第一章 縁
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
ちょうどその時、馬の駆ける足音と共に、「法捕司だ!狼藉を働いているのは誰だ!」という叫び声があたり一面にとうとうと響いた。ならず者達は法捕司と聞いただけですぐに出していた手をひっこめ、「やべぇ。」と叫びながら四方八方に飛び散って行った。
たかだか、町なかのいざこざに、法捕司の役人が何十人もやってきて、一斉に四方八方に逃げたならずたちをあっという間に捕まえると、周りの人だかりがどういうことだとざわめきだした。
ならず者達を連行して行った役人達とは別に、もっと身分の高そうな人物が、騒動のきっかけとなった子供たちのところに近づくと、恭しくひれ伏し、「殿下、お怪我はございませんでしたでしょうか。」と小声で聞いた。
劉煌は、「私は大丈夫だ。」と言った後、後ろを振り返り、3人の子供たちを見ると、「だが、この子達は手当が必要だ。法捕司で手当をする。」とひれ伏している者に告げ、子供たちに向かって、微笑みながら「一緒に行こう。」と誘った。
法捕司では、白凛が出されたお茶を飲みながら待っていたが、劉煌が入ってくるのを見ると、すぐに立ち上がって、嬉しそうに彼の方へ駆け寄ってきた。
ところが、彼以外にあの忌まわしい3人組が、彼の後ろからうなだれて入ってくるのを見ると、急に顔つきをかえ、劉煌に向かって、「太子兄ちゃん、どうしてあの人たちまで一緒にいるの?」と不愉快そうに聞いた。
劉煌は、白凛の頭をポンポンと優しく叩きながら、「怪我しているんだよ。手当してくるから、君はそこで待っていなさい。」と言った。
劉煌は、私がやりますと言ってくる役人を手で制して、手際よく3人の手当をしながら、役人達に、太っちょを指さして「この子がよろけてぶつかっただけで、相手が因縁をつけてきたようだ。」と冷静に話した。
役人達は、ひれ伏しながら「御意。他の目撃者もそう言っておりました。」と言うと、手当されている子供たちに向かって、ひれ伏せと手で合図した。
全員の手当が済んだ劉煌は、「では私は帰るので。」と言うと、3人の子供たちには目もくれず、白凛に向かって「帰ろう!」と叫んだ。
白凛は、嬉しそうに「うん。」と言うと、3人に向かって”いーだ!”という顔をしてから、劉煌と共に出口に向かった。
出口を出ると、法捕司の門前には、白凛が乗ってきたはずの馬は見当たらず、代わりに劉煌の馬車が横付けされていた。天才である劉煌は、それを見た瞬間に自分の知らないところで、法捕司と皇族の護衛軍である禁衛軍が画策していたことを見抜き、天を仰いではああと大きなため息をつくと、「今度は私たちが怒られる番かもしれない。」と白凛に顔を向けて申し訳なさそうに言った。
法捕司から劉煌と白凛の親にこの話が行ったはずなのに、意外にもこの一件について、父から何も言われなかった劉煌は、翌日白凛をいつものように朱祜門のところで待ちながら、彼女は親から怒られなかっただろうかと心配していた。
ほどなくして白凛は、いつもの時間にやってきたが、その日は、「危ないから外すように」と劉煌に言われてから一度も付けて来たことがなかった髪飾りと耳飾りをつけてやってきた。
それに気づいた劉煌が、飾り物のことを言うと、白凛は、お父さんもお母さんも、付けていけと言ってきかなかったのだという。二人でどういうことだろうねと話しながら、またいつものように山奥につくと、洞窟の中から昨日の男の子達3人衆が出てきて、劉煌の前にひれ伏した。
昨日、太っちょから、亮兄ちゃんと呼ばれていた一番大きな男の子がまず口を開いた。
「殿下、私は土方の息子で李亮と申します。7歳です。昨日の御恩は一生忘れません。ありがとうございました。」と昨日とは打って変わって非常に丁寧に言った。
昨日の態度とはあまりに違う彼に、面食らった劉煌は、ただ「うん。」と言うと白凛を連れてそこから離れようとした。
それを見た彼は、立ち上がって彼らを追いかけると「待って!行かないで!」と叫んだ。
劉煌はそれに心の底から驚いて、振り返りながら「でもここは君たちの縄張りなんだろう?」と聞いた。
そうすると、李亮は、頭を掻きながら「俺たちの縄張りは、あんたの縄張りさ。」と言うと、照れくさそうに、「実は待ってたんだ。俺たちにも武術教えてもらえないかと思って。」と、今度は首の後ろを搔きながら照れくさそうにそう言った。
