第四章 転機
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
劉煌は、清聴への挨拶が想定外に時間を取られてしまって、小春の所へ帰宅の報告ができないまま、夕餉の支度に台所に行った。
台所には既に柊が来ていて、お米をザッガッザッと音を立てて研いでいた。
柊は劉煌の姿を見ると、お米を研いでいた手を休めて、「美蓮、いつ戻ってきたの?ままのお使いでしばらく帰ってこないって聞いてたけど、早かったね。」とおでこに手の甲を当てながら言った。劉煌がそれに答えようとした時、夏朮と秋梨が台所に入ってきて、やはり柊と同じことを言ってきた。
劉煌は「さっき。」とだけ答えると、柊の横に立っていもの皮を器用に剥き始めた。
夏朮は、はああとため息をつくと「美蓮が帰ってきてくれたから、あとは小春が正常に戻ってくれるのを待つだけね。」と人参を洗いながら言った。思わず劉煌は苦笑して「小春が正常っていうのは、どういう状態をさすのかしら?いつでも正常とは言い難いと思うけど。」と目線を剝いているいもから少しも離さずそう言うと、秋梨も卵を溶きながら「そうよね。」と言ってフフフと笑った。
夏朮は確かに自分の言い方が不適切だったと思いながらも、一番年長のプライドで、「だけど一日中男の子の絵を描いているのよ。前はそんなことしなかった。」と怒って叫んだ。
その瞬間、劉煌の手がピタっと止まった。
劉煌は、ごくりと唾を飲み込んで、そこで目を左右に泳がせながらしばらく固まっていた。
”まさか…”
”なんと、小春も僕が男だと知っていたのか。”
徐に劉煌は、いもと包丁をまな板の上に降ろすと、皆に向かって首を傾げながら「そうだわ。小春を連れてくるわ。」と静かに言って台所を出た。
完璧に自己陶酔型のナルシストになっている劉煌は、廊下に出るとお尻をフリフリ揺らして歩きながら、
”僕の絵ばかり描いているって、僕がいなくなって、きっと小春はとっても寂しかったんだ。”
”小春、マイ・ラブ。君が僕の絵を描き続けるほど僕を愛しているなら、もうお互い気持ちを隠すことはない。これからは毎日あの洞窟で、二人の愛を確かめ合おう!”
と妄想をどんどん膨らませていた。
トントン
部屋の扉をノックした自己陶酔型ナルシスト:劉煌は、身体をねじらせながら扉の外より
「こ・は・る♡」
と呼びかけた。
その声を聞いた小春は、”美蓮が帰ってきた!”と思うと、いきなり筆を放って扉まで駆けつけ、勢いよく扉を開いた。
すぐに小春は「美蓮。お帰り!」と言って劉煌に飛びつくと、劉煌は満面の笑みを浮かべ、何をしているのか知っていながら「何してたの?」といたずらっぽく小春に聞いた。そして抱きついた小春を抱いたまま彼女の部屋の中に入ろうとしたので、慌てて小春は劉煌の腕から逃れると、劉煌の手を引いて、「ダメ!入っちゃ。」と言ってから、「あ、もう夕飯の支度の時間?」と言いながら廊下に飛び出した。
”きっと、僕の姿絵を描いていたって僕に知られたくないんだ。”
女の中の女になるために女の研究に余念のない劉煌は、これをこう解釈した。
”ん、もう。小春ったら。乙女ごころってやつね。”
そして、彼は心の中でこう呟いた。
”いいわ。見ないでいてあ・げ・る。”
劉煌が、一人で全く見当違いな妄想の中にどっぷり浸っていた時、小春は、背中に冷汗をかきながら劉煌の手をひっぱり急ぎ足で台所に向かっていた。
”やばー。美蓮に見つかったら針千本飲まされるところだった。”
”なんとか、美蓮を洞窟に行かせないようにしないと。”
~
そして、その翌日、その日は朝から雨だった。
朝餉の席で、珍しく小春が劉煌に、また字を習いたいと話しかけてきた。
これは、小春が一晩考えて考えて考え抜いた”美蓮を洞窟に行かせない”ための手段であったが、そんなこととは露知らず、劉煌は満面の笑みでそれを快諾した。
食後、小春は劉煌の部屋に入る前に、口の中に唐辛子の破片をエイッと放り込むとその小さな目を思いっきり開いて中に入り、退屈この上ない読み書きの練習を2時間、涙目になりながらも、居眠りすることなく耐え抜いた。
勿論そんなこととは露知らず、劉煌は完全に勘違いモードで、一生懸命眠気をこらえながらお手本を指でなぞっている小春の姿を、微笑んで見守っていた。
そして雨も上がった昼食後、小春は劉煌を寺の門のところで見送ると、彼の姿が見えなくなったところで、洞窟に向かってダッシュした。
小春は途中で何羽も鳥をパチンコで仕留めると、その鳥を担いで洞窟へと向かった。
