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第一章 縁

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 ある日、皇帝は、いつものように秘密基地に行こうとしていた劉煌を呼び止めた。


 9歳になって半年絶った現在の劉煌は、皇帝の願い通り、頭脳やアスレチックに秀でるだけでなく、心の優しい、慈悲深い少年に成長していた。


 そう、劉煌はいわゆる究極の三高、完璧という言葉を体現した皇子の中の皇子、天子として人民を支配するに相応しい人物に育っていたのだった。


 皇帝の呼び声に従順に、素早く、しかしながら、宮廷の規則通り走らずにすぐに皇帝の目の前に来てお辞儀した劉煌に、皇帝は懐から聖旨だと言って、小さな巻物を取り出して劉煌に見せた。


 劉煌は、すぐに皇帝の前で跪くと、皇帝は珍しく宦官を介さず聖旨を読みあげることなく自ら劉煌に手渡した。劉煌は、膝まづいたまま聖旨を受け取ったが、どうしたらよいのかと困惑し、顔をあげ父である皇帝を見つめた。


 皇帝は、それに目を細め「読んでごらん。」とだけ言った。


 劉煌は、大きさといい手段といい、何もかもが通常とは異なる聖旨を、これまた通常とは異なる紐の結びをほどいて、聖旨=巻物を広げた。そして、その内容を読んで、これでもかというほど目を大きく見開いた。


 その聖旨には、ただ皇帝の座を皇太子である劉煌に譲るとだけ書かれていたのだ。


 外観からは到底聖旨には見えないこの巻物だが、中に押されている玉璽(ぎょくじ)と皇帝の署名が、これが紛れもなく本物の聖旨であることを物語っていた。


「陛下、これはいったいどういうことですか?」劉煌が青ざめて聞くと、

「朕はもう長くない。」とあっさりと皇帝が答えた。


 それを聞いた劉煌は、大いに慌てて持っている物が非通常版であっても聖旨であるのに、そのことをすっかり忘れて、それを鷲掴みにすると、


「陛下、お薬が効いていなかったのですか?すぐに御典医を呼びましょう。」


と言いながら父の腕をとろうとした。


 皇帝はそれをたしなめるような手つきで、「ほれほれ私の息子よ、聖旨の畳み方を忘れたのかい?」と言って、劉煌の手中にある聖旨を取り、それを丁寧に丁寧に巻くと、掌にすっぽり入るほどに小さくなった聖旨を劉煌の懐の中に収めた。


 劉煌の聖旨の入って少し膨らんだ懐を、彼の大きな手でパンパンと叩くと、「朕に何があっても大丈夫なように、これを肌身離さず持っていなさい。」と言った。


 そして、完全に気が動転して「ともかく御典医に。。。」という息子に、


「劉煌よ、人間には寿命というものがあるのだ。それは天子であっても免れることはできぬ。」


と告げると、劉煌の頬に手を置き、彼に向かって悲しそうに微笑んだ。


 すると劉煌の父親譲りの大きな目には、涙がいっぱい溜まっていき、それが溢れて大粒の涙が1粒ツーっと頬を伝った。やれやれと思いながらも皇帝は、「長くはないと言っても、数日でということではない。まだまだ1年は余裕でいけそうじゃ。ただ、お前の結婚式には無理だぞということだ。」と言うと、劉煌の頭をなでた。


 そして、「そうじゃ。1週間後の中ノ国の祭典は、朕はもう長旅は疲れて、ますます寿命が縮まるだけだから、今年はお前一人で行ってきておくれ。ただ一人で行くとは言え、くれぐれも妙な気は起こさないでくれよ。あれは今迄どおりそのままにしておくのだ。よいな。」と何か思いついたようにそう言った。


 劉煌は、それが何のことであるかわかっていたが、とにかく父の大事が一番であることから、「御意。陛下の名代として、私が、中ノ国に参ります。でもそれはそれ、これはこれ。今すぐ御典医を呼びましょう。」と言うと、時折咳き込みながら苦笑する皇帝の手を取り、遠巻きにしている宦官に向かって合図した。


 その頃、秘密基地では、李亮がどこで手に入れたのか、たばこに焚火の火をつけてスパスパと吸っていた。


「太子、遅いねぇ。」と梁途が言うと、袂から出した包みから饅頭を出し、孔羽は皆に一つずつ配りながら呟いた。

「もう僕たちとは遊ばないんじゃないか。なんてったって皇太子殿下だから。」


 最後に、一番年下で紅一点の白凛に孔羽が饅頭を差し出すと、彼女は両腕を胸の前で組み、フンと横を向いて、彼を無視した。


 それを眺めていた、右手の指にタバコを挟んで、左手で饅頭を持って食べ始めていた李亮が、「お凛ちゃんは、太子の金魚のフンだからな。一人だと、ろくろく饅頭1つ喰うこともできねえ。」と言って、いつものように彼女をからかった。


 これまたいつもの通り白凛は、李亮に向かって思いっきり”いーだ!”という顔をしてから、「私が太子兄ちゃんの金魚のフンだったら、どうして金魚がきていないのよ!馬鹿じゃない。」と叫び、今度は孔羽に向かって「太子兄ちゃんは約束は破らないわ。きっと何か事情があるのよ。」と、ムキになってかばった。