それを聞いた劉煌は、いつもの大人びた感じから、年相応の雰囲気に変わって、満面の笑みを浮かべながら
「ほんと?僕とお友達になってくれるの?」
と本当に嬉しそうに彼に聞いた。
すると一番影の薄い子が、上ずった声で、「え、僕たちこそ殿下の友達になれるんでしょうか?」と恐る恐る聞くと、「勿論!僕、ずっと男の友達が欲しかったんだ。一人でもって願っていたのに、いっぺんに3人もできたんだ!これは天功だ!」と、劉煌は、本当に嬉しそうに声を弾ませてそう言った。
とっても嬉しそうな劉煌を見た白凛は、不機嫌そうに「私がいるのに。」とボソッというと、太っちょが、「女と男では違うのさ。」と言って、「ほれっ」と饅頭を彼女に渡した。白凛はふんと言いながら、彼の手から無造作に饅頭を掴むとそれにがぶっと噛みついた。
白凛に饅頭を差し出した後、すぐに劉煌の方を振り向いた太っちょの男の子は、「あ、そうだ。殿下、昨日はありがとうございました。私は青銅器職人の息子で孔羽と申します。6歳です。食べることが大好きです。ところで、テンコウってなんですか?」と言うと、跪いて饅頭を差し出した。劉煌はまず跪いた孔羽を立ち上がらせると、その手の饅頭の包みから饅頭を1個取ってそれを顔の前まで上げ、「ありがとう。」と言ってから、
「天功とは天の成せる技ということだ。そして私達が巡り合ったのは天意、すなわち天の意思ということだ。」
と述べた。
すると、突然一番後ろにいた男の子が劉煌の前に飛び出してきて、「ぼ、僕は自治司(戸籍、土地管理、総務、財務を担当する中央省庁の一つ)の役人の息子で梁途と申します。6歳です。」と言ったので、劉煌は嬉しそうに、「じゃあ、君の父上とすれ違ったことがありそうだね。」と言うと、太っちょの男の子が、「え、そうなの?」と驚いた口調で聞いてきた。
梁途は俯きながら横揺れして、「わかんないよ。そんなこと聞いたことないもん。」とボソっと言うと、白凛が「チュウオウの役人だってピンからきりまでいるのよ。みんなコウグウナイに入れるとは限らないわ。」と顎をフンと上げて、高い声でわざと冷たく言い放ち、続けて「私の名前は白凛。ヒショショウ・フクチョウカンの娘よ。5歳!」と、5歳と言う時にわざわざ5本の指を大きく開いた掌を前に突き出した。
すると態度も身体もでかい李亮が大笑いしながら「こりゃー参った。秘書省副長官の娘がなりたいのが将軍だとは。」とからかうと、わずか5歳の女の子は真剣な顔をして、
「だから何よ。私は自分が何になりたいのか、よくわかっているわ。」
と言った。
その白凛の発言を聞いた瞬間、李亮はハッとして笑うのをやめ、呆気に取られて白凛を見つめた。だが、当の白凛は、李亮に向かっていーだという顔をして見せるとフンと横を向いた。それでも李亮は、この類まれなる意思を持った小さな女の子をじっと見つめずにはおられなかった。
劉煌は、とにかく男の子の友達ができたことが嬉しくて嬉しくて、そんな李亮に気づかずに、「じゃ、僕の番だね。」と言うと、劉煌は、嬉しそうに自己紹介を始め最後に「ここにいる時は、僕を殿下と呼ばないで。」と言った。
「なんで?」と皆が一斉に聞くと、
「だって友達だから。」
と、彼はニッコリ笑ってそう答えた。
すると李亮が、「じゃあ、殿下って呼ばないよ。第一俺の方が年上だしな。」と、急に偉そうな態度になってそう言ったが、すぐに真面目な顔になって、「俺、絶対にいつかお前を守るよ。お前が昨日俺たちを守ってくれたように。」と宣言した。
後の2人も李亮に続いて「僕も!」と続けると、「何よ、昨日あなたたち何もできなかったじゃない。太子兄ちゃんを守るのは私よ。」と、一番年下の女の子が両手を腰に当てて偉そうな顔をしてすくっと立った。
「だから俺たちも武術を教えてほしいって言っているのさ。」
馬鹿だなという顔をして李亮が白凛に向かってそういうと、「そうだよ。一人より四人の方がもっと守れるだろう?」と、今は名前が孔羽だとわかった太っちょがまことしやかに彼女に向かって言った。
劉煌はそれを聞きながら、’ウヌス・プロ・オムニブス、オムネス・プロ・ウノ’とまるで呪文のような言葉を呟いた。
それをしっかり聞いていた影の薄い男子こと梁途が「うぬっ、、、ええい、ままよ。何だそれ?」と劉煌に聞くと、彼は、「これは西域の言語で羅天語だ。意味は、「一人はみんなのために、みんなは一人のために。」という意味さ、まさに僕たちのためにある言葉じゃないか?」とみんなを見渡しながら言った。
