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第四章 転機

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 

 男の子が洞窟の中で目を覚ました時、目の前に、大きな顔の中に小さく眠たそうな目と低くてぺっちゃりとした横に大きい鼻のある子がヌッと現れて、彼は「わああ~」と恐れおののいて飛び起きた。

 彼は小春を無視して、慌てて辺りを見渡すと「ここは?」と呟いた。

 小春は自分史上最高の笑顔で「伏見村だよ。」と答えると、男の子はそんな小春の顔を見ることもなく洞窟の入口の方を見て「私を捕まえようとしていた人は?」と聞いてきた。小春はめげずに男の子の目線の所に自分の顔を持っていくと「たぶん私の山羊がやっつけた。」と言ってから、「はい」と言って餅を彼に渡した。男の子は、餅を受け取らずに、小春の手の餅を見つめながら首を傾げた。


「私はなぜ狙われたのだろう?」


 小春は男の子が餅を食べないと理解して、自らそれを頬張ると、「さあ」と興味なさげに答えた。


 男の子は下を向いて今迄の行動を思い返すかのように、「狩の途中で、陛、、父うぇ、、、お、、父さんとはぐれてしまったんだ。それで森を彷徨っていたら突然襲われて。隙を見て逃げ出したんだ。」と小さい声で呟くとさらに青くなった。


 実はこの男の子こそ中ノ国の皇太子成多照挙だったのだ。


 照挙は、規則の多い皇宮生活に嫌気がさしていたので、大人たちが狩りに夢中になっていることをいいことに、この時ぞとばかりにこっそりと隊から抜け出して、一人森で遊んでいたのだった。

 ところが、彼がしめしめと思った矢先に、彼は突然何者かに襲われ、命からがら逃げ出した、、、


 実はそれが真相だった。


 小春は、勿論この男の子が中ノ国の皇太子であることを知らないし、彼が状況説明を彼の都合の良いように脚色して小春に伝えていることも知る由もない。


 そんな彼女が、餅の最後の一口を口の中に入れると、「じゃあ、お父さんを探さなきゃだね。たぶん広場の向こうで狩りをしていた人達の中にいるんじゃないかな。行ってみようよ。」と提案した。照挙は暗い顔を更に暗くして、少し前に自分に起きた出来事を思い返すと、小刻みに震えながら「ここを出たらまた捕まるかもしれないじゃない。」と言ったが、小春はそれを全く意に介さず言う、「大丈夫。私がいればなんとかなる。」


 小春は、徐に劉煌が作った案山子をなぎ倒すと、案山子の衣服を取り、照挙に渡して「これに着替えて。」と言った。


「なんで。やだよ。汚いし。」と文句を言う照挙を、小春は珍しい生き物を見るような目つきで改めてしげしげとみつめた。


 先ほどはお顔に見惚れていて気づかなかったが、確かにこの男の子の着物は、この辺りでみる目の粗い木綿の着物ではなく、知識のない小春でもその着物が”上等”なものだとわかった。

 さらに彼の頭はこのあたりの男の子のように、一つにまとめてはいるけれども、その子たちとは違ってまとめた髪は金属性の冠簪でまとめてあり、それに光が反射してキラキラと光っていた。


 しばらく彼を見つめていた小春は、何を思いついたのか、無言でいきなり照挙の冠簪を取ると、彼の髪は彼の胸の所までバサッといって垂れ下がった。照挙は、相手が命の恩人とはいえ、あまりにも無礼な振舞いに、「何を!」と抵抗しようとしたが、小春は彼の口に指を立てて、「シー!」と言うと、「捕まえようとしている人がいるのに、そのままの恰好で出ていったら、またすぐ捕まっちゃうよ。いいから私に任せて。」と言って、突然照挙の髪をこのあたりの女の子のように結い上げた。


「ほら。これで遠くから見たらこのあたりの女の子って思うよ。」と誇らしげに言うと、奥から風呂敷包みを持ち「この私の着物を着れば、もう絶対男だってわからないよ。」と言って風呂敷の中身を彼に渡し、代わりに案山子の服をその風呂敷の中に入れた。


