第四章 転機
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
劉煌は遁術が嫌いだった。
お陸の言いたいことはわかる。
まさにその通りだと劉煌自身も思う。
だが劉煌は、いかに頭でそれを理解できていても、所詮11歳の男の子である。
もう1年以上遁術の訓練ばかりで、いい加減彼が思う他の一般的に忍者らしいこと、すなわち手裏剣や吹き矢をやりたかった。
それに、西乃国の皇太子として9年間、洗脳・・・もとい教育されてきた彼は、11歳の子供ながらにして『男たるもの逃げるは恥』という信念をもっていたので、遁術に対する無意識の抵抗が実は非常に強かった。
とは言っても、傍から見れば現在彼は、立派に劉操から逃げている状態なのだが、それはそれ、彼としては劉操といずれ戦うつもりでいたので、本人的には逃げているということにはしていなかったのだ。
ところが、そんなある日、中ノ国の人でも知っている人が少ないこの伏見村に、道に迷ったと称する旅人がやってきたのである。
だいたい、暦の上では春という言葉がついていても、実際は2月で極寒の冬だし、こんなところに来たって何も無いし、それだけでなく四方100里見渡しても、あっても農村だし、さらに名所への通り道でもないのだから、『道に迷った旅人』という設定事態無理があるのだが、人の良い村長は、その旅人の言葉を鵜呑みにし、たいそう気の毒がって家に入れ、飯を食べさせ、暖めてやった。
幸い嫌だ嫌だと言いながらも、真面目に遁術に取り組んでいた劉煌は、木の上でこの様子をジッと見ていたが、この旅人の話す言葉に、僅かな西乃国の北方のイントネーションを聞き取ると、すぐに習った通りに確保していた逃げ道を通って亀福寺に戻った。
そして、寺の屋根裏伝いに清聴の部屋の屋根裏に来ると、箱の中から通行手形を取り出し、手形の紐を帯どめに留めて手形そのものは帯の中に隠し、自分のいる清聴の部屋の天井の裏側に耳をつけて、下の様子をうかがった。
天井をソーっと音も立てずに少しだけ引いて下を覗くと、やはりそこには清聴だけしかいなかったので、劉煌は天井裏から小声で、「まま、まま」と清聴を呼んだ。
実は自室で瞑想と称して座りながら器用に舟をこいでいた清聴は、これに必要以上に驚いてビクッとすると、いきなりまた目をつぶって背筋を伸ばし合掌した。
劉煌は、これに呆れて白目をむくと、今度は首を横に何回か振ってから気を取り直して「まま、まま。あたしよ。美蓮よ。」ともう一度清聴に小声で話しかけた。
するとようやくちゃんと目覚めた清聴は、あたりを見まわして劉煌を探した。
劉煌は「まま、上よ。」と清聴にまたもや小声で言うと、清聴は、ようやく劉煌の居場所に気づき、天井に向かって「あんた、どこにいるんだよ。さっさと降りておいで。」と何故か他に誰もいないのに清聴まで小声で、手を大袈裟に振りながら囁いた。
劉煌が音を立てないように器用に屋根裏から部屋に降りると、清聴はそれを見て目を細め「へえー、たいしたもんだね。」と言った。
劉煌は、清聴が言っていることがわからず「何が?」と聞くと、清聴は、「降り方だよ。忍者っぽくなってきた。」と感心して言った。
これに劉煌は眉をひそめて「えっ?まま、これが忍者っぽい降り方だってどうしてわかるの?」と聞くと、清聴は、「はっ」と言いいながら、頭だけ左右に振る動作を何度かすると「だって忍者ってそういうもんだと相場は決まっているじゃないか。ドタドタ音を立てる忍者なんて聞いたことないもの。」と両手を腰につけてスーパーマン立ちしてみせた。
その清聴の姿を見て”小春はままそっくりだわ。”と思いながらも劉煌はまた小声になると「まま、あたしはしばらく留守にするわ。危険が迫っているの。」と言った。
せっかくスーパーマン気分だった清聴は、これを聞くと、今度はスーパーマンの衣装の色のように真っ青な顔色になり、「どうしたんだい。」と声を震わせながら聞いた。
「怪しい旅人が来たのよ。今、村長の家にいるわ。」と劉煌が親指で他の指の指先をさすりながらそう言うと、清聴は眉間にしわを寄せて「こんなところに旅人ってだけで十分怪しいわ。9年近くここに住んでるけど、旅人が来たなんて初めてだよ。しかもこんな寒くてなんもない時に。」と劉煌に相槌を打つと、続けて「だけどちょっと待ってな。私が村長の所に行って様子見てくるから。」と言って、部屋から出ようとした。
劉煌は慌てて清聴の動きを手で制してから「まま、ちょっと待って。ままが様子見に行ったら余計怪しまれるじゃない。大丈夫よ。逃げ道は確保してあるから。2,3日で帰ってくるわ。だから、まま心配しないで。」と言うと、清聴を抱きしめて落ち着かせた。
清聴はそれでも心配そうに劉煌を見ていると、劉煌は微笑んで「まま、あたしを信じて。ちょうどいい機会よ。日頃の修行がうまくいっているかのお試しだわ。」と言ってから、堂々と清聴の部屋の扉から廊下に出た。
劉煌に金を持たせようと清聴は、金を掴むとすぐに彼の後を追って廊下に出てみたが、驚いたことに劉煌の姿は既にどこにも見当たらなかった。
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