそのまま立っていたが、やおら部屋の扉迄やってきて扉を閉めると、そのまま膝から床に落ちた。清聴はボーっとしながら、ハラハラと涙をこぼした。そして、その涙は決して収まることなく、むしろどんどんと勢いをまして、しまいにはうーうー唸りながら泣き崩れた。


 ”神様はどうしてあたしにこんなに残酷なんだい。あたしが神ではなくて仏を信仰しているからなのかい。何でこんな酷い仕打ちをあたしにするんだい。”


 ~


「小春、まだ怒ってる?」

 劉煌は清聴と話が決裂した後、小春の部屋の前まで来て、扉をノックしてからこう聞いた。


 小春は、自室で金を数えていたが、途中で声をかけられたためよくわからなくなってしまい、むしゃくしゃしながら部屋の扉を開けに立ち上がった。


「怒ってない。大っ嫌いなだけ。」

 小春はそう言うと、扉を開けっ放しのまま、また机に戻って金を数え始めた。


 劉煌は優しく言う。

「そんなにお金が欲しいのは、何か買いたい物でもあるの?」


 小春は間髪入れずに「うん、殿下の姿絵。」と言った。


 劉煌は、すっかり自分がもう殿下と呼ばれる身分ではなくなっていることを忘れて、自分の姿絵を売っているのかと愕然とすると「だ、誰の姿絵だって?」と慌てて聞き返した。


 小春はまた途中で幾ら迄数えたかわからなくなると「あああ、もー、成多照挙皇太子殿下に決まってるじゃない!」と言って、また1から数え始めた。


 劉煌は、さっきとはまた別の意味で愕然とすると「なんで。」と消え入りそうな声で聞いた。


「あーん、もう邪魔しないでよ。10銭あるか数えているのに、何か言われたらわからなくなっちゃうよ。」と小春は机に向かいながら癇癪を起こした。


「10銭は余裕であるわよ。それより何でそんなもの欲しいのよ。」

 劉煌のマルチリンガルで2000年先の科学を理解できる天才的な頭脳は、何故か小春の前で完全に機能停止し、何故小春が成多照挙の姿絵を買いたいのか全くわからず、思わずそう聞いてしまった。


 しかし、9歳で叔父に裏切られ、父母を亡くし、帰る国を失い、いつか小春を皇后にし凱旋帰国する夢だけを糧に、その後、女になりーの、お陸にばかにされ続けーの、危ない目にあいーの、ありとあらゆる苦労を乗り越えてきた劉煌に、無常にも小春はこう言い放った。


「照挙殿下が好きだから。」


 これに、劉煌の千年に一人と言われた天才的な頭脳は、ようやく完全に事態を理解すると、彼は血相を変えて机をバンと一発掌で叩き


「なんで、そいつなのよ!」


 と叫んだ。


 劉煌が机を叩いた拍子に宙を舞った小銭をキャッチしながら小春は、答えた。

「決まってるじゃない。女の子はみんな皇子様に憧れるのよ。美蓮だってそうでしょ?最も美蓮は皇子様より年上だから、見込みは無いけど。」


 劉煌の頭脳は、また小春の言うことが理解できず彼はパニックになった。

 ”僕だって正真正銘の皇子様なんだけど!”

 ”それに、見込みって何?いったいどういうこと?”

「小春、何を言っているのかさっぱりわからないんだけど。」


「別に美蓮がわからなくたっていいことよ。私は皇子様が好きなの。彼と結婚したいの。」

「・・・・・・」


 劉煌は、そこで仁王立ちしたまま黙って固まったまま小春を凝視した。

 小春は、劉煌が黙っていてくれたおかげでお金を全部数え終えると、「大きな壁掛けの姿絵だけじゃなくて、姿絵の入った扇子も買えそうだ!」と嬉しそうに叫んだ。


 そしてやおら小高美蓮(劉煌)を見ると、美蓮は何故かとても悲しそうな顔をしていた。小春はちょっと心配になって、聞いた。

「美蓮、どうしたの?」


 劉煌は今度は小春の目をジッと見つめると、

「寺を出ることになった。」と言った。


 突然のことで小春は素っ頓狂な顔をしていると、劉煌は続けて静かに諭すように説明した。

「僕が男であることがままにばれたんだ。男が男子禁制の尼寺に居たら、ままの立場が無いだろう。だからすぐ寺を出る。」


 今度は小春はその小さな目を切れんばかりに大きく見開いて、やっと「な、な、、、お、、、男?」と呟いた。


 劉煌は意を決して告白した。

「そうだよ。そしていつか必ず小春を迎えに来る。その時が来たら僕と結婚してほしい。君が憧れる皇后にするから。」


 小春は美蓮が男だったということだけで、もう脳がショートしかかっていたのに、彼女・・・じゃない、彼と結婚してほしいと言われた時には完全に脳がショートし、『君が憧れる皇后にする』 と言う部分については、全く聞こえていなかった。


