第五章 変幻
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
2週間後、デモ手術した時と同じ場所同じ面子で、お陸の包帯を取る時がやってきた。
ドクトル・コンスタンティヌスは高い鼻をさらに高くして、
「ドラマティックになるよう、顔は最後に外そう。」
と言うと、もったいつけながら足から包帯をほどきはじめた。
「因みに今回は忘れていたけれど、陰部も整形できる。我が祖国では熟女に人気のメニューだ。」
そう言いながら、どんどん包帯をほどいて行った。
腰部は包帯は取ったがすぐにまた手術後につけたコルセットのような物をつけて、言う。
「年齢的に腰が曲がりやすいから、このような物で強制的に真直ぐな癖をつけ続けることをお薦めする。因みにこれも私の発明品で、スーパーモデル養成ギプスという。」
そして、また続きの包帯を胸の上までほどくと、ギャラリーから「おおお」と言う驚きの声が上がった。劉煌に至っては、全身包帯で巻いていたので、お陸と別人をすり替えたのではないかと思ったくらいだった。
「胸部修正術は我が祖国では熟女に限らず、あらゆる層の女性に特別人気のあるメニューだ。どうだ。まるで20代前半のような胸だろう?」
ドクトル・コンスタンティヌスは自画自賛して言った。
そして、ついに顔の包帯を外した時、5年弱ほぼ毎日お陸を見続けてきた劉煌は確信した。
”騙された!これは奇術というやつだ。僕が見ていない時に、お陸さんと20歳位の女の子とをすり替えたんだ。”
ところが、その別人だと自分が断定した相手が、口を開いた途端、別人ではなく本人だと気づいた劉煌は、そのお陸のあまりの変貌ぶりに仰天して、思わず自分が通訳であることを忘れ、「おー まい がぁ~!!!!!!!!」と叫んでしまった。
それを聞いたドクトル・コンスタンティヌスは、劉煌の驚愕を誤解して酷く残念そうに言う。
「容姿は別人級に変身させられるが、声を変えることは、まだ私の技術ではできない。無念である。でもいつかきっと声まで美容整形できるようにしたいと思っている。」
女である設定が外れて、口を閉じることを忘れてお陸を驚愕のまなざしで見つめている劉煌に向かって、お陸はため息をついて言う。
「お嬢ちゃん、どこのお嬢ちゃんがそんなはしたない顔してんだい。サッサと口閉じな。」
劉煌は、自分の掌を使って顎を押さえることで口を閉じると、何も言わずにお陸に手鏡を渡した。
鏡に映った自分の顔を見たお陸は、手であちこち自分の顔を触ると、次に胸を見、手足を見た。
「わーい!絶世の美女に戻った!」
突然お陸はそう叫ぶと、ルンルンしながら手術台から飛び降り、劉煌が持参していた着物を着始めた。
「あーん、こんな婆ちゃん服じゃ、あたしの魅力が台無しだよ。さっそく呉服屋行って娘用の着物を買わなくっちゃっ♡」
聴講生と劉煌が、あまりのお陸の姿の変化に狐につままれたように固まっていると、全く似合わなくなった婆ちゃん服を着たお陸が、ドクトル・コンスタンティヌスの手を取って言う。
「ホント、あんた、ありがとね。本当に絶世の美女に戻してくれて。」
お陸はすぐに劉煌の方を振り返ったが、劉煌は通訳をすっかり忘れて呆然自失としていた。
それを見てお陸は顔をしかめると、劉煌の側迄行ってから、彼の後頭部をパシッと下から上にはねた。
それでようやく我に返った劉煌は、呆けた顔をしてお陸を見た。
お陸は、しょうがないねという顔をしながら劉煌に言う。
「はやく通訳しとくれよ。絶世の美女に戻してくれてありがとうってさ。」
劉煌は、あっと言ってからそれを羅天語に訳し始めたが、言っている最中で、突然止まると、お陸に向かって「戻してくれて?」と眉をしかめて聞いた。
「そうだよ。元はこういう顔だったんだ。」
まことしやかにお陸はそう言って、涼しい顔をした。
劉煌は、顔をますますしかめながら、お陸の言ったことを最初から正確に訳してドクトル・コンスタンティヌスに伝えたが、最後に「彼女は元はこういう顔だったと主張しているが、本当か?」と自分の疑問も加えて伝えた。
それを聞いたコンスタンティヌスは大笑いをしながら答えた。
「リク嬢がそう主張されるのであれば、そうなのでしょう。古今東西、人は他人から見て美しいと言われたがるのに、美容整形をしたことは認めたがらないものなんです。みんなまるで申し合わせたように同じことを言います。どこも変えていないってね。」
「ドクトル・コンスタンティヌス。あなたはそれでいいのですか?」
「いいも、何も、それはクライエントの顔であって、私の顔ではないから。」