 ”え?ってことは、この子、女の子だったんだ。同じ女の子でも、あの清楚で品があり神々しい美しさの簫翠蘭とはまるで違う。月とすっぽんとはまさにこのことだ。”

 ”ああ、簫翠蘭はどうしているのかな。早くまた秋が来てほしい。”


 彼はこの極限の状態で着替えながらも、いつの間にか頭の中は、去年の3か国の祭典で初めて会った瞬間に一目ぼれしてしまった、東之国の皇女のことでいっぱいになっていた。


 そんなこととは露知らず、ぼーっとしながら着物を脱いでいる照挙の脱ぎ捨てた着物を、小春は目を♡にしながらいそいそと拾っていった。


 照挙は下着になると自ら着物を着ようともせず、突然背筋を伸ばして立ち、おもむろに両腕を広げたので、小春はその拍子に無理やり、彼にとっては横はダブダブで縦は短い着物を着せていった。


 そして彼が脱いだ着物の中に器用に木の枝を入れ、遠目で見れば、人がその服を着ていると間違うような物を作った。


「これはさ、美蓮がやってたの。これで死んだって思われるって。あっ、美蓮には内緒だよ。美蓮がこそっとやってたのを寝たふりして見てたんだ。」


 照挙は小春が言っていることが何一つわからなかったが、とりあえず「ふーん」と言うと、小春は片方の手にその人型着物を持って、もう片方の手は照挙の手をひいて、洞窟の奥へと歩いていった。洞窟の出口の手前まで照挙を誘導すると、小春は「見てて」と言ってから、いきなり人型着物を出口からポーンと落とした。照挙は慌てて、「何をする!」と言って自分の着物を回収しようと出口のギリギリの所まで来たが、小春は照挙の手を握り、彼が落ちないように内側に引っ張ると、笑いながら言う、「まあ、見てなよ。」


 照挙は、小春と共に、出口の近くまで寄ると、固唾を飲んで下を見た。その人型着物はしばらくして、川面に浮き出てくると、まるで人が溺死しているかのようにプカプカ浮かびながら川を流れていった。小春は照挙の横に立つと、「ね、これであなたは死んだと思われる。それにあなたは女の子の恰好をしているから、誰もあなただってわからない。さあ、お父さんを探しに行こう。」と言って、洞窟の入口の方に向かって彼の手を引いて歩き出した。


 小春と照挙は広場までやってきたが、その途中も広場でも、狩人の姿は一人も見当たらなかった。途方に暮れる照挙に小春は「大丈夫。とにかく私のうちに行こう。ままに助けて貰えばなんとかなる。」と言うと、今度は亀福寺に向かって歩き始めた。



 亀福寺の門前では、清聴が、もう二度と会うことは無いだろうと思っていた男と下を向いて話をしていた。

 その男は丸顔で顔が大きく、鼻は大きいが低く横に広がっていて、目は開いているのか閉じているのかわからない位小さかった。


「あれから9年だな。」

「ここには来ないって約束のはずだよ。」

「そうも言ってられなくなってな。」

「側室の話ならまっぴらごめんだよ。」

「その話じゃないんだ。」

「じゃあ、何の話よ。」

「子供を探しているんだ。」


 清聴は内心ギクッとしながらも、努めて平静を装い、「はあ?」と言った。


「9歳の男の子だ。名前は言えない。今日この近くの狩場で見失ったのだ。」


 清聴はそれを聞くと、”良かった。探しているのは小春でも劉煌でもない。”とホッと心の中で胸を撫でおろしながらも、表面上はそれを少しも見せずに「さあ、知らないね。第一、ここは尼寺だよ。男子禁制は何も大人の男だけじゃない。子供だって男はうちに入れるはずがないじゃないか。」と言ってから、横目でチラッと遠くに停めてある馬車を見た。


 ”あの馬車、かなり身分が高い人のじゃないかしら。宰相が自ら私のところに訪ねてくるんだから、宰相より上、、、となると、皇族?皇族の9歳の男の子って言ったら、、、ま、まさか皇太子?”