 小春は全身に悪寒を感じると、両手で耳を塞ぎ

「やめてやめてやめて。気持ち悪い。この女男!さっさと出て行ってよ。二度と顔も見たくない。二度と私に近づかないで。」

と言うと、今度はサッと帯からパチンコを取り出して、こともあろうに劉煌めがけて焦点を定め始めた。


 小春にパチンコを教えその能力を知っている劉煌は、小春が片目をつぶって自分に狙いを定めているのを見るや否や、わああ~と叫びながら慌てて部屋から飛び出して逃げた。


 劉煌は、自分が6年暮らした自室まで走って逃げこむとすぐに扉をピシャリと閉めた。

 そして、そのまま扉の内側でヘナヘナと座り込むと、それと同じように心もヘナヘナとどん底まで落ちていった。


 劉煌は、最愛の初恋の人:小春に拒絶されたのである。


 劉煌の生まれてからの9年間、すなわち皇子として生きてきた人生では、他人に拒絶されるということは一つもなく、いつも自信に溢れ堂々と生きていた。

 しかし、難を逃れてここで暮らすようになってからは、自分のアイデンティティが崩壊することの連続だった。そして、また今日一つ、彼の夢が砕け散った。


 劉煌は思った。


 “僕だって皇子なのに......”


 劉煌は、ため息をつきながら、清聴の部屋の屋根裏から6年ぶりに回収してきた、劉煌の父が生前彼に手渡した聖旨を手に取って広げてみた。


 それには、父の字で、『朕の第一皇子である皇太子劉煌に譲位する。劉献』とあった。


 当時の西乃国の聖旨は、宦官に代読させる為か、はたまた本文の修飾子が長いからか、両手を広げて持たなければならないほど大きかったが、父が劉煌に渡したこの聖旨は、何故か懐に入るコンパクトサイズで、ただ表装が目を見張るほど立派なことが、これが単なる巻物ではないことを物語っていた。最も、通常のサイズであれば、劉煌が常に携帯できないわけで、幸か不幸かこのサイズであったからこそ劉煌と共に追手から逃れることができたのだ。


 劉煌は聖旨の軸棒を左手で持って広げていたのだが、その時、ふと、軸棒に違和感を感じた。


 父から手渡された当時には感じなかった何かを、くノ一修行を行ってきたせいか今の劉煌は察知すると、やはり当時の自分では絶対にやらなかったことを始めた。


 なんと、劉煌は、こともあろうに、聖旨の解体を始めたのである。


 彼は器用に父の字が書いてある絹本を、一つの傷もなく剥がすのに成功すると、その下からなんとおびただしい数の漢字で一面ぎっしり埋め尽くされている紙が現れてきたではないか。しかも、それは一文一文、文章にはなっているものの、全体ではまったく何を意味しているのかわからないものだった。


 このような場所に、明らかに隠されているものであるから、恐らく暗号で書かれているのであろうと思った劉煌は、それを一文字残らず全く同じ間隔で写すと、コピーを畳んで懐にしまった。そして、原本を透かして見たり、水にさらしたり、火であぶったりしてみた。が、特に何かわかることはなかった。次に劉煌は、一番違和感を感じた軸棒を天地から外すと、それを蝋燭の火に透かして見た。すると軸棒の真ん中に、わずかなひびがあることを見つけ、すぐに自分の髪につけていた簪をすっと外すと、その軸棒のひびのところを、簪の薄く平ぺったい先を使ってこじ開けてみた。


 すると、まったく予想だにしていないことに、中からおよそ3寸ほどの大きさの小さな青い石の観音像がポンと顕れてきたではないか。


()()()()…」

 彼は目を見張りながら、その観音像を震える手に持って、そう呟いた。


 劉煌はこの観音像を見た瞬間に、彼が3歳の時から、皇帝である父から言われ続けてきたことを思い出した。


 ”これが見つかったからには、もうグズグズしておれない!”


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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