第五章 変幻
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
お陸の美容整形手術当日、朝早く起きた劉煌は、昨日の美容家の見よう見まねで、大人っぽい化粧をすると、翌日朝8時に指定の場所にお陸と共に立った。
そこには既にドクトル・コンスタンティヌスがいて、大小の器具を並べていた。
お陸はそれを見てギョッとした。
「あ、あれは、ノコギリじゃないかっ!?」
「そうよ、骨だって切るんだから。」
劉煌は涼しい顔でお陸に答える。
「・・・・・・」
黙っているお陸に、劉煌は優しく声をかける。
「どうしたの?怖くなった?やめる?」
お陸はガバっと劉煌の方に向き直ると、叫ぶ。
「何言ってんだい。さあ、さっさとやっとくれ!」
その叫び声でドクトル・コンスタンティヌスが彼らに気づくと、彼は微笑んで両腕を広げると、「ミレン嬢」と言って、劉煌の両方の頬に、チュッチュッと軽いキスをした。
劉煌も「ドクト~ル・ベネディクトゥ~ス」と巻き舌を使って言うと、西域の女性のお辞儀をして挨拶をした。
劉煌は、流ちょうな羅天語で今日のモデルのお陸を紹介して、眉を釣りあげながら「彼女の希望としては、私くらいの年齢に見えるようになりたいそうよ。」と言うと、コンスタンティヌスはお陸のしわくちゃの手を取り、その手の甲に全く抵抗なく口づけすると「私の手にかかれば不可能なことはありません。」と言った。
そして、今度はお陸の顎に手を添えると、右左斜め上下と色々な角度から彼女の顔を眺め、「若返り以外に希望は?」と聞いた。劉煌がそれをお陸に通訳すると肝が座っているお陸は、「このさいだ。頭のてっぺんからつま先まで、絶世の美女にしてくれ。」とタンカを切った。劉煌は呆れながら一字一句そのまま訳してドクトル・コンスタンティヌスに伝えると、彼は部屋中に響き渡るような大声でワッハッハと笑い、お陸の目を見て言った。
「私はこのモデルが大変気に入りました。挑戦をお受けいたしましょう。」
~
決して広くない部屋に、手術台と器具が並べられ、聴講生の美容外科3人は壁にピッタリついて立っていた。講師のドクトル・コンスタンティヌスは、通訳の劉煌と共に手術台の前に立って、まず一通り紹介する器具の説明に入った。
今回コンスタンティヌスが紹介する器具は、メスや鉗子を含む今迄の器具の改良品だけでなく、光治療器なる劉煌が全く知らなかったものまで含まれていた。
まずコンスタンティヌスは光治療器について説明した。
これはプリズムと鏡を使った機械で、光源は太陽になるので、天気の良い日にしか使えないのが難点であるが、プリズムで光を分離し、高波長を鏡にあて屈曲させて患部に光を当てると患部の血行が促進され損傷部位が早く治り、逆に低波長を鏡にあて反射させて器具に当てると殺菌になるとのことだった。ただし、謝って低波長を人に照射すると、皮膚にシミができるので要注意とのことだった。
この光治療器はコンスタンティヌスが発明したものだったので、彼自身これを通訳するのはどんな人でも至難の業であろうと思っていたが、聴講生の反応からミレン嬢こと劉煌が正しく通訳できているとわかると、勢いに乗って「ではデモを始めよう。」と言った。
するとドクトル・コンスタンティヌスは、お陸に向かってまずどのような顔になりたいのかを聞いていった。
「絶世の美女も、貴女の言う絶世の美女と私の言う絶世の美女にへだたりがあるかもしれない。」
彼はそう言うと、お陸に何枚か絵を見せた。
「これは、クレオパットラという江字府都の女神、こちらはヘレ~ネという義理詩亜の女神、あれは東域きっての女神と誉れの高い楊貴妃、そして大トリは、極東にあると言われている島国ジパングのオノ~ノコマ~チという歌姫だ。どの顔があなたの好みか。」
お陸は、全く臆することなくクレオパットラの肖像を指さし「あたしは若い頃こんな顔だったんだ。」と主張した。それをお陸の戯言に慣れ切っている劉煌は、呆れ果てながら「この顔が好みです。」と意訳して伝えた。
目指す顔が決まったところで、ドクトル・コンスタンティヌスはギャラリーに言った。
「皆もよくわかっているように、美人だって、クレオパットラのようにぱっちり二重の大きな瞳から、オノ~ノコマ~チのように開いているかわからない細い目まで千差万別だ。だから必ずクライアントがどのような顔になりたいのかをしっかり把握することが大切だ。後は毎年言っている通り、顔全体とパーツそれぞれが全て黄金比になるように作っていく。」
彼はそう説明しながら、傍らでお陸に曼荼羅花を飲ませた。
~
手術後、まるでミイラのように包帯で全身グルグル巻きになったお陸をタンカに乗せて旅館の部屋まで連れて帰ると、ドクトル・コンスタンティヌスは2つの封筒を劉煌に渡した。
「これはリク嬢に。そして、こちらは、あなたに。美蓮、あなたの通訳は素晴らしかった。それだけでなく、機転をきかせ手術途中で助手までしてくれましたね。あなたに巡り合えて光栄です。美蓮、私は毎年この時期にここに来るのですが、どうでしょう。これからもあなたに通訳していただけると、私はとても幸せなのですが。その気持ちもこの報酬には入っているので、是非前向きに考えてください。」
そう言われた劉煌は、不躾にも封筒の中身をその場で開けて金額を確認すると、流ちょうな羅天語で、「ドクトル・コンスタンティヌス、これで今日あなたが使用した全ての器具機械を買いたいのだけれど。」と言って、今貰った封筒をドクトル・コンスタンティヌスにそっくりそのまま差し出した。
今日のデモ手術中の劉煌の行動を見て、ますます劉煌のことが気に入ったドクトル・コンスタンティヌスは、それを聞いてニヤリと笑って言う。
「これからもずっと通訳してくださるのなら、無償で全部差し上げます。」
「ずっと通訳と言うと、具体的には?」
「次は2週間後の抜糸の時の通訳。その次は1年後。勿論度ごとに報酬は別途お支払いする。」
「プライベイトの通訳は無しで、プロフェッショナルな通訳だけでいいってことね。」
「更にデモの時、今日のように助手もしてくれると嬉しい。」
日々の暮らしでいっぱいいっぱいで、劉煌はこの5年間、寺の女の子たちが体調を崩した時に面倒をみることはあっても、西乃国の皇太子だった頃のようなバリバリの医術からは完全に遠ざかっていた。そんな彼が、神がかり的なドクトル・コンスタンティヌスの手術を目のあたりにしてしまったのだから、彼の中にあった医術への興味がまたムクムクと芽を出し始めないわけがなかった。
だから、ドクトル・コンスタンティヌスのオファーに劉煌の心は完全に踊りまくっていた。
「わかったわ。じゃあ、2週間後までに、来年のデモの日を決めておいてくださいな。その日までに出羽島に来るわ。」
二人はそこで握手をかわし、劉煌は、報酬だけでなく器具機械も一式貰えることになった。
”これでお陸さんのメンテナンスもできるな。”
”そうだ。小春は小さい目や低い鼻を気にしていたから、これで僕が直してあげよう。きっと喜ぶぞ。”
お読みいただきありがとうございました!
またのお越しを心よりお待ちしております!