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第四章 転機

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 劉煌が目覚めたのは、全く知らない場所だった。


 そこは、明らかに誰かの家の部屋で、背の低い小さなこげ茶色のちゃぶ台が一卓と、大人でも全身を映せる大きな姿見のついた鏡台が一基あった。


 劉煌は起き上がろうと思った瞬間、直観的に何かが自分に襲い掛かろうとしていると察し、掛け布団を勢いよくバサッと蹴り上げた。何者かがその掛け布団をガバッと掴んでそれを右側にバッと投げ捨て、その下にいるはずの人間を捕らえようとした。しかし、敷布団の上に人が誰もいないとわかると、その人物は上下左右四方八方を向いて、探し始めた。しかし、その空間のどこにも誰も見当たらないとわかると、「どこに行った!」と忌々しそうに叫んだ。


 勿論11歳の女の子のふりをしながら逃げ隠れしている男の子が「ここです。」とニッコリ手を上げて言う訳はなく、はたまた「ここだよ、ばーか。」と相手をからかう余裕も全くない。


 ずっと息を潜めながら鏡の後ろに隠れていた劉煌は、今度は襖が勢いよく縁にあたるバシッという音を聞いた。


「あんた、ここで何やってんだい。」


 お陸の声が小さな部屋でこだました。


 お陸が劉煌を捕まえようとしていたと思われる男にそう聞くと、その男はそれには答えず、「お陸姐さん、あんたまさか危ない橋渡ろうとしてないよな。」と言った。


 お陸は顔をしかめると「危ない橋って何のことだよ。百蔵。」と言ったので、劉煌はこの男の名前は『ひゃくぞう』で、お陸を姐さんと呼んでいることから、忍者の仲間内だと思った。


「あんた知らないとは言わさないぞ。火口衆(西乃国の諜報組織員)が躍起になって探している子のことを。」と叫んだ。

 この一言で、劉煌はやっぱり自分が狙われていたのだと悟った。


 お陸はすぐさま「百蔵!天下一のくノ一に向かって、その物言いはなんだい!」と吠えると声のトーンを一段落として「知っているに決まっているだろう。その子を火口衆に引き渡せばもう遊んで暮らせるってね。」と言ってへへと笑った。


 劉煌は、これを聞いて、いつものお陸とのやり取りから彼女がどんな顔をしてそれを言っているかまで目に浮かび真っ青になった。


 お陸の顔を見てホッとした百蔵は、「じゃあ、一緒にその子を火口衆に引き渡そうぜ。」と言うと、お陸は眉間にしわを寄せて「その子ってどの子だよ。」と聞いた。


 百蔵はハテナ?という顔をしながら「あんたが助けた子さ。ここに寝てただろ。」とイライラしながらそう言うと、途端にお陸はケタケタと大声を上げて笑い始めた。


 百蔵は「何がおかしいんだよ!」と叫ぶと、お陸は「だってこれが笑わずにいられるかい?火口衆が探しているのは男の子じゃないか。ここに寝てたのはれっきとした女の子。」と言うと、続けて「あんたも覚えておきな、あの子は私を越えるくノ一になるよ。見てごらん。あんたをしても何処にいるかわからないだろう?」と挑発的に言った。


 百蔵は男にしては小柄だったが、それでも腰の曲がったお陸と並ぶと、お陸の倍はあるように見えた。

 

 それなのに、お陸はいとも簡単に百蔵の襟を掴むと、廊下に向かって歩き出し「さあー行った、行った。女の子が寝ているところに男が乱入じゃ、完全にセクハラだよ。」と言うと、襖の向こう側にポイっと捨てるように百蔵を投げた。


 劉煌は、お陸が百蔵を追っ払っている隙に屋根裏に登り、屋根に出て屋根に這いつくばって百蔵が居なくなるのを見届けると、劉煌自身も百蔵とは別方向に向かって逃げだした。


 ところが、それも束の間、劉煌は瞬く間にお陸に捕まってしまった。


 お陸は劉煌を捕まえると、「お嬢ちゃん、あたしから逃げようなんてまだ100万年早いのさ。」と滅茶苦茶勝ち誇って言った。


 正体を知られたのではないかと青ざめている劉煌に、お陸は上機嫌で「まあまあ、家に帰ろうや。」と明るく言うと、無理やりにお陸の家ではないかと思われる所に彼を連れていき、先ほど彼が寝ていた部屋に彼を押し込んだ。


 お陸は、部屋が完全に安全であることを確認すると、ちゃぶ台の前に「アイヤ~。」と息をつきながら座った。お陸は、茶碗に茶を入れながら劉煌に向かって、「あたしは天下一のくノ一だよ。始めて会った時からあんたの素性はお見通しさ。」と涼しい顔をして言った。お茶が想像よりも熱かったことに顔をしかめると、お陸は今度は劉煌を見て、「なにぼやっと突っ立ってるんだい。そうやってずっとそこに突っ立っているつもりかえ?」と言った。劉煌は観念してお陸の対面に座ると、お陸は「今回だけだからね。」と言って、劉煌に茶を注いで茶碗を劉煌の前に優しく置いた。


 劉煌は、「私の素性とは?」と単刀直入に聞くと、「決まっているだろう、男の子だってことさ。」とお陸はいとも簡単にそう言ってのけた。

 劉煌は、今迄のことを思い出すと、お陸が劉煌を弟子にした意図がわからなくなって思わず「知っていて何故?」と聞いた。これにお陸は顔をしかめて「あの時も言ったろ?くノ一はなりてがいなくて絶滅の危機だって。」と言ってから、今度は茶碗にふーっと息を吹きかけて茶の温度が十分下がった頃合いをみて、ゴクリといい音を鳴らしてお茶を飲んだ。