 清聴がそんな思いを頭に巡らせていると、突然

「備中!」と呼ぶ子供の声が響いてきた。

 その声を聞くや否や、仲邑備中はハッとして、慌てて声の方に向かって短い足で走りだした。


「殿下!?その恰好は?お召し物は?」


 仲邑備中は、ぬかるんだ道を物ともせず、声の主の前にバサッと跪き、両手で彼の両肩を優しく包みながら顔をしかめてそう言うと、声の主であるその男の子の代わりに、横にいた小春が「人さらいに連れていかれそうだったんだよ。」と説明した。


 仲邑備中は、ようやく自分の主である中ノ国成多照挙皇太子殿下の横にいる愚民の女の子の姿が眼に入ると、その顔を見てギョッとした。


 顔からすっかり血の気が失せた仲邑備中から「そ、そなたは?」と消え入るような声で聞かれた小春は、「小春。」と元気よく答えると、すぐに「おじさんの名前は?」と聞いた。仲邑備中はそれには答えず、真っ青な顔で清聴の方を振り向くと、清聴はすぐに目線を外して俯いた。小春はこの変なおじさんの目線の先に清聴がいるのを見つけると、今度は今迄行動を共にしてきた男の子をほったらかしにして「ままー!」と叫びながら、清聴の方に走って行った。


 清聴は、バサッと小春の手を取り、彼女に救った男の子にお別れの挨拶もさせず、そのまま無言で寺の門の中に連れ込んだ。そしてすぐに門を固く閉ざすと、抵抗する小春の口を自分の掌で塞ぎ、小春を本堂まで担ぎこんで、またその本堂の扉も固く閉めた。


 寺の門前に残された仲邑備中と成多照挙は、あまりのことに呆気にとられた顔で寺の門を見つめながら同時に「こはる」と呟いた。


 清聴は、さらに小春を本堂内の御本尊の裏まで連れていくと、小春に声を出す機会を与えず

 彼女を睨みつけながら「今日のことは誰にも言ってはいけないよ。言ったらアンタの命は無いからね。あの男の子のことは忘れるんだ。」と切れそうなほど鋭い声で素早く言った。


 ~


 翌日、中ノ国の刑部の霊安室には、森の中で惨殺されていた男の遺体を前にして、刑部相(警察・法務・刑部組織の大臣)、宰相(総理大臣)、札部相(外務大臣)そして骸組(諜報組織)の長が無言で立ちつくしていた。


 遺体の男は、片目を潰された上に、木の枝が身体を貫通し、さらに全身に無数の噛み傷があった。


 長い沈黙の後、始めに口を開いたのは、札部相だった。

「それは確かか?」

 すぐに骸組の長の万蔵が「御意。」と答えると、刑部相は、驚きを隠せず、

「なぜ西乃国の間者が、我が国の皇太子を拉致しようとしたのか。大胆にもほどがあるではないか。」と叫んだ。

「御意。ただ、西乃国は皇帝が劉操になってから、国内のみならず西域でも虐殺を繰り広げております。3か国の祭典にも来なかったことから、中ノ国への攻撃も視野に入れているのかと。」

 この万蔵の回答に、大臣達は一斉に顔色を変えた。

 今迄黙っていた宰相がすぐに口を開け、

「万蔵、西乃国に送った骸組はどうなっている。」と聞いた。


 万蔵はばつの悪そうな顔をして、「それが、皇宮に送り込んでいた者とは、ここ1.2か月連絡がつかず…」と言ってその場にひれ伏した。

 宰相はすかさず「その後は誰も送っていないのか?」と聞いたが、万蔵はそれにはダイレクトに答えず、「直ちに千蔵らをいかせます。」と言った。


 この回答に今度は札部相がすかさず「千蔵?男か?皇宮ならくノ一だろう。」と苦情を述べると、万蔵は、”また痛いところを突かれた”と思いながらもそれを顔には一切出さずに、「劉操は皇宮には殆どいないと聞いております。くノ一でなくても問題ないかと。」と回答すると、骸組の裏事情を知っている宰相が「まあまあ。」と言ってから、「とにかくこの話はここだけにしてほしい。何もはっきりせぬうちに陛下を悩ますような報告は控えるが肝要。」と言って全員に目配せした。

お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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