すると、皆はお互いの顔を見合わせ、口々にその通りだと言うと、李亮が興奮しながら「そうだ!俺たちは、五人の勇者達だ。どうだろう、俺たちの名前を『五剣士隊』にするっていうのは。」と皆の顔を見ながら言った。
それを聞いた途端劉煌は、すぐに相好を崩し、とっても嬉しそうに声を弾ませながら「そのネーミング最高だ!」と叫んだので、孔羽も梁途も、そして白凛でさえ、”それダサくない?”と思いながらも口に出すことはできず、鶴の一声でこの五人衆のことを『五剣士隊』と呼ぶことに決まってしまった。
とにかく夢だった男友達ができた劉煌は、喜びを隠すことができず、興奮で顔を真っ赤にしながら、「ね、全員で円陣を組もうよ。」と言うや否や、腰をかがめ、掌を下にして左腕を前にまっすぐに突き出すと、右手を白凛の右肩に乗せた。何がなんだかわからない白凛は、劉煌を見ると、劉煌から「お凛ちゃん、僕の手の上に左手を乗せて。」と言われたので、言われた通り自分の左手を乗せると、すぐに彼女の手の上にまた誰か別の左手が乗ってきた。白凛は慌てて自分の手の上に乗った手の主を見るべく右を見ると、そこには李亮が腰を屈めてニヤリと笑っていた。自分をからかったヤナヤツが横にきたことで、白凛は忌々しそうに李亮を睨んでから、今度は劉煌の方に顔を向け、劉煌に『太子兄ちゃん、円陣はやめようよ』と目で訴えた。しかし、言い出しっぺが白凛の胸中を察せるはずはなく、白凛の祈りもむなしく次々に円陣は組まれ、最後に孔羽が左手を一番上に乗せ、右手で劉煌の右肩を組むと、劉煌が突然「スゥ~パァ~ファーイヴッ!」と叫んで一番下だった手を勢いよく上に上げた。そしてその拍子に重なっていた全員の左手が空高く舞った。
劉煌は、真っ青な空の下、太陽の光が、まるでプリズムのように虹色にキラキラと音を立てているかのように煌きながら降り注いでる5本の手を満面の笑みで見上げながら、「最高だっ!」と喜びに満ちた声で叫んだ。
ところが、李亮はムスっとした顔をして文句を言った。
「太子、今の円陣、円になってなくて途中で切れていたぜ。」
劉煌は、李亮の指摘内容がわからず怪訝そうな顔をしていると、李亮は白凛を親指でさしながら、「コイツが勝手に円陣を切ってた。」と言った。
そうでなくてもムカついているのに、またもや難癖をつけてきた李亮に、頭一つ半分小さい身体のハンディをもろともせず白凛は上を見上げながら「私は言われた通りにやったわ。勝手に切ったなんていい加減な事言わないでよ。」と言ってキッと睨みつけてからいーだという顔をした。
すると劉煌が何か言う前に李亮が「円陣なのにお前俺の肩組まなかったじゃねーか。」と言った。
白凛は、こんなヤナ奴と肩を組みたくないので、「太子兄ちゃんは手を乗せてとは言ったけど、肩を組めとは言わなかったもん。」と抵抗すると、「太子がお前の肩組んでいるのにわからないなんて、本当に女ってバカだよな。」と李亮はまた白凛をからかった。劉煌は彼らの間を取りなそうとする間もなく、白凛はいーだという顔をしながら李亮に、「円陣は肩を組まなければならないって決まりはないわよ。本当にムチな男。」と言い返すと、劉煌に向かって「太子兄ちゃん、私は場所を移動します。」と言って劉煌の右隣から左隣に移った。
さらに彼女は礼儀正しく「太子兄ちゃん失礼します。」と言ってから劉煌と肩を組み、左の孔羽を一瞥すると、「さっさと肩組みなさいよ。」と言った。孔羽ー白凛ー劉煌の肩組みを見て気分を害した李亮は「ふん、こっちこそ女は御免だ。」と言うと、劉煌との間の距離を縮めて身体を屈め、梁途の肩に手を置いた。
今度こそ皆同じ形になって円陣を組むと、劉煌がまた「スゥ・・・」と言いだしたので、梁途が「あ・・・太子ちょっと待って。そのスゥパ~って何?」と劉煌に聞いた。
劉煌は、「あ、これは、西域の英雄好きの国の言葉だ。スゥパ~とは超人のこと、ファイヴは5人のこと。五剣士隊だと三銃士のようだからファイヴ・マスカティェア~ズになるけど、覚えにくいだろう?」と言うと、全員が一斉に後者を無視し、大声で「スゥ~パァ~ファーイヴッ!」と叫んで、その手を空に向かって高く放った。
お読みいただきありがとうございました!
またのお越しを心よりお待ちしております!