 劉煌は、その答えに納得がいかなかったばかりか、当時の事を思い出すと、俄然怒りがふつふつと込みあがってきた。


「知っていたのに、どうして真っ赤のヘンテコなヒラヒラを僕に着させたんだ!」


 劉煌は屈辱に耐えきれずに、自分の頭の中からその記憶を消そうと頭をぶんぶん振りながらそういうと、お陸は至極真面目な顔をして、「知っていたからこそ着させたのさ。」とサラッと答えた。


 劉煌は屈辱のあまりとうとう涙をボロボロ流しながら、両手を膝の上で握りしめ、わなわな震えながら「男だって知っていて、あんなことさせるなんて!」と非難すると、お陸は珍しく凄く優しい顔をしてテーブルの上に肘をついて、その手に頬を乗せながら「男だからさせたんだよ。どれくらいあんたが本気なのかを知るためにね。」と言うと今度は息も吹きかけずに茶碗のお茶をごくごくと飲んだ。


 ぷふぁーと息を吐くと、涙を流しながら当惑している劉煌に向かってお陸は静かに、「男のあんたが、女に化けてまで忍者の修行をしたいなんて、どうしても忍者になりたい深~い事情があるか、ただの冷やかしかのどちらかしかないだろう?冷やかしだったら、いくらあたしがやれって言ったって、男なら、まず突然あんな衣装を着て、科作ったりはやれないものさ。あんたがあの真っ赤なセクシースーツを着て、私の言う通り、セクシーガールをやってのけた時、私は腹をくくったのよ。何としてもあんたを一人前のくノ一にするってね。男だけど。」と言うと、もう一度劉煌に茶を勧めた。


 劉煌が、口を一文字に結び、涙を流しながらずっと茶碗をジッと見つめているだけで茶碗を手にしようともしないでいるのを見て、お陸は、今度はとても悲しそうな顔をして、


「あたしが飲んだのと同じ急須から入れたお茶だ。毒なんか入ってやしないよ。だいたい、あんたを売るつもりだったら、火口衆がこんなところまで来る前に、とっくにあんたを売り飛ばしているし、今日だってわざわざ危険を冒してまで森の中にあんたを救いになんか行かないよ、劉煌。」


と言った。


 この最後の言葉に劉煌はギクとすると、目に涙が溜まったまま、顔を上げお陸を凝視した。


 しばらくの沈黙のうち、「初めから知っていたのか?」と、劉煌がか細い声で聞くと、お陸は「何回言わせたら覚えるんだい、あたしゃその世界では『お陸姐さん』と呼ばれた、この道ん十年の天下一のくノ一だよ。百蔵のような青二才だってわかるようなことが、わからないわけないじゃないか。」とげんなりしながら言った。


「どうして僕を助けるの?ひゃくぞうさんとやらも危ない橋と言っていたのに。」

「誰があんたを助けるって言った?」

「えっ?」

「あたしゃーあんたを一人前のくノ一、いや、あたし以上のくノ一にするだけさ。あんたを助けるなんてあたしにゃあできないよ。」と言うと、お陸は両腕を上げて伸びをした。


 しかし、お陸が自分のことを何者であるか知っていながら、今迄知らないふりをして忍者の修行をしてくれていた本当の意図を知りたくて、劉煌は「だけど今日森の中にきたし、さっきもひゃくぞうさんから僕を助けてくれたじゃない?」と聞くと、お陸は完全に嫌そうな顔をして「ああ、そうだった。このお嬢ちゃんはおつむは弱いんだった。」と言ってガクッとした。


 そして今度は天を仰ぎながらお陸が「いいかい。くノ一のなりてはもう十何年誰一人いないんだよ。くノ一は絶滅危惧種なんてレベルじゃない、もう絶滅するんだ。だからあたしは、あたしの技を継承してくれるんだったら誰でもいいのさ。たまたまそれが隣の国の元皇…」と言ったところで、劉煌に手で口を押さえられた。


 いつの間にか横にきていた劉煌を見てお陸は嬉しそうに笑うと、「そうそう、これなんだよ。このお嬢ちゃんは、こういう筋はとっても良くてね。だからあたしは確信したのよ。あんたはあたしを越えられるってね。」と言ってから、今度は顔を曇らせて「でもこれからはもっと大変だよ。あんたもっともっと自然に女らしくならないと。火口衆に見つかったら命は無いからね。あいつらも騙せるぐらい、女の中の女にならないと。」と言って劉煌を見つめた。


 そして、不安そうな顔をしている劉煌に向かって今度はニヤリと笑うと、お陸は「あんたの場合は七法出しちほうでも遁術の範疇に入りそうだから、いい機会だ、これも始めよう。ま、あんたの場合は七法出ならぬ八法出になりそうだけど。」と言うと、一人でこの言葉に受けてお陸は腹を抱えて笑い出した。


 劉煌は、そのお陸の笑いにムッとしながら、「なに?『しちほうで』って。」と言うと、お陸は笑いを引きずりながら言った。


「変装の術の業界用語だよ。虚無僧、出家、山伏、商人、大道芸人、楽師、常の形の七変化が基本なんだが、あんたの場合はそれに女形が加わるからね、八法出になるね。ハハハ。」


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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