第五章 変幻
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
茶屋から出て、劉煌の目に入ったのは、あの羅天語男だった。
茶屋を出た劉煌を見るなり、羅天語男は、興奮して話しかけてきた。
勿論羅天語で。
彼は背がひょろひょろと高く、顔は卵型で西域の羅天語圏の人には珍しく、カラスの濡れ羽色の髪の男だった。
劉煌は、女の恰好をしているので、茶屋に入る前も何人もの男から声を掛けられていたことから、この羅天語男もナンパかと思い、
『国や言葉が違っても、男の目的は一つ!』
と、自分も男であることをすっかり忘れて、軽蔑の眼差しを向けながら彼を適当にあしらっていた。(勿論羅天語で)
すると、思いがけずその羅天語男は、劉煌に医学系の通訳は可能か?と聞いてきたのだった。
劉煌は不思議に思い、それに答えず、何故医学系の通訳が必要なのか?と逆に彼に問いただした。彼は自分のビジネスカードを出すと、医療技術と用具を売りにきたのだと言う。
劉煌は斜に構えて胡散臭そうに聞く。
「どんな医療用具?」
羅天語しか話せない彼は、不必要にも、左右を見て他に人がいないことを確認してから、身体を半分に折り曲げ劉煌の耳元でそっと囁く。
「人を美しく変身させる。」
「・・・・・・」
劉煌はゴクリと唾を飲み込むと、今度はビジネスカードをよく見てみた。
確かに肩書には、メディシナエ・ドクトルと書いてあった。
しかし、公的証明とは違い、所詮ビジネスカードなど本当のことを書いているとは限らない。
劉煌は迷いながらも「......だ、誰に売るの?」と聞いた。
すると彼は、この人達と言って3人の名前が書かれた紙を劉煌にみせた。そして劉煌が何も聞いていないのに、3人の名前の書かれた紙を食い入るように見ている劉煌に向かって、「前にも別の器具を買った美容外科たち。」と付け加えた。
なんと劉煌とお陸が喉から手が出るほど欲しい情報が、向こうから勝手にやってきたのだ!
劉煌は二つ返事でOKと言いたいところを、ぐっとこらえて、「前に売った時の通訳さんは?」と聞くと、ドクトルは嘆く。
「彼、酷かった。私がデモしているのに、それとは違うことを言って、ここの美容外科たちを混乱させた。結局身振り手振りで、最初から最後まで、使い方を一人ずつ手取り足取りで私が教えなければならなかった。」
劉煌は怪訝そうな顔をして、ビジネスカードに書かれてあったことを無視し「あなた手術できるの?」と聞くと、彼はため息をつきながらこぼす。
「私は医師でこの器具の開発者だ。残念ながら美容外科領域は医療業界では異端児だ。私は、人を美しく変身させて何が悪いと思うのだが、生まれ持った顔にメスを入れるものではないという思い込みが、どこの国の人でも根強くあり、どこに行ってもなかなか認めてもらえない。」
劉煌は化粧で普段よりも大きく見える目を、さらに大きくしてドクトルを見つめた。
”きゃー、これは本物かも。これは願ったり、叶ったりだわ。屋根裏から盗み見して覚えようと思っていた『ぷらすちっく・さーじゃりー』の技が、堂々とその場で見られる訳じゃない!”
そして劉煌は、お陸にまだ何も話していないのに勝手に決断した。
「いいわ。そのお仕事お引き受けしようじゃないの。デモのモデルも連れていくから。いつ、どこに行けばいい?」
ドクトルは、自分の名前をコンスタンティヌスと名乗り、場所日時を劉煌に知らせると、最後に謝礼の話をした。
劉煌は、自分のほっぺたをつねりたい衝動をぐっとこらえて、取引成立の握手をかわすとドクトル・コンスタンティヌスと別れて、スキップしたい気持ちを抑えながら、しずしずと旅館に向かって歩き始めた。
”しかも、お金まで貰えるなんてっ!なんて、ラッキー!”
劉煌がそう思った瞬間、茶屋の向かい側の刀剣屋を出た李亮は、刀剣屋の裏の顔のことで頭がいっぱいになりながら、そのまま無意識に左に曲がって梁途の家に向かった。
まさか彼が左に折れたその瞬間、彼の目の前に劉煌が居たとは全く気づかずに......
そして劉煌自身も、思いがけず、最先端であろう西域の美容外科医のデモを、間近で見られるという幸運に恵まれたことに夢中になっていて、旅館に向かいながら口に手を当ててグフフと笑っている自分の右脇を、李亮がスッと通り過ぎたことに、全く気づかなかったのだった。
どうも劉煌という男は、運命という名の女神が、ちょっといじってみたくなるタイプなのかもしれない。
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