第五章 変幻
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
出羽島唯一の刀剣屋は、劉煌が泊まっている飛来旅館から100mほど通りを北に向かった繁華街にあり、通りを隔てて向かい側にはこの国では珍しいステンドグラスをあしらった扉を持つ茶屋があった。
その刀剣屋は、京安に本店があり、出羽島支店と銘打っていたが、その店構えは、京安の本店の半分ほどの間口に申し訳程度に刀剣が置いてあるだけで、いつも殆ど訪れる人はおらず何故この店がここにあるのか、誰もが不思議がっていた。
その出羽島支店に、今日は半年に一度の頻度でやってくる本店からの使いがやってきた。
今回お使いに出張してきたのは若い手代で、いつもと違って一人で出羽島支店へ来ると、すぐに店長に本店から預かってきた刀を手渡した。
その日も暇だった店長は、話し相手ができたことに喜々としながら、言う。
「李亮、勤めて何年になるかね。」
「5年になります。」
「そうかい。そうかい。君なら仕事もよくできるから、もう番頭になるのも時間の問題じゃないか?」
「いいえ。それほどでも。」
店長は自ら茶を入れながら、今度は真面目な顔をして李亮に話しかけてきた。
「うん、まあ、これは年寄りの戯言と思って聞き流してよ。君のように優秀な人が刀剣屋にいるのは勿体ないと私は思うんだ。どうだね、科挙を受けてみる気は無いかね?」
「私は役人には興味が無く......」
「若い時はみんなそう言うもんなんだよ。でも役人になれば一生食うには困らない。どの商人も似たり寄ったりかもしれないが、それでも刀剣屋に比べれば汚くない。今は手代だから悪いことに手を染める機会もないだろうが、番頭になればそうもいかなくなる。刀剣屋から早く足を洗った方がいい。」
劉煌に出会うことなく育っていれば、間違いなく不良の仲間入りをしたであろう李亮は、この言葉を聞いて益々刀剣屋に居たくなった。
”刀剣屋がしている悪い事ってどんな悪事だろう?”
”どんな悪事かはわからないが、ただ、俺にはわかる。それを知っていれば、絶対いつかアイツの役に立つ。”
「なるほどですね。ところで店長、悪いことって何ですか?」
李亮は、無理やりいたいけな少年感満載な雰囲気をかもし出しながら、しらばっくれてそう聞くと、
真面目な店長はしばらく俯いて黙っていたが、顔をあげて李亮の顔を見るとやおら重い口を開いた。
「・・・・・・古今東西、争いの火種は武器商人さ。」
ピンポーン
李亮の頭の中で何かが閃いた。
”やっぱり、俺の直感は正しかった。武器商人の内情を知っていて損はない。”
李亮は、しれっと「そうですか。じゃあ、店長の仰る通り科挙を受けようかな。とは言っても私はまだ15なので、受かるまでしばらくかかると思いますが。」と心にもないことを言うと、店長は自分の話を彼が聞き入れてくれたと思い、目を細めて何回も嬉しそうに頷いた。
そうなると、店長の話は途切れることが無かった。
科挙について彼の知っている知識・情報を李亮に伝授し始めた。
”どうも、このおっさん、科挙に何度も挑戦してるようだな。これは、孔羽の役にたつな。”
店長の話を聞きながら、そう思った李亮は、まるで自分が受けるかのような顔をして、科挙についてあれやこれや質問し、店長はここぞとばかりに質問に答え、彼の知っているありとあらゆる知識を李亮に与えた。
数時間後、辺りが少し暗くなっていることに気づいた店長は、ようやく科挙の話を切り上げ、「そろそろ閉店の時間だな。」と言って、立ち上がった。
そして、従順で、自分の話を熱心に聞く李亮にすっかり気をよくした店長は、「そうだ。今晩はうちに泊まらないか?」と言って李亮を誘った。
李亮は、もうこれ以上この店長の話を聞くのは自殺行為であると思っていたので、幼馴染の家が近くにあり、そこに泊まることになっていると店長に丁寧に断りを入れてから深々とお辞儀をした。
李亮は、今思いがけず得た情報のことで頭がいっぱいになっていた。
彼は、刀剣屋の裏の顔について、あれやこれや思いあぐねながら出羽島支店の扉を閉めて、少し暗くなった通りに足を踏み出した。
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