第三章 隠密
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
そんな中ノ国からも東之国からも、そして恐らく祖国である西乃国でも死んだと思われているであろう西乃国元皇太子:劉煌は、中ノ国の首都:京陵を出立する前に、仲邑備中からもらった銀子で月餅を買った。京陵からは、荷牛車に乗せて貰ったり忍び込んだりして伏見村だけに通じる道との分岐点までは歩かずに済んで、亀福寺に戻ってきた。
寺では相変わらず小春が、最近飼い始めた山羊を抱っこして一人で遊んでいた。
小春は、本当に変わった娘でいわゆる女の子が好きな猫や犬には興味が無いどころか、可愛いとさえも思わないらしかった。
小春が可愛いと言ったのは、蜘蛛や蛇で、それらが特に大きければ大きいほど可愛く、外見がどぎつい色であればあるほど可愛いと言った。
そんな小春が、ある日、珍しく怪我をした山羊を拾ってきたので、亀福寺全員が小春がようやく普通になったと喜んでいたが、本当は手名付けたい大蛇の餌にするために拾ってきたのだった。ところが皆小春が山羊を抱っこしているのを見て口々に褒めたため、あの小春をもってしても、この山羊は大蛇への貢物とは言えず、特にすぐ劉煌が、山羊の怪我の具合を見て、山羊の足に添木を当てて包帯で巻いてくれたので、益々蛇に山羊をやれなくなってしまったのだった。
それ以来、小春は渋々山羊を飼うことになったのだが、この山羊の足の怪我が治ると、この山羊は見てくれと違いかなり獰猛な性格で、野ウサギなどをすぐに襲うことがわかると、小春は俄然この山羊が気に入り、メイメイ鳴くことから名前をメイにして、大事に大事に飼い始めたのだった。
劉煌が戻ったのを見ると、小春は、メイを抱っこしたまま彼のところに走ってきた。
劉煌は小春にお土産があるから手を洗っておいでと言うと、小春は、山羊をそこで放し喜んで手を洗いに行った。
その間に劉煌は清聴のところに挨拶に行った。
清聴は自室の奥に彼を誘導すると、小声で、「どうだった?」と聞いた。
劉煌は、「奴は来なかった。」と残念そうに答えたが、清聴は、彼の計画を聞いた時から西乃国の皇帝に劉煌が捕まりやしないかと内心ヒヤヒヤしていたので、それを聞いて心の底からホッと胸をなでおろした。
ところが、それも束の間、清聴が劉煌の手の中に紙の包みを見つけると、顔を真っ赤にして包みを指さし「どうしたんだい?盗んだんじゃないだろうね!」と叫んだ。
劉煌は、呆れた顔をして、かくかくしかじかと銀子を手に入れた経緯を話し出すと、最初は真っ赤な顔をして聞いていた清聴の顔色が、何故か今度はどんどん青くなっていった。
あまりに急激に清聴の顔から血の気が引いていくのを目の当たりにした劉煌は、彼の中の医師の側面がムクムクと起きだして、「まま、どうしたの?顔色が悪いわ。脈を見せて。」と清聴の腕を取ろうとした。
劉煌が、この亀福寺にやってきて1年。
当初彼に雪女の集団では?と疑われた寺の女達であったが、この1年で人間らしく皆風邪を引いたり、怪我をしたり、なんだかんだ具合が悪い時があり、その都度劉煌が具合の悪い子の面倒を見てきた。
始めは、皇子様が看病なんかできるまいと高を括っていた清聴だったが、看病どころか、そこいら辺の医師顔負けな医術を披露し、柊の怪我をあっという間に、傷跡も残さず治してしまった。
それでも清聴は、柊が若いので回復が早いのだと思って劉煌の医術の腕を信じていなかったが、彼女自身が転んで顔に酷い怪我を負った時、劉煌は、彼女の傷を柊の時と同じ位の期間で傷跡も残さず治しただけでなく、小春を産んでも治らなかった彼女の悩みの種の酷いPMS(月経前症候群)も同時に治してしまい、彼の腕を信じざるを得なくなったのだった。
そんな劉煌が清聴の脈を取ったら、彼女の何を察知してしまうのだろうかと不安になった清聴は、劉煌に脈をとらせまいと、慌てて腕をサーっと後ろに隠し「だ、大丈夫だよ。ただの年のせい。女はある年齢になると、顔が赤くなって熱がバーっと出たかと思うと、熱が下がって青くなるのを繰り返す時期があるんだよ。」と取り繕ってから、「それじゃ、美蓮が稼いだお金で買ってくれた月餅を皆でいただこうかね。」と本当に嬉しそうに言って劉煌の頭を優しく撫でた。
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