第五章 変幻
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
それから2日後の夕方、亀福寺に戻った劉煌が目にしたのは、この寺では普段目にしないご馳走の山だった。
劉煌が狐につままれた顔をしていると、小春が、劉煌がいない間に夏朮と秋梨が名家の下女になることが決まったのだと言う。
中ノ国では、男は20歳、女は15歳になったら成人で、庶民は大抵蓄えが無いので、特に女の子はその年になったら家を出されることが多い。清聴は、夏朮が14歳の2年前から彼女の奉公先を探していたが、良いところが無く、このあたりでは珍しく16歳になっても、まだ寺にいたのだった。
清聴は「とにかく良かったよ。これで夏朮も秋梨も名家で真面目に奉公すれば、それなりのところに嫁げるってもんだよ。やっと私の肩の荷も半分降りたって感じかね。」と言うと、秋梨がご馳走を箸でつまみながら、「まま、来年は美蓮が15だよ。来年になったら、美蓮も私たちと同じ京陵の御屋敷に奉公するの?」と聞いた。
清聴は、とにかくやっとこさ上二人の行先が決まったことで安心してしまい、すっかり劉煌の年齢が飛んでいたことに気づいた。いや、正確には、子供たちに劉煌の性別を誤魔化していることを思い出した。
”そうだった。女の子の設定だから、リミットは20でなくて15だった。でもここだからなんとか男だってバレないで済んだけど、他だとそうもいくまいし......”
本当は、心の中で無茶苦茶動揺していた清聴だったが、そのことをおくびにも出さず言う。「あんたたちのお屋敷はもうダメだよ。何とか一生懸命お願いして一人のところを二人いさせてもらえることになったんだから。夏朮だって御奉公先見つかるまで2年かかったんだから、景気も悪いし、今から探し始めても2年はかかるよ。ごめんね、美蓮。まま、すっかり美蓮のことが飛んでたよ。」
これを聞いた劉煌は、2年以内に自分の去就を決めなければならないと悟った。
そうでなくてもこの1年で劉煌の身長は10cmも伸び、今ではこの寺どころか、村の中で1番背が高い”女”になってしまった。ただ、肉体を酷使しているのにも関わらず、粗食のせいか、着こなしがうまいのか、一見華奢な身体つきに見え、顔を見ても身体を見ても誰も彼が女ではないとは露にも思わなかった。いや、それは正しくない。彼の顔も身体も決して女っぽくはなかった。ただ仕草、立ち居振る舞い、そしてなにより雰囲気がとても柔らかく、女っぽさが自然だったので、正確には、皆、彼の顔や身体つきが女っぽくないことに気づかなかっただけだったのだ。
しかし、これからは、そうはいかない。
これから1,2年以内に変声期に入るだろうし、その後はすね毛も生え、益々身体つきが男らしくなり、ごまかしが効きにくくなるだろう。
確かに、女の中で女のふりをして暮らすのはここ数年が限界だ。
だから、他の子のように、他家で女中奉公など、もってのほかで、本当の意味で独り立ちが必要だった。
しかし、寺を出ても住む家の当てもない。
何とか16までには、せめて住む家の当たりくらいつけておかなければならない。
劉煌が、寺を後にすることを今迄考えもしなかったのは、何を隠そう、ただ一つ、小春と離れ離れで暮らしたくないからだった。
この寺に来て、何度か表向き”清聴のお使い”、本当のところはくノ一修行等で寺に戻らない日があったが、半月という長い期間帰らなかったのは今回が初めてだった。
この半月は、素晴らしい出会いや学びもあったが、夜、床に入るといつも小春のことが気になった。
ご飯はちゃんと食べたか、、、
ちゃんと眠れているか、、、
そう心配しては、小春のことだから、
ちゃんと食べて、ちゃんと寝ていると
自ら結論付けて、自分自身でどうしてこんなしょうもないことを、毎晩思わず心配してしまうのだろうと思っていた。
それを考えると、劉煌の心はどんどんと悲しみという名の湖に沈んでいった。
劉煌は、ご馳走に箸を進めながらも、考えれば考えるほど、口の中に入れた食べ物が灰に変わったようにしか感じられなくなった。
「まま、みんな、ごめんなさい。旅の疲れが出てきたみたいだから先に失礼するわ。」
そう言うと、劉煌は自分の御膳を持って土間に引き下がった。
自室に戻って扉を後手で閉めた劉煌は、蝋燭に火を灯すと、半月ぶりに自室の臭いを嗅いだ。半月誰もいなかったからか、そこは、少し埃とカビの臭いがした。すると、彼の脳の奥深くにある大脳辺縁系が刺激され、初めてこの部屋に一人で寝た晩のことがありありと浮かんできた。
”西乃国はいったいどうなっているのであろうか?”
あの時、最初に思ったことだった。
あの頃は、噂でしかわからなかったことだったが、5年後の現在、お陸との道中で西乃国の状況をこの目でしっかり見ることができた。
今回の旅は、京安の城内にこそ入ってはいないが、中ノ国の関所を抜けてから京安までの西乃国の道は、劉煌が5年前まで4年間毎年3か国の祭典のために往来した道と同じであった。
劉煌はその道を通って、懐かしいと思う以前に、あまりの自分の知っていた所との違いに、愕然とした。
西乃国は、荒れていた。
至る所に物乞いがいて、至る所に誰も買いたいと思えないような春を売る女がいた。
かつて毎年馬車の横から見ていた景色は、まるで黄金のじゅうたんを敷き詰めたかのような豊かな田園風景で、劉煌は、毎年ここを通る度「わー、凄い!」と言わずにはおれなかったほどだった。それなのに、今回見た同じ場所は、まばらの稲で、あの一面見渡す限りの豊かな実りはどこにも見当たらなかった。忍者修行でもうすっかり土と仲良くなっていた劉煌には、昔ほど、この土地に人の手が行き届いていないということが一目でわかった。
目的地に到着するまで、西乃国の数か所の都市を経由したが、どこもかしこも活気がなく、唯一活気があったのは、目的地の出羽島だけだった。
何故かここだけは、物が溢れ、綺麗な着物を着た人が溢れ、豊かさがあった。最も、皇太子時代に彼は西乃国の中で出羽島だけは行ったことが無かったので、以前と比較して更に活気づいているかどうかはわからなかったが。
”京安なら以前と比較しやすいのはわかっているが......京安入りは命取りになりかねない......”
そう思いながら14歳の劉煌は、布団を敷いてそこに横になると、長旅の疲れもあってすぐにスースーと寝息を立てた。
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