実は『殿下』と呼ばれた男の子と過ごした後、寺に戻ってから”美蓮”との約束を思い出してしまった小春は、自分から何故指きりなどしてしまったのかと、心の奥底から悔やんでいた。
このままだと言い出しっぺなのに針千本飲まされる小春は、それを阻止すべく、洞窟ごと証拠隠滅するということを思いついたのだった。
こういう時の小春の行動はす早く、すぐに獰猛な肉食獣が好みそうなエサを用意してこっそり洞窟に置いた。
小春が洞窟に着くと、洞窟の奥には案の定、秋に食いっぱぐれた為に冬眠できなかった熊が、一頭座っていた。
動物除けの案山子を倒していたこともあり、熊がすぐに住みついてくれたようだった。
先ほど捕まえた鳥を洞窟の入口付近に山盛にして置いた小春は、少し遠くに退き様子を覗っていると、熊は入口に沢山のお供え物があることにすぐ気づき、喜んで全ての鳥を平らげ、また洞窟の奥に戻っていった。
小春がしめしめと思っていたその時、劉煌はいつも通り女の恰好でお陸の元を訪れていた。
劉煌は、お陸に七法出の僧系に化けるにあたって、お経や作法はバッチリだと僧侶にお墨付きを貰ったと告げると、お陸は眉間にしわを寄せながら、「ホントかい?じゃ、ちょっとあたしの前でやってみな。」と言った。
劉煌は自信たっぷりにお経を諳んじ終わると、ドヤ顔をしたその瞬間にお陸からハリセンが飛んできた。
劉煌は後頭部を押さえながら、お陸に「なにするのよ~ん!」と叫ぶと、お陸は「それはこっちのセリフだよ!」と叫び返した。
そして、どこから取り出したのか、経典を劉煌に見せると、「これは恐怖と書いて『くーふー』と読むんだよ。そんな詠み方で僧に化けてごらん、一発で偽者ってばれちゃうよ。もう、こっちの方が恐怖で背筋が凍っちゃったよ。」と言ってから額の汗を袖で拭いた。
劉煌は劉煌で、本物の僧である『まま』の読み方と、僧ではないお陸の読み方のどちらが正しいかと言えば、当然本物の僧と思い、「師匠の読み方が間違っているんじゃなくって?だってお坊さんからそれで間違いないって言われたもの。」と言うと、お陸はしわくちゃなおでこのしわを、さらに本数を増やし且つ深さを増しながら「いったいどこのどいつだい、その似非坊主は。」と吐き捨てるように言った。
劉煌は、直観的に何故かままのことをお陸に知られてはいけないと思った。
「わかったわよ。それなら本物の所に連れて行ってよ。」
お陸はこの劉煌の返事に目を細めると”このお嬢ちゃん、いっちょ前にこの似非坊主をあたしから守る気だわい。あたしに隠し事できるなんて百万年早いって。”と思いながら、言葉では「いいよ、本物をみせてあげよう。」と言い、豊川村の不動寺に劉煌を連れて行った。
劉煌はそこで確かにそこの坊主は『きょーふー』ではなく『くーふー』と唱えていることがわかると、首を傾げ、心の中で翌日は別の寺に行ってみようと誓っていた。
その日の帰り道は、後をつけられないよう劉煌は慎重に遁術を使って帰っていた。
その途中には、小春との愛の巣の洞窟もあり、劉煌はそこにしばし留まることを思いついたが、なぜかそこには熊が陣取っていて、劉煌は入ることができなかった。
”なぜだ?今迄完璧に野生動物をブロックできていたのに、よりによって熊に取られるとは、、、”
”しかもあの様子では、完全に自分の家にしてしまっている。こんな危険なところにもう小春を連れてくるわけにはいかない。。。”
”ああ、それにしても、なんということだ。僕たち2人だけの愛の巣だったのにっ!”
劉煌はがっかりしながらも、さらに遁術を駆使して遠巻きに亀福寺に帰って行った。
これが、恐らく骸組や火口衆だったら劉煌は、完璧に巻くことができていただろう。
ただ、相手が悪かった。
お陸は、ただのその道ん十年のくノ一ではなかった。
忍者中の忍者、恐らく忍者選手権なるものが仮にあったとするならば、他の追随を全く許さず全ての種目においてぶっちぎりで金メダルが取れるだろうし、千数百年以上に渡る忍者史上実力ナンバー1と謳われた忍者だったのだ。
お陸は、劉煌が最終的に伏見村の亀福寺に入っていくのを見届けると、その日は深追いせず、その翌日の昼過ぎ、劉煌がくノ一の訓練に出かけたのを見計らって、亀福寺の門を叩いた直後に亀福寺の本堂の屋根に飛び移った。
本堂からぞろぞろと出てきた人影を見て、お陸の眉は髪の生え際まで釣り上がった。
”なるほど、そういうことだったのかい。”
彼女の頭の中のランダムな点が全て線で繋がった。
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