 結局彼女以外の全員が饅頭を食べ終わった頃に、ザッザッと秘密基地に迫る馬の足音が聞こえてきた。4人が慌てて音の方を振り向くと、劉煌がゼイゼイと息せき切って馬を走らせていた。


「ごめん、ごめん。遅くなった。皇帝陛下に呼び止められてしまって。」


 馬から飛び降りて息を切らせながら両膝に手を置いて、身体をくの字に屈め、肩で息をしながら劉煌が皆に謝ると、白凛は、ほらご覧というような顔をして、李亮らを見上げた。


 それを見た李亮は、彼女から目を逸らして上を見ながら「で、陛下がお前に何のようだったんだ。」としらばっくれて聞くと、劉煌は、辺りを右左もう一度右と見回すと懐から布の巻物を出して、「みんな、もっと近くに寄って。もっと、もっと。」と言った。


 円陣になった全員の頭が触れんばかりの距離になった時、劉煌は1回咳払いをすると、徐にその布の巻物を広げた。


 すぐに李亮がゴクリと唾を飲み込んで、切れ長の細い目を大きく見開くと、劉煌を凝視した。

 孔羽は口をあんぐりと開けて腰を抜かし、梁途はわかっているのかわかっていないのかわからない顔をしたまま、そこに立ちすくんだ。

 白凛は、一文字一文字小さな声で読んでいたが、途中で「えっ?」と言って止まってしまった。


 劉煌は、「聖旨が出た。父が崩御したら…」というと顔を凄く曇らせながら、「父が崩御したら、直ちに帝位につかねばならない。今すぐという話ではないが、もしその時が来たら、残念だけどもう今迄のように、ここには来れない。」と下を向いてボソッと言った。


 しばらく続いた沈黙を破ったのは、李亮だった。


「それが天意なら、太子は俺たちに何してほしい?」


 この言葉に「えっ?」と驚いた劉煌に、

「ほら、時々京安の有名店の饅頭をお凛ちゃんに持たせるとか。」と孔羽が真剣な顔をしてそう言うと、李亮は呆れた顔をして「お前は、本当にいつでも食べ物のことしか頭にないな。」と孔羽の頭を小突きながら、ちゃちゃを入れた。

「だって、人間は食べないと死ぬんだから、食べ物は一番大事なことなんだ!」と顔を真っ赤にして孔羽が反論すると、いつも寡黙な梁途がそれについて「確かに…」と真顔で頷き、それを見ていた李亮が天を仰いで、ダメだこりゃという顔をするという、いつも見慣れた光景が目の前で繰り広げられた時、劉煌は、本当に彼にとって、この秘密基地での仲間との一時が、何にも代えがたい宝物のようなものだったことを改めて痛感した。


 しばらく、彼らの年齢に相応しいやり取りを見守っていた劉煌は、ポツリと、


「ただそのままでいて欲しい。」


と言った。


 その劉煌の言葉に、全員言葉を失い、皆、劉煌をただただ凝視した。


 今度は顔を上げ、全員の顔を一人ずつ見ながら、劉煌は、「ずっと、友達でいて欲しい。会えなくなっても。」と言うと、李亮が突然その大きな図体で劉煌をがしっと抱きしめた。


「そんなの当たり前だろ。俺たちは五剣士隊だ。「一人はみんなのために、みんなは一人のために。」お前が教えてくれた言葉じゃないか!」


 その時、皆の脳裏に、3年前、みんなが出会った時の事が色鮮やかに浮かんできた。


 しばらく続いた沈黙を破ったのは、今度は劉煌だった。


「あと、来週両親と一緒に行くはずだった毎年恒例の中ノ国の祭典なんだけど、今年は父の名代で僕だけが行くことになった。」と言うと、孔羽がポツリと呟いた。

「もう一年経つのか、早いなぁ」


「うん、いつもは父の身体のこともあってゆとりスケジュールで行っていたけど、今年は一人だけなので、前日の明け方出立して、祭典の日の夕方には帰路に着く予定。だから、ここに来られないのは、うまくいけば4日だけだ。」と劉煌は嬉しそうに言った。


「それは、良かった。いつもはなんだかんだ10日は来れなかったものな!」と本当に嬉しそうに梁途と孔羽が言う中、白凛がふと李亮を見上げると、李亮は思いがけず顔を曇らせていた。


 心配になった白凛が「亮兄ちゃん」と声をかけると、李亮はハッとして彼女を見た。「どうしたの?」と白凛が本当に心配そうな顔をして言うと、李亮は何を思ったのか、それには答えず、劉煌に向かって、浮かない顔で「どうしても行かないといけないのか?」と珍しく静かに聞いた。


 劉煌は、「ああ、もう何十世代と続いている祭典だから。緊張関係にある3か国が何とか戦いを回避できているのも、3か国の君主がここに年に一度集まり、友好を誓いあっているからなんだ。」と言うと、李亮は、「そうか」と言った後、「俺、護衛でついて行ってもいいか?」と聞いた。


 劉煌は、申し訳なさそうに、「ありがとう。でも禁衛軍の兵士達が護衛に着いて行くことになっているから大丈夫だ。気持ちだけ受け取っておくよ。」と答えると、「わかった。気をつけろよ。」と李亮は言ったが、普段はおしゃべりの彼がその日はその後ずっと黙ったままだった。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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