劉煌は、ドクトル・コンスタンティヌスを不思議そうに見上げて聞いた。
「ドクトル・コンスタンティヌス、あなたは何故、あなたのその素晴らしい技術をもっと世に主張しないのですか?正直申し上げて、あなたの医術は、私の知っている医術を遥かに越えていた。西域ではここ数年で医術が目まぐるしく進歩したのでしょうか。」
ドクトル・コンスタンティヌスは苦笑いしながら答えにくそうにこう答えた。
「ミレン嬢。教科書に書かれている医術はこの数十年殆ど変化がない。何故なら、、、それは、、、その、、、権威が書いているからだ。権威と言われる人は年寄りだ。年寄りは古今東西、権威であろうがなかろうが新しい事にはついていけないものなんだ。」
それでも劉煌は、ドクトル・コンスタンティヌスの表情から解せない何かを感じ、彼に食い下がった。
「でも、ドクトル・コンスタンティヌス、あなたの技術を持ってしたら、教科書の内容では治せないものも治せるし、救えない命でも救えるでしょ?それに、年寄りは新しい事にはついていけないっておっしゃるけれど、リク嬢を見てよ。はっきり言って、私より新しい事に挑戦するわよ。」
ドクトル・コンスタンティヌスは、彼らしくなくしばし俯いて黙っていたが、やおら顔をあげると何とも形容しがたい憂いを帯びた表情で劉煌を見つめた。
「一般的に、主流ではないことを人が受け入れるのは、簡単な事ではないのだよ。残念ながら、皆あなた達のように柔軟ではないのだ、ミレン嬢。特に地位や名誉がある人ほど、自分の地位を揺るがすようなものは受け入れがたいのだ。面子って奴だ。」
「・・・・・・」劉煌はこれを聞いて、思い出さないよう5年前のあの日に封印した皇宮の記憶が蘇ってきた。そうだった。皇宮の中では、いつでもどこでも心理戦だった。
先ほどのお陸の包帯を取っていった時とは全く異なり、非常に悲しそうな顔をしながらドクトル・コンスタンティヌスは重い口を開いた。
「ミレン嬢。これは今になって始まったことではない。人間とは元来そういう者なのだ。君は太陽が地球の周りを回っているのではなく、太陽の周りを地球が回っていることは知っているだろう?」
「当然よ。数年前にそれで大騒ぎになったわ。」
「そうだ。でも2000年前に、すでに地動説を唱えた人がいたのは知っていたか?」
「知らない。」
「では、アリストテレ~スは知っているか?」
「常識よ。西域一の学者、万学の祖。」
ドクトル・コンスタンティヌスは悲痛な面持ちで続けた。
「アリストテレ~スが権威だったため、ある天文学者が唱えた地動説は却下された。実際、科学的にはその天文学者が正しかった訳だが、人々は権威の主張こそ正しいと考えた為、天文学は、発展が2000年も遅れた。」
「・・・・・・」
「私が生きられたとしてもせいぜいあと数十年だ。それなのに他の人に合わせて2000年も待ってろというのか?冗談じゃない。だから、私は権威らとは一線を画しているのだ。私の目の前には目に見える結果がある。クレームも1件もない。それどころか、受けた人はみんなリク嬢と同じようなリアクションをする。それを見ても、権威が私が間違っていると言うのなら勝手に言わせておけばいい。あの天文学者のように私が主張するには、膨大なエネルギーも時間も必要で、そんなことしている暇があったら、私はもっと医療機器の改良や発明にその時間とエネルギーを当てたい。ただそれだけだ。」
劉煌は千年に一人と言われた天才だった。
しかし、劉煌はドクトル・コンスタンティヌスこそ千年に一人、いやそれどころか万年に一人、、、それが褒めすぎだとしたら、少なくとも2000年に一人の天才なのだとこれで確信した。
もし西乃国に政変が無く、叔父が皇帝になっていなければ、
劉煌は、こんなところで通訳など絶対にしているはずはない訳で、
ドクトル・コンスタンティヌスとも勿論出会えるはずが無かった訳で、
そう考えると、良い悪いは別として、人生というものは、本当に何がどう転がるのか、全くわからないものだ...と劉煌は痛感した。
”これもまた天意か...”
そして、彼はこの類まれなる医師コンスタンティヌスとの出会いに、心から感謝した。
「ドクトル・コンスタンティヌス、来年のことなんだけど、報酬はいいから、その代わりに私にあなたの医術を1から教えていただけないかしら。」
自分でも気づかないうちに、劉煌はそうドクトル・コンスタンティヌスに懇願していた。
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